ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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フォアプレイ・フォーラヴ

          LⅡ

 

 互いの指を交互に絡めてしっかりと手を握り、ソファの上で身を寄せあって体の温もりを感じていると、言葉を交わさなくても思いは伝わるのだった。この豊かさ、精妙さに較べると、かつての自分が拠り所としていた能力が、なんと痩せた取るに足らないものだったのだろうと思わずにはいられない。

 人はそもそも、すなおに心を開けば自然に相手の心と自分の心とを重ねあわせることができるのに、それをわざわざ()じ開けようとしていただなんて……。

 こうしていると、傍らに居る彼の愛情と思いやりが自分の体の中にじんわりと流れ込んでくるようなのだった。 

 だから操祈も心と体をひとつにして思いを届けようと胸を熱くする。

 やさしい人、大好きな人、いちばん大切な人……。

 恋人の手が頭を撫でている。安心を伝えるゆったりとした動きで、丹念に。

 愛し信頼する人から頭を撫でられるのがこんなにも嬉しいものだったのか、ということをあらためて思い出して操祈は目を閉じた。

 みんな“彼”が教えてくれたのだ。

 口づけの歓びと、それをとば口にして拡がる眩いばかりの性の世界のすばらしさも。

 言葉にできないような恥ずかしいことも、愛している――という理由さえあれば女には乗り越えていけるものなのだった。それを操祈は男と肌を接する経験を重ねることで、変わりゆく自分自身への驚きとともに学んでいたのだ。

 舘野唯香が言っていたように、セックスは愛を形にするための女にとってもっとも大切なコミュニケーション方法。

 誰と巡り逢い、どのように結ばれるか――。

 どんな恋をして、そして愛を育むか――。

 新しい命を宿す運命(さだめ)として、女の生とは性愛との関わり方そのものといえる。

 操祈はまだその一部しか知らされていなかったが、年若いパートナーの(こま)やかな手に導かれて無垢だった自分が女にされていくという経験は、どこまでも歓びに満ちたものだった。

 その甘美さには畏れを覚えるほど――。

 不意に髪を慈しむように撫でていた手の動きが止まり、操祈は瞼を薄く開いた。彼が何を考えているのか判って、また顔を胸にすりつけて甘える。

 行かないでっ――!

 と、言うかわりに。

 でもそんな切ない思いが届かないことも彼女には良く解っていた。

 レイは操祈を抱いたまま、ソファで身を起こした。操祈も居ずまいを正すとほつれ毛を整える。ニットセーターの作る優しい体のラインとやわらかな仕草に、別れを惜しむ女の哀しみが映っている。

「ボク、そろそろ帰らないと……」

「うん――」

 操祈はこっくりと頷いたが、心の中は

 え、もう帰っちゃうのっ――!?

 ずるいっ! 女の心に火をつけただけで、何にもしないで往ってしまうなんてっ――!

 という悲鳴と落胆が渦巻いている。

 時刻はじきに二時半になるところ。クリスマス・イヴだというのに、たった一時間余りのデートだった。

 でも、仕方がなかった。互いの事情は心得ている。

「また、明日の夜も……お伺いしていいですか?」

 訊かれて、操祈は今度は強く頷いた。

「すっかり遅くなっちゃった……先生もお休みにならないと、体に障りますから……」

「うん……」

 別れの口づけは、思いのこめられた長いキスになった。少年はそのまま操祈の脆そうな(おとがい)の下に顔を寄せてきて白い首筋もキスで覆う。それはこの夜、彼から初めて為される性的なアプローチなのだった。

「いいにおい……」

 少年はセーターの上から操祈の豊かな胸許に顔埋めて言った。

「石鹸とシャンプーのやさしいにおい……ボク、先生の体のにおい、大好き……」

 体臭を慕われるのは、自分の全てを受け容れて貰えているという証でもあった。少し恥ずかしくても、また嬉しくもある。恋人から言われると、女にとってはどんな褒め言葉よりも安堵できるものなのかもしれなかった。

「でもボクは……先生の自然な汗のにおいの方がもっと好きです……だから……お願いですから明日はシャワーを浴びずに居て下さい……そのままの先生が欲しいから……」

「……そんな……だって……」

「先生だって、もう分ってくれている筈なのに……ボクがいちばんやりたくて、大好きなことが何かってこと……」

 少年から真顔で言われて、たちまち操祈は頬を朱らめた。

「今だってそうです……ずっとガマンしているのに……」

「……我慢していたって……そんなこと……今になって急に言われても……」

 身構えていた操祈からすると拍子抜けするくらい穏やかだった愛情の交換が、別れのキスをきっかけに、いきなりエスカレートして濃密な性を暗示するものに変っていた。

「キス、したいな……先生のいちばん素敵な香りのするところに……」

 少年は唇の間から舌先をチラリと覗かせて操祈を誘っている。

「それとも、この続きは明日の夜までおあずけですか?」

「レイくん……」

「先生のにおいをわけてください……」

 冗談を言っているのではないことが伝わってくる。真摯なプロポーズだった。

 確かに提案で、イエスかノーかは操祈しだいなのかもしれない。けれども実際にそれを拒むという選択肢は残されては居ないのだ。

「いいわ……」

 諦め顔になって目を伏せると同意した。その瞬間に少年は幸せそうな笑顔になる。

「良かったっ、じゃあ脱いで下さい、身につけているものをみんなっ」

 好奇心いっぱいの黒い瞳が見つめる中、操祈はセーターの裾をスカートの中から引き出すと、求められるままに脱いでいく。

 セーターの次はスカートを、その次は白い部屋用のソックスを……。

 少年は肌着だけになった操祈を眩しげに仰ぎながら、

「肌着も脱いで裸になったらベッドの上に仰向けになって、両膝を抱えるようにして下さいね」

「――!――」

 あられもない姿になることを求められているのがわかって、グッと息を呑みこんだ。けれどももう退路は断たれた後で、逃げ道などないのだった。

「できますか?」

「ええ、いいわよ、レイくんが私にそうして欲しいって言うのなら」

 覚悟を決めて言い放つ。

 たとえ、嫌――と、言ったところで、最後には彼の方が思いを遂げることになるのを何度も経験させられていて、すっかり心得ていたからだ。

 いま少年は、彼女が脱いだばかりのニットセーターを手に取ると、そこに顔を埋めてクンクン嗅ぎまわり、陶然とした顔をしていた。仕方ない――と、そのままにしていた操祈だったが、二の腕の付け根と接していたあたりにまで顔を寄せてきて、しつこく嗅ぎ取っているのがわかると、さすがに女の身としては抵抗感が芽生えていたたまれなくなってくる。

「先生は、こんなにやさしいにおいがするのに……」

 でも――。

 と、女のきわどい機微に触れる仄めかしをされて操祈は、また激しく赤面するのだった。

「いわないでっ……そういうことは……」

「カワイイな、恥ずかしがる女のコって本当に可愛くて……先生みたいに綺麗な女の人は特に」

「もうイヤぁっ、本当にイジワルばっかりするんだからぁっ」

 胸を庇い、股間を庇っての羞恥に身を揉む姿は少女のように初々しい。

「だって約束したじゃないですか、クリスマス休暇には先生のことをいっぱい可愛がるって」

「またそんなこと言って……ずるいわ、いっつも私ばっかり虐めて……」

「そうですね……じゃあベッドでその埋め合わせをしましょう、ボクはそのためにここに居るんですから」

 そういうと少年は下着姿の操祈の手を引いて寝室へと先に立つのだった。

 

 

 




睡魔に襲われつつで
誤字脱字が多いかもしれません

ソックスと書くつもりがストッキングになっていたので修正しました
申し訳ありません
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