ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
LⅣ
目が覚めた時にはすでに傍らにはレイの姿は無かったが、それでも操祈は
「レイくん……」
と、声に出して呼びかけた。
毛布に顔を埋めて、知らぬ間に体にきちんと毛布が掛けられているのに気がついて胸がキュンとなる。愛しあっていた時には互いの肌の温もりがあるだけで良く、いろいろな体位を求められる中で枕も毛布もベッドの下へと追いやられていたからだ。
シーツに移った彼の匂い、どこか土っぽい穏やかな残り香に独り寝の寂しさが甦ってくる。
朝、恋人の胸の中で目覚めた時の幸福感は、女にとって何にも代え難い素敵なものだったのに……。
紅音のペントハウスでは何度か経験していて、レイからはそのまま夜の続きを求められることもしばしばだったが、そうした特別な朝の甘さを知っている操祈にすれば今朝はやはりもの足りなくて、事情を判っているつもりでも置いてきぼりにされたように感じてしまう。
遮光カーテンの隙間から差し込んでくる薄明かりの中、身を返して仰向けになって天井をぼんやり見つめた。逸楽のさなかには、またたく星辰の中に浮かぶ見知らぬ巨大惑星のようにも思えたものが、いまはありふれた白い樹脂製の丸い照明カバーに戻っていた。
ステキだった――。
思い返すと、また欲深い肉うろがしどけなく疼いてきて目を閉じる。
「わかってるわ……男の人が女を可愛がるって、そういうことだって……」
ひとりごちた。
自分で触れるのと、愛する人から触れられるのとではまるで違うのだ。
まして少年はあの年齢にして女の扱いにも長けていて、操祈の体に散りばめられたあちこちの泣きどころに惜しみなく愛情を注いでくれたのだった。
わたしの体――。
それが自分ひとりのものではないことを、少年と愛し合うたびに思い知らされている。
大切な人から“可愛い”といわれて嬉しくない筈がなかった。それをこの上なく甘美な愛撫の合間々々に言葉にされて、女の体が弱わみをさらしている時に説き伏せられたのだから堪らない。
もう心だってすっかり彼のものにされてしまっている――。
口許からせつない吐息がこぼれた。
「ずるいな、レイくんは……ひどいな……こんなわたしを独りにするなんて……」
睦んだ後、ベッドの上で少年と交わした言葉を反芻して瞳を潤ませる。
恋人の口からはじめて覚悟を聞かされて操祈も心を決めることにした。
もうどんな事があっても彼のことを信じよう、小さなことで胸を騒がせることは止めにしよう――と。
「愛してるわ……あなたのこと……レイくん……」
時計の針はとっくに十時を廻っていて、休日の朝とはいえ、ずいぶん寝坊してしまったことになるが、眠りに堕ちたのが明け方だったのでそれも仕方がなかった。
寝不足が心配なのはむしろ彼の方だ、と思う。
「大丈夫かな……私の所為で無理させちゃったから……」
クリネックスを取ろうとサイドテーブルに裸の腕を伸ばし、そこに置き手紙らしきメモ書きしたものが残されているのがわかると、すぐにそれを手に取った。ベッドサイドランプを点けて文面に目を走らせる。
几帳面な性格の少年らしいしっかりとした文字で
“お休みになられていたので寮に戻ります。玄関はちゃんと施錠しておきますので安心してお休み下さい。鍵はドアの新聞受けに入れておきます。ですからお目覚めになってからもベッドでゆっくりなさっていて大丈夫です。お許しを得られれば今夜、また一時頃にお邪魔をするつもりですが、でも無理なさらずに就寝されてください。どうかボクのことはおかまいなく。それから先生からは『素敵なクリスマスプレゼント』をたくさんいただきました。ありがとうございます。
メリークリスマス 操祈先生へ
追伸
余計なお世話かもしれませんが朝食? の用意をしておきましたので、オーブンレンジをご覧になって下さい。三分ほど加熱するとお召し上がりになれると思います(冷蔵庫を勝手に開けてすみませんでした)。
追々伸
もしかすると今夜はこの世でいちばん美しいきつねさんをお目にかけられるかもしれません”
宛名の“先生”というところだけ小文字の吹出しにしてあって、後で書き加えられたような体裁になっていることに操祈は頬笑んだ。
恋人として対等に、ファーストネームで呼ぶことにしようという決意が途中で挫けてしまったのか、それとも初めからそのように書くつもりだったのか判らない。
それでもレイが自分との間合いをさらに詰めようとしている意思を感じて嬉しくなるのだった。確かに教室では教師と生徒なのかもしれない。けれどもプライベートでは男と女、恋人同士なのだ。
美しいきつねさん? あら、レイくんがお気に入りのペットのお披露目でもしてくれるのかしら?
楽しみね――。
操祈はランプを消すとまた毛布に包まって目を閉じた。
私も何か用意しておかなくちゃ――。
考えをまとめる。
昨夜は急だったこともあって部屋の整理をするのに手一杯で、何のもてなしの用意もできなかったのだが、幸い、今日は一日フリータイムだった。
あとでお買い物に出かけよう、そう決めると操祈はおもむろにベッドからおきあがり、全裸のまま浴室に向かうのだった。
タイトルを忘れてしまいましたので慌てて