ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
LⅩ
体に装着されてから「痛くないですよね?」と、訊かれて、操祈は気怠げに頷いた。
「思っていた通りって言うか、それ以上にすっごく可愛くて、キレイな先生にはとっても良く似合ってますよ」
全裸で四つん這いになった操祈の頭と背中を、よしよし、と撫でつけながら少年は満足げにしている。と、
「うわぁーっ、尻尾フリフリしてるっ、カワイイっ! 愛らしすぎて心が壊れちゃいそうっ!」
少年は首に腕をまわしてきて、ひしっと身を寄せてくるのだ。頭にご褒美のキスの雨を浴びせられて、操祈の心も感動に揮えてしまうのだった。身につけられたキツネの尻尾が後ろでフサフサと強くうち振られているのを感じている。
悔しいことに頭に
体をやさしく撫でられただけで、すぐに愛想を振りまいてしまうなんて、まるでケダモノのよう。これで首にチョーカーをつけられたりしたら、ホントに若いご主人さまのペットよね――。
哀れな姿にされて、そんなふうに投げやりにもなるが、女の肌のなりたちを良く心得ている恋人の愛撫はやっぱり心地よくて、
もっとしてぇっ――!
とばかりに仰向けになって、
長椅子に移ったレイから「おいで、こっちに……」と、狎れた物言いをされて膝の上に招かれると、操祈は背中を丸め加減に少年の膝の上でうつ伏せになるのだった。
顔にかかる解れ毛を整えられて、長い金髪に沿って体を撫でられる。ときに裸の胸を
「先生は可愛いな……」
何も言わなくても、毛足の長い大きな尻尾は勝手にパタパタして、ソファを叩いていた。うなじのあたりに顔を寄せられて「先生のカラダはいつでもとってもいいにおいがする」と、耳許で囁きかけられると、また尻尾を
ふりふりふり――。
心を偽れないのだ。
「この尻尾と耳のアイテム、とってもスグレ物で、感情を表現するだけじゃなくて、身につけた人をとても良いキモチにしてくれる機能もついているんですよ」
操祈の尻尾は、ちょっと迷っていたようすでいたが、ゆっさりと振って歓迎の意思を示しているのだった。
「内蔵されたAIによって中でフィットするように変形して、さらに微妙な刺戟を加えることで使えば使うほどカラダと良く馴染んでくるんだそうです。このカワイイお耳も、ただ尻尾を振らせるだけじゃなくて、脳の快楽中枢のセンサーとしても機能させることができて、端末に気持ちのいいところを探すように形を変えさせたり、刺戟方法に指示を与えるなどして、独りでも十分に楽しむことができるものなんです。今夜は持ってきませんでしたけど、リモコンを使ったりして二人で楽しむ方法もありますし、他に“開発”を目的にする場合には端末を徐々に大きく膨らませていったり、あるいは別の器具と組み合わせて更に豊かな歓びを味わうための補助にしたりと、それこそいろんな使い方ができるそうで、だから中にはヤミツキになっちゃう人も居るみたいなんですけど……でも、もちろん先生にはそんなことはしません。お約束した通りに今夜だけです」
少年の説明を聴かなくても、とても淫靡な大人用の玩具であることは良く判るのだった。常に微妙な振動と変形を感じていて心と体とを
だから、
今夜だけ――。
と、時限を設定されてしまうと、ちょっぴり物足りなくも思えてきて、それまでフリフリしていた尻尾もお尻の上でうなだれていた。
「それに尻尾の毛足にも根元にセンサーが付いているらしくて……」
少年は手を伸ばしてきて尻尾を指先でくすぐり、えもいわれぬ刺戟に操祈は目を丸くするのだった。まるで敏感な肌が尻尾全体、体の外側へと拡大したような感覚。
恋人の手の中で、また一つ、新たな歓びの世界を教えられたようなのだ。
さらなるタブーへと続く道を、恐れながら、けれどもどこかで期待も抱きながらトボトボと歩んでいる。イケナイことをいっぱい知っている、とてもイケナイ男の子の手に導かれて。
思えばここ数ヶ月の間に、多くのことを経験して、自分でも知らなかった新しい自分と出逢っていた。
心も、体も、男の色に染められて、変えられていったのだ。
半年前の食蜂操祈は、今とは違っていた。恋を知って性の扉をくぐったばかりの頃と、デートをする度に官能の深淵を漂うようになった自分とは。
何も知らなかった二十二歳の大人であるべき女に、いろんなことを手取り足取りして教えてくれた、十四歳の彼。
本当に童貞なのかしら――?
と、疑ったこともあるほど、女の扱いには手慣れている。そのことを問うと、レイは
「それは先生を知ってしまったから――」
と、言うのだった。
「もし先生と逢わなければ、ボクは今も十四、五歳の普通の中学生のままで、女の人の体についていっぱい勉強しようとは思わなかったから」
じゃあ、私が彼の成熟を速めているってこと――?
それが良いことなのか悪いことなのか判らなかった。
もしかすると自分の存在がレイの貴重な思春期を奪ってしまっている?
事実なら罪なことをしているようにも思えてくる。けれども愛しあうことで互いを成長させているとしたら、きっとそれは良いことだと信じたかった。
たとえ年が離れていても密森黎太郎はもっとも大切な最愛の人。セックスをしたいから、快楽を貪りたいから彼とのデートを重ねているわけじゃない。
彼を愛しているから――。
それだけは確かなこと、そして彼も……私を愛してくれている……。
体に触れられて、敏感な尻尾を撫でられて、操祈は静かに、されるままになっていた。少年と共に過ごしたたくさんの出来事に思いを馳せながら、恋人の手の動きと体の温もりにだけに心を寄せて。
真夜中というよりも、もう少しすると東の空が白み始めてくる夜明け前のリビング――。
「キモチいいですか――?」
問われて、応えるより先に、代わりに尻尾が反応している。
「良かった。ボクは使ったことがないからどんなものか判らないけど、でも、気に入ってもらえたようで嬉しいな」
「………」
「だけど、あんまり具合が良くて、ボクがお
「そんなこと……あるはずがないでしょ……」
またいつもの軽口だとは判っていたが、返す言葉の語気がいくぶん強かったのか、敏感な少年はすぐに反応してしおらしくなった。
「そうですよね、ごめんなさい、先生」
真顔になって操祈の顔をのぞきこみながら
「先生、ごめんなさい」
と繰り返す。
思いを同じくしているのが窺えて、操祈はこっくり頷くのだった。
「いいのよ……」
抱き寄せられて男の首に腕を廻してしがみついた。感じやすい肌が少年の纏ったトレーナーに擦れて、圧し潰された両の膨らみが爆ぜそうなくらいに盛り上がる。
操祈はいまだ着衣のままでいる少年に、いくばくかの不満を覚えていた。結局、今夜は一度も肌と肌を接して愛し合うことはなかったからだ。
唇を重ねる。
軽く舌を触れ合わせるだけの、ディープキスになる前の思いのこもった長い接吻に。
「ありがとうございます、先生」
「あら、それは何のお礼かしら?」
「今、ボクの腕の中に居てくれることへの感謝の気持ちです。先生はボクに、いつでもたくさんのステキと幸せをくれますから。今夜だって一生をかけてもお返しができないほどのプレゼントを戴いているので」
「うーん、それじゃあ、わたしもお礼を言わなくちゃ……」
ただそれを具体的に言おうとすると、恥ずかしさが甦ってすぐに顔が火照ってしまうのだった。
「言われなくても判りますよ、背中で尻尾がフリフリしてますから」
「あーずるい、もうやだぁ、いつまでこんな格好させているのよぉ」
心の乱れをごまかそうとして拗ねて甘える。
「あと、もうちょっとだけ……ダメですか?」
「いいけどぉ……」
「ねぇ先生……」
「なぁに」
「尻尾とお耳を外す前にまた先生の写真を撮りたいんですけど……」
「でも、こんな姿の私なんか、どうして撮りたいのぉ?」
「すっごくカワイイからにきまってるじゃないですか。先生がボクだけのために、こんなにステキな姿を見せてくれているんですから……でも、それを独り占めするのはもったいないので先生にも是非ご覧になって戴きたいんです。ボクの目に映っているものの愛らしさを」
髪に触れ、尻尾を手に取りながら少年は訴えた。
「………」
「ダメですか……?」
「……だめじゃないけど……だって、イヤって言っても、どうせ聞いてくれないんだもん、しかたないわよね」
「それはそうですけど」
「あ、やっぱり否定しないんだぁ」
「バレちゃってますね」
「もうっ――」
じゃれ合いながら、こうして始まった撮影は、さほど時間はかからなかったものの、操祈は数十回もフラッシュを浴びてはさまざまなポーズの要求に応えることになっていた。
「ステキな写真集が作れそうです」
「待って、お願いよっ、変なものをつくらないでちょうだいっ」
「大丈夫です、これはボクたちだけのものですから」
「でもっ――」
「きっと驚かれますよ、あんまり可愛くてご自分に恋しちゃうかもしれませんから、写真集を閲覧する際にはご注意下さいね」
操祈は何か言いかけたが、恋人の微笑む顔を前にして言葉をのみ込むしかないのだった。
送り仮名のミスなど数カ所の訂正をいたしました
申し訳ありませんでした