ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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操祈のアルバム

          LⅩⅥ

 

「……どれもステキですよね……」

「……レイくんが……そう言うのなら……」

 撮影者であるレイの解説や寸評を聞かされながら、操祈は大画面に次々と映されていく自分自身の写真と向き合わされていた。常盤台に着任してから以降ずっと、二年余りの間に撮られていた写真の一枚々々を。

 中には、いったいぜんたい、いつの間に、どうやって撮ったのかしら? と思うものもあって、自分の無防備な姿を撮られるというのは、なかなかこそばゆいものなのだった。

「ねぇ、レイくんはテレビを見なくてもいいの? 男の子の好きな格闘技とか、みんなが観る歌番組とかやってるんじゃない?」

「ボクには先生を見ること以上に心おどることはありませんから」

 操祈本人を前にして、こうぬけぬけと言われてしまうと、二の句が継げなくなってしまう。

「こうして先生と年を越せるなんて、夢みたいで、すっごく幸せ」

「そう……それならいいんだけど……」

「先生は、何かご覧になりたい番組でもありますか? いつでも変えますけど……」

「ううん、別になにもないわ……」

 去年も一昨年も、この部屋で独りで過ごす大晦日は、録り溜めしていた映画を見ながらグラスを傾けている内にそのまま寝過ごしてしまい、いつの間にか年越ししていた、などというようなことを繰り返していたので、年末年始にとりたてて思い入れがあるわけでもなかった。

「じゃあ、続けますね……これは……」

 画面には操祈の笑顔が大写しになっていた。髪留めに、長い金髪を頭の後ろで結っているリボンのシュシュが可愛らしい。

「去年の体育祭の時のものですね……テニスウエアを着ておられるので今年のじゃないです……エキジビジョンで当時のテニス部長の進藤ルナ先輩と打ち合った後、握手をされている時のシーンみたいです」

「ああ、そんなこともあったわね……全然、歯が立たなくて……」

 ワンセットマッチで、スコアは6-1の完敗。だが急ごしらえながらも、たった1ゲームだけだったがサービスゲームをキープできたことが嬉しかったことを思い出した。

「そんなことないですよ、試合は進藤さんが勝ちましたけど、あのときも観客の心を掴んだのは先生の方でしたから……この笑顔もステキですよね……心根のやさしさが上手く切り取られていて、我ながら良く撮れてるなって思います……まぁ撮る側のボクとしては、先生のテニスウエア姿、期待していたのにノースリーブじゃなかったのがちょっとだけガッカリでしたけど。先生のきれいな腋の下を撮ろうと思って、ワクワクして待っていたので……」

「もう、なに言ってるのよぉ――」

 操祈はキッとなってかたわらの少年の顔を睨んだが、視線が重なると、相手が面白がっていることに気がついて目を伏せてしまうのだった。

「やっぱり怒った顔もすごく綺麗……でも怒らないで下さい……」

「怒ってなんかいないもん――」

 唇を尖らせて訴える。

「ただ、レイくんがエッチだから……先生としては叱らないわけにはいかないでしょっ」

「エッチなのはボクだけじゃなくて、みんなが期待してたんですけどね」

「もう、なんてイヤな子たちなのぉ……わたしのことをそんな目で見ているなんて……」

「先生だけど女だし、ボクは生徒だけど男だから……とびっきり可愛い女の人には、ボクも男として振るまうしかなくなくて……」

 唇を重ねられ、あっさり懐柔されてしまっていた。

「いいですか? 続けても――」

 しぶしぶながら頷くしかなかった。

「次は……」

 映し出された写真もまた操祈の笑顔を捉えたものだった。

 その次も、そして、その次の次も――。

「先生の写真って、笑顔が多いですよね」

「……わたし、そんなに笑ってばかりいたかしら……?」

「ええ、だんだん増えてますよ。着任したての頃は、きっとまだ馴れていなかったせいでしょう、硬い表情の時もあったんですけど、でも最近は、いつでもニコニコされているような……」

「また、わたしのことを緩んだ軽い女みたいに言ってぇ」

「そんなことありませんよ……だってステキな笑顔って、それだけで周りを明るく灯してくれるものじゃないですか。笑顔は大きな感情表現なので、わりと人格や人柄が現れやすいものなんです。写真に切り取るとそれが良く判ります。先生の笑顔って、いつでも自然で、偽りのない心が素直に現れているようで、だからどの写真も魅力的に映るんだと思いますよ」

「………」

「どんなに綺麗な顔をしていても、笑顔になると心の貧しさや卑しさ、品の悪さが現れてしまう人って、よく居ますから……でも、先生はそうじゃない……」

「わたし、レイくんが思っているような、そんな完全な女なんかじゃないから……あまり、かいかぶられてしまうと……」

 憧れを訴えられるのは嬉しくても、いつでも細かいところまで見られているのかと思うと重たくて、気持ちが休まる時がないような息苦しさも感じてしまうのだ。

「ボク、別に買いかぶってなんか居ませんよ。だって、先生が酔っぱらってお酒臭い息を吐いている時も知ってますし……それに……生理の時のにおいだって知ってますから……」

「だからっ、分かっていてもそういうことは、言わないのぉっ、もうっ」

 少年は、時にわざとデリカシーに欠ける物言いをして、操祈の心をかき乱そうとしてくることがあるのだ。

「みんな大好きです……だから先生は、いつでもそのままで、普通でいいんです……ボク、いつも言ってるじゃないですか、デートの前にシャワーなんて浴びなくてもいいのにって……でも先生は言うことを聞いてくれないですけど……」

 真摯な眼差しが向けられていた。憧れと優しさの綯い交ぜになった瞳の色の。

「ボクと一緒に居るときには、寛いだ先生を見せて下さい……これから四日間、ずっと他所行きのままだと肩が凝ってしまいますから……ね?」

 男と女が一緒に暮らすということがどういうことか、年下の彼の方に、既にその気構えがあるということなのだった。

「……かなわないな……レイくんには……」

「虜にされてるのはボクの方なんですけど……他の女の人には、こんな気持ちになったこと、ないから……」

「……私だって……私だってそうなのよ……」

「ええ、知ってます――」

「知ってますって……もう、憎らしいんだからぁ……」

 拗ねた操祈が甘えて、悪戯半分にキスを求めると、今度は少年に、いきなり舌を入れてこられて男の本気を教えられてしまうのだった。やさしいカーブを描いていた眉が寄せられて、愁いの表情に変っていく。口の中を探り回る舌の動きが、この後、自分の身にどのようなことが起きるのかを思い知らされているようなのだった。

 長いディープキスから、ようやく解き放たれた時、操祈はすっかり息を乱して、ふっくら豊かな毛糸のセーターの胸許をせわしなく上下させている。

 美しい年上の女性が乱れる容子を興味深げに見つめていた少年は、やがてやわらかい笑みになると、

「年が明けたら、初詣をしましょう」

 と、持ちかけてきた。

 初詣――!? 

 二人で外出するのは大丈夫なのかしら? いったい何所に行くつもりなのかな? と訝しみながら、操祈は「うん」と、すなおに頷く。

「でもその前に、先生のアルバム、もう少しご覧になりませんか? 年越しするまでには、まだ暫く間があるみたいですから」

 

 

          ◇            ◇

 

 

 長椅子の上で身を寄せ合い、レイの腕に抱かれて、操祈は慰められながら励まされながら、身を小さくして、顔を真っ赤にして画面に流し目を送っていた。とても正視には堪えられなかったのだ。それほど刺戟の強い画像の連続なのだった。時が下るごとに、レイとの関係が深まるにつれて、撮られていた写真は肌の露出が多いものになり、やがては裸身ばかりになっていたからだ。

 そしてついに修学旅行中のスナップ写真のシークエンスとなって、京都のあの如何わしいホテルでのものが大画面に映し出されたのだった。それは女がけっして他人に見られてはいけない姿を捉えたもので、単にキワドイとか、卑猥とかいうレベルを遥かに超えて、女の生理が無慈悲なまでに詳らかにされてしまっている。

 操祈自身ですら目にしたことの無いものを――。

「レイくんっ、もう勘弁してっ」

「もう少しで終わりますから」

「だって……」

「大丈夫ですよ……すごく綺麗で可愛いでしょ?」

「………」 

「こんなに美しい姿をしているのって、ボク、見たことがないです……きっと、他にどこにもないから……」

「………」

「これはキスをする前のものですね……」

 大きく拡大されたものを見せつけられて、あまりの恥ずかしさに操祈は呻いた。目を閉じて男の胸に顔を埋めて逃れる。

「ダメですよ、ちゃんと見てくれないと……」

「……レイくん、ひどいっ……ひどいわ、こんなのぉ……」

「大丈夫、これはボクがいつも間近にしていることですから」

 体を撫でられて、やさしい刺戟に抗議の言葉は封じられてしまう。

 その後も、少年は操祈の痴態を次々に画面に大写しにしていったのだ。全身だけでなく各パーツのアップも含めて。

 恋人の目線で捉えられた自分の体は、撮られた本人からすると、どこまでも無粋で救いのないリアルの連続に思えて泣きたくなる。

「……どうして……こんなひどいことをするの……?」

「非道いだなんて、どれも美の極みと言っていいくらいなのに……」

「………」

「ボクはそれを分かっていただきたいと思っただけで……きっと先生はご自身のことを良くご存知ではないと思うから……」

 男の手がゆったりしたセーターの中に忍び入ってきて、操祈は仕方なく求められるままに胸を開いた。ブラのフロントホックが外されて、たわわな肉の実りの一つが解き放たれて男の掌の中に堕ちる。

 若い恋人は指の腹でのの字を描くように乳暈の周りから繊細なタッチでなぞりはじめ、尖りにたどりつくと、また麓へ向かって下っていった。ところが操祈の体はそんな僅かなことでも、たちまちのうちに乳先が固く目覚めてしまうのだ。男の掌をさらに敏感に感じるようになるので、それが分るのだった。

 包まれて触れられて、慈しむように撫でられて、けれども決して強く掴まれたり、握られたりすることはなかった。女の肌の脆さと敏感さを知り尽くして、自分自身で触れる時よりも更にやさしく、そして大切にされていると感じずにはいられない恭しさで心と体の両方に問いかけてくる。

「あはぁっ――♡」

 堪えきれずに、操祈の口から甘い吐息がこぼれた。身を返すと、愛撫をねだって男の膝の上で仰向けになっていた。たっぷりしたセーターの裾が捲られて、裸のわき腹に唇が落ちてくると、くすぐったさに声を上げてしまう。

 さらに男の手がブラを奪おうとしていて、操祈は自ら肩ひもから腕を抜いて、それを手助けするのだった。やがてセーターの中から白い肌着が取り出されてくると、少年は両手で大事そうに捧げ持ちながら

「においを嗅いでもいいですか?」

 と言うのだ。

 レイがこうして(わざ)とらしく訊いてくるのは、こちらの反応を窺ってのことだと心得ていて、操祈は睫を伏せて目の動きで同意を伝えるのだった。

「いいにおい……やさしいにおい……」

「……そう……」

 愛撫と、言葉の愛撫によって、ささくれかけた気持ちが、あっという間に靡いてしまっている。 

「ねぇ先生――」

 呼びかけられて視線をあげて少年を見遣った。

「先生の写真は、ボクたちふたりの宝物にしませんか?」

 操祈は、せつないため息を一つして同意に代えるのだった。

「オリジナルとバックアップのコピーを二つ、都合、三つのチップをボクたち二人の生体認証で暗号化して……それを先生が保管する……それならいいでしょ? 見たくなったら二人で、またこうして一緒に楽しむっていう……」

 もはや是も非もなかった。

「ズルいな、ズルいんだゾ、レイくんは……」

「ずるい? どうしてですか?」

「だって私の写真ばっかりで、レイくんの写真なんか一枚も入ってないじゃないのよぉ、わたしだけ恥ずかしい思いをさせられて、そんなの不公平じゃない? 二人の宝物にするっていうのなら、あなたの写真も無ければおかしいわよねぇ」

「うーん……やっぱりそう思われますよね……」

 そう言うなり、少年はしばし無言になる。迷いがあるのか、どうしたものかと考えを巡らせる様子になっていたが、やがて

「わかりました……実は、もしそう言われたときのことを考えて、一応、ボクの分も用意してきたんですけど……」

 少年はバッグの中から別のチップを取り出すと、

「自宅でさっき撮ってきたばかりの写真ですけど……ご覧になりますか?」

「何の写真?」

「将来、先生のカウンターパートとなるものです」

「見たいわっ、是非、見せてちょうだいっ」

 何を仄めかされているのかは、すぐにわかった。もちろん目にするのは初めてではなく、今までに何度もあったのだが、しげしげと観察するまではしたことがなかったのだ。

 興味はあっても、ずっと彼が許してはくれなかったからだった。

 だが、期待に胸がときめかせて居たものの、画面に映し出されたのは、予想とはまるで違うものだった。

「あれ――?」

 白い砂浜が映し出されていて、少年も意外そうな顔をしている。

「どうかしたの?」

「まちがって別のチップを持ってきてしまったかな?」

「あら、レイくんでもそういうケアレスミスをすることがあるのね」

 少年は再びバッグの中を探ってチェックしていたが、見つからずに途方に暮れた顔をする。

 その間、大画面に映し出されていた写真は、スライドヴューで五秒ほどの間隔をおいて更新されていた。

 その写真に見るとはなく目をやっていた操祈は、既視感を覚えていつしか釘付けになっていた。

 白い砂浜、切り立った崖……やがてはっきりと見覚えのある風景に変わっていったのだ。

「ねぇ、この写真、どうしたの?」

 少年はちらりと画面に目を遣ってから、あまり関心がない様子でまたバッグを漁り始めた。

「ああ……それは以前、夏休みに家族で海に行ったときの写真だと思いますよ」

「海に? どこの?」

「えーっと、どこだったかな……たしか西伊豆じゃなかったかな?」

「西伊豆――?」

「一昨年だったと思いますけど……」

 そう言ってから、少年は不意に何かに気づいたようになって、画面に顔を向けた。

 画面には砂浜でビーチベットに横たわる紺のワンピースの水着女性の姿が映し出されていた。髪はブロンド、体のメリハリも見事な美女である。

「「この写真……」」

 奇しくも同じ言葉を同時に発していて、操祈はレイと互いにびっくりしたまま顔を見合わせていた。

「あ、その写真、先生にいつかお伺いしようと思って、すっかり忘れていて……こんなところに紛れていたのかぁ……」

「………」

「あの、ここに映っている女の人って、もしかして先生じゃないですか? サングラスで顔が分からなくて……でも良く似ているなって思っていたんですけど……それっきりになっていて……」

 少年は、長らく抱えていた疑問の答えが得られる好機とばかりに顔を輝かせていた。

 




深夜の更新になってしまいました

眠いです

多分、誤字ありまくりと思いますが

ご勘弁ください




誤字、書き間違いに気づいたのでなおしましたが・・・
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