ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
LⅩⅦ
「……あっ……やっ……ああっ……あたしぃっ……」
白いシーツのベッドの上で操祈は息を乱して、身をもがかせてた。うす桃色に上気した肌にはうっすらと汗の皮膜が浮いて、弱い半間接照明の
時に強く否定するように顔を左右に打ち振って何かから逃れようとするが、豊満な胸を揺らしてわななく体は発情のサインもあらわに、官能の歓びにすなおになった女体の美しさと愛らしさとを見せつけているようなのだった。
操祈は体を大きく開いて恋人の愛撫に身を任せている。
普段は慎ましく心やさしい乙女が、ただ一人の男のためにだけ見せる、あられもない姿になって。
時に何かに驚いたように目を盱り、時に悲しげに眉を翳らせる。けれども薄目を開けてはいても、しばらく前から、もう彼女の目にはなにも映っては居ないのだった。全ての意識が体の一ヶ所に集まっていて、そこで営まれている男と女の
それほど少年の愛撫は巧みで、そして無慈悲なのだ。やさしく、この上なくデリケートなやり方で、女の体から誇りと慎みを奪い取っていく。惜しみない愛情をそそいで操祈に屈服を求めていた。
「ねぇ、レイくぅんっ、それ……それはイヤなのぉっ……」
かよわく愛らしい声で啼いて訴える。
けれどもたとえ、イヤ――と言ってみても、もう自分が何を拒んでいるのかさえ、操祈にはわからなくなっているのだった。
やがて――。
「愛してるわ……」
と、心からの思いを口にしながら、体が上の方へとぐーっと吸い込まれていくような感覚になって息を呑む。視界一杯に星々が煌めき、光のシャワーとなって降り注いでいた。体の中心から生まれた逸楽の実がはじけて、津波となって体の隅々にまで拡がっていき、揺り戻してはまた新たな波と重なって幾度も女体を鳴動させている。
淫らな肉が痙攣して、その都度なにか――それはとてもイケナイものような気がしていたが――を絞り出しているような不穏な感覚には気がついていても、操祈には、ただうねりの中に漂っていることしか出来なかったのだった。
「……愛してる……レイくん……」
はぁ、はぁ、はぁ……。
最初に生み落とした熱の塊がピークを乗り越えて徐々に醒めていく。操祈は胸を大きく上下させて乱れた呼吸を落ちつかせていた。それとともに、忘れていた羞恥の感情がまた甦ってきて「ああ――」と、切ない声をあげて長い睫を
恋人の口づけが、彼女を欲望へと追いたてる時とは違って、そこを整えるような動きにかわっていたのだ。操祈は少年に自身の情けない姿を知られてしまったことに悔いを覚えながら、それでも自分がもう、彼の愛撫を拒む勇気など持ち合わせてはいないこともよく判っていた。
通り過ぎていった肉欲の余韻にひたりながら、孤独に過去を振り返っている。
去年の今頃はまだ、ほとんど何も知らなかったことを――。
たとえ
以来、自分には無縁だとばかり思い込んでいた、その特別な名前で呼ばれる愛撫を、今の彼は夢中になって取り組むようになっている。
こんなにも恥ずかしいことができるはずがない、そんな恐ろしいことが自分の身に起きるはずがないと、理由も無く信じていたことが、少年によってあっさりと
操祈は手を伸ばして愛する人の髪に触れた。感謝を込めて、そしていつものように傍らに来て、慰めて欲しいという思いをのせて撫でつける。
レイはすぐに彼女の気持ちに気がついたようすで、ベッドの上を這い上がってくると、操祈と添い寝になるのだった。満たされて頬笑む彼の顔が間近にあった。けれども視線が重なると、やっぱり恥ずかしくて男の胸に逃げ込んで甘えてしまう。愛された後は、そこがいちばんやすらげる場所だったのだ。慰撫を求めて頬をすり寄せた。
少年は操祈の顔を大事そうに包むと、うなじから長い髪の中に深く指を差し入れてきて、励ますようにしっかりと抱き寄せてくれるのだ。頭に落ちてくるキスの五月雨が嬉しかった。
圧し当てた耳に胸の鼓動がトットットットと聞こえている。
やすらぎの響きが――。
頭を撫でられて、背中を摩られて、時にギュッと抱きすくめられて、肌に染みる温もりに意識が遠のきそうになるほど幸せを感じる。
体を深く愛された後、レイはいつも操祈の心に寄り添って、女がそのときに欲しているもの与えようとしてくれるのだ。愛撫の後の不安や負い目を感じている女にとって何が必要かを良く心得ていて、慈しむように大切にしてくれる。
少年は自分自身の肉体の感動には、まったくおかまい無しに、常に操祈のことを第一にしようとする。
だから女心はかき乱されるばかりになるのだった。
こんなにやさしい人が居るなんて――。
感動で胸が高鳴り目頭が熱くなる。また涙が溢れそうになって、しくしく鼻を啜ると、
「大丈夫ですか……?」
と、心配した声音が訊いてきた。思いやりのある言葉が心に響くのだ。
操祈は男の胸の中でこっくり頷いた。
「……やさしいね……レイくんは……」
「ボクは普通だと思いますよ……優しい人に優しくするくらい
少年はそう耳許で囁くが、レイが特別なのは判っていた。
「……先生が腕の中に居ることが、いまだって信じられないのに……ボクのためにあんなにも尊いものをたくさんふるまってくれる……」
なにを言われているのか判って、操祈は恥ずかしさに男の胸にしがみついた。
「すごくいいにおいがして……愛しくて胸が痛くなるくらい……」
「……いわないで……そういうことは……」
レイが纏っているニオイは、操祈をたじろがせずにはおかないものだった。けれども恋人が自分の体臭を愛してくれているのを疑うことも、もうできなかったのだった。
「ホラね――」
「……?……」
「恥ずかしいのを我慢して、身を犠牲にしてボクに秘密を分け与えてくれているじゃないですか」
「………」
「だから、やっぱり先生は女神さまなんだなって……」
「……わたし、女神なんかじゃないもん……」
精一杯の気持ちを込めて訴えた。
「じゃあどうしてこんなに綺麗でお優しいのか説明ができますか?」
「……あんな酷いことしておいて、よくそんなことが言えるものね……」
無茶な言いがかりへのお返しに困って、つい憎まれ口を利いてしまうが、これもレイに甘えてのことなのだった。
「せっかく地上に降りてきて戴いたんですから、
レイが口にした、ご利益――という言葉には拘ってはいけないと操祈は自らに言い聞かせていた。
あぶない、あぶない、もうその手にはのらないんだからねっ――。
代わりに
「あんなことが……レイくんの初詣だなんて……」と、呟く。
「操祈先生の観音様に今年初めてのお参りですから――」
「もう、そんなおかしなことを言ってぇ……じゃあ、わたしはどこに初詣すればいいのよぉ……」
「そんなことする必要ないんじゃありませんか、だって先生は参拝される側だから」
「ずるいっ、結局、いつも私ばっかりじゃないのぉ」
頬を膨らませ、おもいっきり拗ねてみせた。
「ご不満ですか?」
「ええ、不満よ」
「じゃあ、今夜だけは特別に……触ってもいいですよ……」
少年の
「本当に……?」
少年は首を縦にふった。
「でも、もう爆発寸前なので、あまり刺戟しないようにして下さいね」
操祈はおずおずと少年のものに手を伸ばした。どのようにすればいいのかは分かっているつもりだった。とてもデリケートな場所だから、自分にしてくれたように優しくすればいいということを。
両手で大事に包む。
「これが……レイくんの……」
まさに男の子の情熱の塊だった。
「……すごい……こんなに固いなんて……それに熱い……」
触れていると、このステキなものを体の中に収めてみたいという女の本能が目覚めてくるのを感じてしまう。
「キス、してはダメ……?」
「それはダメですね」
「どうして……?」
「前にも言ったはずですよ、ソイツが最初に経験するのは、先生の
「だってレイくんは私にはするのに……」
「あれは……結婚するまでの長い長い前戯だって、思って下さい」
「……!……」
結婚――。
それは恋人の口から発せられた、初めての言葉なのだった。
「ボクの
今まで何度となく仄めかされていて、彼にそのつもりがあることには気がついていたけれど、実際に耳にするとやはり胸に迫るのだ。不意を衝かれた分、心は激しく揺さぶられていた。
「それに、もし先生に他に好きな男の人ができて、その人と結婚するとなったら不都合になるかもしれないですから……」
「そんなこと……あるはずがないじゃないのよぉっ……」
両手で顔を覆ってこみあげてくる感情に堪える。
「レイくんこそ……あたしでいいの?……あたしなんかで……女はすぐに年をとっちゃうんだゾ、あっという間におばさんになっちゃうんだゾっ、それでもいいのっ?」
「先生は、この世でたった一人の、ボクの大切な人です。これまでも、そしてこれからもずっと……それに先生はおばさんになんか絶対になりませんよ、これは請け合います。だって女性の方が男性より長生きするし、七、八歳くらいの年の差って、いちばん合ってるのかもしれません」
「本当に……いいの……?」
「先生と一緒に、年を重ねていけるのなら……」
操祈は恋人の胸の中で、こっくりと頷いた。
「よかった……じゃあ今から……先生はボクの……」
「うん……」
「お姉さんですねっ」
「え――!?」
予想していた言葉ではなくて意表を突かれていた。
「女房になる前の姉さん女房だから」
「うーん……そうなのかな……」
「操祈お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
「それはいいけど……じゃあ、レイくんは弟くん?」
「そうですね……それも悪くない感じですね。姉弟でイケナイことをしている背徳感がなんとも……」
「もー、レイくんは結局、そっちになっちゃうんだからぁ」
「じゃあ、お姉ちゃん、さっきの続きをしませんか?」
「続きって……」
「もちろん“初詣”の続きを……何回、お参りしてもいいんですから――」
「あんなことをまた……」
「じゃあ、もう少ししてからにしますか?……お姉ちゃんになった操祈先生の“ご利益”をたっぷり分けてもらうのは」
「もう、なに言ってるのよぉっ」
操祈は姉の顔になって“悪い弟”を叱ったが、自分がまたその悪い弟の言いなりになってしまうのを覚悟してもいるのだった。
次話は前作から通算で100回目になります
おつきあいをありがとうございます