ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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インキュバスの戯れ

          LⅩⅨ

 

 

「いったい、なんなのよこの子は……」

 山崎碧子はモニターに映し出された映像を前に魅入られたようになって、もう何度目かにもなる嘆声を漏らすのだった。

 いま“謎の少年――”は逆向きに抱いた女の背後から長い脚に腕をかけてグイッと開かせると、あられもない形にむき出しにされた股間に顔を寄せ、またそこを丹念に(ねぶ)りとり始めたのだ。一方で両足を巧みに操って女の両腕に絡めて自由を奪い、“食峰操祈”は身を守る術をいっさい奪われて、自身のもっともか弱く切ない部分を相手の手と口によって自由に弄ばれている。

 音声情報がないために映像は無音だったが、彼女が官能的に腰を細かくうち慄わせながら容赦のない愛撫に甘い声で啼いているのが窺えるのだった。

「凄いわ……」

 好奇に駆られるままに局所をクローズアップしてみる。するとピントの甘いボヤけた映像であるにもかかわらず、明らかに色づきを増した粘膜が菱に開かれて、そこを長い舌が何度も往復してくまなくなぞっていくのが見て取れるのだ。

 同性として思わず息を呑んだのは、とりわけ繊細な器官のあたりにも舌と唇の包囲網が迫る中、退路を断たれて孤立無縁のままに、やがてしっかりと男の口の中に捉えられてしまう、そのスリリングな場面を目の当たりにした時だった。と同時に女の体がクッと海老反りになる。苦しげな息遣いに豊かな胸がせわしなく上下するようになって、頭の上に投げ出されたままの両腕に負けきった諦めの心根が現れているようなのだった。

「……これが……あの女なの!?……食峰操祈が、こんなふうになるなんて……」

 教室での知的で玲瓏な女教師が、少女の想像を超えてしどけなく、あられもない姿になっていた。

 もちろんこうした愛撫を碧子も未経験ではない。ただ彼女の場合、少しばかり屈折しているのだ。相手からの愛情を量るとても心地よい愛撫だと思う反面、女の弱さを思い知らされるやり方だとも感じてしまうからだった。体が大きくて力の強い牡に身をまかせるだけでも自身の威儀を脅かされるようで抵抗があるのに、その上もっとも機微に触れる部分の全てを相手に委ねるなんて、やっぱりどうかしていると思ってしまう。

 まして、いまの操祈がされているような大胆な体位で許したことは一度もなかった。

 しかしそういったありきたりの印象以上に、画面の二人が演じているのは今やある意味で全く別の行為のようにも思えているのだ。

 それは、予め想定していた“女教師と生徒の間での禁断の恋”というような、わりとどこにでもある平凡な良俗違反と違って見えたからなのかもしれないが、二人の行為が始まってかれこれ数時間、ホットパートをつぶさに観察を続けた結果、もう単純にこれを“セックス――”と言うべきかどうかさえもわからなくなってきているのだった。

 はっきりしているのは自分が経験している性行為とはかなり違うこと。

 もっと遥かに親密で、そして淫靡な男女関係だ。

 それを身近にいる人物が演じているというのは軽い衝撃でもあった。

「あなたは……誰……?」

 この少年――が密森黎太郎ではないのだとしたら、いったい何者なのだろう?

 当日、所在不明の本校男子生徒は居なかった。ということは他校の生徒、あるいは暗部組織の生き残りということもあるのかもしれない。

 そうなると奈良での事案とのすり合わせをしなければならなくなるが、それ自体は大した瑕疵ではなかった。

 やはり何よりも重要なのは、この少年――体型や体格からいっておそらくミドルティーン以下であるのにちがいない――の素性だ。

 謎の少年は今、手と指、舌と唇を駆使してもっともデリケートな部分、女にとってとりわけ障りのある“三つの場所”を同時に責め苛んでいた。それはたしかに、愛撫――なのかもしれない。けれども少女の目にはむしろ拷問のようにも映る。性的な支配を目的とした、このうえなくやさしく、そして冷徹な仕置に。

 女体の弱みを知り尽くして、性技によって心と体を縛りつけて従わせようという、身持ちの堅い女を籠絡するための官能の秘戯だ。

 性病が蔓延する以前の牧歌的な時代の話だが、その昔、ニューヨークのジゴロたちは自分の手中にあった女たちに対して、手や口を使って慰めることはあっても、けして自身の一物を使うようなことは無かったという。

 そうすることで女たちの忠誠心を煽っていた。 

 はたしてそういう意図があるのかどうかわからないが、件の少年も、まだ一度も男の武器を使って女を冒してはいなかったのだった。画面では明らかに局部を怒張させているのが窺えるのだが、それが女教師の体に突き立てられることはなかったのだ。

 少女がこれまで見てきたのは、食峰操祈の体がただ弄ばれて歓びの波にのみこまれていくばかりの一方的な展開である。

 前戯のための前戯、ボディキスにはじまって……。

 もっとも、それすら碧子が未だ経験したことのない淫らで嫌らしいものだった。腋の下をねっとり舐めまわされたり、臍穴のニオイをしつこく嗅ぎとられたあげくに中にまで舌を入れられるなんて!

 それだけでも我が身に置き換えると自然に肌が粟立ってくる。

 そういった執拗さがそっくりそのままウイークポイントへと向けられるのだから女にとってはたまらない。見ている側も、操祈の方に感情移入してしまうほど、あっと思うような場面の連続なのだった。

 そして彼女がようやく望んだ歓びに辿り着いて休息を挟むたびに、次はより難度の高い体位、行為へと導かれていく。

 女教師は少年の手に促されるままに大胆に体を開いていた。求められるままに恥ずかしい体位を取らされていた。

 そう――。

 彼女を性的倒錯へと誘っているのは明らかに少年の方だったのだ。それが映像を見てはっきりわかったのだった。

 当初、碧子は、普段は涼しげな顔をしていながらその実、本性は欲深なアバズレの食峰操祈が、しおらしさを装いつつ何等かの精神的能力によって教え子を禁断の性の世界へと誘っているものとばかり思っていたが、現実は正反対だった。

 

 支配されているのは食峰操祈の方だ――!

 

 それは、よくよく考えればあたりまえの帰結だったのかもしれない。

 とどのつまり、相手に対して精神系の能力を使ったセックスは程度のいいマスターベーションと変わらない。貪欲に快楽を求めるのであれば自慰などでは飽き足らないだろう。第一、たとえレベル5であろうとオルガスムスの際の強い肉体的歓喜の最中に、意識を清明に保って他者を支配するような器用なことなど到底できるはずもなかった。

 だとしたら食峰操祈を、この年上の女教師の体をここまで自由にできる少年とはいったい何者なのか?

 相手は密森黎太郎だとばかり思っていたのだが、その可能性はあっさり排除されていた。体つきや雰囲気こそ似てはいるのだが、確かに彼は年末年始、学園都市内には居なかったのだ。それは碧子自身の目でも確認済みだった。生体認証を追った結果、大晦日の午後、友人等と学園都市を後にして、戻ってきたのは四日の夜だ。監視カメラの映像にも矛盾はない。

 いかに操祈が高レベルの精神系能力者といえども、人の目を欺くことはできても撮影された映像に干渉はできはしまい。

 だから、この少年は密森黎太郎ではありえないのだ。

 そうだとすると――。

 モニターの中では謎の少年が、なんの迷いも感じられない動きで、今また女のもう一つの泣き所にも舌を送って口をつけ、執拗なまでの熱の入れようで舐めくじりはじめた。少年の放つ歓喜の波動が画面からも伝わってくるようになる。

 大人の女のもっとも遠い場所にさえタブーなく踏み込むばかりか、明らかにそれを楽しんでいるのが窺えるのだ。

「やっぱりこの子……普通じゃないわ……」

 たしかに舌の動きには強い愛情を感じる。口づけの(うやうや)しさはどこまでも優しげだ。だがこうした振る舞いに熱中している姿には、甘美な樹液を求めて長く留まる淫猥な蟲を想わせて、どこか異形の存在にも見えてくる。

 淫物嗜好者――?

 男たちの中には女体に対して歪んだ関心を持つものが一定数いることは知っていた。けれども、まだミドルティーンと思われる男の子がするにしては、あまりにもハードルが高すぎるのではないか。

 子供が大人の女のいちばん醜い部分を好むなんて――!

 少年が何かを言ったらしく、女教師が気怠げな動作でベッドの上でうつ伏せになった。そのまま膝を立ててお尻を高々と差し出す格好になる。奴隷商に陰部を品定めをされる時の売り物にされた女たちのようなポーズに。ベッドの間に圧しつけられて豊満な乳房が、今にもはちきれそうになるほどひしゃげていた。

 ようやく二人の交わりの場面にたどり着いたのだと思った碧子だったが、少年の方には、やはりそのつもりはないらしく、また指の腹でそこを円くさするようにしてしつこく弄り始めたのだった。淫靡な詮索を受けて女の肩に緊張が覗く。

 やがて十分に解れているのを確認したのか、少年はそこにプスリっと指をくぐらせた。恐れていたことが現実になって操祈の体が一瞬、ピンとこわばり、そして力なく崩れていくのだった。

 いま彼女は、たった一本の指で支配されていた。

 ゆっくりと出し入れが始まって、女の腰が鳴動するようにひきつっている。それを少年は空いている方の手で撫でつけて宥めている。

 枕に埋めた操祈の顔には教師としての威厳も、年上の女のゆとりも微塵も感じられなかった。ただ弱く、脆く儚く、そして痛々しいばかり。

 いったい、今の操祈がどのような思いで、このような変質的な行為を受け容れているのだろうか?

 しかしそれが彼女にとって初めてのものではないことは、拒むのではなく堪えることを選んだようすからも窺い知ることができるのだった。

 きっと今度は口を使わずに指だけでということなのだろう、少年の空いていた方の手が股間を潜り、前後から責め立てるようになって女はいよいよせわしなく、苦しげに身をもがかせるようになっていく。

 操祈を疎ましく思う少女ですら、女の肌と肉とがこんなにも執拗に、くまなく探り究められることがあっても良いのだろうかとさえ思う残酷な愛撫だった。

 そして、その時が突然、訪れた――。

 操祈のまるく豊麗なお尻がぶるんっと大きくひきつると、その刹那、ぎゅっと搾った体からしどけないものがほとばしったのだ。ボヤけた画像ではあっても、それがなんなのかは女であれば分かるものだ。少年はその全てを手で受け止めると、とても貴重なものであるかのように口へと運び押し戴いている。差し入れていた指を舐める仕草にも全くと言っていいほどに躊躇いがなかった。そして従順に歓びを迎え入れた女の肉への、ねぎらうようなやさしい口づけ。

 碧子にとっても、ショックとも驚きともつかぬ感動に、映像に目が釘付けになっていた。

 愛し合い始めてから、彼女が歓びの淵へと突き落とされるのを見るのはこれで三度目のこと。食峰操祈という甘い蜜を吸い尽くさんとして、ほしいままに振る舞う淫魔のような少年に、嗅ぎとられ舐り取られ指で探られた挙句に、哀しく果てていくしかない美しい女体。

 精を搾り取られた操祈はベッドの上で、肩で荒い息づかいをしてぐったりとなっていた。

「面白いわ……これはこれで、アリよね――」

 操祈のぶざまに寝乱れた姿を見届けて、少女の口の端が嘲笑するようにつり上がる。

 学園都市の女神さまが、夜な夜なインキュバスの慰みものにされて、性奴に堕とされているなんて面白いじゃないっ――!

 今しがた体を激しくわななかせて歓びを迎え入れたばかりの女が、男の胸に甘えて乱れた呼吸を整えていた。デリケートな肉を(ひし)いで、女体の弱さと脆さを思い知らせていた指と手が、今は髪を撫で、背中をさすっている。

 睦言をかわして見つめ合う瞳が絆を深めあっていた。

「なるほどね……こうやって操祈先生に悪い魔法をかけているわけね……大したものだわ、名無しの誰かさん……」

 そう口にしてみたものの、同時に自分も彼女が経験しているような歓びを体験したいとも思っているのだった。インキュバスと褥を共にするというのが、どういうことなのか試してみたいような……。

 スカートの裾から肌着の中に忍ばせていた指が、いつしか自分を慰めていた。

 

 もしも彼なら……ここを、こんなふうに……。

 

 少年の仕草に倣って、触れてはいけない場所にも指を伸ばしてみる。

「ああ……」

 片手だけではもの足りなくて、両手で自分の体の仕組みを確かめてみた。

 はじめは躊躇いながら、やがて大胆に……。

「……いい、気持ち……きっと彼なら……もっと上手に……するのよね……うらやましい……」

 甘い吐息をついて、画面を見遣った。操祈は今、仰向けになった少年の胸のあたりに腰を下ろして脚を大きく割り開いていた。

「……おやおや、この女は……まだ、やり足りないとでもいうのかしら……アバズレさん……」

 指がぬかるんだ体内を探っていたが、その動きが不意に止まった。

 少女の目が画面の中にあったものを凝視していた。今まで二人の行為にばかり目が向いていたために気がつかなかったが、

「そうか――」

 納得したかのように少女はひとりごちた。

「きっと、そういうことだわ……」

 碧子はスカートから手を引き抜くと、そのままスマートフォンへと手を伸ばした。

 ボタンを押して呼び出し音を聴く、それが途切れて

#どうしたんだい?#

 眠りを妨げられたのだろう、わずかに不満げな声音が訊き返している。

「ちょっと確かめたいことがあるんだけど――」

 電話の相手は藤城多顕正だった。

#いいけど、なにかな?#

「能力検査で見つからない能力者って、居ると思う?」

#やぶからぼうにいったい何の話だい?#

「そのままよ、入学試験の時に能力検査ってあるでしょ? あれで引っ掛からない能力者っているのかしら?」

#ひっかからないって……能力は自己申告で、あると言えば検査にまわされるから#

「そうじゃなくて、能力はあるのに申告しない場合のことよ」

#そんなことをする理由もわからないけど……能力がある方が、今でもさまざまな便宜をはかってもらえるからね#

「じゃあ申告しなければ把握できないのね?」

#いや、そもそも能力者が能力を秘匿するのは難しいことなんだよ。検知器も精度があがっているしね、学校なら身体検査をすればすぐにわかるから#

「でも、隠そうとすれば隠せたりするもの?」

#どうだろう……そういう事例を知らないから……多分、不可能ではないだろうけど……#

「不可能じゃないのね?」

#どうしたんだい? 何か気になることでもあるのかい?#

「ええ、ちょっとね……また連絡するわ……」

 碧子は深夜に一方的に電話をして、一方的に電話を切った。

 画面を止めて、一部を拡大していく。

「やっぱりあなた……密森くんなんでしょ……あなたがどうやって学園都市のセキュリティをくぐっているのかはわからないけど……でも、何らかの能力をつかっているのだとしたら……」

 画面にはベッドの下に脱ぎ捨てられたトレーナーが映し出されていた。

 ピントが甘い上に丸められていて気づきにくいが、特徴的な袖口のデザインが見て取れた。

 それは明らかに常盤台の男子生徒用のものなのだった。

 




また更新をサボってました



誤記に気がついあので微修正をしました
申し訳ありません
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