ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
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「なぁミツぅ、オマエ、進路志望を空欄にしたっていうけど、それでいいのかよ? やりたいこととか無いのか?」
銀を突き出してレイの角筋を塞ぎながらコースケは言った。
放課後の将棋部の部室にいるのは、なぜか正規部員は松之崎純平の一人で、他には釣り研究会の夏上康祐とユーレイ部員のレイがいるだけだった。二人は今、盤を挟んで向かい合っている。
「そりゃボクだってあるけどサ……」
レイは歩を突いて応戦し、コースケの銀を脅かす。
「たとえば――?」
「うーん、飛行機のパイロットとか哲学者とか……」
返事に詰まったレイが適当なことを言うと、
「ソレ、誰の受け売りだよぉ」と、それまで傍でコーラの入った紙コップを片手にストローでチューチューやりながら、ゆるみきった顔でマンガを読んでいた純平がレイとコースケの会話にわりこんできた。
「ごめん、ホントはあんまり考えてないんだ……今が楽しいから、それがずっと続けばいいな、ぐらいにしか思ってなくて」
レイは心からそう思うのだった。
最愛の恋人でもある師、食峰操祈との関係が順調であることは勿論、クラスメートとも、生徒会関係もみな、夢のように楽しいことばかりが続いている。小さなさざ波が立つこともあったが、それも含めて毎日が充実していた。
「まーそうだけどさぁ……それで操祈ちゃん、なんも言ってこなかったの?」
「別に何も、ただ、『はっきり
操祈の口調を真似て言う。
「まぁ、あの人のことだから、オマエの成績ならいざとなったらどこにでも放りこめるくらいに思ってるんだろうなぁ」
「期末のスコア、いくつだったっけ?」
「コアコアで、たしか化、数、二外で861点、だったかな……? 数学は食峰先生の手前、手を抜かずに頑張ったけど、武識先生のフラ語が結構ヤバくて」
「オー、コアコアでそれかよぉ、やっぱレイっちはあったまいいなぁ、長点上機でも数物を除けばみんな大丈夫そうじゃん。生物医学とか情報工学とか……俺なんか選択でも750を超えるのがやっとだったから材料物性あたりでも長点上機は厳しいかな……コースケ、オマエは?」
「739っ、チックショー、純平に負けるとは、クックックック……」
「なんだかんだ言って、みんな700は超えてるんだよなぁ、ゆうのヤツも選択だと800超えしてるっていうし」
コアコアというのは、中学三年間を通して成績の良い科目を上から二つといちばん成績のよく無い一科目について、昨年末に実施された最終期末試験の成績の合計から算出した得点で、生徒の学習能力の高さと適性とを同時に測る簡便な指標となっていた。1000点満点に換算されて800点を越えると概ね優等生としての評価を受ける。今の常盤台では生徒評価の指標が他にもいろいろあって、“選択評価”ではあらかじめ生徒が選んで申請していた得意三科目での結果を同様に1000点満点に換算する。この場合だと山崎碧子などは990点を超えるし、栃織紅音やレイ、それに舘野唯香なども900点を優に超えてくるのだった。このほか選択評価とよく似ているものに“優良三科目評価”というものもあって、これは最終試験結果での好成績だった三科目だけの結果を言う。選択評価と優良三科目評価の二つを合わせて生徒の嗜好と適性を判定する材料となっていた。また“重点評価”は進学希望先が指定する教科での得点、そして総合評価は単純に全科目の成績を合計して換算したものである。それぞれの指標に特徴があり、これらに知能検査、性格検査、心理検査などを合わせて、分野ごとの適性や伸びしろを細かく判定されて進路が振り分けられるのだ。
それゆえ、最終試験での得点数の多寡と志望校の合否は必ずしも一致するわけでは無く、また現時点での入学の難易度が分野のヒエラルキーを意味するわけでもなかった。
数学や理論物理などのように早期教育の必要性の高いスプリント的な分野と、生物学や材料科学のような複合競技的な分野とでは、生徒選抜の趣旨にも育成方法にも自ずと違いがあるというだけのことである。
こうして各自、志望の高校へと進学することになるのだが、学制で名目上“高校”と銘打ってはいても、教育カリキュラムと内容は、大学、大学院に相当する高度なものだった。
学園都市の生徒たちは、かつてのように特殊能力を持つものこそわずかではあったが、生まれながらに知能も学習能力も非常に高い世俗的には“ギフテッドチャイルド”で、一歩、学園都市の外へ出ればスクールカースト最下位層の生徒たちでさえ進学校のトップクラスの生徒たちと比較しても、勝るとも劣らない実力を備えている。
「ボクは、みんなと一緒に居られて、毎日が楽しければそれでいいんだけどな……離れ離れになるのはやだなあ……」
レイがこぼすと、
「いっそのこと、みんなでトリタマにでも行くか?」
冗談めかしてコースケが応じた。
トリタマ――都立多摩高校、外の世界、学園都市の一番近くにある普通の進学校である。
「俺も、それも悪く無いかなって思うときがあるよ、なんかフツーが一番なんじゃねぇのかって」
「それ、いいかもっ」
レイは目を輝かせて続けた。
「あそこならいつでも学園都市に来られるしね」
「俺らなら高校のカリキュラムはほぼ終わってるから、ラクできそうだしな、女子を口説く時間もたっぷりとれそうだし」
「コースケくん、それはさすがにキモいよ、男子たちからはフルボッコ、女子たちからは総スカンのお約束が待ってそうで……ボクは大人しく優等生していた方が無難だと思うな、ハイ、王手っ」
「えっ!? ちょ、ちょった待った! えー、なんだよ、その桂馬、どっから湧いてきたっ?」
「コースケ、代わるか? 俺ならこの絶体絶命な局面をひっくり返せるぜ」
横で見ていた正規の将棋部員である純平が煽る。
「スットコドッコイの岡目八目はあっちいってエロマンガでも読んでろってぇのっ、えーっと……」
夏上康祐はスポーツ刈りにした頭をガリガリ搔きむしりながら、いきなり劣勢に転じた盤面を見遣り、しかめっ面をして首をかしげるのだった。
いつも閲覧をありがとうございます
今夜はちょっと短めで、ついでにもやーっとした内容ですが・・・予約投稿します
もう一本、更新するつもりだったのですが間に合いそうもなくて明日に持ち越します
次話のタイトルは
『恋バナ、女の子、男の子』
の予定です