ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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          Ⅷ

 

 

 ブロンドの美女が着衣のまま全身に縄を巻き付けられ自由を奪われた姿で、芋虫のようになって床を這っている。猿轡(さるぐつわ)をかまされていて、んんっ、と呻くことしかできなくされていた。怯える碧い瞳が、傍らで傲然と立つ男を見上げる。

『もう少し辛抱しておいで……しっかり可愛がってあげるから……』

 男はシャツを脱ぎながら女の傍らに膝をつくと、大きな手でいささか乱暴に女の胸をまさぐりはじめた。すると痛みを感じたのか女の眉間に嫌悪の縦皺が作られるのだった。

 さらにベッドに運ばれてからも女の試練はつづく――。

 長い髪を荒々しくつかまれたり、体を屈曲させられたり、と。

 レイプではないが、女が同意しているとも思えない嗜虐的なプレイが目の前で繰り広げられていた。女は常に苦痛に顔を歪めながらも男の体にしがみついている。喘ぎとも悲鳴ともつかない声をあげて。

「操祈先生にはとてもこんな乱暴なことはできないな……」

 少年は剝き出しにした股間をティッシュペーパーで包んで擦りながらひとりごちた。

 他人のセックスの観察は時に良いシミュレーションになる場合があった。

 成人向きの映像はつくりもの過ぎて使えないものが多いし、素人カップルの流出映像は淡白すぎて参考にすらならないことばかりだったが、それでも、何をしたらいいか、何をしたらいけないか、自分だったらこうするのに、というようなイメージを拡げるよすがになってくれる。

 今、観ているのはそのどちらでもなく、古い映画をホログラフに作りなおしたものだったが、さすがに女優は美しく映像自体もよく計算されていて、性描写はおとなしいものだったが、セックスの教材としておおいに触発されるものなのだった。

 修学旅行以降、恋人であり敬愛する師、食蜂操祈との関係は明らかにまた一段階、親密さを増したと思う。

 体を使って心を通い合わせることで、互いの存在をかけがえのないものとしてより強く意識するようになっていた。きっとこれからは今までできなかったこと、手控えていたことの幾つかが可能になるだろう、体によるコミュニケーションをさらに深められるに違いない、そう想うと少年の頬は自然に緩んでくる。

 あんなにも美しい女の人が自分にだけ見せてくれる艶かしくも愛らしい姿。

 教室に居る時の男子生徒からの好奇の視線をはねのける凛とした容子と、二人きりで居る時の甘くやさしい表情、そのどちらも少年は大好きだった。

 昼間の姿を知っているからこそ、夜の顔を見たくて、いろんなことをして可愛がりたい。

 烈しい羞恥に真っ赤になって自分に甘えてくる姿が愛おしくてたまらなかったのだ。

 そんなときの操祈は、年上の大人の女性というよりも自分と同年代の幼気(いたいけ)な少女のようにも思えて、さらにもっと濃厚なプレイに引きずり込んで慈しみたくなる。たとえ泣かせることになったとしても、操祈の体に新鮮な歓びを教えてやりたくなるのだった。

 女神の白い肌に散りばめられた歓びのボタン、女の秘密のスイッチを探すのは何にもまさる心躍る楽しい探索だった。

 今度は、どんなことをしようかな――?

 それを想うと、もう既に三回も放っているにもかかわらずまた股間がかたく張りつめてくる。

 きっと今の操祈は、たとえ煌々とした明るい部屋の中であっても少年が望めば自分から腹を脱いですばらしい裸身を魅せてくれるに違いなかった。だから、次はもう少し難度を上げて、京都のラブホでやったようなことを“椅子”などの道具を使わずに、彼女の意思でやらせてみるのもいいかもしれない。

 羞恥に堪えて、より大胆にふるまってもらうこと、誇り高い美女にあられもない屈服の姿を取らせること――。

 あの愛らしい美貌に畏れと当惑の表情が作られるのは、想像するだけでも期待に心が膨らんでしまうのだ。

「早く、先生、来ないかな……」

 時刻はもうじき六時になるが、約束の時間までにはまだ三十分以上もあった。

 ホロムービーはいつの間にか終わっていて、円形のシアタールーム中央の直径五メートルほどの丸い投影装置は、今は面状の発光テーブルのようなものに戻っていた。

 ペントハウスに(しつら)えられたシアタールームは大金持ちが金に糸目をつけずに造りこんだ実にすばらしいもので、二次元投影型の古典的なムービーシアター設備はもちろん、裸眼で観察するのに適した三次元のホロムービー、さらには完全没入型のVRシステムなど、一般のアミューズメントホールでのアトラクションとほぼ同等の体験ができる充実ぶりだった。

 惜しむらくはアーカイブにかなりの偏りがあることだったが――。

 少年はだらしなく下ろしたままのズボンを穿きなおし、汚れ物をビニール袋に入れて鞄にしまってから、次はホロモードではなくVRモードを試してみることにして、操作パネルを切替えて頭にヘッドギアを装着することにした。

 アーカイブから別の作品を探すことにしたが、紅音の祖父の趣味だったのだろう、いったい誰に見せるつもりだったのかわからないが、愛人との情事を記録したと思しきタイトルのホロムービーが全体の二割近くもあって、さすがにそれを開く気にはならなかった。

 紅音の祖父は往時には女性関係が相当に賑やかだったらしく、リストをざっと見ただけでも十数名の異なる女性の名前が挙がってきて思わず苦笑いになる。女性たちからすれば、とりわけ重大な個人情報であるはずが、こんな具合に誰でも見られるようになっているとしたら、さぞかし悪夢だろうと思うのだった。

 ただそれは少年の誤解で、後になって紅音に確認したところでは夫々の映像は祖父と相手の女性の二人の生体情報によって暗号化されていて、両者が揃わない限りけっして観ることができないということだった。

 要するに、もう誰にも観る手だてはないということで、アーカイブの三分の一は死蔵データということだそうである。

 また残りの三分の二も殆どがポルノか官能映画の類いで、そんなものを見る為によくもここまで莫大な資金を投下できるものだと、少年は別の意味で感心してしまった。かろうじて普通の映画が数十タイトルほどあったのだが、時代劇やら戦争映画やらで、操祈たちを待つ間の時間つぶしとしては内容が重すぎて手を出す気にならない。またウエブ上にあるデータをダウンロードして観る機能は当然のごとく備えられていたが、こちらにはプライバシー保護、セキュリティーという面から危なすぎて近づけなかった。

 結局、地上波放送や衛星放送をザッピングすることになって、アナウンサーの読み上げるローカルニュースを臨場感あるVRで“体験”するというシュールなことになってしまった。

#――学園都市東区にある区民水族館の人気者のゴマフアザラシ、ケータくんがパパになりました。今朝八時半、メスのゴマフアザラシのハナコが赤ちゃんを出産しました。生まれたのは体重は九キロ、体長は七十五センチのオスの赤ちゃんで、区民水族館によりますと母子ともに状態は非常に良いということです――#

「それは良かった、本当に良かった、かっこ棒……」

「何が良かったのっ」

「ええっ!!」

 後ろから突然、声をかけられて少年は驚きのあまり素っ頓狂な声を発してしまった。

 慌ててゴーグル付きのヘッドギアを外すと、紅音が細い眼を更に細くして少年を見下ろしていた。

「来てたんだっ、びっくりしたなぁ、おどかさないでよ」

「おどかすもなにもないでしょ、ここはあたしのウチなんだから」

「ゴメン、退屈しちゃって勝手に使わせてもらってた」

「それはいいんだけど、先生、来られてるのよっ」

 少女が顎をしゃくった方を見ると、シアタールームの入口には濃紺のスーツ姿もカッコいい操祈が立って、優雅に頬笑んでこちらを見ていた。自分の間抜けぶりをしっかり見届けられてしまったようで、少年は照れ隠しに髪をクシャクシャと掻きながら頭を下げるのだった。

 

 

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