ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
“もしよければ、今日の午後三時に図書館二階、いちばん右奥のキャレルでデートをしませんか?”
答案の隅に、小さな字で書かれたメモを読んだ途端、操祈の心は揺れていた。刹那、
レイくんに逢えるっ――!
と、希望に胸が膨らむと同時に、
学校でデートをするなんて……。
との不安な気持ちとが交錯する。けれども結局、図書館へ足を向ける方を選んでしまった。
あの子、いったいどういうつもりなのよぉ……。
もちろんテストは満点、二問ともそつなく正答が記されている。
でも、答案にデートの誘いを忍ばせてくるなんて……。
だんだん行動が大胆になってきていた。
交際を始めたばかりのころは、月に一度、学園都市の外でこっそりとひと目を忍んで逢うのがせいぜいだったのに……。
それさえ、誰にも怪しまれることのないように
たった小半刻足らずの時間を捻出するために知恵を絞り、虎の尾を踏むような冒険を重ねていたのだ。
デートの中身にしても、そう――。
そのころのいとなみは、いま自分たちがしていることを思えば、子供同士のするような控えめでたどたどしい拙いセックスだった……。
操祈自身にしても、少年の前で服を脱いで裸になること自体が冒険だったのだ。
それが今は――。
図書館の正面出入り口のカードリーダーに自身のIDカードを差し込んでドアを開き、館内に入る。カウンター前のなだらかなスロープを上がっていると、貸出受付に居た女子生徒から
「先生、本日は図書整理日なので、閉館時間まであと三十分です」と、注意を促され、笑顔で応じた。
「ええわかってるわ、ちょっと調べ物をするだけよ」
その言葉通りに
期待半分、不安も半分で。
閉館時間が近いこともあって、閲覧室に居る利用者の数は普段よりもかなり少なく、館内全体がいつもとくらべると閑散としている。二階のキャレルも、使用中でアコーディオンドアが閉じられているのは半分ほどで、残りの幾つかはドアが開けっぱなしになっていてガラス窓に面して置かれたデスクが見えている。
レイのメモ書きにあった右手奥のキャレルのドアも開け放たれたままの空室のようで、操祈は長い回り廊下を進みながら約束の場所に近づくにつれて、
やっぱり、もう帰っちゃったのかなぁ――と、安堵とも落胆ともつかない気持ちになってくるのだった。
時間を十分以上も過ぎてしまってはデートをすっぽかされたと思われても仕方がなかった。
ただそれでも、せっかく足を運んだ以上はテストの採点の続きでもしようと、空室だった件のキャレルに入ると木製デスクの上に要覧と答案用紙の束を置き、クリーム色の厚手の布で出来たアコーディオンドアを閉める。
と――。
不意に背後に人の気配を感じたのだ。振り返ると、机の下の影になっていた部分から、レイが今にも這い出そうとしていた。
驚きに思わず声を上げそうになるのを、少年は床で唇に人差し指を当てて、首を振って制している。
レイくん、やっぱり来ていたんだっ――!
今度は嬉しさ半分、気がかりが半分。
立ち上がった少年はニッコリすると“ちょっと待って下さいね”とでも言うように無言で人差し指を立てている。操祈の見ている前でポケットから大きめの衛生ナプキンの入ったパックを取り出すとブレザーを脱いで、長袖のワイシャツの両腕の袖まくりをして、ナプキンのビニールを破った。そして中にあった厚手の不織布で顔と手を丁寧に拭いはじめたのだ。
それがどんなことを意味しているかを解っている操祈はたちまち頬を朱に染めて、つぶらな瞳を伏せて視線を床に落とすのだった。長い睫毛に憂いの翳が差してくる。
一畳ほどの狭いキャレルの中をアルコールの香りがほのかに漂うようになっていった。
両手を清めて用意が整うと、少年は励ますような柔らかい笑みで、ゆったり腕をひろげて操祈を招いた。彼女も半歩前に進み出て静かに身をゆだねる。逢いたかった――という思いをのせて少年の背中に腕を回していった。言葉にできない分、互いにひしと体を寄せ合って温もりを伝えあう。
男の子の日向っぽいにおいが懐かしくて、胸にきゅんと迫るのだ。
感情のこもったアイコンタクトからの口づけ。音をさせないように唇を重ねるだけの静かな接吻。少年が彼女の背中を撫でる手の動きも、衣擦れの音を立てないように指先でくすぐるようにしている。
少し前までは自分の方から身を屈めていたのが、今は操祈が少し顔を前に傾けるだけでキスができるように変わっていた。
この一年でずいぶん背が伸びたと思う。それが頼もしくもあり、ちょっぴり寂しくもあった。この姿のレイに逢えるのは今しかない――そう思うと、ずっと傍にいて片時も目を離さずに見続けていたくなった。そして自分が通り過ぎていく青春の傍観者になっているようで切なくなってくる。
急に目頭が熱くなってきて鼻をスンっと鳴らせた。そんな操祈を間近で不思議そうにして見守るレイのやさしげな眼差しは、大丈夫ですよ、と言っているよう。顔を寄せてきて、ニットの胸のふくよかな谷間に顔を埋めると、目を閉じてうっとりとした容子になってにおいを嗅ぎはじめるのだった。セーターの上から乳先を探られて、賛美のボディキスが贈られて、くすぐったくも甘い刺激に操祈も目を閉じた。
それはあきらかに性的なトーンを帯びた振る舞いには違いない、けれども、
これぐらいなら許されるわよね――。
と、されるままになっていたのだが……やっぱりそれだけでは済ませてはもらえないようなのだった。
少年はズボンのポケットの中から折りたたまれた白い紙を取り出すと、それを操祈に手渡したのだ。怪訝そうにしていると、手振りで紙片を開くようにと言っている。
促されるままに拡げる、と、途端、驚きに目を瞠った。
そこにはレイの手によるものらしい鉛筆画が描かれていたのだ。それも、思わずギョッとするようなエロティックな図柄の男女の交歓図が。
すぐに自分がモデルだとわかる、明るい髪色をした女が辱めに頬を染めて、服を着たままデスクの上で四つん這いにされていた。一方、目元だけを省略されてのっぺらぼうのように描かれた男の子は、女のスカートを背中まで捲り返し、肌着もずり下ろして剥き出しになった裸のお尻を前に、そこを拡げて覗き込むようにしながら嬉しそうに微笑んでいる。少年も頬を赤らめていて興奮が伝わってくるのだった。
どうやらそれをしよう、ということらしい、ベッドの上では度々求められたその体位を。
女にとっては屈辱的で、抵抗感のもっとも強いもののひとつ。そんな閨での秘め事を、よもや求められようとは……。
本気なの――?
と、目で問いかけると、
応える代わりにイラストに、今の操祈がしているように眼鏡を描き加えて微笑む。
少年は期待を隠さない潤んだ瞳で操祈を見上げながら、デスクを指先で小さくトントンと叩いて誘惑しているのだ。
それが、ココに乗れ、でも、乗ってください、でもなく、乗ってくれたら嬉しいな――の、サインなのだと感じると、操祈はせつない女の算段を始めてしまうのだった。
今の自分が、すでにぬめりを感じるほどしどけなくなっていて、きっとイヤなニオイを放っているのではないかと怯む気持ちと、甘美な蜜の思いとの間で揺れる。ここに来る前にトイレに寄ってシャワーを浴びてくれば良かったと後悔するが、今となってはもうどうすることもできなかった。
そんな女の葛藤を見透かしたように少年は目の前でしゃがむと、いきなりスカートの中に頭を潜り込ませてきたのだ。操祈が身を守ろうとするよりも先に、少年は胸の谷間に顔を埋めた時と同じように太腿の間にも顔を埋めて、侵入を拒もうとスカートの前を抑えた操祈の両手は、逆にかえってそこに恋人を閉じ込めるかたちになってしまうのだった。
声をあげて詰ることもできずに、そのまま肌着の上から恥臭を嗅ぎとられて、あきらめに目を閉じる。閉じ合わせていた膝がわずかに緩むと、少年はますます深く顔を寄せてくるようになるのだ。
大胆な辱めを受けて、この子はどうしてこんなことをしたがるんだろう、と思う。
少年からは何度も理由を聞かされていて、男の気持ちを教えられて、その都度、説き伏せられてしまうのだが、でもやっぱり恥ずかしい。
とても親密な愛のかたちであるとわかっていても、女の本能は男の不埒な所業にいつも抗議の声をあげてしまう。だが今は言葉を封じられていてそれさえも許されなかった。何をされても赦しを与えるしかなく、そして女の受容はすぐ隣り合う感情でもある愛情へと飛躍してしまうものなのだ。
肌着の上からも分かる恭しい接吻が落ちてきて、覚悟を決める。
そもそも、彼女の心は図書館に足を向けた段階で既に定まっていた。ただ女には自分のための言い訳が必要なのだ。肉欲に屈したのではないという、だらしのない女なのではないという、他ならぬ自分自身を納得させる理由が。
それをわかりやすい形で与えられれば、むしろ前のめりになる本音が現れてくる。
スカートの中から少年が現れて、その幸せそうな笑顔を見ると、操祈もはにかみながらも、もう頷くしかないのだった。そして自らデスクの上に乗ると、四つん這いになって頭を垂れて恋人に対して恭順の姿勢をとって応えてしまった。
するとイラストにあったように、すぐにスカートが大きく捲りあげられて、潤みに貼り付いていた肌着もやすやすとずりおろされて、むき出しにされたお尻の谷間に吐息を感じるようになる。指でそこがひらかれるのが分かると、操祈はかたく目を閉ざして身にふりかかる甘い衝撃に備えるのだった。
ここで逢ってから、ほんのわずかの間に教師と教え子の関係からもっとも親密な男と女の姿になっていた。
頼りない蛇腹の布の向こう側では廊下を歩く女子生徒たちの話し声が聞こえ、うっかり誰かがドアに手をかけようものなら、目に映るのはお尻を丸出しにした女教師の痴態になるに違いない。
それでも、ひとたび恋の魔法にかかった操祈にはもうどうでもよくなっていた。たとえ身を滅ぼすことになろうとも、今は、今だけは、すぐ目の前にある歓びに手を伸ばしたかった。ごちそう――を、ただ見せびらかされるだけだなんて、あんまりだった。
ずっと欲しくて欲しくて、夢にまで見てしまうほど恋焦がれていた、その愛撫。
恥ずかしくて、淫らで、禁忌のいとなみだと嫌悪しながらも
可愛がられたい――!
と、体は夜泣きを始める。
自分を慰めるのでは到底とどかない、恋人にしかできないご褒美。
自ら肌に触れて判る、男のやさしさと思いやり――。
休暇中をずっと共に過ごしたことで、操祈の体には今も恋の炎が消え残り、ずっと内に秘めた燠火のようになっているのだった。少年が言っていたように、たっぷりと時間をかけて愛されて、自分自身でさえ知らなかった特有の器官の仕組みが、肌に散りばめられていた愛のための仕掛けが、ひとつひとつ解き放たれて、女の肉の罪深さとすばらしさとを思い知らされている。
それはわずかなきっかけで彼女の体に火を灯し、隙あらば支配しようと機会を窺っていて、そしていったん勢いがつくと油を撒くように、一気に全身が欲望に赤く燃えあがってしまうのだ。
そうなったとき、操祈はアルコールに逃げるか、満たされることはないと知りつつも湯船に浸かって自らを慰めるしかなくなってしまう。
目に映る恋人の姿、しぐさ、声、におい……。
そうしたものが鮮やかな性愛の記憶を呼び覚まし、操祈をしどけなくさせている。
レイくんがいけないんだぞっ、レイくんがっ――。
あたしをこんなにしてぇっ、
どうしてくれるのよぉっ……。
お布団の中で、そう言って駄々をこねて甘えると、
「それは光栄です、先生の体がボクのことを大好きだって言ってくれてるんだから」
嬉しそうに諭して、もっと大切に可愛がってくれるのだ。
敵うはずがなかった。
どんなに辱められても、けっして女に恥をかかせるようなことはしないし、操祈の自尊心を傷つけることもない。だからいつでも安心して身をゆだねることができるのだった。
今も、しっかり観察されて、そしてニオイをじっくりと嗅ぎとられる。いちばん差し障りのある場所にはとくに念入りに。
デスクの上で贄となった操祈は恥ずかしさに堪えながら愛撫の時を待ちかねている。
ああ、レイくん、早くっ……あたしっ、もうがまんできないっ――。
いよいよせわしなくなっていく女心をよそに、少年は履いていたスニーカーを脱がしはじめた。ずり下ろされていた肌着が膝をくぐり、脛をとおって足先から奪われていく。
椅子が引かれる音がして、少年が今は座って彼の獲物と対峙しているのだと判った。操祈の太腿がハの字を描くようにさらに大きく開かれてしまう。恋人の両手が左右の
そして――。
いきなり、柔らかくおっつける感触のものが密やかな谷間を切り分けるようになぞって、操祈はそれだけで電気に撃たれたように身震いをして達してしまいそうになった。彼女のことをどんなに大切に思っているかを教える動きで、きめ細やかな、身も心もとろけてしまうような愛情たっぷりの口づけ。探られるだけでお尻がヒクヒクと歓喜に震えてしまうのだ。
もっとも敏感な花芯が彼の唇に捉えられた時、けっしてひどくなんてされないことを知っているそれは、くつろいでお口の中で蕾を膨らませていくのだった。舌の上で転がされて、だいじそうにいじめられる。
いいきもち……なんて、やさしい……。
言葉などに頼らなくても、わずかな触れ合いだけで互いの心はひとつになっていた。一瞬一瞬に、どんなに深く愛しているか、大切に思っているかを感じあえる歓び。
そうよ……これがわたしよ……レイくんにだけは……みんなっ……。
四つん這いになった姿のままで、操祈は全身の感覚を体の一点に集中させて、光の世界を目指して駆け上がっていく。
固く閉じた目の奥に目指す尾根が見えてきて心の手を伸ばすのだった。
あと、もうすこし……。
そう思った時、体がふわりと舞い上がったかと思うと、いきなり重みを感じてクルクルと回りながら堕ちていく。
その刹那、かろうじて残っていた意識が両手で口をきつくおさえていて
「愛してるわっ――」と、叫ぶのを押しとどめていた。
何かが堰をきって溢れる感覚とともに宿っていた狂おしい熱が体から離れていく。
幾度も大きなうねりに翻弄され、やがて小さな波間に漂うようになっていった。
操祈は口を大きく開けて、荒れた息音をたてるのを避けている。潮の囁きが少しずつ遠のいていくに従って、意識のかたちが次第に元の姿に戻っていくのだった。
お尻をしっかり抱かれていて、そこをいたわるように後始末をされているのがわかると、申し訳なさとうれしさで胸がいっぱいになる。
ちっちゃい男の子だったのに――。
それなのに、いつも自分を包み込むように愛情を注いでくれている。
情の深さが身にしみて薄く開いた瞼に視界が滲んだ。瞬きをなんどか繰り返して、ピンボケしていた世界が再びゆっくりと焦点を結んでいった。
冬枯れた木々、タイル張りの中庭の遊歩道、そこを歩く女子生徒たち……。
中の一人が、気がついたのかこちらを見上げていた。視線が重なり、何事か、と怪訝そうな面持ちの美少女と距離を置いて向き合う。
あの子は……。
誰だったかしら――?
と、ぼんやりと思ってから、それが不意に山崎碧子だと判って、一気に頭の中を覆っていた霧が晴れて清明になった。同時に、相手の顔にも俄かに理解の色が泛かんだのが見てとれた。美少女は図書館へと足の向きを変えたようである。それが窺えて、操祈は恐慌に襲われて伏せていた身を起こすのだった。
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次回 夢の正夢 6
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リア充たちの夜
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