ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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特別エピソード  初恋と失恋と 〜初恋篇〜

 初めはほんの些細な悪ノリ、イタズラ心からだった……。

 翔馬(しょうま)がその部屋のクローゼットに身をひそめることにしたのは――。

 

 チェックインまで少し時間があったので、二つの家族はホテルのフロントで荷物をあずけると一階にあるラウンジでひと休みすることにしたのだが、子供たちはそこで与えられたジュースを飲んでしまうと母親たちに混じってのおしゃべりなどには早々に飽きてしまい、それぞれの親に対してけしてホテル敷地外には出ないという約束で宿泊施設内の散策へと出かけることにしたのだった。

 翔馬は、できればすぐにでもプールに浸かって気持ち悪く汗ばむ体を冷やしたいところだったが、啓一と明菜の双子は近くにある遊園地で遊びたいと主張し、上階からならば園内にあるアトラクションが一望できるからということで、途中からそれぞれ別れて下見をすることになったのだ。

「どうせ明後日はTDLに行くことになるのに、これだから田舎のガキどもは……」

 と、翔馬は従弟妹の嗜好をくさして一人になると、持ち前の要領の良さを発揮してフロントで宿泊者用のカードキーを拝借すると、展望テラスへと足を伸ばすことにしたのだった。

 夏期講習が終わり、夏休みも残すところあと一週間あまり。長期休暇中の宿題は早々に片付けてあるので焦ることはないが、なんといっても受験生の身、ライバルたちとの鎬を削るような日々の合間を縫っての貴重なフリータイムぐらいは勉強のことを忘れてのんびりしたかった。

 一つ年下の呑気な従弟妹(いとこ)のお守りなど、願い下げ。

 ネトゲだって我慢しているのに――。

 ディズニーランド行きにしても、千葉都民である翔馬はなにを今更と全く気乗りしなかったのだが、従弟妹のたっての希望というので応じることにしたのだ。

 森下翔馬、十二歳――。

 都内有数の進学実績を誇る名門私立小学校に通う六年生である。来春には全国一、二を争うエリート養成校への進学も確実視される学園でもトップクラスの優等生だった。

 通常の学内試験はほぼ全て満点。数万人規模の全国模試でも順位が三桁台に落ちることなどまず無く、十位以内の最優秀ランカーの常連というみごとな成績で、親族間でも一目を置かれる存在でいる。

 しかし彼は今日のこの後、またとない幸運と不幸とを同時に経験し、結果として人生に大きな軌道修正を求められることになるのだが、それもこれもたった今、従弟妹と袂を分かったことが端緒となっていた。

 人はコンピュータなどとは違って一度でも心に焼き付けてしまったものを容易に忘れ去ることなどできはしないからだ。

 ましてやそれが思春期前期ともいえる多感な時期に起きれば尚更だった。

 そんな運命の糸に自分が手繰り寄せられているなどとは夢にも思うはずもなく、翔馬は久しぶりの開放感を満喫するような軽やかな気分で昇りのエレベーターに乗ったのだった。

 屋外プールのある空中テラスは、夏休み期間中の週末ということもあって賑わいを見せていた。降り注ぐ午後の強い日差しの下、青々と湛えられた透明感のある水質が目に入ると、すぐにでも飛び込みたいという衝動に掻き立てられる。

 ジェットコースターなんかよりも、やっぱりこっちだよな――。

 適度な日焼けは冬場の風邪予防にも繋がるというし、本番に備えて今の内に健康ポイントを稼いでおくのも受験生には必要な心得だと思う。

 第一、ナマっ白い顔をしたままで新学期を迎えるというのも、いかにもただ勉強していました風で格好が悪かった。

 クラスのみんなに対しては、ゆったりと長期休暇をエンジョイしていた感を示す為にも、せめて今日ぐらいはしっかり日光浴をして肌を灼いておきたかったのだ。

 常に自分にノルマを課すことを忘れずにいる優等生にとっては、少ない好機は生かしてこそだった。

 直射日光を避けて庇の陰でビーチベッドに横たわり、肢体をさらす若い水着姿の女性たちも交じるプールサイドをひとまわりする。

 それはまだ半ズボンを穿いている子供にのみ許された特権と言ってよかった。しかしだからといって、翔馬が女たちの裸身に興味がないわけではない。むしろ親たちが想うよりも遥かに濃密なことを考えたりもしている。

 たとえば……早川奈美に対してするように――。

 彼女は翔馬のいちばんのお気に入りの若い音楽教師だった。

 まだ二十五歳――。

 清楚な雰囲気をした大人の女性で、残念なことに既婚者。それを知ったときにはどんなに心をかき乱されたことか。

 彼女が夜毎、夫となった男とセックスをしているのかと思うと、いったいどのようなことをされているのかと想像して、雄として目覚め始めた欲望がいきり勃つのだ。

 それは恋と呼べるものではなかったかもしれないが、もしいつか自分が性の手ほどきを受けることがあるならば、

 相手は早川先生であってほしい――。

 翔馬は心密かにそう願っている。

 そのときには思う存分、彼女の肉体の神秘を解き明かすのだ。

 いろいろなことをして――。

 プールサイドに居る女たちの採点をしながら、つい良からぬ想像に及んでいて、うっかり股間が固くしこってきた翔馬は、さりげなく前を庇いながらそそくさとプールを後にするのだった。

 燦々と白く眩いガーデンテラスから屋内に入ると、このままラウンジに戻るのもどうかと思い、さりとて上層に昇ってまた従弟妹と鉢合わせするのもきまりが悪く、考えたあげくに一足先に客室フロアの方へと立ち寄ってみることにした。

 エレベーターを使う代わりに非常階段を九階へと駆けあがる。

 もっとも、寄るとは云っても各客室の扉は閉められていて、ただ廊下をうろうろと歩いただけだったのだが――。

 スマートフォンで時刻を確かめて、まだ一時半前。チェックインまではあと三十分ほど。

 エレベーター脇に置かれた小さな丸テーブルに施設案内のチラシがあるのに気がついて、蛇腹に折りたたまれたパンフレットを拡げる。

 宴会場、フィットネス、式場、ショッピング、クリニック……。

 関係ない、興味ない、関係ない、行くほどのこともない、関係ない……。

 やっぱりプールが良かった。

 早く、チェックインができればいいのに――。

 諦めて一階ロビーに戻ろうかと思い始めた時、廊下の奥の方から

 ガチャっ――。

 紺の絨毯の張られた静かな床を這って音が響いたのだ。

 エレベーターホールから顔を出して、音源の方へと目を凝らす。

 すると、支度中だったのか部屋の一つから客室清掃員と思しき女性が二人、一人がワゴンを押しながら出てくると、ドアを開きっぱなしにしたままで持ち場を離れたのだった。

 おそらく宿泊者がレイトチェックアウトした後だったのだろう、次の利用者を迎える為の準備をしていたものらしい。

 翔馬は、折り良く中の容子が窺えると思って部屋の前まで来て、おやおや、とばかりに相好をくずした。

 扉のプレートが912、とあって、それはフロントで耳にした啓一たちの家族が泊まることになっていた部屋番号だったからだ。

 それならいちばん乗りして、後からやってきた双子を驚かしてやるのも面白いのではないか――?

 ちょっとした悪ふざけのつもりで、清掃員の女性たちの気配が途切れたわずかの隙に室内に忍び込むや、すぐに目に留まったクローゼットの中に身を隠した。

 どうせあと三十分もすれば二時になる。彼らがチェックインするまで幾らも待つことはあるまい……。

 夏休み中の小学生の他愛もない思いつき。

 ほどなく戻ってきた客室係の一人が、部屋の最終点検を終えて出て行くとドアがカチャリとロックされる。

 どうやら見つからずに済んだようで、翔馬はクローゼットから出てくるとざっと内部を見回すのだった。

 きちんと清掃の行き届いた室内は、全体的に明るく清潔感のある意匠で統一されていた。

 開放感のある大きな窓に対して、さほど広いとは言えない客室内にはベッドが一つ、シングルサイズのものが据えられているだけである。

 ここで不審に思うべきだったのだが、啓一たちには別に補助ベッドでも用意するつもりなのだろうと、そのときは特に気にも留めなかったのだった。

 窓際に置かれた簡易デスクに椅子がひとつ、小型の冷蔵庫、ベッドの足元の壁には大画面テレビが掛けられている。

 その椅子に座ってテレビでも見ながら時間を潰そうかとも思ったが、廊下に音が漏れてしまっては興醒めとなるので、ただぼんやりと窓外に目を転じる。

 最寄駅のホームと、大通りを熱い排気を撒き散らしながら行き交う車の流れが見えている。

 ネクタイを緩めて歩くヨレたワイシャツ姿の疲れたサラリーマンの群れ……。

 見るからに暑苦しい。

 ああはなりたくないな――と、思う。

 その予備軍ともいうべき学生らしき若い男たちが、何をするでもなくガードレールに腰を乗せるなどして、道端でたむろしているのも目に入った。

 たしか、この先には書店街があるんだったっけ……。

 足を伸ばしたいとも思うが、さすがに陽が落ちてからではないと熱中症になりそうだった。

 実際、この夏は本当に暑かったのだ。

 八月も下旬になるというのに、太平洋と大陸と、それから南から張り出してきた高気圧によって幾重にも覆われた列島は、とりわけ東日本以西は熱帯の湿った暖気団がもう十日以上も居座り続けていて、連日、この時分の最高気温の記録を更新し続けていた。

 だから冷たい水が恋しい。

 今はよく冷えた麦茶を飲みながら、プールで泳ぎたい……。

 早川先生が居たらよかったのに――。

 先生だったら、いったいどんな水着姿になるんだろう……。

 休み期間中、海に出かけたりしたんだろうか……そして……そこで結婚相手の男の人と……。

 翔馬はまた、密かなアイドルの姿を想い描いて気持ちがもやもやとしてくるのだった。 

 喉が乾いた――。

 リネンのカーテン越しとはいえ白く薄い生地を透かして日差しは強く、気がつくと肌がジリジリと灼けつくような感じになっている。

 腕だけを焼くわけにはいかないよな――。

 さすがにもう四十度まで上がることはないだろうが、炎天下の外気はおそらく三十八度を超えているだろう、窓際に長く居ると、たとえエアコンの効いた屋内ではあってもアスファルトと鉄筋コンクリート、ビル群のガラス窓からの照り返しを受けて、うっかりすると頭がボーッとしてしまいそうになってくる。

 時刻を確かめると二時二十分。

 遅いな、いったい何やってるんだろ……あいつら……。

 スマホをチェックして特に連絡が無いことを確認すると、念のためにサイレントモードにしておくことにした。

 今更、コンビニにペットボトルのお茶を買いに行くわけにもいかず、仕方なく備え付けの冷蔵庫から飲み物を拝借しようかと思った時、不意にカチャリ、とドアのロックが解錠される音がして、翔馬は慌ててまたクローゼットの中に隠れるのだった。

 ルーバードアの羽根板の隙間から外の容子を窺いつつ、息を殺して飛び出すタイミングを待つ。

 ドアが開いて、スッスッスッと、軽やかな足取りが近づいてきた……。

 啓一たちであれば、もっと愚かしく賑やかに飛び込んでくるとばかり思っていたのに、その浮かれる背後を突けば更に効果甚大だと目論んでいたのに、ちょっと拍子抜けするような雰囲気。

 双子たちが哀れっぽく悲鳴をあげて腰を抜かすところを頭の中で何度もシミュレーションして楽しみにしていたのだ。

 が――。

 視界に入ってきたのはそんな予想に反して若い女なのだった。それも目を疑うくらいの美しい女性。

 長い金髪がサラサラと滝のようにアイボリーのサマースーツの背中に流れている。とても華やかな美貌、にもかかわらず濃いサングラスを外すと瞳と眉とが喩えようもないくらい優しげで、その一瞬で彼は恋に堕ちてしまっていた。

 こんなにも美しい女の人がこの世に居ることが信じられなかった。それも自分の眼の前に。

 もしかすると既に熱中症になった頭が作り出した幻想なのかもしれない――。

 そう想わずにはいられないほど、女の周りにはどこか非現実な空気、厳かともいえるような調和があるのだった。

 細っそり伸びやかな肢体に白色系のコーデは初々しい清潔感があって良く似合っていた。ニットの色にも負けないくらいミルクのように白い頬が、きっと暑さを感じていたのだろう仄かに桜色に染まっている。

 年齢は十代後半……高校生? それとももう女子大生になっているのだろうか?

 ロングバケーションで日本国内を旅している外国人かもしれないとも思ったが、彼女が呟いた独り言は紛れもない日本語だった。

「あっついわねぇ……東京の夏ってホント、この惑星でいちばん暑苦しいところなんじゃないかと思うわっ……暖気って普通はおとなしく上に逃げていくものなのに、この街では下の方にどんより溜まるんだからっ」

 美しい女の唇から意外にも辛辣な言葉が紡ぎ出されて逆に安心する。自分が異世界に紛れ込んでしまったわけではないと判って。

 でも、いったいどういうことなんだろう――?

 ここは啓一たちの部屋の筈なのに……。

 もしかして、部屋番号を聞き間違えてしまったのだろうか?

 だとすると、今ここに隠れているというのは、とても拙い事になるのではないか……?

 やっと現実に立ち戻って、この不安定な状況から脱する方法を考え始めるのだった。

 けれども――。

 女が無造作にスーツを脱いで椅子の背に掛けると、その仕草を目の当たりにして、たちまちギョッとして凝固してしまうのだった。

 ただ胸だけをドキドキと高鳴らせている。

 本来ならクローゼットを開けられて、そこに居るのを見つかることを第一に案じるべきだったが、翔馬はそれよりも露わになった美女の無防備な姿の方に目と心を奪われていて、自分の置かれている場所も危うい立ち位置のことも、その刹那、すっかり忘れてしまっていたのだ。

 それほど衝撃的な光景だった。

 女の身に着けていた純白ニットのノースリーブは胸のラインをくっきりと浮き上がらせていて、スーツを纏っていた時の細身の印象からの振れ幅が余りにも突然なのだった。

 ジューシーなメロンほどもあろうかという二つの胸の膨らみの豊かさと、骨細な感じの二の腕とのコントラストが悩ましく、ひき締まったくびれの脆さが少女の名残をとどめている分、官能的なボディラインの魅力をいっそう際立たせているようだった。

 何より、露わにされた白い腕が眩しい、眩しすぎた。

 翔馬は、目にしてはいけないものを見てしまっている気分に陥りながら、もう視線を逸らせずにいる。

 少し腕を上げてくれたら、腋の下だって見えるのに……。

 その願いが届いたのか、彼女が髪をかきあげて半月型をした秘密のくぼみがチラリと見えると、思わずゴクリと生唾を呑み込んでいた。

 凄い……。

 突如、目の前に現れた、女神さま――に比べれば、今しがたプールサイドに身を長らえて居た女たちは、さながら現代アート、独りよがりなアブストラクトに過ぎなかった。

 あの早川先生だって……。

 早川奈美は彼にとって人生最初のオナペットと言えるほど特別な存在だった筈なのだが、それすらもあっさりと上書きされてしまった瞬間だった。

 新たな神話のヒロインとなった彼女が、目の前にあるベッドの縁に浅く腰をおろして物憂げな視線を床に落としながら

「どうしようかな……」

 涼しげな愛らしい声音でひとりごちて、自然、翔馬は耳をそばだてる。

「シャワーを浴びる時間があればいいんだけど……でも……あの子、鍵を持っていないから……」

 あの子――!?

 家族か友達でも待っているのだろうか?

「困ったなぁ……汗、いっぱいかいちゃったのに……」

 幼い雄性を目覚めさせずにはおかないようなことを小さな声で呟いていた。

 長い睫毛が伏し目になると悩ましげな翳が差してきて、愛らしい美貌にぐっとオトナの女の艶が濃くなってくるのだった。

 もしも同性であれば、敏感に性の匂いを感じとるかもしれない表情。

 けれども翔馬には、その微妙な変化を感じて胸を騒がせることはあっても、意味まで察することなど到底できるはずもない。

 ただ片時も目を離せず、食い入るように見つめている。

 スーツとお揃いのアイボリーのスカートの中から伸びる長い足、パステルピンクのストライプの入ったスニーカーの足元と折り返した白い靴下が、初心な魅力を醸し出しているよう。

 なんてきれいな女の人なんだろう……それにすごく可愛い……それなのに、あんなにおっぱいが大きいなんて!

 彼女はなおしばらく迷っている容子でいたが、腕時計に目をやり、やがて心を決めたのか翔馬の見ている目の前でいきなりタートルネックを脱ぎ始めるのだった。見事な肌着姿になって彼を狂喜させる。

 カップサイズは日本人には滅多にみられない大きさ、それにも関わらず少しも逞しさ、猛々しさを感じさせないのだ。むしろ馴染みのあるクラスメートの少女たちにも通じるような甘やかなはかなさ、繊細さ純粋さを宿しているようで、それがいっそう好ましいのだった。

 翔馬は、自分の体がいま、どれほど感動しているのかさえも忘れて、彼女の一挙一動に眼を離せずに居る。

 きっとシャワーを浴びるつもりなんだっ。それなら、みんな脱いで裸になるところだって見られるかもしれないっ!

 思いがけない幸運への期待に幼い欲情は萌えあがっている。

 だがブラを外そうと背中に手を回した時、トントン、と軽いノックの音が響いて、彼女はハッと顔を上げるとニットシャツで胸を庇いながらドアの方へと行ってしまうのだった。

 肝心のところで妨げられて、おあずけを食らったような気分でいた翔馬の耳にも、

 

 トントン、トントントン、トントントントン……トン。

 

 リズミカルなノックの音が聞こえている。

 やがて扉が開かれて、別の足音が室内に入ってくるのがわかって

 いったい誰だよ、邪魔っけだな――と、思う間もなく、視界に自分とさして歳の違わないような男の子が一人やってきたので

 ???!!――と、

 ワケが分からなくなった。

 一瞬、姉弟なのかとも思ったが、少年の方は純系種で美貌の女性と似ているとは思えない。また友人というには少し歳が離れすぎているようだ。

 ただ女の方が依然としてニットで前を庇うという無防備な状態で居続けることからも、近しい間柄であることは分かるのだった。

 どういう関係なんだろう、とかすかな嫉妬を覚えながら二人の容子を窺っている。

「シャワーを浴びられるところだったんですか?」

「う、うん……でも入る前で良かったわ」

「シャワーなんていいのに――」

「そういうこと言わないでちょうだい、デリカシーのない男の子は嫌われちゃうんだゾっ」

「ボク、デリカシー無いのかな?」

「ええ――」

 くだけた会話を続けながらも女ははにかんだように頬を染めていて、何かがおかしい、変だ、と翔馬は感じ始めていた。

「先生は何時ごろチェックインされたんですか?」

 先生――?!

 そうか、この女の人はどこかの学校の先生なんだ……ということは、コイツは生徒……でもそれにしては慣れすぎているような……。

 翔馬にはますますワケが分からなくなってくる。

「二時をまわってすぐよ、さっき来たばかり……あなたは?」

「ボクはラーニングユースだから十時にチェックインできたんですけど、実際に入ったのはお昼を摂ったあとだったから、一時を過ぎていたたかな……チェックアウトが五時なので、四時過ぎ、遅くても四時半前にはここを出ないと――」

「そう……」

「大丈夫ですよ、まだ二時間近くもありますから」

「何が大丈夫なのよぉ」

「それはもういろいろと」

 少年はニンマリして、女は一瞬、息を呑んだ顔つきになったが、拗ねたようにツンと頤を反らした。

「憎らしい……」

 囁くように呟く。

「だって、そんな格好で言われても……」

 少年に指摘されて、あらためて自分が半裸で居ることに気づいたように、先生――と、呼ばれた女は顔をパッと赤くして、さらに強くニットを抱きしめるようにする。そんな恥じらう仕草がいじらしかった。

「もう……エッチなんだからぁ……」

「そうですね……」

「……本当にいけない子よ……レイくんは……」

 奇妙な沈黙の中、二人は見つめ合っていた。まるで恋人同士のような距離になって……。

 クローゼットの中で独り戸惑う中、やがて二つの顔が自然に近づいていき、唇を重ねて、翔馬は激しく動揺するのだった。

 

 

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