ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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サタデーナイトフィーバー 〜リア充たちの夜〜 1

 

 21:30 p.m.――。

 

「あらぁ、レイくん果物きらいなのぉ? ぜんぜん食べないのねぇ」

 キッチンからリビングに戻ってきた操祈は、皿盛りの、きれいにカットされたリンゴとデコポンの剝き身に全然手がついていないのを不思議がった。

「え? これ、ボクにだったんですか? てっきり先生の分だと思ったから……」

 少年は意外そうな顔をしている。

「あら、なにいってるのよぉ、あなたのために用意したのにきまってるでしょぉ」

「……じゃあ、先生のは……?」

「あたしのはここにあるわよぉ」

 自分用に皿盛りされたフルーツをローテーブルに置くと、レイの隣に腰を下ろした。

 少年はカウチの背もたれには身をあずけずに、背筋をピンと伸ばして端然と座り、穏やかな笑みを浮かべたまま操祈の挙措動作を追っている。

 やさしい目……眼差し……。

 それに気がついて胸がトキンとなった。

 教室にいるときとは違って、生徒から情を通じた男の顔に変わっているのだ。だが、それを(さわり)と感じないほど操祈も寛いだ気持ちになれるのだった。

 レイが彼女の部屋に現れたのは九時ちょうど。約束していた通り、今夜はいつもよりもだいぶ早くに来てくれていた。

 どうやってオートロックを解除したか、監視カメラをかい潜ったのかはわからない。だが操祈も、もう敢えて質そうともしなかった。

 賢くて周到な少年のやることには滅多なことで手ぬかりなどないと信じられるからだった。

 いざとなれば透明化フィルムのような奥の手まで用意して、図書館のキャレルさえプライベートな空間にすることができると知らされた今、大抵のことには驚かなくなってしまっている。

 あのときは本当にびっくりだった。後の山崎碧子とのことも含めて……。

 まさか陽のある内に学校で愛し合うことになるなんて――。

 その後、フィルムの件を訊ねても、レイは

「“とある企業”が開発中の試作品をちょっと借りることができただけで……返却しましたけど――」

 と、言っただけではぐらかされてしまった。

 肝心な点は、中学生の男の子がどうして知っているのか、何故そうしたものへのアクセスが可能なのか、だったのだが、そこに触れようと思うとどういうわけか差し障りを覚えて踏み込めずにいる。

 結局、レイについては訊きたいことが他にも幾つもあったのだが、自分から問うよりも、いつか彼の方から話してくれるのを待つことにしていた。

 時が来れば、必要なことはきっと打ち明けてくれるに違いない――。

 それは肌を許した女の覚悟とも言えるものなのかもしれなかった。

 彼――のためなら、どんなことでもできるし、もう命を失うことさえも怖くはなかった。

 操祈がなにより辛いのはレイと逢えなくなること、最愛の恋人を失うこと。もしそんなことになれば、きっと心も体も壊れてしまうに違いない。

 否、むしろそうならなければならない、と思う。

 いちばん大切なものを失うのだから、滅びるのは当然だった。

 ただ、現実の彼女はそんな胸の裡を(おくび)にも出さないようにしている。

 それは年上の女がミドルティーンの男の子に対して、教師が教え子に対して求めることではないとわきまえていたからなのかもしれない。

 考え出すと、ともすれば屈折しそうになるのを切り替えて、操祈は笑顔をパッと咲かせる。

「食べて――」

「う、うん……」

 少年を促すつもりで、自分からフルーツフォークをカットしたリンゴの一つに刺すと口へと運んだ。

 操祈がリンゴを頬張るのを見て、少年もデザートプレートへ手を伸ばす。

「これ、柑橘はデコポンですか? リンゴは、ふじ?」

「ええそうよ……きらい?」

「いいえ、どちらも好きですよ」

「ならよかったぁ」

 少年は揃えた膝の上に皿をのせると、リンゴを口に運ぶ前に

「いい香り……」

 と、操祈に微笑みかけてくる。

「そうね……」 

「……でも、先生のだいじなところの香りにくらべたら、遠く及ばないですけど……」

 少年が自分をまんじりと見つめながらそう言って、たちまち操祈は頬を朱くする。

「もう、なにいってるのよぉ……すぐ変な方に話をもっていこうとするんだからぁっ……」

「だってすぐそばに、もっと大きくて立派な果実があるんだもん、早く剥いて食べたいなって思ってるのに、ずっとおあずけをさせられてて」

 少年の不躾な視線が胸と顔との間を行き来していて、

「こらぁっ、どこ見て言ってるのよぉっ」

 操祈は薄いピンク色のセーターの前を腕で庇いながら、優しげな形の眉をキリッとさせる。美しい姉が不出来な弟をたしなめる時のように。

 だが操祈の瞋恚(しんい)は、かりそめのものと見透かされていて、

「それが愉しみで来てるのになぁ」

 少年はぬけぬけと言うのだ。

「もう、ホントにしょうのない子なんだからぁ……」

「だって、先生がちょっと体を動かすだけで、空気が動いて、すごくいいにおいがするんだもん……柑橘系の香りなんかよりもずっと素敵なにおいが……」

 あからさまに鼻をひくつかせて操祈の纏う雰囲気を嗅ぐそぶりを見せるのだ。

 少年の本気を感じると、操祈は睫毛を伏せるしかなかった。

 望まれれば今すぐにでも着ているものをみんな脱いで一糸まとわぬ姿にならなければならなかったし、求められれば体をひらいて全てを差し出さなければならなかった。

 それが閨での女のさだめ――。

 自分の隣にいるのは教え子の一人などではなく、女の体に愛されるとはどういうことかを教えてくれた最愛の男なのだ。

 そしていま二人がカウチに並んでいるのも、この後、ベッドで愛し合うためだった。

 互いの気持ちを確かめ合うために、恥ずかしくて、とても口にはできないようなことをして。

「先生……顔をよく見せてください……」

 少年の両手が伸びてきて左右の頬を挟まれてしまう。

 額にかかった前髪を丁寧に撫でつけていき、操祈の顔を面にする。

 広い額、大きな瞳、整った鼻梁、顎の繊細なライン……。

「……なぁに?……どうしたの? レイくん……」

「きれい……こんなにきれいな女のひと、どこにもいないから……」

 指の先で眉を柔らかくなぞられる。顔の形を確かめるように、耳の後ろ、顎、口、そして鼻へと……。

 少年の指が触れて、さすり、撫でていく。

 そうされる間も、操祈は瞳をぱっちり大きくして恋人の顔を見つめていた。

「……心のやさしいお姉さんで、とってもかわいい女の子で……今も、なんにも知らない顔をしているけど……でもボクは先生の体をこれまでいっぱい穢してきた……いろんなことをして……」

「……ええ……あなたの所為なのよ……あたしをこんなにしたのは……」

「……だって、ボクにとって先生のおっぱいよりも美味しい果物なんてあるはずがないし……温かくて蜜がたっぷりの果実を舌で切り分けるときの歓びに較べたら、他のどんなことも些細なつまらないことにしか思えなくなるから……」

「……言わないで……」

 淫らなことを仄めかされて、操祈は耳朶まで紅くしていた。それでも恋人の瞳の色を見つめ続けていた。

 交わりを目的としない性は、どこまでも続く迷宮のようなものなのだった。終わりがなくて豊穣で、そしてとても背徳的。それゆえに女にとって一度でも陥ってしまったら、けして一人では這い上がることのできないアリ地獄のようなもの。

 操祈は自身の密やかな粘膜が、やがて降りかかる試練に備えるように、ぞくり、と(あや)しく(うごめ)くのを意識せずにはいられなかった。

「今夜は、もっといけないことを教えてあげるつもりですから……」

「……なにを……するの……?」

 操祈は長い睫毛を(しばたた)かせて不安げな顔になる。

「まだ内緒です……でも、痛いこと、傷つけるようなことはしませんから心配しないでください。ただベッドだと後が大変になるかもしれないので、お風呂場でした方がいいかもしれませんけど……」

「――っ!?」

「そんな顔しないでください。先生がいつだってカワイイからしたくなることなんですから……大丈夫ですよ……ボクを信じて……」

 少年は自分のデザートプレートからリンゴを一つ摘みとると、操祈の口もとへともってくる。

「さあ、食べて……先生……」

 命じられるままに口を開いて、カリっとひと齧りする。噛むとまた甘酸っぱい果汁が口中にひろがり、爽やかな香りが鼻腔に流れ込んでくる。

 少年はその容子をじっと見つめていたが、突然、唇を寄せてくるといきなりのディープキスになるのだった。

 イヤっ――!

 と、身構えるよりも先に、彼女が口に含んでいたリンゴの咀嚼物を元気な舌が動き回ってかきとるようにして貪りはじめた。

 糸を引くような長い口づけから解放された時、操祈の口の中にはもう何も残ってはいないのだった。

「やだっ、レイくんっ!」

 抗議する目の前で、少年は口をもぐもぐさせていて嚥下している。

「こっちの方がずっと美味しいし、ステキだから」

 少年は嬉しそうにしていたが、操祈は突如こみ上げてきた感情に、急に目頭が熱くなってきて大きな瞳からは涙が溢れていた。

「え、先生っ、どうして泣くのっ――?」

 少年は驚いた容子で戸惑っていた。

 あれっ、あたし、どうしたんだろう……?

 操祈も指先で目を拭いながら、涙で濡れているのにびっくりしていた。その間にも涙が途絶えることなく頬を伝って流れ落ちていく。

「ごめんなさい……そんなにイヤだったなんて……ボク……」

「ちがうのっ……」

「また先生のこと泣かせちゃった……」

「泣いてなんかいないわ……ただ、いきなりだったから、ちょっとびっくりしちゃっただけよ」

「ホントに……?」

「うん……大丈夫……」

 自分でもどうしてそんなことになったのか判らなかった。舌と舌を絡め合うキスなんて、いまでは普通なことになっているのに……。

「でも、あんないけないこと、もうしないで……」

「いけないことなのかな……」

「いけないことよ……ほんとに、変なことばっかりしたがって……わるい子なんだから……」

「他の女の子には思いもしないことでも、先生にはゼッタイにしたいなって思うことって、いっぱいあるから……」

 少年は唇の間に舌を覗かせて挑発していた。

「もう、イヤぁね……エッチ……」

「エッチな男の子は嫌いですか? 何にもしない子の方が好き?」

「……すぐそんなイジワル言って……にくらしい……」

 今度は操祈の方から唇を求めた。慎ましい口づけを。

「わたし……あなたのことを、本当に……大好きなんだゾ……だから……だから……」

 思いを口にするうちにまた気持ちが揺れて、つぶらな瞳が潤んでくる。

「そんなにカワイイ顔して挑発されたら、ボク、もう手加減なんてできっこないじゃないですか……」

「その時は、泣くわ……泣くもの……わたし……レイくんのこと、恨んで……」

「ええ、いっぱい泣いてもらいますよ……今夜は……明日の朝まで……たっぷり……」

「……だいっきらいよ、そうやって先生を蔑ろにする子なんて……」

「いま大好きって言ってくれたばかりなのに、もう言葉を(ひるがえ)すんですか? 先生なのに……」

「ええ、そうよ、だってもう、あたし、先生じゃないもの……ただのおんなだから……レイくんの……」

「じゃあボクも、しっかりオトコの務めを果たさせてもらいますね……先生がどんなに泣いても、拒んでも……」

 少年の腕が背中に回されてきた。小柄だけれどやはり男の力は思いがけないほど強くて、抱きすくめられると操祈はすっと意識が遠のきそうになる。

「愛してるわ……レイくん……だから……」

 口づけになる。今度はディープキスと普通のキスとの間ぐらいものに。

「だから……なんですか……?」

「あら、なんだったかしら……忘れちゃった……」

 だから――の、先の言葉を、やはり操祈は口にすることができずにいるのだった。

 




この節では時刻を追って

操祈を筆頭に六人の美女、美少女の一夜を描くつもりです

明日? は鶯谷のホテルで・・・
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