~雫side~
私は小学生の頃イジメを受けていた。別に誰かの悪口を言ったり、素行が悪かったりした訳でない。所謂“女の嫉妬,,だ。
光輝は小学生の時から人気があり、私も初めて会った時は王子様がやって来たと心が弾んだ。正義感と優しさに溢れ、何でもこなせる光輝は女の子の注目の的だった。
当時の私は髪は短く、服装は地味で、女の子らしい話題についていけない、そんな私が光輝と一緒にいることが、女の子達には我慢ならなかったのだろう。彼女達から次第にイジメを受けた。悪口を何度も言われ酷いときには「あんた女の子だったの?」と言われ、とてもショックを受けた。
もちろん、最初は光輝に相談した。光輝は女の子と話をつけてくれると言ってくれて、次の日聞くと「あの子達は悪い子じゃない」「雫の勘違いだ」「ただ、雫と仲良くなりたかっだけ」と私が期待していた物と違う言葉がとんできて私は絶望に落とされた感覚になった。
しかも女の子達からは「あんた、泣き落としができたのね?ならもっと、遊んであげる」と言われ、次の日からは物を隠されたり、遊びと称して叩かれたりもしていた。しかも光輝や先生達にバレないように巧妙さを増して。
なんとか、幼なじみの香織が支えてくれたがもう私の心は限界だった。親や先生にも相談することができず、いつまでイジメに耐えなければいけないのかと何度も思ったが、ある日、転機が訪れた。
それは、いつもと変わらない学校の日、この日は転校生が来るとのことだ。その子はうちのクラスにやって来るそうなので先週から話題になっている。だが、私にとっては関係ない話なのでどうでもよかった。
キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪
そして朝のチャイムがなり、先生が入ってきて挨拶をして出席をとってから先生は本題に入った。
「それでは、今日この教室に新しいお友達を紹介します…………入ってきて」
先生が呼ぶと教室の前方の扉がガラガラと開き、そこにはメガネを掛けた少し目付きが鋭い少年が入ってきた。そして教卓の前に立つと先生が紹介を始める。
「ええ~、今日からみんなと同じクラスになった転校生の…………」
「鈴木悟だ。よろしく頼む」
その子は先生の言葉を遮り、とても子供とは思えない威風堂々とした言い方で自己紹介をおこなった。これには先生や私達クラス全員はその姿に圧倒された。
「じ、じゃあ自己紹介も終わったので、君の席は雫ちゃんの隣だからあそこに座ってね」
「はい」
いち早く正気に戻った先生は私の隣の空席を指を差しながら案内をした。彼はそれに返事をしてこちらに向かった。そして自分の席に座ると私に手を差し出す。
「よろしく頼む」
短くもシンプルに挨拶をした。
「………よろしく」
私はその手を握り返し彼に挨拶をする。
一時間目が終わり休み時間になると、彼の周りに人が集まると思ったのだけど何故か皆、彼を遠くから見ているだけだった。恐らく、最初の挨拶に圧倒されたせいで近づきにくいのだろう。正直に言って助かった、おかげで私にイジメをする女子達も簡単には近づかないので久しぶりにゆっくりできる。そんな彼は周りを気にすることなく何やら難しい本を読んでいた。すると彼は私にじーっと視線を向けてきた。
「な、なに?」
「……………別に」
私が尋ねると彼は何でもないかのように返事をして視線を本に戻した。
キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪
あっという間に1日が終わり、放課後になるとさすがに彼も帰らなければならないので私はいつものように女子達に呼び出しをくらい、体育館裏に向かった。
「アンタ、いい加減光輝君から離れてくれない?」
開口一番にそんなことを言われたが、光輝自身が私と一緒にいるのでこちらとしても困る。すると周りの女の子達もそれに便乗して更に言ってくる。
「そうよ。光輝君から離れなさいよ、このブス」
「アンタが光輝君の迷惑になっているのわからないの?」
「どうせアンタ、光輝君から女の子として見られてないんだから諦めなさいよ」
四方八方から言われるその言葉に私は耳を抑えることしかできず涙を流さないようにするが、それでも心が折れそうになりその場に蹲る。
「君達、何をしてるんだい?」
すると、とても落ち着いた声が聞こえわたしを含めた全員が視線を向けるとあの転校生がいた。
「あ、あら。転校生君じゃない、どうしたの?」
流石に転校生の彼に見られたので女の子達は慌てふためいていた。
「いやなに、少し彼女に用があるのでね。探していたんだよ」
そう言いながら、私に指を差す彼。
「そ、そう。なら私達は彼女に用は終わったから帰るわね。それじゃあ!」
女の子達はずいぶん慌てた様子でその場を去り、残ったのは私と彼だけだった。
「立てるか?」
彼は蹲る私に手をさしのべる。
「……ええ、ありがとう」
私はその手をとり、立ち上がる。
「君はいつも、あんな事をされているのか?」
「……そうよ。酷いときは私物を隠されたり、壊されることもあるわ」
「……………そうか」
その後はしばらく、気まずい空気が続いたが、帰りが途中まで同じだということなので一緒に帰ることにした。勿論、会話は一切していない。その帰り道が途中で別れる所に差し掛かったので彼に言った。
「じゃあ、私は帰りこっちだから」
そう言って別れようとすると
「待て」
突然、彼に呼び止められる。帰り道では一言も喋らなかったのに声を掛けてきたのだ。
「な、なに?」
そんな彼に不気味さを感じながら返事をする。すると彼は私に指を差す。
「髪………少しは伸ばしたらどうだ?」
「え?」
何故か私の髪の話になったので困惑していると
「さっき、あの女の子達が言っていた通り君は女の子らしくない」
「な!?」
会って間もない私に彼は図々しい言い方をし、それに対し一瞬腹が立ったが
「君はあのまま、あの子達に言われっぱなしでいいのか?悔しくないのか?見返そうとは思わないのか?このままあの子達の言いなりになるつもりか?」
彼はまるで私に訴えかけるかのように私に話す。そんなの私だって………
「私だって、言われぱなしで良いわけないじゃん!私だって女の子だよ!あんなこと言われて悔しいに決まってるじゃん!」
私は今までつもりに積もった不満をぶちまけた。すると彼は満足したのか私に背を向けながら
「ならば、髪を伸ばして、服装をもっと女の子らしくしろ!そうすればあの女子達も強くは言えないはずだ」
そう言いながら彼は自分の帰路を進むのだった。その言葉に動かされた私はすぐに帰路を走り早速女の子らしくなるために頑張るのだった。
しばらくの月日が流れ~
あれから3ヶ月がたった。あの日から女の子らしくなるために私は母や親友の香織に相談し、女の子らしい服装がどのような物があるか勉強し、前までは地味だった服も今ではピンクの可愛らしい服に変わった。無論、髪も元々私は生えるのが早いため短かった髪も今では肩にかかるぐらいにまで伸びた。
だが、イジメがなくなることはなかった。「どうせ、光輝君に色目を使う気でしょ」「今さら可愛くしても遅いのよ」と言われたが何故か気にすることはなかった。おそらく、イメチェンしたことで自分に自信を持てて来たのだろう。実際、香織から「凄く可愛いよ」と言われた時はとても嬉しかった。
ただ、転校生の彼から何も言われることはなく、何だか私は無性に腹が立った。あれだけ私を鼓舞したくせに何にも言ってくれないのだ。そんな彼は一週間前から欠席を続けている。私は何度か先生に彼がどうしているのか聞いてみたが何にも応えてくれなかった。
この時の私は知らなかった、この後あんな大きな出来事が起きるなんて…………
それは日曜日の朝、私はいつものように道場で素振りをしていると父から声がかかる。
「雫、ちょっと来なさい」
何だろうと思い父に近づき尋ねると何でも玄関に私に会いたい子がいるとのことだったので私はあの転校生の彼だと思い、急いでシャワーを浴びて汗を流し、可愛らしい服を着てから玄関に向かうと、そこには私をイジメてきた女の子が親と一緒にいるのだ。私はついに親までつかい自分をイジメにきたのかと思い微かに足が震える。
そしてその子の親は私が来たのを確認するとその子の頭を掴み
「家のバカ娘が本当にスミマセンでした!!!」
何とその場で土下座をしたのだ。それには私も両親も呆然としてしまった。
「い、一体どういうことでしょうか?」
父はすぐに正気に戻り、すぐさまその親に事情を聞く。
「…実は家のバカ娘があなたの娘さんをイジメていたことがわかり、親として娘の不手際に対して謝罪するために参ったのです」
その言葉に父と母は驚き、私に確認をとってくる。
私はそんなことよりも何でその事を知ったのか確認をすると何でも先日メガネをかけた小さい少年が家に訪ねてきて、ビデオを見せてきてその中には自分の娘が複数の女の子達と一緒になって私に暴言を吐いたり、私の物を奪っている姿が映し出され、すぐに確認して最初はしらばっくれていたが映像を見せた瞬間顔を青くし今まで私にしてきたことを自白したとのこと。
そして彼から今日までに私に謝罪しないとこの映像を世間に公表すると脅されたとのことだ。
そのメガネの少年とは、彼のことだろう。しかしなぜ?会って日が浅い私のためになぜここまでしてくれるの?私の頭の中は彼のことでいっぱいだった。
その後はその子の他にも私イジメていた子達が親同伴でやって来る。それは夜まで続いた。イジメていた全員の謝罪が終わると今度は両親に今までの事を話す。「何で話してくれなかったんだ」「今まで気づかなくてごめんね」と言われ抱き締められた。私はそれに涙し今まで溜めていたものを一気に流した。
次の日の学校では何と私をイジメていた子達が一斉に謝ってきた。「今までのことごめん」「あなたの気持ちを考えてなかった」と言われ流石に戸惑ったが許してあげることにした。そして彼女達と友達になり可愛い物や最新のファッションなどについて話すようになり、香織は自分のことのように喜んでくれた。
私は彼の事が気になり何度も視線を向けるが当の本人はどこ吹く風という感じで一度も視線を向けてくれなかった。私が勇気を持てず彼になぜあんな事をしたのか聞くことができず一週間がたった。
いつものように学校の日、先生は今日は大事な話があるそうなのでいつもより早めにみんな席に着いていた。そして先生は彼と一緒に教室に入ってきて教卓前に立つと話を始める。
「ええ~、今日、悟君はお父さんの仕事の都合で転校することになりました」
私はその言葉が信じられなかった。このまま卒業まで一緒にいるのではないかと思っていた。まだお礼も言えていないのにこのまま別れてしまうなんて思わなかった。
キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪
私は彼にどう言えばいいのか分からず悩んでいると、気づけば放課後になってしまい彼はランドセルを背負いへ下校する。私はすぐさまその背を追いかけた。
「待って!!!」
彼が校門近くまで行くと私は大声で呼び止めた。彼はその歩みを止めてこちらに振り向く。
「ねぇ……何で私を助けてくれたの?」
私は最初に疑問に思った事を聞く。何で、会って間もない私にわざわざあんな事をしてくれたのかわからないからだ。
「………泣いてる女の子を助けるのに理由がいるのか?」
「……えっ」
彼は何て言ったのだ?私を女の子だとあんな地味で女の子らしくなかった私のためにわざわざあんな事をしてくれたのか。しかもそれを当たり前かのように言ったのだ。すると彼は私の姿をじっと見ると満足そうに頷く。
「前よりも可愛くなったじゃないか」
「っ!?」
彼にそんな言葉を言われドキンとなってしまった自分。そりゃあ、彼にも可愛いと言わせたかったがいきなりの不意打ちに流石に対処できなかった。
「そのまま可愛くしていれば誰も君をイジメることはないだろう。……………じゃあな」
そう言いながら背を向けて歩く彼。私はその姿にかつて自分が夢見た王子様の姿が見えた。その姿は白馬に乗ったきらびやかな姿ではなくかつて絵本で見たことのある漆黒の鎧を身に纏った騎士のような姿だった。
「ねぇ!!!」
私は大声で叫ぶ。彼は歩みを止めたが後ろを振り向くことはしない。
「また………会えるよね?」
私はお礼ではなくそんな言葉がとぶ。
彼は言葉を返してはくれなかったが、まるでその言葉に応えるかのように腕を上げて振りながら立ち去って行くのだった。
そして私は決めたのだ。今よりも可愛くなり彼に振り向いてもらうと決意するのだった。
──────────────────
~悟side~
「それでやっと、高校で再会できたと思ったら他人行儀に挨拶されたのが悲しくて泣いちゃったの」
ごめんねと言いながら昔話を終える八重樫。その話で俺は思い出した。確かに小学生時代に少し男の子の見た目をした女の子を助けたのだ。それがまさか、八重樫の事とはわからなかったので少し驚いたが。
「それから、あの時はありがとう。あなたのおかげで私は変われる事ができたわ」
お礼を言いながら笑顔を浮かべる八重樫。
「その、すまなかったな。小さかった頃の記憶はあまり覚えていないんだ」
「ううん、いいの。私が勝手に覚えてるだけだから」
そう言う八重樫の顔を俺はじっと見つめる。
「な、なに?」
流石にじっと見つめられるのが恥ずかしいのか若干顔を赤くする。
「いや……こうして見ると二大女神と呼ばれているのも頷けるなと思ってな」
「な!?///」
俺の口からでた言葉に八重樫は耳まで赤くする。
「な、何を言って……」
「ん?ただ純粋に綺麗になったなと思っただけなんだが」
「っ!?」
この言葉に目を大きく見開いたが今度は今まで見たことのないような笑顔をみせた。
「よかった。あなたにそう言われたら今まで頑張ってきたかいがあるわ」
それから彼女は長椅子から立ち上がりこちらに振り向く。
「ねぇ。これからお互い、名前で呼び合わない?」
「ん?構わないが……何故だ?」
「そ、その……ほら!お互い、これからは背中を預けながら一緒に戦うんだし、他人行儀になるよりはいいかなって……」
(確かに、彼女の言う通り互いの信頼関係を結ぶためにもいいかもしれんな)
「わかった。これからよろしく頼むぞ、雫」
俺が早速、名前の方で呼ぶと彼女はまたも笑顔を咲かせた。
「それじゃあ、悟君。明日もお互い頑張りましょう」
そう言いながら彼女は嬉しそうにしながら走り去るのだった。
一人になった俺は彼女が話してくれた過去について思いを馳せていると。
「……お義兄ちゃん!」
「うわっ!?」
突如、背後から恵里に声を掛けられ驚く。
「隣、いい?」
「あ、ああ、もちろんいいよ」
ありがと、と言いながら恵里は隣に座る。
正直、あの会場での出来事に恐怖を未だに覚えている俺は今度はどんな仕打ちがまっているのかと冷や汗が止まらなかった。
「…………ねぇ」
「はいっ!?」
恵里の言葉に思わず身構える俺。
「あの話、本当なの?」
すると恵里が寂しそうな声をあげる。
「……ああ、本当だよ」
「どうして?」
俺の瞳を見つめながら恵里は詰め寄る。
「いつか、父さんが言っていたんだ。『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』ってね」
「……………」
恵里はその言葉を黙って聞く。そして俺は続ける。
「俺は小さい頃からその言葉を胸に警察として頑張る父さんの姿はいつしか俺の憧れになった。そして俺もその言葉を胸に転校してはイジメを受けていた子達を助けていたんだ。せめて、自分の手が届く範囲にいる子は助けたかったんだよ」
俺はそう言いながら恵里の頭を撫でる。恵里は俺の顔をじっと見つめてからフッと笑みを浮かべる。
「やっぱり、小さい頃からお義兄ちゃんはお義兄ちゃんだったんだね」
「フッ、なんだそれは」
俺達は互いに笑いあうとそのまま星を眺める。こんな風にゆっくりとした時間を過ごせるのは最後かもしれないからじっくりと眺めた。
「…ねぇ、お義兄ちゃん」
「ん?何だ、んぐ……!?」
俺が恵里の方に向くと、何と恵里は顔を近づけてから軽く唇にキスをしたのだ。人生初のファーストキスと言うものだ。
恵里のしっとりとした唇の感触を感じながら俺の頬は今までにないくらい熱くなる。
「な、な、な、な!!??///」
突然の義妹の行動に流石に冷静さが保てるわけもなく錯乱してしまう。
「お義兄ちゃん……僕、負けないから」
「ふぇ?」
まるで何かを決意している恵里の言葉にワケが分からず困惑する。
「確かに、八重樫さんの方が先にお義兄ちゃんと出会うのは早かった。でも、お義兄ちゃんを好きな気持ちは誰にも負けないよ」
そう言って俺の耳元に顔を近づける。
「もちろん、女として、ね?」
「*#%※!?」
耳元で囁かれたその言葉に俺は声にもならない声をあげる。そして恵里は立ち上がってから妖艶な笑みを浮かべる。
「それじゃあ、明日もよろしくね。
そう言って去っていったのだが俺の頭の中は大パニックとなっており、返事を返すこともできなかった。
(えっ!少し待ってくれ!確かに恵里は大切な子だがそれはあくまでも義妹としてであって決して……あっ、でも中学の時に比べれば可愛くなって……って!何考えてるんだ俺は~!?)
恵里に男として見られていたことを知ってしまった俺は、頭が真っ白になってしまいその後の記憶が残っていなかった。
気づけばいつの間にか自分の部屋に戻ってきており、俺は頭に枕を被せながら「恵里は義妹、恵里は義妹、恵里は義妹」と何度も同じ言葉を繰り返し布団に潜った。その様子に何かあったと気づいたハジメはニヤニヤしながら俺を見つめていた。
そして、この日は一睡することもなく朝を迎えてしまうのだった。
はい。というわけで雫の過去回にしてみました。いやぁ、やっぱり話を考えるのも大変だなと思いました。
そして次回はついに迷宮の話が書けそうです。読者の皆様、楽しみに待っててくださいね。