結城友奈は勇者であり、彼もまたそうだった   作:ビブロス

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露になるモノ

私=犬吠埼風は真優のニッチな応援を阻止すべく思考を巡らせたが、変態クラスメイトをぶん殴って止める、ぐらいの作戦しか思い付かなかった。

 

私もずいぶん知的な美人から男気溢れる美人へと変わってしまったようだ。真優のせいだろうか?

 

そんなことを考えながらうちのチームの応援をしていた。

 

うちのチームも何とかさっき取られた3点を巻き返し、同点まで追い付いた。しかし、また真優のニッチな応援のブーストを受けた変態野郎が打ってしまえばご破算である。

 

何とか応援を止めねばならなかった。

 

回が進むに連れて試合の緊迫感はどんどん上がっていき、大盛り上がりを見せていた。

 

 

 

そして二回目の変態の応援の時が来た。

 

廊下に真優だけ立たせて私は物陰に隠れる。あの変態が真優にいけないことをやらせてる瞬間を動画に納めてしまえば、それを交換材料にすることが出来る。

 

『こんな変態行為をバラされたくなければ、即刻真優に変なことすんな!』である。

 

まさに脳筋一直線だった私が一瞬の閃きで編み出した知的な解決策である。まさに知的美人であろう。ふはは、モテるモテる。

 

「私のIQの高さが恐ろしいわね」

 

「あんた、東郷の提案を参考にしただけじゃない」

 

夏凜がボソリと横で呟く。真優が心配だからと夏凜もついてきているのだ、しかしいらんことを言う奴である。

 

「うっさいわねぇ、具体的な案にしたのは私よ?」

 

「物陰に隠れてるだけじゃない」

 

「かっー!うっさいわね!静かにしなさいよ!バレるでしょ!」

 

「あんただってうっさいわよ!」

 

あんぎゃー、と二人で掴み合いになる直前、物音がしたので即座に押し黙る。

 

悠然と変態クラスメイトが廊下を歩いて来る。

 

真優がビクリと反応するとクラスメイトは手慣れた動作で再び壁ドンで動きを封じ、体で真優を壁に押し付けた。

 

おい、真優に何やってんだ変態野郎。

 

「準備はいいのか?」

 

「ちゃ、ちゃんとやるよ!出来るさ、ちゃんと……」

 

「なら、早くしろよ、ほら」

 

あまりの口の聞き方に物を投げそうになったが、あいにく投げる物がないので泣く泣く我慢している。

 

真優は恥ずかしさでちょっと涙眼になりながら、変態クラスメイトの胸を押して遠ざけようとするが、クラスメイトは真優にどんどん近付く。

 

「ちょっと……顔近いから……」

 

「ん?どうした?顔が近かったら問題でもあるのかよ?」

 

大問題だよ馬鹿野郎。ぶん殴りに行ってやろうかしら。ぐぬぬ、と憎しみに耐えながらスマホの録画を開始する。

 

この変態野郎!これでおしまいだ!

 

「なあ、おい」

 

「な、なんだよぉ」

 

「条件にキスも追加して良いか?」

 

「良いわけないでしょうがこの変態ッッ!!」

 

見事な跳躍で夏凜が変態クラスメイトに飛び蹴りをかましていた。そうか、夏凜を投げれば良かったのか。

 

違う。

 

ボゴォ!とクラスメイトの顔面に夏凜の足が綺麗に直撃し、吹っ飛ばす。クラスメイトは廊下を3メートルくらい滑って停止した

 

「何やってんの夏凜!!」

 

「風!こいつヤバイ変態よ!!」

 

「知ってるわよ!!?」

 

二人でギャンギャン言い合う中、相当恐かったのか真優は走って私の背中に隠れに来た。真っ赤な顔で私の背中に隠れる真優。うっは、可愛い。こりゃイタズラしたくなるわ、わかるわかる。

 

いやいや、今はそんなことを考える場合ではない。

 

べちゃあと倒れてるクラスメイト。ピクリともしないところを見ると気絶でもしているのであろう。夏凜もそれに気付いたのかアワアワと慌てている。

 

「夏凜……あんたどうするのこれ?」

 

「え、でも大葉がえ、えっちなことされるとこだったのよ!?止めないと!!」

 

「え、僕えっちなことされるところだったの?ほっぺにキスされるだけかと思ってた!」

 

「ほ、ほっぺという可能性があったわね……!?」

 

そこじゃねーよ、と突っ込みたかったが、そんなことしてる場合ではない。この気絶したクラスメイトをどうするかだ、放置してたら絶対に問題になる。

 

「せ、せめて隠すわよ!こんなとこで倒れてるの見つかったら事件よ!」

 

「隠してるの見つかっても事件じゃないかな?」

 

「ごめん、正直に言えばムカつくからロッカーかどこかに閉じ込めたいのよね」

 

「本音ぇ!!!」

 

「喋らないようにガムテープ持ってくるね!」

 

「何で手慣れてんの!!」

 

「突っ込み入れる前に足を持ちなさい、ほら、早く」

 

私が悪いの?!と夏凜は驚きながらもすぐさまクラスメイトの足を持つ。私達に慣れてきた証拠である、これで君も勇者部だ。

 

いや違うわ、勇者部こんなことしないわ。

 

 

 

 

 

 

 

私=結城友奈は風先輩達が大葉さんを助けに行ってる間、樹ちゃんと二人でのんびりスタンドで待っていた。

 

グラウンドで白球を追い掛ける同年代の少年達。それを応援する父兄達。明日が必然的に存在するものだと確信している人々。

 

彼等が燦々と照らす太陽の元に居る。これが私達が守っている物なのだ。

 

守るべき価値のあるもの。

 

「こんにちは、結城君、樹君」

 

そんな私に話し掛けて来たのが桑折さんだった。

 

桑折さんはお洒落な帽子に涼しそうな色のシャツに綿のズボンを着ていた、バカンスに来たお金持ちのオジ様という風貌だった。

 

「いやぁ日差しが暑い、もう夏が来るのか」

 

どうぞ、と桑折さんは私と樹ちゃんにアイスを渡してくれた。高そうなアイスだった。本人はアイスコーヒーを実に美味しそうに飲んでいた。

 

アイスは冷たくて日射しが強い今日みたいな日にはちょうど良かった。

 

「ちゃんと発注した機材がきちんと動いてて良かった、君達のチア服もなかなかだ」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

「日射しが強いから気を付けて、そういえば東郷君はどこにいるのかな?」

 

「機材の調整で夏凜ちゃんのお兄さんと一緒に反対側に居ますよ」

 

「そうか、なら、後でそちらにも伺おう、そういえば結城君は東郷君のお隣さんだそうだね」

 

「そうですよ、何で知ってるんです?」

 

「東郷君から聞いたのさ、確か2年前だったかね?」

 

はい、と答える。

 

私が小学校6年生の時、横に凄い大きな家が建って行くのを見ては『誰が住むのだろう?』といつも不思議に思っていた。

 

そして完成してから少しして車椅子に乗った東郷さんを玄関先で見かけた。

 

黒くて長くて綺麗な髪、凛として透き通った横顔、そしてどこか悲しそうな眼がとても気になって仕方がなかった。

 

「彼女は君の事を多く話す、とても好かれているのだろうね」

 

「私も東郷さんのこと大好きですよ、えへへ、何か恥ずかしいですね」

 

「いや、素晴らしいことさ、君達は相互に善き理解者であり、そうあろうとしている、それは素晴らしいことだ」

 

「素晴らしいこと……なんですかね?普通な気がしたりするけど」

 

「人は変わる、それを理解し続けようとすることはとても難しいことだ、もし彼女が昔の記憶を取り戻したり歩けるようになった時、君はどう思う?」

 

「え、嬉しいです?」

 

「ふふ、そういう返答が出来るから東郷君は君の事が大好きなんだろうね」

 

とても嬉しそうに桑折さんは笑う。とても悲しそうな眼で嬉しそうに笑っていた。

 

「東郷君から私の研究の事について聞いているかね?」

 

「東郷さんの記憶を戻す研究、ぐらいしか知りません」

 

「2Aプラン、そう呼ばれる彼女達の為の治療技術の開発が僕の仕事の一つでね、東郷君の記憶を取り戻す事を目的にしていたけど、それ以外の可能性も先日わかってね」

 

「記憶以外の可能性?」

 

「"足"の機能の回復だ、多くの場合四肢の麻痺という物は神経系か脳の損傷によって引き起こされる、東郷君の場合はかなり特殊なケースで、記憶は失われているが脳自体に損傷は見受けられず、神経系の断裂も見受けられない、脳が足があることを"認識"出来ていない」

 

「……へ?」

 

「君がテレビ見ようとし、リモコンで電源を入れようとしてもリモコン自体に電源ボタンそのものが存在していない、そんな感じさ、私の研究はそのリモコンに電源ボタンを"増設"することだ」

 

「だ、だいたいわかりました!」

 

「そして増設する際に何か"不具合"が出る可能性がある、彼女に一番近いのが君だ、何かあれば僕にすぐ連絡して欲しい」

 

そう言って桑折さんは私に名刺を渡してくれた、初めて名刺なんてものをもらった。

 

「総じて不具合等あってはならないのだが、彼女達のケースは非常に稀なのだ、彼女達自身で治療法を模索せねばならない事が我々には歯痒いところだ」

 

そう、桑折さんは悔しそうに言った。でも、その顔には諦めのような感情は見て取れなかった。多分、それは"怒り"なんだろう、と私は感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

私=東郷美森が私の嗜好を満足させるためにビデオカメラで元気に踊るチア服の友奈ちゃんを撮っていた時、手伝ってくれていた夏凜ちゃんのお兄さんである春信さんにふと変な話を持ち掛けられた。

 

20分程前

 

「東郷さん、貴女は良くビデオカメラを回しているのですか?」

 

機材を操作する春信さんは神妙な面持ちで私に聞いてきた。そんな彼も一眼レフを三脚に乗せて踊っている夏凜ちゃんをバシャバシャと撮影している。

 

「はい、ほとんど友奈ちゃんばかり撮ってますけどね」

 

「とても良い、そういうの俺大好きでね、そんな君にプレゼントがあるんだ」

 

そう言って春信さんは新品の小型カメラを渡してくれた。私の持っている物よりもさらに小型、そして市販されている物とは雰囲気が明らかに違った。

 

絶対に民生品ではなかった。

 

「え、これは?」

 

「聞いてるかも知れないけど、俺は大赦の人間でね、あんまり夏凜に会えないから今のうちに撮り溜めしたいのさ、だから、これを使って夏凜を撮ってもらいたいんだ」

 

「私が…ですか?」

 

「大丈夫、君に頼むが、撮りに行ってもらうのは君の"精霊"だ、新型の大赦謹製のウェアラブルデバイスだから精霊が持っててもぶれないしスマホと連動してもほとんど誤差無しで動画として見れる優れものさ」

 

「素晴らしいですね!これで友奈ちゃんを撮り放題です!」

 

「まず先に夏凜を頼むよ、その後に結城君と一緒に写れば良い」

 

「一緒ですか?友奈ちゃんと?」

 

「君が撮ってばかりでは君が写らないじゃないか、思い出は心に刻む物でもあるが、心以外にも残す事が出来る、それが人が進歩した結果として会得した物さ」

 

やることは盗撮だがね!と春信さんは笑う。

 

思い出は心以外にも残せる。だったらどうして私は、二年前の"私"は何も残していなかったんだろうか。

 

 

そして今。

 

青坊主に小型カメラを持たせて夏凜ちゃんを追跡させていた。カメラとスマホを同期させており、リアルタイムで青坊主が写す物を見れるようにしている。

 

あまりの高画質に春信さんと二人で大興奮していた。

 

でもあまり興奮していても時間が無くなってしまうので、素早く夏凜ちゃんまで青坊主を向かわせる。

 

ちなみに夏凜ちゃんの位置は何故か春信さんが完全把握していた。

 

「夏凜のスマホのGPS情報は俺のスマホにリアルタイムで送信されるように設定しているからね!」

 

どんとこいだぜ!と言っていた。何がどんとこいなのだろうか。個々人の私的な事への線引きというのが出来ていないのだろうかこの人は。

 

「ちなみにこのシステムは君達の端末にも運用出来るものだったりするけど、いるかい?」

 

「どんとこいですね!」

 

どんとこいだった。

 

ちなみに夏凜ちゃんのスマホは球場の隅の方の部屋を指し示していた。

 

大葉先輩を助けに行ってるはずなのに何でこんなところに居るのだろうかと首を傾げたが、考えても仕方ないのでとりあえず見てみることにした。

 

隅の方の部屋、掃除道具入れの中を覗き込む。ガタガタと物音がする、薄い鉄板を動かしているような音だ。

 

力が抜けて人形のようになった相手チームの選手。それを夏凜ちゃん、大葉先輩、風先輩の三人掛かりで掃除道具を入れるロッカーに詰めていた。

 

大事件な絵面であった。

 

「……相手チームの戦力ダウンを狙った作戦ですね、流石です風先輩」

 

「君、意外と慌てると変なこと言うタイプなんだね」

 

「どどど、どうします?もしかして大葉先輩を助けてる時に相手を殺ッてしまったのでは?!」

 

「それは無いだろ、まあ、夏凜の事だから故意に何かやらかしたって事ではないだろうし、少し様子を見よう、音声も拾えるはずだ」

 

春信さんは私のスマホを横から操作すると、カメラが音を拾うようになり、音声が流れ出す。

 

『ちょっと!早くテープ巻いちゃってコンパクトにしなさいよ夏凜!あんたがこんな状況にしちゃったんでしょ!』

 

『だって!男の子の身体ってこんなに固くてゴツいって知らなかったし!?』

 

『……肩の骨外してグルグル巻きにすれば入りそうだね、せーの……!』

 

『『ちょ!ちょ!』』

 

『え、ダメ?夏凜ちゃんの後始末なのに?』

 

『……肩の骨外すわよ!!』

 

『夏凜!やめなさい!テープ!テープにしなさい!!』

 

完全に証拠隠滅してた。凄い勢いで被害者を隠そうとしてた。かなり手慣れた感じで。

 

「……どうしましょ?」

 

「かかかか夏凜!!今からお兄ちゃんが行くぞぉ!!!」

 

ぬぉあッッー!!!と雄叫びを上げながら春信さんは何処かへ駆け出して行った。十中八九夏凜ちゃんの所に向かったのだろう。

 

わぁー、と会場が球児達の活躍に湧いている中、私達は一体何をやっているんだろうか。まあ、とても勇者部らしいといえばらしい気がしなくもない。

 

この証拠動画どうしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕=大葉真優が厄介事で喧嘩をしたことはけっこうあるが、伸してしまった相手を隠すのはかなり少ない。

 

ましてやロッカーに隠すのなんて初めてだ。とりあえずテープでぐるぐる巻きにしたものの意外とクラスメイトが大きくて困ってしまった。

 

筋肉がついた手足、硬い胸板、少し前まで自分の物を散々見てきたのに何故だか新鮮な感じだ。

 

男の子ってこんななんだ。

 

そんな僕を犬吠埼さんは怪訝そうな顔でみつめていた。

 

「……真優、ベタベタこいつの身体触るのやめなさい」

 

「え、あ、触ってた?」

 

「触ってたわよ!ベタベタ!というか早くロッカーに詰めちゃうわよ!」

 

そうだ、早くロッカーに詰めないと。いけないいけない、と自分に言い聞かせながら、クラスメイトをロッカーに詰めていく。

 

でも、何とも上手くいかない。立たせて詰めようとしても肩幅で扉が閉まらない。

 

はてさて、どうしたものか。肩を外すか、股関節を外して折り畳むか。でも、どこを外しても彼の野球人生は少しお釈迦になりそうである。

 

かわいそう。そう思ってしまう自分がいることに驚いていた。

 

「ふふ、悪くないかも……」

 

「今笑うタイミング?!」

 

んぎゃー、と夏凜ちゃんに怒られた。面目無いので思い切り詰めようとしたものの、結果は変わらず。ホントにどうしたものか迷うところである。

 

どうしよう?と思っていたところ、コンコンと部屋をノックする音が響いた。

 

ビクリと身体を震わせて動作が止まり、3人で顔を見合わせる。ヤバイんじゃね?と表情だけで会話すると即座にクラスメイトを端に移動させて放置されていたブルーシートを被せた。

 

そしてガチャリと扉が開く。息を飲む。

 

入って来たのは息を荒げた春信さんだった。

 

「あ、兄貴…!?なんで?」

 

「ふふふ、お兄ちゃんは夏凜の事を良く見てるからね、夏凜がヤバイ事になったら助けるのがお兄ちゃんの役目さ、さぁ、死体を隠そうか、やっちゃったんだろう?仕方ない、早く隠そう」

 

「殺してないし!?!気絶してるだけ!!」

 

「え、あ、そうなの?お兄ちゃん早とちりしたかな」

 

そうだよ!!と夏凜ちゃんがプンスカしてる横を春信さんは通りすぎ、ブルーシートを剥ぐ。やっぱりすぐにわかるのか、まあ、足が少し見えてたし。

 

ごそごそと、春信さんはクラスメイトの懐を探す、ボディチェックでもしてるのだろうか。

 

「何をしてるんですか?」

 

「スマホの位置情報に色々細工するのさ、君達へのアリバイ工作みたいなものさ、お、あったあった」

 

懐からスマホを取り出すと春信さんは自分のスマホを繋げ始める。するとクラスメイトのスマホカバーからポロリとカードが落ちる。彼の名前が書いてあり、それを春信さんはチラリと一瞥した後、ぎょっと目を見開いた。

 

「"赤嶺"康則、あの赤嶺だと!?」

 

「え、あ、そうです赤嶺君です、僕達のクラスメイトですよ」

 

「同じクラスに監視を潜り込ませてるとは聞いていたが、あの赤嶺を入れていたのか、鏑矢の直系だぞ?大葉さんでもそんなこと言ってなかったぞ?」

 

「当たり前です、康則と俺の事は大赦でもかなり上部で秘匿していた事の一つですから、大葉の父親には偽の情報が渡されていますから」

 

後ろの扉から声が聞こえ、振り向くともう一人のクラスメイトが立っていた。その手には僕達の歳には不相応な拳銃が握られていた。

 

え、と言う前に彼は引き金を引いた。消音器がついた拳銃からパスッパスッ、と2発音が鳴ると犬吠埼さんと夏凜ちゃんが倒れた。

 

彼は二人を撃った。二人を撃ったのだ。直後、頭が真っ白になりながら一気に間合いを詰めて殴りかかる。銃口がこちらに向く前に懐に入り込むことが出来、そのまま拳を頭部に叩き込む。

 

しかし、拳は彼の頭部には当たらず、かわりに彼の腕が蛇のようにしなり僕の首をがっしりと捕まえていた。

 

春信さんも即座に動こうとしたが、それよりも早くに彼の拳銃が静かに鳴り響いた。そして春信さんは倒れた。

 

この野郎と叫びたいが、彼の腕が僕の首を万力のように締め上げ、一言も喋れずにいた。

 

「大丈夫、大赦は勇者を殺しはしない、撃ったのは麻酔針だ、一時間ほど寝るだけ、それに勇者を殺すのは不可能だからな」

 

クラスメイトは今まで見たことのないような冷徹で鉄のような表情をしていた。これが、自分の仕事であり、確実にこなすべき事であると自負しているかのようだ。

 

「康則の計画では試合終了後に連れ出してお前を回収するつもりだったらしいが、俺はそれほどお前に甘くもなければお前に感傷することもない、回収班も既に来ている」

 

扉付近に作業着を着た男達が数人音もなく立っていた。彼らもクラスメイトと同じような顔をしている、仕事を理解した顔付きだ。

 

「大葉、母親から巫女と勇者の力を引き継いだお前には重要な役目がある、お前は技術屋風情であるお前の父親などに好きにさせて良い人材ではない、だから今から大赦本部に来てもらう、良いな?」

 

「き……"桐生"く…ん!?!」

 

「ああ、そうだ、俺は鏑矢の桐生鎮夫だ、お前達の"裏方"で"味方"だよ」

 

パスッ、と桐生は僕の太ももに麻酔を撃ち込んだ。抗えない眠気が身体を駆け巡り、力が抜けていくのを感じた。そんな僕を彼は冷たく見つめていた。

 

「我らは花にあらず、我ら厄を祓う鏑矢なり、その力は人類の為に」

 

 

 




私の推しはぐんちゃんです。
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