結城友奈は勇者であり、彼もまたそうだった   作:ビブロス

12 / 12
救出

20分前

 

俺=桑折春雄がプランBの開始地点である山奥に着いた時、既に早崎と御柱がエンジンカッターで大赦本部への侵入ルートを設ける作業に従事していた。その横でプレートキャリアを着込む春信が居た、大葉の言うとおり、一人で脱出してきたらしい。

 

「桑折さん」

 

「春信、良く脱出出来たな」

 

「大葉さんに教えてもらった通りのガバガバセキュリティでしたよ、"一般人"のレベルでしかなかった、大葉さん達の"時代"から変わってませんね」

 

プレートキャリアにマガジンを詰めながら春信は軽口を叩く。いや、軽口でもないか、こいつの技術なら平気で出来る事だ。

 

「そうか、で、現在の進行は?」

 

「早崎さんと御柱さんが既に既定の地点に爆薬を設置済み、大葉さんが"乃木家"と話をつけて別ルートで大赦本部に侵入済み、逃走用の車両は既定ポイントに確保、後は俺達の侵入ルートを解放するだけです」

 

「だったらもう行けるな、最優先目標は真優君の奪還、そして乃木家への避難、それで事は終わる」

 

持ち込んだM4にIRレーザーサイトを付け、マガジンを差し込み、チャージングハンドルを引く。

 

それと同時にバゴン、と鋼鉄製の扉がエンジンカッターに切断され、倒れた。扉の向こう側には暗い通路が延々と続いていた。

 

示し会わせたように全員同じタイミングで四眼式暗視装置付きのヘルメットを被る。

 

「行くぞ、皆の力を奴らに見せつけろ」

 

四眼式暗視装置を起動し、目線へと降ろした。そして躊躇なく暗闇の中へと踏み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

現在

 

最高神官の側近職員の狩衣には神樹付近に植生している木々を使った染料が使われている。これは通常領域ではただの染物なのだが、この神樹に近付けば近づくほど耐呪性、耐衝撃性に優れる防護布となる。

 

俺=大葉継人が持ち込んだM4の5.56mm弾では貫通出来ない代物だった。貫通するにしても同じ場所に3発以上撃ち込まないと有効な攻撃にはならない。

 

もちろん向こうも武装しており、側近神官は9mm機関拳銃を携行している。こっちのプレートキャリアは抜けなくても、それ以外は違う。

 

故に敵の視界を奪う。

 

俺の銃撃を皮切りに既に部屋の中に潜んでいた"4人"が動く。4人は重低音を発するグレネードを投擲し、部屋中の蝋燭の火を消し飛ばす。同時に非常灯の電源元、大赦の"発電所"と"非常用蓄電池設備"を爆破する。

 

瞬時に部屋は暗闇になる。懐に入れていた暗視装置搭載のグラスをかけ、真優の首根っこを掴んで真後ろに"引き倒す"。頭を低くする為に。

 

部屋に潜んでいた4人の小火器にはIR(赤外線)レーザサイトを付けている、そして頭に装備している暗視装置は赤外線を可視化する。

 

よって向こうは何も見えず、こちらは丸見えの上にレーザーによる照準補正、"鴨撃ち"である。

 

真優の頭が規定ラインより下になった直後、4人が発砲を始める。サプレッサーによって響きやすい重低音だけを抑えられた発砲音が部屋に"響く"。

 

狙うのは頭。セミオートによる単発での発砲、一人に対して2発から3発撃ち込む。視界で職員の頭に穴が開く、反対側から弾丸は抜けずに頭蓋骨内で弾けて飛び散り、脳をかき混ぜる。

 

俺は銃口だけ職員側に向けながら扉へと真優を引きずっていく。女の子になっているおかげで真優の身体は軽く、容易に片手で引きずれた。

 

着物なので、盛大に着崩れてしまって胸が溢れてしまっていたが。気付いたのか、はわわと溢れた胸を慌てて着物の内側にしまいこむ。

 

「お父さん!?どうなってんのこれ?!?ねぇ?!」

 

「もうぼんやり暗闇がわかるだろ、真後ろに扉がある、そこまで走って逃げろ」

 

「えっ?!何?聞こえない!!」

 

「立て!!走れッ!!!」

 

耳元で叫ぶと真優は即座に後ろの扉へと駆けていく、状況判断が良く出来る子だ。本格的な訓練抜きでこれだけ出来るのは、天性のものだろう。

 

流石、二夜の子供である。

 

片手が空き、両手でライフルを構え、引き金を引く。どちらかと言えば射撃は下手くそなほうだ、レーザーサイトのおかげで当たりやすくなってはいるが、それほど効果的に使えているとは考えられない。

 

とはいえ、目的は奪還からの脱出。当たらなくても良い、相手を足止め出来れば十分だ。

 

『真優が外に出る、動くぞ』

 

咽喉マイクを介して全員に指示を出す。了解の返事はないが、素早くかつ冷静に4人は後退を開始し、速やかに部屋の外に出る。引くのが速いのがプロたる所以、死んだら"次"はないからだ。

 

俺も部屋から出たところで、真優をカバーしながら前方を警戒する桑折から通信が入る。

 

『継人、ルートはプランDに変更、早崎が"爆弾"を仕掛け過ぎた、順次作動するから2割増しでさっさと逃げるぞ』

 

「あんの爆弾魔、自重しろって言ったのに……」

 

『いやぁ、すまん、やっとやれるから派手にいこうかと』

 

後方に牽制で発砲しながら早崎が楽しそうに返答する。まだ、やりすぎの癖は抜けていないようだ。まあ、こちら側の人間は既に待避させているし、残っているのは最高神官の側近とその息のかかった連中、そして乃木園子だけ。

 

大赦本部ごと吹き飛ばしても構わない。重要なシステムは既にバックアップを取ってある、それに乃木園子には"精霊バリア"がある、そうそう死にはしない。

 

『たしかに……、派手にいくか』

 

『お、本当か、地下の自家発電用の備蓄燃料と武器庫、地下施設の重要な柱全部に仕掛けてるからここら辺まるごと陥没するからな、許可が降りて良かった』

 

前言撤回、やっぱりやり過ぎ。

 

『あー継人、あいつら暗闇に慣れたっぽいからさっさと引こう、真優君を真ん中で後ろは俺と早崎、前はお前と桑折で頼む』

 

御柱からの通信。至極真面目な声で隊列の提案が飛んでくる。いつもなら率先して前に出ていく様な奴なのにだ。

 

『…どうした?』

 

『あいつら異様に立て直しが早い、それなりの奴が鍛えた可能性がある、何かあった場合は俺と早崎が殿を務める、桑折とお前はあとの"仕事"があるだろ』

 

『その時は任せる』

 

視線を向けていた俺に対して御柱はグッと親指を立てていた。

 

それを確認し、真優の横に行き肩を持ち低い姿勢にさせる。同時に桑折が前に出る。

 

『さっさと出るぞ、前に進め!』

 

 

 

 

 

私=乃木園子がまどろみの中でウトウトとしていた最中、ズドンという、重くお腹に響くかもしれない音が部屋に響いた。耳に聞こえただけで、お腹が響くことはなかった、感覚がなければそうだろう。

 

揺らめく蝋燭の火。それに合わせて柱の影が揺らめく、大人数がドタバタと駆け回る音、そして微かに聞こえる銃声。

 

やっぱり、大葉さんは動いたようだ。私を先に"抑えなかった"のは彼なりの私に対する敬意なのだろう。袂を分けた所で私達は一緒の目的の元に戦った仲間だからだ。でもそれを覚えている勇者も私だけ。

 

私は何でもすると決めたのだ。彼と袂を分かとうと、誰かを犠牲にすることを必要としても、"わっしー"を守ると決めたのだ。"椿さん"と"ミノさん"の2人との約束だから。

 

網膜操作出来るベットを操作して上半身を持ち上げる。それと同時に怒鳴り声で職員に指示を出す声が聞こえる。その乱暴な足音はドンドンと近付いてきて、扉の前で止まる。

 

一拍おいて扉が開き、毎朝拝みたいとは思えない最高神官の姿が見えた。ボタボタと右手から出血していた。抑える左手の隙間から千切れかけている指が覗いていた。

 

「園子様、私との約束の日が来てしまいました、何卒、そのお力をお貸しいただきとうございます」

 

「指、どうしたの?」

 

「奴です、元人殺し風情の大葉継人にやられたのです、奴は巫女である大葉真優を連れて逃走しております、こちらも鏑矢で追跡させますが、もしもの時は……」

 

「いいよ、そういう約束だもんね、それにこういう仕事は私"本来"の役目だもの、大赦に歯向かう勇者、それに類する者の鎮圧、だよね」

 

「しかして、それ以後の"処理"は我々が……」

 

微笑みを浮かべている。そう感じるほど声音が僅かに上ずっていた。それほど、大葉さんに恨みでもあるのだろうか、それとも憎んでも憎みきれなかったはずなのに、憎む"理由"でも出来たのか。

 

そそくさと最高神官は出ていき、厳かに扉は閉められた。床には血痕が斑に落ちている。

 

「少しは拭けばいいのに……」

 

そうぼやいていると別の神官が厳かに扉から入り、厳重に札で封印された箱を差し出す。その真上に烏天狗の精霊が現れ、札がひとりでに焦げ付いて地面へと落ちる。

 

そして箱から"端末"を取り出すと、園子の元へと持って来た。

 

「さぁ、2年ぶりの勇者、頑張っていくんよ」

 

 

 

 

 

 

僕=大葉真優の首根っこを掴んで父親は正確な歩幅とスピードでぐんぐんと施設の中を進んでいく。プランはDと言っていたが、その歩みに微塵の躊躇はなく、完全に頭の中に道筋が出来ているようだった。

 

暗闇で、暗視装置をつけていても景色が違えば少しは躊躇するはずだが、そんな感じは微塵も見えない。それは"人殺し"においても同じだった。

 

よく見えない中、父親と他4名は足音が聞こえると即座に発砲する。銃には消音器がついているがさほど音が小さいと感じることはなく、逆にこんなに大きいのか、と思っていた。

 

多分、それよりも"光が見えない"方が向こうには脅威なんだと思う。

 

無慈悲に即座に引き金が引かれ、くぐもった悲鳴と呻き声が聞こえ、そして続けて2発か3発の銃声の後に何も聞こえなくなる。

 

そして進み、薄暗い中に人が倒れているのが微かに見える。それが続いていた。

 

 

気付けば、今までとは雰囲気の違う鉄製の扉の前に僕達は立っていた。

 

押戸の扉だった。父親が手すりに手をかける、僕は桑折さんと春信さんの後ろにつけられ、扉の向こう側が見えない位置に立たされていた。

 

しかし手すりを降ろしきる前に父親は手を離して扉から離れた。

 

不思議な動作だな、と思った直後に扉が蜂の巣になった。飛び散る火花、飛んでくる鉄片。

 

僕が驚いて声をあげる前に桑折さんに覆い被さられた、そのおかげで扉の破片は僕には当たらなかった。

 

しかめっ面で父親は一瞬だけ扉の向こう側を見て、すぐに頭を引っ込めた。それを見て僕も頭を一瞬出した、扉の向こう側には地下駐車場が広がっており、非常灯の赤い光が車と"分厚い装甲"を着込み"軽機関銃を持った"人間を照らしていた。

 

「くそ、俺が作った呪詛式装甲服着てやがる、認可しなかったくせに勝手に作ってたのかよ、しかも鏑矢のマーク入りか、後輩かよ、今の隊長誰だ?うわ、銃も良いの使ってやがる」

 

「あー、隊長は知らん」

 

「俺、鏑矢名乗ってた真優君の同級生の赤嶺と桐生に撃たれました」

 

「は?中学生を鏑矢に入れてんのか?アホかよ、いや組織開設当初から中学生入れてたな」

 

「原点回帰だろ、そういうの好きそうだしな、一番上の奴」

 

「アホらし、ちなみにあの装甲服はこれ(ライフル)で抜けるのか?」

 

「真優の勇者装備の技術の廉価版だから戦車並の装甲だ、ライフルじゃ抜けないな、"近接"でやるしかないな、御柱行くぞ、例の奴持ってきてるだろ?」

 

おう、と御柱さんは背負っていた平たく長い板を引き抜く。それは板ではなく、刃幅が10cm、刃渡り100cmほどの黒い刃物だった。

 

父親も腰から60cmほどの黒い手斧を二本取り出して両手で握る。

 

それを見てこの二人は軽機関銃を持った装甲服の連中に向かって飛び出すつもりなのだと理解した。とてつもなく自殺行為だ。

 

「な、何バカな事しようとしてるのさ!お父さん!自棄になったの?!」

 

え、なんだよ、みたいな顔で父親は僕の顔を不思議そうに眺めてくる。こっちが心配してるというのに何て態度なのだろう、とてもムカつく。

 

「いや、物理効かない奴がこっちにもいるからな、それを盾にしようかと」

 

「物理が効かない?誰が?」

 

「え、お前だよ、精霊バリアって致死的ダメージ受けそうになったら変身しなくても展開されるからな、ほらいくぞ」

 

ちょっと待って、という言葉を口から絞り出す前に父親に首根っこ掴まれて扉の向こう側に押し出された。

 

直後、機関銃の閃光と精霊である犀竜がほとんど同時に現れた。凄い音が響いて目の前で火花が飛び散る。犀竜による精霊バリアが機関銃を防いでいるのだ。

 

「ちょ!?!うわっ?!ひゃあ!?!」

 

「目をつぶってろ!!」

 

音にビクつく僕を首根っこだけで担ぎあげ、父親はそのまま敵に向かって走り出した。なんたる筋力であろうか、女の子の僕の体重でもそんなに軽くはないはずなのだが、凄いものである。

 

いや、そんなことは問題ではない。

 

気付けば父親の後ろに御柱さんもついてきていた。二人して僕を壁扱いである。

 

しかも敵まで後少しというところで僕を敵に向かって投げたのである。軽々しく僕は飛んでいき、敵にぶつかって派手に転ける。思い切り敵の装甲服の人に頭ぶつけた。

 

この野郎!と頭をあげた時には父親と御柱さんは獣染みた速度で敵の懐まで飛び込んでいた。

 

二人がその手に持つ武器がやかましくキンキンと甲高い音を放つ。

 

装甲服の敵は父親達へ銃口を素早く向ける、が時は既に遅い。地面を這うかのような低姿勢から繰り出された手斧の一撃が敵の足を真横に割った。割られた薪のように両足が地面に転がる。

 

仮面の中からくぐもった悲鳴があがる、それに対して父親は冷徹にもう一方の手斧を振るい、敵の頭を斜め半分に割った。

 

手斧とは思えないほどの切れ味。ぱっくりと割れた頭蓋からは血飛沫が舞い、こぼれるゼリーのように脳がずり落ちた。

 

「カァッッッ!!」

 

腹から鳴り響くような気合いと共に御柱さんは下段からの切り上げを放ち、敵の軽機関銃を握っていた腕ごと切断。当然の悲鳴。流れるように追撃、切り上げた刃をくるりと返して肩から脇腹にかけて斜めに振り下ろす。

 

ずるりと敵の身体が二つに別れ、ぐしゃりと内臓を床に撒き散らしながら床に倒れた。

 

それに気を取られてる間に二人は他の敵へと襲い掛かっていた。

 

後はもう"ミキサー"と同じであった。地下の駐車場という閉鎖空間内を父親と御柱さんという機械的で冷徹な刃が縦横無尽に駆け巡る。

 

敵も発砲などの反撃を試みていたが、二人の化け物染みた反応速度と身体能力に対しては一切の意味を為すことはなかった。

 

というか、父親は遮蔽物という名前の敵の死体を使って弾丸を防ぎ、御柱さんに至っては普通に弾丸を刀で弾いてた。

 

刀で弾丸って弾けるんだ、となんだか凄く納得してしまった、実際見てしまったので仕方ない。

 

ふう、と二人が息をついた時には敵は一人も動いていなかった。というか、完全に四肢を保持した状態の死体が存在していなかった。細切れという言葉が的を射ているだろう、それぐらいぐしゃぐしゃだった。蒸せかえるような血と消化物の臭いが鼻をつく。

 

「なかなか……、近接武器持ってない割には手こずったな」

 

「"慣らし"にはちょうど良い、やっと刃も暖まって来た、まだいけるぞ」

 

「目的は脱出だ、さっさといくぞ、ほら真優も立て、あんまり周りを見るなよ、吐いちまうぞ」

 

「お、お父さん……、僕の知らないとこでいつもこんなことやってたの……?」

 

「あ、えー、まあ、そうだな、やってた、ここまでのは……そうそうないけどな」

 

恐いか?と父親は無表情で問いかける。僕は首を横に振る。

 

しかし、正直言えば恐い、だがそれがこの死体に対してではなく、死体を作り上げた父親にでもなく、それを躊躇なくやってしまう事にだ。

 

口から、"もっと自分を大事にしてよ"と出そうになったが、僕を守ろうとして戦っている手前、そんなことは言えそうになかった。

 

お母さんの記憶がそうさせるのか。それとも僕がそう"思っているのか"。僕にはわからなかった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。