カチ、カチ、カチ……。
深夜の大赦施設、その解析室。液晶モニターの青白い光が、俺=大葉継人の鋭い目元を照らし出していた。端末から吐き出される膨大なバイタルデータ、新型勇者装備の同期率、そして神樹結界内の波形グラフが、高速で画面をスクロールしていく。
「……上々か」
継人は濃いめのコーヒーを口に含む、砂糖を入れればさらに良いのだが、年のことを考えると無糖で飲むようになっていた。
新型勇者システム、自律型ドローン『衛使』を投入した初戦は、文字通りの快勝だった。戦闘時間は10分未満。勇者部の身体的負荷は旧システム以下に抑えられ、失われた身体機能の補完装置も完璧に作動している。
旧体制の大赦の連中が見たら、泡を吹いて倒れるレベルの戦果だ。
「継人、データチェックの続きか?」
夜食の追加のコーヒーを持ってきた桑折が、隣に腰かけた。大赦の再編以降やることが多すぎて桑折の方も夜遅くまで残っている。どちらも40過ぎてるからほとんど徹夜は辛い。
「ああ。各員のバイタルと運用データの確認だ。……ん?」
指が、キーボードの上でピタリと止まった。
モニターに表示されているのは、大葉真優の戦闘終了直前──樹海化が解除され、空間が地上へと戻る瞬間の記録だった。
「どうしました?」
「……真優のバイタルデータだ。全体的には安定している。2Aによる脳への干渉も許容範囲内だ。だが……ここを見ろ」
継人は画面の一部を拡大した。
「心拍数と脳波の波形が一瞬だけ、不自然に跳ね上がっている。……それだけなら、戦闘後の反動や疲労で片付けられる、が……」
「戦闘後の緊張が解けたからか?」
「考えられるが……、今まで無かった事が起こった、何かが変わったのは確実だ、原因はわかっておきたい、まあそれより問題なのが、"数"だ」
数?桑折がかけ慣れてない眼鏡の奥の目を細め、モニターに顔を近づけた。
「戦闘終了時点で、樹海内にいたのは勇者部6名と衛使と春信と園子君のみのはずだが……」
「そう、だが、樹海が閉じる直前の『3秒』間だけ……真優の反応で、まったく同じ波形の生体反応が【2つ】重複して検出されている」
「……バグか? 空間が解除される際の結界の屈折によるノイズか、あるいはシステムの同期エラーによる二重検出……」
「ただのバグならいい」
コーヒーをさらに呷り、低く呟いた。
「だが、あの時、真優のバイタルデータの変動と反応の二重検出のタイミングが完全に一致している」
「何……?」桑折の表情が強張る。
「……あの時、樹海で何かがあった、勇者の誰かが何か見てるかもしれん……。桑折、真優のバイタルモニターを常時俺の端末へ直結させろ。嫌な予感がする」
「……了解した」
継人は残り少ない缶コーヒーを煽りながら、暗いモニターに映る息子の――今は娘となってしまった真優の顔写真を、苦々しい目で見つめるのだった。
◆
「はぁぁぁぁ……どうしたもんかしらねぇ……」
残暑が残る9月の午後。讃州中学校の勇者部部室で、私=犬吠埼風は、机に突っ伏して深いため息をついていた。
『お姉ちゃん、溜息をつくと幸せが逃げちゃいますよ?』
首元に装着した小型のネックレス型スピーカーから、樹の可愛らしい電子合成声が響く。声帯補完装置のおかげで、樹は声帯を失った今でも、頭で考えた言葉をそのまま滑らかな声として発することができるようになっていた。
「分かってるんだけどねぇ、樹……。ほら、見てよこれ」
私は部室のカレンダーを指差した。赤ペンでバツ印が書き込まれている。
「新型装備になってからのこの1ヶ月……これでバーテックスの襲来は5度目よ!? 初戦と合わせて合計5回! しかも見事に全部、ほぼ一週間に一回ペースで『休日』にぶち当たってるじゃないのよッ!」
「あはは……確かに、日曜日になると樹海化が始まりますよね」
友奈が苦笑しながらお弁当(2度目の昼食、東郷作)の玉子焼きを口に運ぶ。
そう、継人さん達の手によって勇者部が劇的に強化されたおかげで、バーテックス襲来は、どれも10分前後でサクッと撃破できている。戦闘自体は何の心配もないのだが問題は別にある。
「勇者部の威厳がッ! 存続の危機がッ!」
私が立ち上がって熱弁を振るう。
「休日が全部バーテックス退治で潰れたら(疲れて動けない、寝る)、私たち『勇者部としての日常ボランティア活動』が全然できないじゃないの! このままじゃ『ただの戦闘集団』になっちゃうわ! 勇者部は地域に貢献してこその勇者部なのよッ!」
「風、落ち着いて、放課後の活動はしてるじゃない」
夏凜が冷めた目でお茶をすする。
「それに大赦……じゃなくて、継人さんたちが学校側に手を回してるんだから、廃部なんてなるわけないでしょ」
「威厳の問題なのよ、威厳の! 休日も勇者部は活動に勤しんでるなぁ、凄いなぁ、みたいな!!!……あ、そういえば」
私は思い出したように、胸ポケットから二枚のメモ用紙を取り出した。
「実はね、この週末……久々にバーテックスの襲来予報がないのよ! そしてタイミングよく、勇者部に『依頼』が2つ舞い込んできたわ!」
「お、依頼ですか!」友奈が目を輝かせる。
「ええ! 一つ目は、園子からの個人的な依頼。実家の衣装棚の整理を手伝ってほしいんですって。で、もう一つは、近所の人から届いた『拾った野良猫の新しい飼い主を探してほしい』という依頼よ!」
「猫ちゃん……!」
真優がぽっと頬を緩ませる。こいつ意外と可愛いの好きなのよね。
「というわけで、二手に分かれて依頼を片付けるわよ! 園子の方には友奈、東郷、夏凜! 野良猫の件は私、樹、真優の3人で向かうわ! 異議なしッ!」
こうして、久しぶりの「勇者部らしい休日ボランティア活動」がスタートすることになったのだった。
◆
「……ちょっと、これ本当に『個人の家』なの……?」
私=三好夏凜は、目の前にそびえ立つ広大な日本屋敷を見上げて呆然としていた。
園子の実家。讃州でも有数の名家だとは聞いていたが、門から母屋まで庭園を徒歩で数分歩くレベルの大邸宅だ。出迎えてくれた和服の世話人さんに案内されたのは、敷地内にある蔵のような大きな『離れ(1棟)』だった。
ギィィ……と重い扉が開くと、そこにはズラリと並んだ巨大な衣装棚と、無数の服、服、服。しかも離れの割にはクーラーがガッツリ効いてる。
「あ、いらっしゃいなんよー」
部屋の奥から、衛使の背中にちょこんと担がれた園子が、嬉しそうに手を振っていた。衛使が配備されて以来園子は基本的にこのスタイルである。担いでる衛使にも専用のカラーリングが施されている。だいぶ猫可愛がりされてるらしくて、他の機体にくらべてエングレービングまで施されており、うちの衛使(命名イワシ、アジ、トビウオ)から自分達にも専用のカラーリングをして欲しいとせがまれている。
「園子ちゃん! すごい服の数だね!」
友奈が声を弾ませる。
「うん……ここ2年で、身体が大きくなっちゃってねぇ。昔の服が全然着られなくなっちゃったから、片付けたくて」
園子は衛使の上で困ったように笑った。園子が言うには満開の後遺症と大赦での生活で代わり映えのする服を着る機会は全くなかったようである。
「世話人さんに頼めばいいんじゃないの?」
私が尋ねると、園子は少し寂しそうに目を細めた。
「思い出がいっぱい詰まった服だから、自分で見ながら整理したかったんよ。でも、私の体だと手が動かないから……みんなにお手伝いしてほしかったんだ」
「……まあ、そういうことなら仕方ないわね」
私は動かない左腕を補完装置でカバーしながら、右手だけを使って、ズラリと並んだ洋服や着物を運び出し始めた。そのまま2時間程作業、しかし──。
「……ちょっと、運び出しても運び出しても、奥からどんどん出てくるんだけど!?」
「あはは、園ちゃん、お洋服持ちすぎだよー!」
友奈が笑いながら服を運び出す、いつも全力の友奈。私達が後遺症を負い、友奈が無傷だった戦い以降、さらに全力を出すようになった。それは私が少し心配になるほどだった。今回も友奈は人一倍頑張っていた、さすがに一息つこうと園子の元へ戻ろうと言い聞かせ、帰った時のことだった。
「──うん、このブラウスなら、腰の補完器具のラインが綺麗に隠れるんよ」
「まぁ、そのっち……本当ね。全然目立たないわ」
「……何やってんの、二人とも?」
私が突っ込むと、そこにはいろんな服を着せ替えられている東郷の姿があった。
東郷は桑折さんたちの作った歩行補完器具のおかげで、少しずつ二足歩行のリハビリが進んでいるのだが、器具の金属パーツが干渉するため、着られる服の形が限られているらしい。園子はそれを見越して、東郷に似合う&器具が隠れる服を選んであげていたのだ。
「なるほどね……って、ちょっと待ちなさい」
私は眉をひそめた。
「足回りの服を選んでるにしては、なんで上半身までフリフリのレースブラウスと帽子まで着せられてるのよ!? どう見ても着せ替え人形にして楽しんでるでしょ!」
「ふふふ……東郷さんは何を着ても似合うから、ついつい……」園子がニヤリと悪戯っぽく笑う。
「もう、仕事に戻るわよ。私は――」
私が背を向けようとした、その時だった。
「あ、そういえば夏凜さん」
東郷が思い出したように手をぽんと叩いた。
「夏凜さんも、左腕に補完装置を着けているから、長袖の服選びに困っていませんでしたか?」
「……え?」
ピクッと私の動きが止まる。
「あ! 確かに! 夏凜ちゃんも可愛いお洋服着ればいいんだよ!」友奈が目を輝かせる。
「ふふふ……腕が鳴るんよ、ホセ!アントニオ!カルロス!」
園子に付き従う3機の衛使、全員違うカラーリング、それが屋根裏、畳の下から飛び出し、私に飛び掛かる。
「っ!? 待ちなさい、ちょっと――きゃあああぁぁぁっ!?」
迫りくる衛使の金属の腕! 友奈の素早いタックル!
あっという間に拘束された私は、園子と東郷の待つ「着せ替えスペース」へと引きずり込まれていくのだった──。ちなみにそのまま友奈も着替えさせられていた。
◆
一方、僕=大葉真優と犬吠埼さん、樹さんの3人は、野良猫の飼い主探しの依頼主の家へと向かっていた。
「簡単な依頼だから、サクッと終わらせて友奈たちの手伝いに行きましょう!」
犬吠埼さんの威勢の良い掛け声と共に到着した住宅街の一軒家。しかし、玄関前ではすでに大きな押し問答が始まっていた。
「ダメだって言ってるでしょ! うちでは飼えないの!」
「嫌だぁぁぁっ! にゃんこを他の人にあげるなんて絶対嫌ぁぁぁっ!」
依頼主であるお母さんと、小さな女の子(小学生くらい)が、ダンボールに入った子猫を挟んで大喧嘩をしていたのだ。女の子はボロボロと涙をこぼしながら、子猫をぎゅっと抱きしめて離さない。
「あーあーあー! ストップストップ!」
風先輩が間に入り、双方の言い分を聞いて喧嘩を宥めた。
話を聞くと、最初は拾ってきた子猫を誰かに譲るつもりだったが、この数日で女の子がすっかり情が移ってしまい、手放したくなくなってしまったらしい。
風先輩の親身な説得と、女の子の「絶対自分でお世話する!」という強い主張により、お母さんも折れ、最終的に子猫はこの家で正式に飼われることになった。
「ふふ、依頼完遂……と言っていいのかな? でも、あの女の子の願いが叶って良かったねぇ」
子猫を抱いて喜ぶ女の子を見送りながら、僕は隣を歩く樹さんに話しかけた。
すると、樹さんの首元のスピーカーから、涼やかな電子音声が返ってきた。
『そうですね。とても優しい子でした』
言葉を発した樹さんを見て、先頭を歩いていた犬吠埼さんが、ピタリと足を止めた。
「……お姉ちゃん?」
犬吠埼さんは振り向かず、拳をギュッと握りしめたまま、背中を丸めた。
「……ごめんなさい、樹」
消え入りそうな声。
樹さんは首を傾げた。
『どうしたの、お姉ちゃん?』
「私が……」
風先輩は俯き、肩を震わせた。
「私がもっと大赦に強く抗議していれば……樹を勇者候補にすることをもっと拒否していれば……樹が声を失うことなんてなかったのに……っ! 全部……私のせいよ……っ!」
自責の念。
妹を巻き込み、その大切な声を奪ってしまったという罪悪感が、犬吠埼さんの背中に重くのしかかっていた。
すると、樹ちゃんは静かに犬吠埼さんに近づき、その袖を引いた。
『──お姉ちゃん、あの手紙見たの?』
「そうよ……」犬吠埼さんが顔を上げる。
ポケットから、一枚の折り畳まれた書類を取り出した。それは、樹さんが声を失う前に応募していたオーディションの一次審査合格通知書だった。
『ふふ、やっぱり見てたんだ』
樹ちゃんは不意に、首元のネックレス型端末を操作した。
――~♪
スピーカーから、静かで美しいピアノの旋律が流れ出し、続いて、透明感あふれる樹ちゃんの「歌声」が空間に響き渡った。補完音声で作られた、完璧なピッチと音色を持つ歌声。
「樹……?」
『お姉ちゃん私ね、声を無くしたことはもちろん悲しいよ、でもね、失ったものばかりじゃないんだよ』
樹さん犬吠埼さんの目を真っ直ぐに見つめた。
『この補完器具をもらってから、私の頭の中にあるメロディが、そのまま正確な音になって出せるようになったの。緊張して声が震えることもないし、音程が狂うこともない。作曲も、歌うことも、前よりずっと簡単に、私通りの音が表現できるようになったんだよ』
『声を失ったことで得られたものも、たくさんあるの。だから──お姉ちゃんが自分を責めて謝る必要なんて、ないんだよ』
樹さんは言い切ると、ふふっと柔らかく微笑み、一人で先頭を歩き出した。
犬吠埼さんは、離れていく妹の背中を呆然と見つめていた。やがて、小さく呟いた。
「……いつの間にか……強くなっちゃったわね」
その背中は、どこか誇らしげで、吹っ切れたような清々しさに満ちていた。
僕はその光景を胸の奥が熱くなる思いで見つめていた。
すごいなぁ、樹さん。失ったものを嘆くだけじゃなくて、前を向いている。
僕の母親も、こんな僕を見て、そんな風に言ってくれるのかな?
ふと、頭の中に思考が浮かんだ。
その瞬間――。
ズキリッ!
脳の奥を、激しい刺痛が貫いた。
視界が歪む。わたしの意識の中に、見たこともない「記憶の断片」が、滝のように流れ込んでくる。
──夕暮れの薄暗いマンションの部屋。
──テーブルの上に置かれた、ラップがかけられた冷めきった料理。
──黒い仕事着を着て、振り返りもせずに出ていく母親の背中。
──頬を張られた時の、生々しい熱と痛み。
──「一番を取れなかった」テストの成績表を破り捨てる手。
──仏壇に飾られた、優秀だった父親の「遺影」。
「な……に……これ……!?」
冷や汗が吹き出す。息がうまく吸えない。
僕はこんな経験をしたことがない。僕の父親は大葉継人だし、母親は幼い頃に亡くなっているはずだ。こんな記憶なんて、僕のものじゃない。
「おい、真優! 何ぼーっとしてんのよ、置いていくわよー!」
「ッ!?」
犬吠埼さんの明るい声で、ハッと現実に引き戻された。
見回すと、そこはいつもの街並み。脳裏に焼き付いた暗い部屋の光景は、綺麗に消えていた。
誰の記憶だ?
胸騒ぎが収まらない。だが、考えたところで答えが出るはずもなかった。わたしは首を振り、乱れた息を整えると、「待ってくださいー!」と犬吠埼さんたちの後を追った。
──そして、乃木家に到着した僕たちを待っていたのは。
「あ……真優、助けて……」
着物とドレスを着せられ、涙目になっている東郷さんと夏凜ちゃんの姿だった。
「あ!マユマユ!!」乃木さんが目を輝かせる。
「そういえば、大葉先輩も急に女の子のお洋服が必要になって困ってましたよねぇ?」
「え……? あ、あの、僕は別に――」
「腕が鳴るんよ」
「うわぁ!?何で衛使を使って羽交い締めなんて、わっ、ちょ、脱がせないでぇ!下着テキトーなの着てるから犬吠埼さんに怒られるから!!ちょっと待って!?!お願い!!」
結局、僕は逃げ出す間もなく捕まり、乃木さんによって完璧な「お着替え人形」にされてしまうのだった。
◆
乃木家での楽しいお着替えが終わり、週が明けた放課後。私=結城友奈のスマホの中にはみんなの着替えた写真がいっぱい入っていた。
私たちはいつものように勇者部部室に集まり、賑やかに駄菓子を食べながら談笑していた。
「夏凜ちゃん、あの時のドレス姿、もっと写真撮っておけばよかったなー!」
「絶対にダメよッ! というか消しなさいッ!」
夏凜ちゃんが顔を真っ赤にして怒る。大葉さんも「わたしもフリフリの洋服着せられて、すごく恥ずかしかった……」と照れていた。
その時――。
世界から音が消え、窓の風景の時間が止まっていく。
「……樹海化……!」
風先輩が立ち上がった。
「みんな、行くわよッ!」
光が部室を包み込み、私たちは瞬時に戦闘装束へと身を包んだ。
通算6度目となるバーテックスの襲来。現れた大型個体は獅子座と魚座、そして大量の星屑たちだ。
『全隊、作戦開始』
通信から春信さんの指示が飛ぶ。
網膜に情報表示、先行する魚座は地面下を潜行中、その後ろから獅子座が星屑を周囲に纏わせながら進行している。
東郷さんは獅子座への射撃を開始。しかし纏わせている星屑が邪魔をして攻撃は獅子座に直撃しない。
獅子座に攻撃を集中させたいが潜行している魚座が気になる、春信さんから魚座への攻撃要請が入る。
「私が引きずりだしますッ!!」
樹ちゃんが瞬時に糸を射出、地面へと糸が突き刺さる。確認出来ない魚座を衛使のソナーで探知、巨躯にワイヤーを巻き付けると、超高出力で地表へと引きずり出す。
「出ます!!」
「わかったよ!!!」
地下から引き上げられた魚座へ、私が音速の踏み込みから勇者パンチを叩き込む。
御魂ごと一撃で粉砕した。
一方、獅子座は体内で高熱の火炎エネルギーを生成し、大量の星屑も同時に大量射出。単独で迎撃するにしては難しい物量、押し潰す気だ。
「させないわよッ!」
「目標確認、照射するよ!」
風先輩の巨大な黒い大剣が横なぎで火炎弾を叩き切り、大葉さんの精密な光学兵器が飛来する星屑を次々と撃ち落としていく。
爆煙が巻き散る。視界が悪くなる、それは向こうも同じ。
「隙ありよ」
夏凜ちゃんが隙を突いて獅子座の懐へ肉迫。荷電粒子式切断兵装を一閃させ、獅子座の強固な装甲に大きな亀裂(傷口)を作り出す。
「東郷、今よッ!」
「了解……!お仕置きです!」
空中から急降下してきた東郷さんは、獅子座の傷口へと大型ライフルを直接突き刺す。
ライフルからドラムマガジンいっぱいに叩き込まれる高威力の炸裂弾頭。 獅子座の体内から連続爆発が巻き起こり、巨躯は内側から破裂して霧散した。
「作戦完了、 撃破時間8分20秒」
大葉さんの声が響く。
「やったー! 新記録達成だよ!」
私が歓声を上げ、樹ちゃんとハイタッチを交わす。
敵の脅威など微塵も感じさせない、圧倒的で完全な勝利。
樹海化がゆっくりと解ける、そこで遠くに何かが居るのが見えた。
白い女がこちらを見ていた。いや、大葉さんを見ている、遠すぎて目線の先などわかるはずもないのに見ている物がわかった。あれは、そういう物だ。
そして光が私達を包む。
私たちは元の部室へと戻ってきた。
「ふぅ……終わったねぇ。今日もサクッと勝てちゃったわね!」
風先輩が変身を解除し、肩を回す。
「ええ。これなら次の襲来も楽勝ね」
夏凜ちゃんも笑みを浮かべる。
だが──その時だった。どさり、と音がした。
不意に、重い物が落ちる音が部室に響いた。
「……え?」
振り返った私の視界に入ったのは――。
変身を解除した真優さんが、まるで糸の切れた人形のように、床の上に力なく倒れ伏している姿だった。
「大葉さん!?」
私は慌てて駆け寄り、大葉さんの体を抱き起こした。
「大葉さん! どうしたんですか?! 大丈夫ですか!?」
大葉さんの体は、信じられないほど冷たくなっていた。
そして……その瞳は、焦点が完全に合っておらず、開かれたまま虚空を凝視していた。
「真優! 真優!?」風先輩が叫びながら大葉さんの頬を叩く。
しかし、大葉さんはピクリとも動かない。
返事も、呼吸の音さえも酷く浅く、まるで意識だけがこの身体からどこか遠くへ切り離されてしまったかのように、誰の声掛けにも一切反応しなかった。
「どうしたの!? 戦いの反動!? なんで急に……ッ!」夏凜ちゃんが動揺して声を荒げる。
『真優さん! 真優さん!』樹ちゃんのスピーカーから悲痛な合成声が響く。
「……東郷さん、大葉さんに連絡を! 風先輩、救急車をッ!」
「わ、分かったわ!」
部室の中がパニックに包まれる。
私は冷たくなっていく大葉さんの手を強く握り締めながら、必死に名前を呼び続けた。
「大葉さん! 目を開けて! 大葉さんっーーーッ!」
夕闇が迫る校舎の外から、遠く、遠く……悲鳴のような救急車のサイレンの音が、徐々に近づいてくるのを、私はただ祈るような心地で聞いていた。