母親らしき人の写真を見つけたおかげで何故かすんなりとは寝付けず、眠い眼で登校する羽目になった。
嬉しかったのだろうか?と自問自答したところで答えは出てこない。答えを出したところでそれは些細なことなのだろう。だから、とりあえずこのスマホを調べることから始めることにする。
中に入っていたアプリは基本的なスマホに搭載されている物、それ以外に見たこと無いものが二つ入っていた。一つは限定的なSNSアプリで、個々人に配布されたIDを使用するタイプのもので、まるで企業が使う専用アプリの様である。
もう一つはうんともすんとも言わないアプリで、起動しても真ん中に蕾のマークが出ているだけ、押しても何の反応も示さない。
SNSの方には前回のログイン時のデータが残っていた、ただし会話等のデータは壊れており、全部失われていた。わかったのはこのSNS上での名前だけ。
『二夜』
聞いたことの無い名前だった。
これが、多分このスマホを持っていた人の名前なのだろう。父親の口からこの名前を聞いたことは一度も無い。と、言うよりも父親から女の名前なんて近所のおばちゃんか安芸さんくらいの物しか聞いたことがない。
誰なんだこの人は?
という、考えで頭いっぱいになっていた。そのせいだろうか
「真優?おーい真優?あのー真優さん?」
目の前で犬吠埼さんが僕を呼んでいるのに気付いてなかった。犬吠埼さんの顔が20cmくらいの距離まで来ていた。プンスカした顔が良く見える。
「あ、ごめん、どうしたの?」
「あんたこそどうしたのよ?なんか朝からずっとスマホとにらめっこしてさ、え、なになに?新しいスマホ?」
「あぁ、そう、うん、壊れてたからね、新しいの父親からもらった」
「もらった?また作ったの?あんたんとこのパパ凄いわよね、尊敬するわよ、スマホ作るなんて」
「やっぱおかしいよね」
「何言ってるのよ?凄いって言ってるじゃない、誇るべきところよ」
馬鹿ねぇ、と犬吠埼さんは笑う。とりあえず喜んだ、ここは喜ぶべきところなのだろう。まあ、悪い気はしないから。
「ていうか、私の持ってるのと同じ機種じゃない?」
「え?」
「ほら」
犬吠埼さんがニヤリと笑いながらスマホを見せてくれた。僕の持っている物と瓜二つのスマホがそこにあった。古い機種だと思っていたが、今でも現役の機種なのだろうか?
「もしかしてさぁ、それに変なアプリ入ってたりした?」
「変なアプリ?どんな?」
「SNSの奴と、押してもうんともすんとも言わない奴」
「入ってた、どっちも」
「え?どっちも?」
「どっちも」
犬吠埼さんが慌てて僕のスマホを覗き込む。こんなに慌てたのはあまり見たことがない、僕の机の上に置いていた筆箱を落とすくらいに慌てたのを見るのは初めてだ。
「「あ」」
二人で声を出して落ちていく筆箱を見つめていた。そして、地面に着く前に筆箱は空中で"止まった"。誰も受け止めたわけじゃない、本当に空中に筆箱が"浮いていた"。
「なんだこれ?」
「……まさか」
犬吠埼さんが廊下へと走り出す。その背中を見ていると教室の違和感に気付いた。全員止まっている、クラスメイトも何もかも、歩きもしなければ、動いてもいない、呼吸さえもしていない。完全に停止していた。
その中で僕と犬吠埼さんだけが動けていた。
外を見ると風で飛ばされたと思わしき葉っぱが空中で固定されていた。そして海の向こう側が白く発光しているのが見える。それはこちら側にどんどんと近付いて来ていた。
それが、何なのか理解しようとする前に光は僕を包んだ。あまりの眩しさに目を瞑る、凄い風が僕を殴り付けていく、室内だというのにだ。
そして目を開けた時には世界は何かに上書きされていた。
家一個分もあるような太い木の根のようなものが大地を埋め尽くしていた。そして空は夜空のように暗く、でも世界は薄暗いわけではない、木の根が光を発しているからだ。
それが僕にはひどく懐かしく感じた。再び見えた、まだそこに在ったのかという感覚。嬉しいわけではない、物悲しい懐かしさだった。まるで大事な物を失くした場所に再びやって来た、そんな感覚だった。
持っていたスマホに目を移す、それが此処で最初にやるべきことなのだと何かが僕に告げていた。直感という感覚ではない、経験からくる反応に近い。
画面はいつもの待機画面ではなく、マップに切り替わっていた。大地と海が表示され、大地側に五つの点が確認出来る。そして海側に点が二つ。
大地側の一つの点には二夜と明記されていた、多分これが僕の居る地点。そして残りの四つには結城友奈、東郷美森、犬吠埼風、犬吠埼樹の名前とマーカーが表示されていた。それはこの状況に彼女達も巻き込まれている可能性を示唆していた。
そして海側の点には乙女型、山羊型の文字が表示されていた。星座の名前?と疑問を持ったが、"実物"を見ればすぐにそれがそう呼ばれる物なのだろう、という事が理解できた。
すでに海にあったマーカーは大地まで移動していた。それは遠くであろうと視認出来るほどに巨体だった。30m以上はあろうかという大きさの物体が空中を浮遊しているだけで、目を奪われた。
一つは全身が薄いピンクで彩られ、半透明の薄いスカーフのようなものが纏わりついている、まるで女性を彷彿とさせる様態であった。
もう一つは茶色と白で彩られ、牛の角が四本垂れ下がり、それを各々腱のような長い紐状の物で吊り下げている。
ピンクが乙女型、茶色が山羊型に該当するのだろう。
何だあれは?と疑問を持ったと同時に乙女型が動きだす。
下半身と思わしき部分がオレンジ色に赤熱し膨らむ、直後卵型の何かを幾つか噴き出した。それが木の根に直撃すると爆発が生じた。
それが犬吠埼さん達を狙った物なのだと気付いたのは爆風が僕の頬を撫でた時だった。ブラッシュバックする四人の顔。
声を出す前に怒りが噴き出していた。がむしゃらに四人へ向かって駆け出す、浮いてるあれをどうにか出来るという確信は全然なかった。それでも"あれ"をどうにかしてやりたかった、厳密に言えば何かしらの攻撃的手段で引き裂いてやりたかった。
そう、明確に初めて何かを殺してやりたいと思ったのだ。
「お前を……ッッッ!!」
そう思ったと同時にスマホが光輝き、うんともすんとも反応しなかったアプリが勝手に起動し、紫の光と共に花弁を噴き出した。光が僕を包み、僕を前に押し出す、あれをバラバラにする力と共に。
「殺してやるッッッ!!!」
気付いた時には僕は空高く飛んでいた、100m以上の跳躍だった。服は紫の何かに変わり、両手には大きな手甲と爪が付いていた。これであれをバラバラしろ、ということなのだろう。
誰かに望まれたかのようだった。だからその望み通りにあれを殺してやる。容赦なく完璧に。
こちらに気付いたのだろうか、乙女型が卵型の爆弾をこちらへ向けて投射してくる。避けろ、でなければ弾かれる。敵に食らい付け。
そう思ったと同時に腰の何かが起動し、黒い炎を真横に噴射した。とんでもないスピードで僕は真横に移動していた、卵型爆弾が後方へと飛んでいく。これで回避しろということなのだろう。
便利な代物だ。
複数投射される卵型爆弾。腰の何かは僕の意志に間断無く反応してくれた。物理法則をねじ曲げんばかりのスピードと変則機動で接敵。そして振りかぶった右手の爪で乙女型の頭を引き裂いた。
同時に爪から発生した黒い斬撃が乙女型の頭部の三分の一を抉っていた。血のような物は噴き出すことはなかったが、何かしらの命を削り取ってやった感覚が手に残る。これならこいつを殺しきれる。そういう確信が沸いた。
だから、もっと抉ってやる。もっと削り取ってやる。もっと、もっと!
バラバラにしてやる!
そのまま乙女型の頭から下半身側にむかって"掘り進む"ことにした。両手の爪でどんどん真下に向かって抉り進んでいく。ゴリゴリと黒い斬撃が乙女型の身体を抉り取っていく。
しかし、その抉る量と乙女型の体積が釣り合わない、回復しているらしい。確かに抉った部分の体積が膨張しているのが眼の端で見て取れた。
まあ、僕の方が早いのだが。
しかし、途中で爪が弾かれた。四角錐状の構造物に爪も黒い斬撃も弾かれた。パワーが足りない、もっと思い切りぶっ叩くべきなのだろう。そうだ、もっと力を込めて。
視界に情報がデータとして表示される。同時に『擬似重力式人工筋肉、補助開始』と表示されていた。ブンという音と共に身体周辺の空間が歪む、これが僕を補助する何かしらの力が作用しているのだと理解できた。これで攻撃すれば良いのだろう。
『補助出力最大』
「フンッ!!」
単純に思い切り四角錐状の構造物を踏みつける。豪快な金属音を響かせて、乙女型が真下へと凄まじい勢いで吹き飛んだ。地面と構造物との間に凄まじい速度で挟まれた乙女型の身体はブチブチと引きちぎれて周辺に飛び散った。
構造物だけが地面に転がっていた。その上に着地し、砕けるまで踏みつけていく。ガキンガキンと火花が散り、少しずつヒビが入る。ヒビの間から光が漏れ、亀裂が広がっていく。あと、もう少し、まだ強く踏みつける。
『脚部爆砕杭展開』
バキンと踵部分から杭が飛び出し、それを亀裂の中へと叩き込む。そして"点火"する。これが、この構造物を壊すのに適した装備であることが直感で理解出来る。硬いのを壊すなら中から爆発させた方が効率が良い。
ボグンッッ、とくぐもった音をたてて構造物が飛散し、七色の光を撒き散らしながら消滅していった。これがこいつらの死んだ時の合図。だが、まだ山羊型が残っている。
「あと、一体」
「あんた、誰よ?」
背中から声をかけられ、振り返ると黄色い服になった犬吠埼さんが居た。その横に樹さんも居た、緑色の服を着ていた。不可解な顔でこちらを見ていた。僕が戦っているのが不思議なのだろうか。
「犬吠埼さん達も戦ってたの?」
「え、あ、はいっ!」
「僕も気付いたらこんな感じだったから、僕も戦えると思う、あと一体いるからもう少し頑張ろうか、樹さんは大丈夫?」
「ひゃ?!え、だ、だいじょうぶれす!!」
なんで噛んでいるんだろう。いつもなら普通に返答していたのに。
「結城さんと東郷さんは?」
「ええと、今はあたし達二人だけで戦ってます、はい」
「そうなんだ、位置的に山羊型の奴が近付いてるから二人から遠ざけよう」
先に行くね、と言い残して跳躍する。
再び腰の装置を操作しようとした瞬間、視界に『光輪の超過駆動を検知、直結回路の断線の危険性、内部冷却機関の排除』と表示された。それと同時に腰の装置から赤熱化したシリンダーが飛び出し、腰の装置の反応が停止した。
使いすぎで壊れた?いや、壊れたというより使用期限が過ぎただけ、その証拠に赤熱化しているのはあのシリンダーだけだった。機能的なクラッシャブル機構が作動しただけだ。
だとすると、先ほどまでの力は出せない。
ヤバい、と思った矢先。山羊型の角の一つが真っ正面から飛んできた。跳躍中の僕に回避する手段はない。直撃する。
角の切っ先が当たる瞬間、目の前に20cmくらいのまるっこい何かが現れた。何だこいつ?という疑問と共に衝撃が襲う。
気付いた時には地面へと叩きつけられていた。肺の中の空気が無くなっていく感覚、息苦しさと身体への衝撃が僕を襲う。
だが、眼はつぶらなかった。眼をつぶれば畳み掛けられる。動いて避けなければならない。そのままやられる。
『衝撃確認、回避動作推奨、機動用牽引線を起動します』
腰の装置が一部展開し、アンカー付きのワイヤーがスパークしながら真横に飛んでいく。地面を覆う根に突き刺さるアンカー、巻き取るかどうかの承認が出る前に山羊型の攻撃が再び飛んできた。それも2つ。
真横への跳躍、一つ目の攻撃を回避した。そして即座に巻き取りを承認すると腰の装置が放電しながらワイヤーを高速で巻き込む。僕の身体は高速で移動し、もう一つの攻撃を回避した。
しかし、どうやって倒す?回避で手一杯じゃないか。とりあえず、近付いて爪を当てないことには話は進まない。
「どおッッりゃあああッッ!!!」
大声で飛び込んでくる黄色い移動物体=犬吠埼さん。その手に持った大剣を山羊型の頭に盛大に叩き込む。ガギン!!と火花を散らすがその大剣の刀身の半分も食い込んでいなかった。
「なっ?!かったいわね?!!」
敵の硬さに驚く犬吠埼さん。そこに犬吠埼さんを振り落とそうとする敵の攻撃が降りかかる。ワイヤーによる高速移動で彼女を横から飛び付き、攻撃範囲から遠ざける。真後ろを通過する敵の攻撃、敵から離れた地点に着地する僕達。
「あ、ありがとござまーす!」
「なんで敬語なの、厄介なあの四本の角を先に潰そう、繋がってる靭帯はさほど頑丈ではなさそうだから、全部まとめて切れそう?」
「へ?!私?た、多分切れると思います…よ?」
「まあ良いや、僕が正面から行くから、気付かれないように根の下を潜って敵の横から攻撃お願い」
「りょうかい!!」
犬吠埼さんがブンブンと頭を縦に振るのを確認してから、山羊型に向かって跳躍する。敵はすぐにこちらへと攻撃をおこなう。飛んでくる角は基本的に靭帯で繋がっている、筋肉的な稼働をしていない事を見ると、靭帯の根元で振り回してる。だから、根元がどう動くかで多少の動きは予測出来る。
だから、最初の攻撃は右斜め下から来るのだってわかる。
「おらぁッ!」
空中前転からの右足による踵落としを角に当てる。弾けなくてもそれを足掛かりに再びの跳躍が出来る、二発目の真下から来る攻撃を避けるために。
身体一つ分ずれた位置に敵の攻撃が通過する。これで二発、残り二発分。そしてこちらの踵の爆砕杭の残り弾数は両方合わせて"6発"ある。
敵の懐に飛び込むくらいの加速力は出る。
一発目を点火、炸裂する杭の爆発力で前方へ加速。三発目の角が飛んでくるのを確認した後に二発目を点火真下へと加速。続けて敵へ向けてワイヤーアンカーを射出、敵の胴体部分へと突き刺す。
四発目の角が真っ正面から飛んでくる。真上に向けて三発目の爆発加速、角は回避、杭の残りは三本。
「一本あれば硬くたってッ…!!」
ワイヤーアンカーの巻き込みを最大速度設定、加えて二発分の爆発加速しながら最後の一本を敵の胴体へと向けて叩きつける。
バギンッッ!!と見事に突き刺さる杭、そして点火。山羊型の内側から炸裂し爆炎が亀裂から吹き出し、その外装を飛び散らせた。しかし例の硬い構造物は露出していない。
そして空中での姿勢制御を失った僕に再び角が襲いかかる。しかし、こちらの方が少し上手だ。
「どおおおりゃああああっッッ!!!」
一際巨大化した犬吠埼さんの大剣が横薙ぎに振るわれる。山羊型の全ての靭帯がものの見事に切断され、上半身が無惨にも地面へと落下した。
これで敵の攻撃手段は奪った。だが、これからどうする?犬吠埼さんの攻撃は少ししか通らない、僕の最初に使った力も爆砕杭も使えない。どうすれば良い?
「封印の儀を使います!!あなたも!」
「え?何をですか?」
「封印です!スマホに祝詞が出ますからそれを読んでください!」
スマホ?どこに?と思ったが、スマホを見たいと思った瞬間に花びらを散らしながら右手にスマホが出現した。画面には文章が掲載されていた、これが祝詞と言うらしい。長々しく文章が書かれていた。
「これか、こんな長いの読むの」
「大人しくしろぉッッ!!!」
犬吠埼さんが思い切り大剣を地面に突き立てると白い枠が展開し、山羊型を包んだ。というか祝詞言ってない、全然読んでない。
「え、読まないの?」
「気合いです!気合い!」
気合いらしい。とりあえず気合いで両手を前に出すとこちらから既に展開した白い枠に対して力が流れ込むのを感じた。ホントに気合いだった。
白い枠に囲まれた山羊型はその内側に内包していた硬い構造物を剥き出しにしていく。同時に地面を覆っている木の根が焦げていくのが確認出来た。それが不吉な物であることを直感で理解できる。
「早く倒さないと現実世界に被害が出ますんでお早めに倒しちゃってくださいっ!!」
「なんで敬語なんですッッかぁ!!」
爪による斬撃。難なく攻撃が通り、構造物に亀裂が入る。構造物は個体によって特性が違うのか?そう感じた瞬間に、紫色の煙が噴き出した。
特性が違う。それを確認出来たと同時に追撃で爪による攻撃をおこなった瞬間、発生した火花が紫色の煙を一瞬で炎の塊に変える。
炸裂する気体、その爆発的膨張率は兵器にも転用されている。気化爆弾と呼ばれる物と同じ原理だ。そんなものを至近距離でまともに喰らった僕が地面にめり込むくらいに吹き飛ばされるのは自明の理だった。
丸い何かが展開したバリアが致命傷を防いだが、叩きつけられた衝撃は僕の身体を一定時間動けなくするには充分だ。
「がぁッ……くっそぉ…」
「大丈夫ですか!?!」
「こっちは良い!早くトドメを刺して!!」
「前が煙で見えません!!!」
確かに紫色の煙の視認性は最悪だった、1メートル四方の煙で前が見えなくなるほどだ。しかも攻撃を加えれば火花で爆発する。
手詰まりだ、それに白い枠に表示された数字がどんどんと減少していくのが確認出来る。もし、これが封印出来る限界時間だとすると、もう時間がない。
「あ!下の数字はエネルギー残量なのでその数字が無くなったら終わりです!」
本格的に詰んだかもしれない。
「お姉ちゃーん!!!」
跳躍して樹さんが、こちらへと合流する。僕の戦闘を見て犬吠埼さんだけがこちらへと来たのだと説明してくれた。二人だけで始末出来ると思ったらしい。樹さんもそう思っていたらしいのだが、さっきの爆発を見てこちらに来てくれたらしい。と、犬吠埼さんの右後方から僕に説明してくれた。よそよそしくて悲しい。
まあ、とりあえず。
「時間がないので、何か案がある人は挙手を」
「はい、あなたのさっきの黒いぶわーってしたので破壊は出来ないんですか?」
「今は使えないです、使えるのはワイヤーアンカーだけですね」
「は、はい、お姉ちゃんが剣をおっきくしてうちわみたいにぶわーって煙を飛ばす……とか?」
「できます?」
「そんなにおっきく出来ません、樹のワイヤーで何とか捕まえられない?」
「見えないから無理だよぉ…」
「…見えればやれますか?」
「た、多分できます」
「じゃあ、犬吠埼さんは樹さんが飛んでいかないように守っててください、多分一回しかチャンスないですから、外さないようにしてくださいね」
それだけ伝えると即座に煙の中へと駆け出していく。爆発性の気体で前が見えないのであれば、全部爆発させてしまえば消えてしまう。何も見えない中で器用に爪で指パッチンを行い、"火花"を散らす。
「ぶっ飛べ……!!」
煙が炎へと変わり、それが煙全体へと伝播していき、轟音を立てて大爆発を起こした。丸い何かがバリアを展開し、爆炎から僕を守る。後は二人に任せる。
ぶっ飛んで行く中、眼の端で樹さんが構造物へと飛び掛かるのが見えた。腕から放たれるワイヤーが構造物をがんじがらめにした。それを引き絞るとワイヤーはいとも簡単に構造物に食い込んでバラバラにした。
七色の光が空に向かうのを地面に叩きつけられながら見つめていた。何とか勝てた、この丸い奴のバリアがどれだけ耐えられる物なのかが賭けだったが、なかなか優秀らしい。
丸い何かがこちらを振り返り、その愛らしい尻尾と角を誇らしげに僕に見せつける。良く見たら背中には小さい羽が生えており、トカゲっぽい見た目の顔付きだった。竜がデフォルメするとこんな感じなのだろう。
そんな感じで地面から立つと木の根に覆われた世界が光を撒き散らしながら崩壊していく。先に光の崩壊に巻き込まれたのか二人は確認出来なかった。多分、戦いが終わるとこうなるのだと、僕は勝手に理解した。
光が僕を包んだ次の瞬間、反射的に閉じていた眼を開けると僕は学校の屋上に立っていた。
目の前には犬吠埼さん達勇者部がこちらを凝視しながら棒立ちしていた。出で立ちがおかしいのか、それともまだ変身したままなのが気になるのだろうか。
「あ、ホントに助かりました、あんな危ないこと平気されるなんて……」
「それが一番手っ取り早かったからさ、犬吠埼さん、樹さん、結城さんと東郷さんもケガはなかった?」
え、はい。と全員から返答が来るが、何故か反応がおかしい。あの世界で僕と合流してから反応がおかしいのは気付いていたが、何故なのか全然わからなかった。
「もう、戦いが終わったんだからみんないつも通りで良いよ、それよりこんなところに5人集まってたら何か言われるから早く教室に帰ろうか、犬吠埼さん、みんな心配してるよ」
「……もしかしてだけど、あんた真優?」
「え?なんでそんなこと言うんだい?」
ゴソゴソとポッケから手鏡を取り出して犬吠埼さんは僕に向けた。なんでこんなことを?と犬吠埼さんに質問しようとした瞬間、鏡の中の自分を見て押し黙ってしまった。
茶色の"腰まで届きそうな長いポニーテール"、えらく"凛として整った顔立ち"、砂時計のようにクビれた肢体、胸についた大きい塊が二つ。
スマホの中に入っていた写真に写っていた女性がそこに居た。僕が彼女に"変身"していた。母さんと予想している女性と瓜二つの姿になっていた。
「あんた、本当に真優なの?」
犬吠埼さんの質問がえらく頭の中で残響していた。