結城友奈は勇者であり、彼もまたそうだった   作:ビブロス

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次代

相良二夜が天の神の炎に身を焼かれて焼失し、その死に関与した者たちを全員地獄へ叩き落とすために大葉継人が冷酷な復讐者へと変貌を遂げてから、二十八年の月日が流れていた。

西暦から神樹空間の平穏が保たれる表向きの世界の裏側で、大赦の組織構造は一つの絶対的な「影」によって支えられていた。

大赦第8技術課・最高神官。そして、大赦内部の異分子や急進派を暗殺・粛清する裏の実行部隊『鏑矢』の最高責任者。

かつて少年だった大葉継人は、今や四十一歳となり、大赦で一目置かれている権力者へとなっていた。二夜を実験台にして奪った急進派の連中を一人残らず排除し、海辺で拾った赤ん坊──二夜が遺した息子を密かに育てる傍らで、彼はただひたすらに、二度と大切な者を奪わせないための技術を作り続けていた。

しかし、神樹の力がじわじわと衰えを見せる世界において、敵は再度侵攻する。

 

 

「──神託が降りた」

大赦の深部、神樹の霊威を祀る密室で、継人は静かにその報告を受けた。

バーテックスの侵攻が再び大規模化する。だが、大赦によって新しく選ばれた勇者は、わずか三名。

さらに、その三名だけの戦力では押し寄せるバーテックスの群れを食い止めることは不可能であるという、死の宣告に等しい神託が示唆されていた。

大赦の上層部は、即座に一つの決断を下す。

三十年前の戦い以来、大赦の地下深くに存在するカプセルで「冷凍睡眠」状態に置かれていたかつての勇者──継人の姉である大葉椿の復帰である。

「正気なのか、あなた方は」

大赦の地下施設。無機質な冷気が満ちる冷凍睡眠カプセルの前で、継人は大赦の神官たちを射殺さんばかりの鋭い眼光で見つめていた。

「姉の寿命は、あと一回の戦闘が限界と思われます。一度でも変身して精霊の力を引き出せば、その瞬間に肉体が限界を超え、死に至る、それがわかった上で起こすのですか?」

継人の抗議に対し、白装束に身を包んだ現・大赦最高神官は、一切の感情を交えずに冷たく言い放った。

「神樹様の神聖な神託には逆らえぬ。新たな三名の勇者が成熟するまでの不確定要素を埋めるため、過去の勇者である彼女の力を一時的に借りるだけのこと。大葉最高神官、貴殿は技術提供のみを行えばよい」

「……ならば」

継人は手元の端末の設計図を見せた

「ならば、せめて俺たちが第8技術課で開発した装備を新たな勇者たちに搭載させてくれませんか?装甲と機動力の向上を目的とした改善案も既に作成済みです。回避と防御性能を限界まで引き上げた兵装システム。これなら、少女たちへの負担が減ります」

「却下だ」

最高神官は冷淡に一蹴した。

「神樹様から賜った神聖なる勇者の力に、人間ごときの浅ましい技術を過剰に組み込むなど言語道断。神樹様の勇者には最低限の補助があれば十分だ。人の手が混ざることを神樹様はお望みにならん」

「……わかりました」

継人は拳を強く握り締め、爪が皮肉にも皮膚を破るほど力を込めた。

技術を組み込むことを神樹が望まないというのは欺瞞なのだ。現在の勇者システムに内蔵されている技術は大半は最高神官の息のかかった技術課が作成しているが、その根幹部分の技術理論自体は継人が作り出したものである。これ以上継人が関わることでその功績が継人に移る事を危惧しているのだ。継人は功績等全く視野に入れてないのにだ。

またこのコイツらは、何も知らない子供たちを神の生贄として使い潰すつもりなのか?と継人は苦々しく思う。

十三年前、二夜を不条理な実験に巻き込み、奉火祭の炎へと投げ込んだ大人たちの冷酷な顔が不吉に脳裏をよぎる。大赦の本質は、どれほど時代が流れても何も変わっていない。自分たちの信仰のために、幼い少女たちの命を無機質な数字として処理するシステム。

やがて解凍処理が完了し、医療ベッドの上でゆっくりと意識を取り戻した姉・椿のもとへ、継人は歩み寄った。

三十年前、少女の姿のまま時が止まっていた姉。だがその身体は、内部から酷く蝕まれ、衰弱していた。

「……わかるか?姉さん、継人だよ」

継人は椿の手を握り締め、押し潰されそうな声で語りかける。

「継人……?」

「ああ、そうだ」

「継人はこんなおじさんじゃないわ、あといつも私を御姉様って呼んでたわ」

「……空気読もうか、姉貴」

「あー!やっぱそっちの呼び方の方が良いわ!姉さんとか畏まった言い方やめてよね!」

カッカッカッ!と大声で笑う椿。継人は一応コイツ衰弱してるよな?と疑ってしまう。

「いやー、老けたわねアンタ」

「28年経ってるんだ、老けるよ」

「そうよね、二夜は?」

その名前を聞いた瞬間、継人は顔が強張る。それを見て椿は何か悟ったように顔を伏せた。

継人は今までの事を全部椿に話した。多くの勇者が死に、二夜が奉火祭により贄とされたことを。そして今、再び戦いが始まろうとしており、新たに3人の勇者が選ばれたことを。それを補う為に椿が起こされたこと。せめて自分達が作った技術を搭載したかったが、それも組織内の政治的理由で拒否されたこと。

「俺が大赦の重要な地位に立ちながら……、また姉貴にこんな重荷を背負わせることになってしまった。」

「……継人」

「大赦の連中は……あいつらは、また新しい子供たちを犠牲にするつもりなんだ。だが、俺も同罪だ、死んでいったあの勇者達を大赦に利用させたのは俺だ、俺が理由を作ってしまった……」

ベッドの上でゆっくりと身体を起こした椿は、顔色こそ青白かったものの、どこか包み込むような温かい、そして揺るぎない瞳で弟を見つめた。

「謝らないで、継人」

椿は優しく微笑み、弟の手を握り返した。

「私は目覚めれて良かったわ、今度は最後まで守れるもの。……技術で守りきれない部分があるなら、私が直接教え込むわ、これまでの戦いで私が学んだすべてを、命の守り方を、生き残るための戦い方を、あの子たちに叩き込むの。二度と、晴美ちゃんや二夜ちゃん、死んでいった勇者の人達みたいな哀しい犠牲を出さないためにね」

だから、と椿は続ける。

「貴方が死んでいった彼女達に贖罪したいのであれば、貴方が望み、貴方がすべきと思う事、貴方の責務を全うしなさい、それが彼女達へのケジメになる」

椿は大赦から返還されていた手元のスマートフォンを取り出すと、継人に渡した。

「私の命は残り少ない。……だから、貴方が入れたいと言っていた装備をこれに全部入れなさい」

「戦うつもりか?死ぬかもしれないんだぞ」

「だからよ、死ぬことがわかってるならアンタ死なないように装備を入れるでしょ、そのデータを次代の勇者の為に使いなさい。もし最後になったとしても私は私のすべてを使って、新たな三人と、この世界を守る。それが……生き残ってしまった私の、大葉椿の命の使い方だから」

椿の言葉には、死を目前にした怯えや迷いは一切なかった。あるのは、過去の惨劇を繰り返させないという、静かで恐ろしいほどの覚悟だけだった。

 

 

数日後。大赦の極秘訓練施設。

新たな勇者として選出された三人の少女が、緊張した面持ちでパイプ椅子に並んで座っていた。

選ばれたのは、鷲尾須美、乃木園子、三ノ輪銀。

いずれも、まだランドセルを背負う年齢の、幼い小学生たちだった。

カツン、カツンと、静まり返った廊下に足音が響く。

重い扉が開き、一人の女性が現れた。

歩行機能に深刻なダメージを抱えた椿は、金属製の杖を静かに突きながら、三人の前に立った。

先輩勇者がやってくると聞いて背筋を伸ばしていた三人は、目の前に現れた「自分たちとさほど変わらない年齢に見える少女」を見て目を丸くした。

「……初めまして」

椿は静かに語りかけた。

その視線が、須美、園子、銀の無垢な顔立ちを順番に捉える。

肉体的には2つくらいしか違わない子達、とても幼く見えてしまった。

椿の胸に、激しい愛おしさと、痛烈な物悲しさがこみ上げた。

三十年前、自分たちが勇者として選ばれた時よりも、さらに若い子供たち。友達と校庭を走り回り、笑い合っているはずの小学生たちが、人類の存亡を賭けた死地に送り出されようとしている。

そして自分は今、その幼い命を戦場へと送り出す「先輩」であり「指導者」の側に立っているのだという残酷な現実。

「私は大葉椿。……あなたたちの先輩勇者よ」

椿はあえて表情を崩さず、冷静な声で告げた。

「見た目はあなたたちと少し上くらいに見えるかもしれないけれど……私は三十年前の勇者なの。長い冷凍睡眠を経て目覚めたから、実際の年齢はあなたたちよりずっと上よ」

三人は驚きに息を飲んだ。

「あなたたちに、一つだけ約束してもらうわ」

椿は三人の瞳をまっすぐに見つめた。

「『仲間を絶対に守ること』。……強くなることよりも、敵を倒すことよりも、隣にいる仲間を生かして一緒に帰ってくることを最優先にしなさい。それができないなら、今すぐ勇者をやめなさい」

椿はあえて、優しい笑顔を見せなかった。

これから始まるのは、一歩間違えれば命を落とす地獄の戦闘だ。生半可な優しさや甘えは、戦場で死に直結する。だからこそ、自分は心を鬼にしてでも、この子たちに戦いの厳しさを教え込まなければならなかった。

面会が終わり、三人が少し緊張した様子で控室を出て行った後。

訓練施設の廊下の陰から、一人の大赦の女性職員が現れた。三人の保護監督官を務める、安芸である。

安芸は椿の前に歩み出ると、深く、深く頭を下げた。

「大葉様……お目にかかれて光栄です。そして……心より深くお詫び申し上げます」

「……? なんですか、突然」

椿が困惑して眉をひそめると、安芸は頭を下げたまま、静かに言葉を続けた。

「このような幼いお子様方に世界の命運を背負わせ、さらに過去の戦いで深く傷つかれた大葉様を再び戦場へと引っ張り出す……大赦の非情さ、いくら詫びても足りません。ですが……樹海化した際、現場であの子たちを守り、導くことができるのは、過酷な戦いを潜り抜けてこられた大葉様だけなのです。どうか……あの子たちをよろしくお願いいたします」

深々と頭を下げ続ける安芸に対し、椿は調子を狂わされたように杖を握り直した。

「……頭を上げてください、安芸さん。あなたのような年上の大人に、そんな風に頭を下げられると困りますよ」

すると安芸は顔を上げ、大真面目な顔で言った。

「いいえ。冷凍睡眠期間を含めれば、大葉様は現在四十二歳であらせられます。私よりも遥かに人生の大先輩です」

「……いや、まあ、そりゃちょっと、痛い事実を突きつけないでくれる?」

椿は思わず溜息をついた。

だが、その胸の奥には、安芸という女性が単なる冷徹な大人ではなく、真剣に子供たちの未来を案じている良識人であることへの、小さな安堵が芽生えていた。

 

翌日から、三人の勇者に対する指導と訓練が本格的に開始された。

椿は衰弱した身体を押して杖を使い、連日戦術モニターの前に立ち続けた。

彼女が三人に徹底して教え込んだのは、かつて自分たちが凄絶な犠牲の中で学んだ「生存のための連携フォーメーション」だった。

現在、大赦が導入している「新型勇者システム」は、継人の技術の一部が使われていることで、三十年前のシステムとは大きく構造が異なっていた。

御魂の完全破壊までは至らないものの、バーテックスのボディに十分なダメージを与えることが可能である、さらに大橋に設置された神樹の力を利用した巨大な陣法『鎮花の儀』を発動させれば、敵を結界の外へと瞬時に撤退させることができる。

何より、椿の強い要求と継人の尽力により、この新型システムは「勇者に代償を払わせないこと」を最優先に設計されていた。

いくつかの機能をあえてオミットすることで、肉体への過剰な負荷を極限まで軽減させていたのだ。

これが大赦内部で許可された背景には、三十年前の大量の勇者の死亡により適性者が激減したという危機があった。さらに、「神聖なる勇者というお役目に就くのは、大赦に連なる名家に限るべきだ」という思想があり、「勇者を使い捨てにしない方向性」へと舵が切られたという背景も存在していた。

しかし、ある程度防御面が改善されたとはいえ、バーテックスの圧倒的な攻撃力は、直撃すれば勇者の身体を容易に破壊し得る。

「一人で突っ走ろうとしないで!」

訓練室のモニター越しに、椿の真剣な声が飛ぶ。

「手柄なんていらないの! 誰か一人が集中攻撃を受けないよう、常に互いの死角をカバーし合いなさい! フォーメーションを崩した瞬間、そこに命の危険が生まれると思いなさい!」

椿は、自分たちがかつて仲間を失った痛切な記憶を胸に刻みながら、三人に徹底的な守りの戦術を叩き込んだ。

その指導に応えるように、継人もまた、連日不眠不休で三人の勇者服の調整を行い、個々人に合わせた調整をおこなった。

 

 

そして──運命の初陣の日が訪れた。

平日。三人が小学校に登校した直後に、警報が鳴り響いた。

バーテックスの襲来である。

警報と同時に世界は樹海化し、時間停止空間へと飲み込まれていく。

初の本格的な実戦。

変身を完了し、樹海の上に立った須美、園子、銀の三人は、目の前に現れた未知の敵の放つ圧倒的な威圧感を前に、身体が強張っていた。

三人揃っての連携訓練はまだ完璧とは言えず、実戦の恐怖と焦りから、三人は指示を忘れてバラバラに動き出しそうになる。

「動いちゃダメ!」

樹海に立つ椿の声が、インカムを通して三人の耳に明確に届いた。

今の椿は変身していない。彼女は継人から手渡された戦術補助メガネとインカムを装着し、指示役として現場に臨んでいた。

樹海の空を通るのは、水瓶座のバーテックス。

巨大な体躯から、高圧の水玉と、あらゆる物質を穿つ高精度ウォータージェットを照射してくる個体だった。

「乃木! 槍の盾の機能を使って、正面で敵の注意を引きつけなさい!」

椿が即座に指示を飛ばす。

『えっ!? 乃木さんを一人で正面に立たせるなんて、そんなの危険すぎます!』

須美がインカム越しに叫ぶ。

『そうだぞ! 園子一人にそんな危ないことさせられるかよ!』

銀も反論の声を上げた。だが、椿は二人の言葉を一瞬で遮った。

「つべこべ言わない! 私の指示に従いなさい!」

椿の毅然とした大声がインカムを揺らす。

「三ノ輪! 乃木に攻撃が集中しているスキに、樹海の根の陰を通って右側面に回り込んで攻撃準備!鷲尾! 三ノ輪の移動を悟らせないよう、水瓶座に向けて牽制の連続射撃!場所は乃木の後ろに位置取りしなさい!手を止めないで!」

『でも……!』

「言い返している暇があったら動きなさい! 乃木にケガをさせたくないなら、一刻も早く自分の責務を果たしなさい!!」

椿の迫力に押され、三人の身体が動いた。

園子は覚悟を決め、長槍を構えると水瓶座の真正面へと踊り出た。

直後、水瓶座から放たれた高圧ウォータージェットが園子を直撃する。

激しい爆音と水しぶき、そして狂暴な衝撃波が園子の全身を打つ。

望遠で確認していた椿は、思わず息を飲んだ。

水煙が晴れると、そこには継人が調整した槍の盾をしっかりと構え、直撃を耐え抜いた園子の姿があった。

継人の技術はここまで確かなものになっていた。

代償を払わせず、小学生の少女にバーテックスの直撃を耐えさせた防御性能。椿は弟が積み重ねてきた努力と執念の結晶に、胸の中で感嘆した。

その隙に、銀は指示通り樹海の巨大な根の陰をハイスピードで潜り抜け、指定された間合いへと到達した。

勝機が見えた、その時だった。

『私だって……!』

功を焦った須美が、椿の指示を無視して弓を限界まで引き絞り、最大出力の矢を水瓶座へ向けて放ってしまったのだ。しかもその位置は園子の後ろ側ではなかった。

「鷲尾! 」

椿の制止は届かなかった。

放たれた矢は、水瓶座が自衛のために展開していた水玉により阻まれ、虚しく落下した。

攻撃が届かなかったばかりか、水瓶座の標的が、一瞬で須美へと切り替わる。

水瓶座が須美を捉え、即座にウォータージェットが照射された。

『鷲尾さんッ!!』

間一髪、真横から飛び込んできた園子が自らの盾で須美を庇う。

だが、不完全な体勢で庇ったため、衝撃を殺しきれず、園子は派手に吹き飛ばされて樹海の根に叩きつけられた。

『乃木さん!…腕が……!』

園子の左腕が痛々しく歪み、彼女は痛みに顔を歪めてうずくまった。

味方にケガをさせてしまったショックで、須美は絶句し、その場に崩れ落ちそうになる。

『園子!?』

「三ノ輪!動揺するな!相手にこれ以上撃たせるな!!」

銀に向けて椿の喝を入れる声が叩きつけられた。

須美に気を取られていた水瓶座は、完全に側面の警戒を解いていた。

根の陰から飛び出した銀の双斧が、旋風のような連続した攻撃が水瓶座の側面を深々と引き裂いた。

体躯の大半を粉砕された水瓶座が落下する。

それと同時に、大橋の中央に設置されていた『鎮花の儀』の陣法が輝きを放ち、神樹の絶対的な力がバーテックスの残骸を結界の外へと瞬時に押し流していった。

樹海化が解け、元の静かな大橋の近くの公園に、四人の姿が残された。

 

潮風が吹き抜ける公園。

園子は腕の痛みに耐えながら、なんとか立ち上がろうとしていた。

自分の身勝手な行動のせいで園子にケガをさせてしまった須美は、蒼白な顔で唇を震わせ、泣き出しそうな目で椿を見つめた。

「あの……私……」

「言い訳をしてはダメよ、鷲尾」

杖を使い近づいてきた椿の瞳には、厳しさと、それ以上に深い悲しみが宿っていた。

「あなたは功を焦り、私の指示を無視して勝手な行動に出たわ。その結果がこれよ。乃木が負傷した原因は、敵の強さではなく、あなたの軽率さにあるの」

「っ……!」

須美はポロポロと涙をこぼし、深く俯いた。

「いい? 勇者の戦いにおいて、身勝手な行動は全員を死に追いやる一番の悪手よ。あなたの行動一つで、大切な仲間が命を落とすことになるの。……仲間を第一に考えなさい。連携を何よりも優先しなさい」

椿は言葉を区切り、三人の顔を優しく、しかし力強く見つめた。

「……もし、あなたたちが連携を誤り、仲間を失いそうになった時……私は、自分の残された『命のすべて』を使ってでも、あなたたちを守るわ」

三人は椿を見上げた。

「私の身体は、もう限界なの。……あと一回、勇者として変身して戦えば、私は命を落とすかもしれない」

「え……?」

銀が驚きに目を見開く。

「だから……私にそんな真似をさせたくなければ。あなたたち自身の手で、お互いを守り合って生きて帰りなさい。……それが、私からあなたたちへの、最初で最後のお願いよ」

椿の胸に秘められた重絶な覚悟の言葉に、須美も、園子も、銀も、言葉を失ってただ頷くことしかできなかった。

やがて、大赦の医療部隊が到着し、負傷した園子の応急手当と、三人の回収が始まった。

送迎車に乗り込んで去っていく三人を見送りながら、椿は深く息を吐いた。

「……少し、厳しく言いすぎちゃったかしら」

誰もいなくなった公園に、静かな足音が近づいてきた。

弟──大葉継人が、椿の横にそっと立った。

「お疲れ、姉貴」

継人は椿の肩に優しく手を置いた。

「姉貴のおかげで、あの子たちは生きて帰ってこられた。誰も命を落とさずに済んだんだ」

「ええ……。でも、課題ばかりね。初陣でこれじゃ、次の本格的な襲撃には耐えられないかもしれないわ」

椿は少し不安そうに呟いたが、ふっと表情を和らげると、昔と変わらない「お姉ちゃん」としての優しい笑顔を継人に向けた。

「……ふう。すごく緊張したら、なんだかお腹が空いちゃったな」

年相応のチャーミングな笑顔を見せる姉に、継人もまた、十三年間ずっと胸の奥に閉じ込めていた柔らかな笑みをかすかに浮かべた。

「そうだな、どこかで美味しい物でも食べよう、というか朝飯食ってたろ」

「え、あんなの足らないわよ、力つけなきゃならないんだから」

「……杖ついてあんまり動けないんだから、あんまり食うと太るぞ」

椿は無言で継人を杖で殴り続けた。

 

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