結城友奈は勇者であり、彼もまたそうだった   作:ビブロス

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真優ー戦いについてー

「敵の名前はバーテックス、ウイルスによって発生し、人類を滅ぼすために四国に攻めてくる存在よ」

 

結局、変身を解いた僕の身体は元の男の身体に戻ることが出来た。あれはなんだったのか?と疑問に思うが、ある程度の状況整理の方が重要だろうと思い、次の日、勇者部のみんなと共に部室で説明を聞いていた。

 

「バーテックスを倒すために産まれたのが私達勇者よ、前までは倒すのに甚大な被害が出たり、追い返すだけで精一杯だったらしいけど、今は倒すことが出来るわ」

 

「後何体あれが出てくるんですか?」

 

「全部で12体、今回で2体倒したから残り10体ね、これ以降大赦が私達のバックアップをしてくれるから戦い以外のことはあまり気にしなくて良いわ」

 

前回の戦いで僕達が立っていた世界は樹海と呼ばれるもので、神樹によって基底現実を上書きしバーテックスとの戦いで直接的な被害を無くすためだ。これが展開されている間は時が止まる為、周囲の人間には僕達が一瞬で消えたように見えるのだ。勇者であることは秘匿されているため、そういった場合の対処を大赦がしてくれるということだ。

 

「あのー、風先輩、私達が勇者に選ばれたわけを教えて欲しいんですが」

 

「勇者は純真無垢な少女にしかなれない、その可能性が高い子を集めるために私が大赦の指示で勇者部を作ったの」

 

暗に自分が大赦の人間だと犬吠埼さんは語る。罰が悪そうな顔の彼女を見るに、勇者部発足から一年の間、そんなことを一切言わなかったようだ。彼女の性格上、そうとうな覚悟の元におこなっていた事なのだろう。

 

それは、此処にいる部員全員が思っていた。

 

「それで、今さら言うのもあれだけど、なんで僕は勇者になれたんだ?話を聞くからに僕がなれそうな要因ないんだけど?」

 

女じゃないし、と付け加える。正直、話を聞くかぎり僕は偶然にも勇者が変身に使用するスマホを持っていただけの一般人だ。条件上だと僕は樹海の時間停止に巻き込まれていたはずだ、しかし僕は勇者に変身し、そして性別も女性に変わっていた。

 

「そこんとこは私もわかんないかなぁ?大赦に聞いてみるわ」

 

「大葉先輩、もう一度変身してみるのはどうでしょうか?もしかしたら何かの間違いの可能性もありますし」

 

東郷さんが提案し、僕以外が満場一致でそうしようということになった。僕の反対意見は聞かれもしなかった。

 

カーテンを閉めきった部室の真ん中に立たされて、全員に見られながら変身アプリを起動した。前回と同じように紫色の光に包まれたと同時に次の瞬間には例の紫色の服に変わっていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

前回の戦闘時は全然気にならなかったが、履いてるハイヒールが凄く不安定でフラフラするし、髪の毛長くて頭が後ろに引っ張られてる気がするし、足元見ようとしても胸が邪魔で良く見えない。

 

女の子って大変だなぁ、という感覚が先に来た。

 

「わー、聞いてた通り美人さんですね大葉さん!!すごいね東郷さん!」

 

「友奈ちゃんの方が可愛くて美人さんよ、でも本当にお綺麗ですね大葉先輩」

 

「わー!スッゴい!勇者ってこんなことも出来るんだねお姉ちゃん!」

 

「いやー、これは流石に勇者でも無理でしょ、うわー、足なっが、胸でっか」

 

「……ちょっと、じろじろ見すぎです、少し恥ずかしいんですから」

 

下の服はホットパンツとニーハイのような物で構成されており、太ももがばっちり露なのである。ホットパンツもローライズ過ぎるからお尻が外気に触れてる気がする。あと多分下着の面積スッゴい小さい奴だこれ。

 

「うぉう、恥ずかしい顔ヤバいわね、いけないことしてる気分になるわ、ほらほらもういいから変身解いちゃいなさい」

 

頬を染めてこちらを見てくる勇者部員。恥ずかしいのはこっちだと言うのになんという人達だろうか、そちらが撒いた種ではないか。

 

半ば呆れながら変身解除ボタンを押した。何の反応もなかった。あれれ、とボタンを何度押してもエラー表示が出て全く反応しなかった。

 

「あれ?」

 

「どしたの真優?あんたまさか戻れないとか言うんじゃないんでしょうねぇ」

 

「なんかエラー出てる……『使用者情報の装備への適合化開始、機能制限と機密保持機構起動』……?なんだこれ?」

 

「あんた何やってんのよ、こうやんのよ、貸して!」

 

犬吠埼さんにスマホを取られてしまい、ポチポチと画面のボタンを押すが全く動く反応はなかった。それよりも……

 

「あ、待ってうちの父親が何かしてるから多分犬吠埼さんが変にポチポチするとマズ……」

 

『指紋認証外からの端末操作を確認しました』

 

プー、と警告音が鳴り、スマホの画面が警告用の壁紙に変わった。やっぱり、うちの父親がいつも勝手に入れてる指紋認証装置だ。これが起動すると家のパソコンでしか解除出来ない。無理に操作するともっとマズイことになったりするのだが、犬吠埼さんは未だにポチポチと押し続けていた。

 

「何これ?!え、どうなってんの?!」

 

「あ、ホントに押すのは止めた方が良いからちょっと待って」

 

『操作継続を確認、一部勇者装備の破棄を開始』

 

制止は間に合わず、ビーという一際大きい警告音と共に僕の勇者服がボンッ!と炸裂した。正しくは装備が外れない場合の緊急排除機能を使った強制停止フェーズなのだろう。

 

一部を残して全部吹っ飛んだので僕はエッチなデザインのパンツだけを残していた。パンツ一丁である。

 

「うわー、ホントにおっぱいおっきいですね」

 

樹ちゃんの素直な感想だけが部室に響いた。

 

 

 

 

 

 

犬吠埼さんがごめーん!!と大声張り上げながら保健室へと体操服を借りに走って行く。それを横目に先日使った人形劇の幕を身体に巻いて椅子に座って待機である。

 

大きいお尻が冷たく感じる。

 

「大葉先輩、昨日はありがとうございました」

 

椅子に座る僕の横で東郷さんが深々と頭を下げた。

 

「急にどうしたの?」

 

「昨日の戦いで私は恐くて変身出来なかったんです、何も出来ず、ただ見ることしか出来なかった」

 

結城さんと東郷さんは変身していない。昨日

、戦闘の後に犬吠埼さんから聞いたことだ。それを彼女は責めていなかった、逆に僕に対して二人を守って欲しいと言われた。彼女達が変身出来るまで、という期間付きではあるのだが。

 

「もし、だけどさ、犬吠埼さんや僕がピンチになったとき、東郷さんは動けるかい?」

 

「……わかりません、あんなに恐いのは初めてで、また動けなくなるかもしれません……」

 

「僕もね、次は動けるかわかんないんだ」

 

「え?」

 

「昨日さ、家に帰ってからご飯作る気にもなれなくてコンビニですませようと思ったけど、それも喉を通らなかったんだ、手なんてずっと震えてた」

 

後になって恐くなったんだよ、と僕は続けた。東郷さんは俯いていた視線を上げて僕の顔を見てくれた。下手くそに笑いながら自分の事を続けて喋る。

 

「確かにあの時は戦えた、それは多分東郷さんたちの方にバーテックスが攻撃したからなんだと思う、それでトサカに来ちゃってさ、そのまま駆け出したら変身してた、次はビビって動けないかもね」

 

「でも戦えたじゃないですか、私は何も……」

 

「でも、君は今どちらかと言えばみんなの為に戦いたいんだろう?」

 

こくりと東郷さんは頷く。

 

「今度は自分も守りたい、戦いたい、と思っているのなら出来るさ、逃げたことが力になる、今度こそは、ってね」

 

「そうですか……?」

 

「そうだよ、多分ね、勇者の適性ってのもそういう所なのかもしれないよ」

 

「そうかも……ですね」

 

そうだよ、と東郷さんに返事をした。僕が昔そうであったように、逃げることは悪くない、誰だって何回も逃げる。逃げた後、どうするかが大事なんだ。

 

僕は逃げた先で戦う事を選択した、彼女が何を選択するかはわからない。違うことを選択したとしてもそれは責める事ではない、しかし同じ道を、同じ方法を選択したときは力を合わせるべきなのだ。それが仲間というものだ。

 

「まあ、それよりも目先のことを何とかしよう、僕、どうやって家に帰ろうかな、言っちゃ悪いけど今"昼休み"なんだよね」

 

そう、昼休みなのである。昼休みに部室に集まって説明を聞いていたのだ。午後の授業が後2コマあるのにこの状況である。これから早退するという手もあるが、荷物が教室にあるし、担任が家に帰してくれるかどうかわからない。

 

「スマホの解除は出来ないんですか?」

 

「家のPCに繋げば解除出来るよ」

 

「あー、困難な状況ですね」

 

「でしょー、ヤバいよね」

 

ヤバいですね、と東郷さんが微笑む。それと同時にズバーン!と部室の扉が開いて犬吠埼さんが紙袋を持ってきた。

 

「体操服借りて来たわ!」

 

「助かります」

 

「あ、でもちょっと問題があってね……サイズがね……」

 

「サイズ?」

 

「そうサイズ」

 

 

 

 

 

 

時は飛んで五時間目開始直前である。

 

「てなわけでー!真優に今度やるボランティアの劇の為に女装させてたら化粧落ちなくなってウィッグと偽乳が取れなくなっちゃいましてー!脱いでた制服も鳶にかっさらわれてしまいましたー!いやー、びっくりびっくり!ね!」

 

「そういうことです、はい」

 

「あと何か声高くする方法やってたら声も高くなったまんまなんですよねー!いやーあっぱれあっぱれ!ね!」

 

「そうなっちゃいました、はい」

 

「え、えぇ……そうなのね、わかったわ大葉君はその格好でいいから席に着きなさい、犬吠埼さんも」

 

はい、と僕と犬吠埼さんはそそくさと席に座る。さっきの説明で何とかなったわね!と犬吠埼さんがこちらにサムズアップしてくるが、絶対に面倒事になりそうだからスルーしました、みたいな感じだと思う。絶対。

 

気になるのかチラチラとこちらへと視線を投げてくる奴の多いこと多いこと。なぜか男子の方が多いのが気になる。

 

『女装ってなんだよアイツ、ふざけんなよ』

 

こそこそと喋る声が聞こえてきた。普通なら無視してやるところだが、今言われると非常にムカつく。ムカついたので、キッ!とこそこそ喋ってたクラスメイトの男子を睨む。恥ずかしいから少し涙眼だったかもしれないが、効果があったらしく急いで僕と目線を外した。どうだっ!おら!

 

それよりも下着が見えそうなので必死に短パンの裾を押さえる方に集中したい。なんでサイズが小さいのしかないんだ!!気を抜くとエッチな下着のレースがはみ出そうになる。

 

上着もキツイ、なんでこんなに胸だけキツイんだ、下着付けてないからなんだか擦れるし。その上から長袖を羽織っているがジッパーがいちいち胸の先に触れるから変な感じがする。

 

最悪である。

 

 

 

 

 

 

六時間目が終了したと同時に勇者部の部室へと犬吠埼さんと共に駆け込む。そそくさと移動する僕が気になるのか廊下に居た生徒全員がこちらを見ていた。

 

どっと疲れが出たせいか部室の椅子にへたり込む。あと、女の子の身体のせいなのか少し疲れやすい気がする。

 

「いやー、凄かったわね、クラスメイト全員目が真ん丸だったわ」

 

「僕がこんな変な格好してるからだろ?」

 

「まあ、だいぶ扇情的で男を煽るような格好ではあると思うけどね」

 

ふっはっは!と犬吠埼さんは笑う。笑い事ではない、と文句を言いたいところだが、そんなタイミングではないだろう。

 

部室に一番乗りのせいで、僕と犬吠埼さんの息遣いだけが聞こえてくる。今さらながら変な状況である。バーテックスと戦う勇者に選ばれたと思ったら女の子に変身し、次の日には女の子の姿で授業を受ける羽目になった。

 

イベント事が目白押しだ。

 

「今日のさ、説明の時だけど」 

 

犬吠埼さんが少し真面目そうな顔で窓の外を見ながら喋りかけてきた。まるで面と向かって話すのが恥ずかしいかのように。

 

「何?」

 

「真優が居てくれて助かった、本当に」

 

「助けた記憶は無いけど?」

 

「居てくれるだけで良かったの、みんなを騙して勇者部に入れてさ、本当だったら東郷や友奈、樹にだって責められてもおかしくなかったわ」

 

「話が僕の方にずれたからだろ?」

 

「正解、それに東郷のフォローもしてくれたんでしょ?友奈が言ってたわ、『東郷さんの暗そうな顔が少し明るくなったって』」

 

「フォローになったかどうかわからないけどね、僕はそういうのが下手くそだからあまり信用しないでほしいな」

 

「一年の時に比べたら真優は相当大躍進してると思うわよ、あの時は一言も他人と喋らなかったじゃない」

 

「犬吠埼さんと勇者部のみんなが居たからさ、それで変われた」

 

そう、それなら良かったわ、と若干崩れた表情で犬吠埼さんは笑った。もし、犬吠埼さんが"あの時"に助けてくれなかったらどうなっていただろう。もしあの時"名前も知らない彼女"の言葉がなかったらどうなっていただろう。

 

僕は僕でなかったかもしれない。それは嫌だな、と思った。

 

「助けられた時、自分も誰かを助けたいと思ったらその気持ちに従うこと」

 

「何?」

 

「一年の時に犬吠埼さんに喋りかけてもらう前によく知らない女の人に言われた言葉だよ、この言葉の通りに君に助けられたから今度は僕が君を助ける番なんだと思ってる」

 

「あの時の長い黒髪の人?そんなこと言われたの?」

 

「うん、前髪長くて顔は良く見えなかったけどね、こんなに長かったんだよ」

 

髪がここまであった、ジェスチャーで教える。その時、ポロリとスマホがこぼれ落ち、床の手前で停止した。

 

空中で"停止"していた。

 

「……これって」

 

「ええ、そうよ、バーテックスだわ、もう来たのね」

 

「あ、僕のスマホ今動かないんだけど」

 

「え、あ、確かに」

 

ヤバッッ!!と二人で声をあげた瞬間に僕たちは光に包まれ、樹海へ、戦場へと駆り出された。

 




三次元制御式過重領域発生装置「光輪」
神樹の樹海化の時間停止現象を利用し、1cm四方の空間の歪みを変身時の力で生成。回転式三次元加速機を使い任意にその空間の復元力を抽出し物理的な力として使用することが出来る。これを複数装備することにより勇者の大幅なスペックアップにつながった。しかし、加速機に使われる素材は空間の復元力の中でも無傷でなければならず、超高密度超重量になってしまい、1つで400㎏ほどになる。通常は上向きへの指向性重力により緩和している。


今後こちらに装備設定を書いていきます。
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