結城友奈は勇者であり、彼もまたそうだった   作:ビブロス

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勇者部ー戦う理由についてー

私=結城友奈は昨日から勇者になった、らしい。まだ変身は出来ていない。昨日の初めての戦いで私と東郷さんは変身出来なかった、それは戦う意志が私達には無いということだった。

 

東郷さんはその件で落ち込んでいたりもしたけど、真優さんが何かフォローしてくれたようで少し明るくなっていた。

 

私は未だに考えていた。

 

私が戦わなかった場合の事。私が戦わない事でどうなるのかずっと考えていた。

 

もしかしたら何も変わらないかもしれない、風先輩達三人でどうにかなるのかもしれない。私が入ることでもしかしたら足を引っ張る可能性だってあるかもしれない。

 

それでも、私は。

 

『バーテックスを封印している間は現実にも被害が及ぶ』そう風先輩が教えてくれた。事実、大きな自動車事故が起こって怪我人が出ていたと噂で聞いた。

 

それを知って、私はどうする?

 

答えは決まっている。

 

そう、初めての戦闘で、変身出来なかったあの時、それから私は私の選択肢を一つに絞った。

 

だから、私は此処に居る。

 

 

 

 

 

樹海、神樹様が作り出した人を守るための結界、そして勇者達の戦場。

 

東郷さんと二人で勇者部へ向かっている途中で光に包まれ、私達は此処に居る。戦う場所に。

 

「今度は3体も……」

 

東郷さんがスマホの端末でバーテックスの位置を探る。直近に2体、細長く尖った尻尾を持つ『蠍型』と顔を中心に何枚かの板状の物を周囲に浮遊させた『蟹型』が表示されていた。そして遠くで口を2つ持った円盤型の『射手型』がこちらを視認していた。

 

もう敵はこちらを見つけている。

 

「友奈さん!東郷先輩!」

 

後ろから勇者に変身した樹ちゃんが飛び込んでくる、1人ということは真優さんと風先輩とは一緒ではなかったらしい。

 

「樹ちゃん、風先輩達は?一緒じゃなかったの?」

 

「お姉ちゃんは大葉さんと一緒だと思います、でも全然電話に出てくれなくて……」

 

位置を確認しようとマップを表示しても私達は三人の位置ははっきりと表示されているが、二人の位置は現れたり消えたり、はたまたランダムに地図上に現れたりしていた。

 

「先輩達との通信が撹乱されてる……?」

 

東郷さんはバーテックスの何かが先輩達との相互通信をぐちゃぐちゃにしているおかげで通信も場所の把握も出来ない、と説明してくれた。

 

敵はこちらを見ている、そう、敵は未だにこちらしか見ていない。

 

「友奈ちゃん、戦闘を開始すれば風先輩達もこちらに来るわ」

 

「東郷さん……大丈夫?」

 

「大丈夫、私は戦えるわ、"今度"は大丈夫」

 

東郷さんがスマホを操作すると、青白い光と共に勇者へと変身する。青白い勇者服、背中から突出した四本の触手のようなものが東郷さんを地面に立たせていた。素直に私は綺麗だと思った。

 

「東郷さん、綺麗……」

 

「ありがとう友奈ちゃん、スマホは使えそう?」

 

私のスマホの変身機能はやはり起動しなかった、あの時あんなにも恐がっていた東郷さんが変身出来たのに。私は変身出来ていない。

 

それを見て東郷さんは黙って私を自分の後ろ側へと隠し、細長い銃を空中から出した。それを中腰くらいの姿勢で構える。そして引き金を引いた。

 

ジュン、と空気が焼けるような音が鳴り、青白い光の玉が一番手前にいた蟹型へと直撃した。直撃による爆炎が晴れると顔の部分が丸く抉れている、とても強い攻撃なのだと理解できた。

 

「樹ちゃん、今撃ったバーテックスから先に倒すわ、横のバーテックスからの攻撃は私が抑える、だから安心して近付いて」

 

「わかりました!」

 

跳躍する樹ちゃん。蠍型が最初に動き出し、その細長い尻尾を樹ちゃんへと振り落とす。

その尻尾を東郷さんは細長い銃で撃ち、起動を変えることで樹ちゃんに尻尾が当たらないようにしていた。

 

「硬い…、でも」

 

細長い尻尾は球体状のパーツが連結した形状をしており、その接続部分はさほど太くはなかった。そこを東郷さんは重点的に攻撃を当て続け、尻尾が真ん中ほどで千切れる。

 

「すごいよ!東郷さん!」

 

「これであのバーテックスの攻撃手段はなくなった、次は……!」

 

すぐさま東郷さんは蟹型へと銃口を向けた。3発ほど撃ち込むと、バーテックスは板状の物を顔の正面へと動かし、玉を明後日の方向へと反らした。

 

「頭の良いことを…!」

 

連続して撃ち込むが、板状の物が縦横無尽に動き、玉を反らし続けた。板は攻撃に対して垂直には当たらないように正確に挙動していた。銃のエネルギーが切れたのか、東郷さんは装填の動作で銃へとエネルギーを注ぎ込む。敵へと攻撃が通らないかもしれないが、撃ち続ければ敵は防御し続ける。その隙に樹ちゃんが御魂を破壊出来れば良い。

 

板状の物の後ろから射手型の目線がこちらを見ていたことに気付くまで、そう思っていた。

 

気付いた時には射手型の口が開き、こちらに何かを向けていた。

 

何かしらの悪寒が東郷さんを突き動かし、私を自分の後ろに完全に隠し、銃口を射手型へと向けた。そしてその視線が重なった瞬間、両方が同時に"撃った"。

 

射手型の放った大きな刺と東郷さんの玉が空中で接触。玉は大きく反らされ、軌道をわずかにずらされた刺は私達の横2m付近に着弾した。

 

爆散する木の根、東郷さんが私の盾となって防いでくれたが、たった一つの瓦礫だけがそれをすり抜けて私に当たった。そのまま私は吹き飛んでしこたま根に衝突した。

 

消えていく意識の中で、東郷さんがこちらへ駆け寄るのと、射手型が再びこちらへ撃ち込もうとするのだけが見えた。

 

 

 

 

 

数分前、私=犬吠埼風と真優は一緒に樹海に立っていた。しかも、友奈達とは異常に離れた位置にだ。

 

地図を慌てて確認しても、かなり遠くの位置に友奈達のマーカーが確認出来るだけ、しかもその位置がランダムにずれていき、通信も繋がらなかったのだ。何らかの妨害する力が私達に作用している証拠だ。

 

「とりあえず、結城さん達と合流しよう、向こうは樹ちゃんしか戦闘経験が無いんだ」

 

「そうね……、ほら行くわよ!」

 

体操服姿の真優をお姫様抱っこすると、すぐさま跳躍した。一瞬、勇者服ではない真優に過剰な慣性がかかったのでは?と焦ったが、本人は真っ赤な顔で私に抱きついていた。

 

「……真優、あんたもしかして高いとこ苦手?」

 

「え?!ち、違う!ただ、自分の力じゃないから心許ないというか何と言うか」

 

「私が信用ならないと?」

 

「いや、そういうわけじゃ、んギャあああッッ!!!?!!」

 

超急降下と超急制動を連発してみたら、思いの外真優が私に思い切り抱きついてきて凄く可愛かった。もう少しやってやろうかと思ったけど、顔真っ赤で涙目でフーフー言いながら私に無言の圧力かけてきたので止めてあげた。

 

超可愛いからもう一回後でしてやろ。

 

男の時はショボくれた顔することはあっても、涙目になることなんか一切無かった。それなのに女の真優になってからは涙を見る機会が多い気がする。泣き虫にでも転向したのだろうか。

 

「……ちょっと、なんでニヤニヤしてるんですか」

 

「うへ、私ニヤニヤしてた?そりゃごめんねぇ」

 

「二度と!さっきみたいなの!しないでくださいね!」

 

真優はぺちぺちと私の肩を叩く。仕草が完全に女の子してるので途方もなく可愛い。女の子の身体だからそういうのに引っ張られてるのかな。可愛い。

 

「もう、あ、バーテックス見えました、戦闘光も確認出来ます」

 

「もう、とか言ってる、めっちゃ可愛いわね」

 

「ちょっとッッ!!」

 

「ひぇ、こわいこわい、もう少しであんた降ろすわよ、巻き込まれないとこに隠れときなさい」

 

「わかりました、犬吠埼さん、気を付けてくださいね」

 

了解、と真優を地上へと降ろして再び跳躍する。蠍型の尻尾が光の玉によって半ば程度ぐらいから引きちぎれるのを確認した直後、蟹型へと光の玉が飛んでいく。

 

しかし、その玉が反らされていた。

 

前回変身した勇者の中に光の玉を飛ばす人は居なかった、だとするとあれは友奈か東郷が変身して攻撃している証拠だ。

 

光の玉が蟹型へと複数撃たれていく、しかし全て反らされていく。そしてその後ろに射手型が居るのを確認した。そして射手型が刺を飛ばし、光の玉が飛んできていた方向へと着弾した。そして、続けて二発目が着弾する。

 

もうもうと爆煙が舞う。射手型が一番厄介なのだと気付く。先に潰さないと遠くから一方的にこちらが潰される。角度修正しながら再度跳躍、大剣を出しながら射手型へと近付く。

 

「お姉ちゃん!!」

 

後ろから樹が合流する。状況を聞こうとしたが、射手型から大量の刺が飛んでくる。大剣を盾にして防ぐと、すぐさま木の根の下へと二人で滑り込んだ。

 

「危なっ!?樹お疲れ、早速だけど友奈と東郷はどこ?」

 

「東郷先輩が変身して遠くから私の事を助けてくれてたけど、友奈さんはまだ変身してないの!だから、さっきの爆発に巻き込まれたかもしれない!!」

 

泣きそうな樹の顔がその事実を訴えた時、心底肝が冷えた。友奈が死ぬかもしれない、そういう事実が頭を過った。即座に大剣を盾にして射手型へと飛び掛かった。

 

こいつはすぐに潰さないといけない、その一心だけが私を突き動かしていた。

 

「樹は板ぶら下げてるバーテックスを足止めして!!こいつは私がっ!!」

 

跳躍中に射手型からの攻撃が放たれるが、それを大剣で防ぎながら強引に懐に飛び込む。そのままの勢いで頭頂部に垂直に大剣を叩き付ける。

 

「ここで潰してやるっ!!」

 

 

 

 

 

私=東郷美森が馬鹿だった。私なら十全に戦えると思っていた、私なら守れると思っていた、今度はちゃんとやれるんだと思っていた。

 

だが、違った。

 

友奈ちゃんが頭から血を流して倒れている現実が私を打ちのめす。お前はこうなのだと思い知らされる。今度なんて言葉はお前には"無い"のだと。

 

「友奈ちゃん……!!」

 

ぶれる視界を気合いで押し込めて、友奈ちゃんへと駆け寄る。瓦礫が当たった所から血がボタボタと零れ落ちていく、もしかしたら頭蓋が割れたのかもしれない、早く病院に連れていかないと死ぬかもしれない。

 

早く友奈ちゃんを連れて逃げなきゃ。

 

でも"どこに"逃げる?、逃げて"どうする?"

 

バーテックスを倒さなければこの空間は閉じたりしない。バーテックスを倒さないと友奈ちゃんはずっと危ないまま。あれを"滅ぼさないと"ずっと私達は危ないまま。

 

友奈ちゃんの為に、みんなの為に、あれを"殺せ"。

 

「……こんのぉっっ!!」

 

痛む身体を気合いで起こし、吹き飛ばされていた狙撃銃を再度展開、射手型へと銃口を向けた。逆襲しろ、やり返せ、あれを可及的速やかに滅ぼせ。友奈ちゃんを傷付けたアイツを殺せ。

 

銃口を向けた先に射手型は居た、だが、それよりも手前に蠍型が存在していた。私が砕いた尻尾は完全に再生し、その射程距離内に私をキッチリと収めていた。

 

舌打ちする暇もなく、その尻尾が私に振り下ろされる。狙撃銃をかなぐり捨ててもう一つの二挺の散弾銃を引っ張り出す。狙いもあまり定めずに発砲した。

 

尻尾を一部破壊出来たが、その切っ先は健在で思い切り私の脳天目掛けて直撃した。卵型の精霊、"青坊主"が私を守り、致命傷は防いだが、その威力で私は真後ろに吹き飛んだ。

 

ぐらぐらする頭と言うことを聞かない足を引き摺りながら起き上がり、再度銃口を向けると散弾銃は半ばぐらいからへし折れていた。そして、私が後方に吹っ飛ばされたせいで、友奈ちゃんから遠い位置に来てしまっていた。

 

揺らぐ視界の先で横たわる友奈ちゃん目掛けて、蠍型がその尻尾を振り上げていた。

 

選択の余地は無く、気付いた時には私は友奈ちゃんに覆い被さっていた。

 

良く間に合ったと思う。振り下ろされた尻尾は友奈ちゃんへと届かず、私の背中辺りで止まっていた。青坊主による精霊バリアが防いでくれていたからだ。

 

蠍型はそれを見て、一撃で私を倒す事を止め、連続攻撃に切り替えた。嵐のような尻尾の連撃が私と友奈ちゃんへと降りかかる。

 

耳が痛くなるような衝突音の連続。青坊主が必死に堪えてくれるが、その衝撃は私へと到達する。身体を襲う痛みに耐え、私は友奈ちゃんを抱き締めた。

 

絶対に友奈ちゃんだけは守る。そう決めたからだ。

 

骨がどうなっても良い、どんなに血を流したっても良い、どんなに我慢出来ない痛みだって耐えてみせる。

 

だけど、友奈ちゃんだけは殺させない。

 

もう絶対に殺させたりなんかしない。

 

「守るんだっっ!!私がっっ!!今度は絶対に私が守るんだっっ!!!!!」

 

痛みでボロボロ涙が零れる、それでも私は絶対に友奈ちゃんを離したりしない。それが、私が決めたことだから、私が二度と失いたくないものだから。

 

それでも蠍型の攻撃は止まず、攻撃の衝撃で私の自由に動かせる手も、痺れて来ていた。それでも離すものかと食らい付く。私の一番大事な人に。

 

私のたった一つの願いに。

 

「ごめんね、東郷さん」

 

ガキィンッッッ!!と痛烈な金属音が響いたと同時に、蠍型からの攻撃が止まっていた。痛くて瞑っていた眼を開けると、頭から血を流した友奈ちゃんが、私に向けて優しく微笑んでいた。

 

そしてその手で、女の子らしくても私の手をしっかりと握ってくれた右手で蠍型の尻尾の先端を受け止めていた。

 

ゆっくりと立ち上がる友奈ちゃん。覆い被さる私を左手に抱えながら、蠍型の尻尾は絶対に手放さなかった。

 

「東郷さん、ごめんね、私、少し頭悪いからさ、東郷さんが泣いてるのを目の前で見るまで全然わからなかった」

 

「友奈ちゃん……」

 

「私ね、私が戦わなくてもみんなが戦えるんじゃないかって思ってた、私が戦うことで誰かの足を引っ張るんじゃないかって思ってた」

 

友奈ちゃんはそっと私を降ろすと、私の涙を指で拭ってくれた。優しくてもその震えてる指で、優しく、謝るように。

 

「でも、それは違うってわかった、大事なのは私がどうしたいかって事、私が何をしたいかって事」

 

ビキリ、と蠍型の尻尾に亀裂が入る。変身もしていない友奈ちゃんの握力だけで、私の大事な友達の力がそれを成し遂げていた。

 

「私はこんな奴らのために東郷さんが、みんなが泣くのなんてもう見たくない!!私はみんなに笑顔でいて欲しいんだっ!!だからっっ!!!」

 

ボキリ、とへし折れる尻尾の先端、蠍型はその痛みを感じたのか大きく仰け反った。友奈ちゃんは悠然と蠍型の前へと躍り出る。私はその背中を見ていることしか出来なかった。

 

尻尾を急速に再生させると蠍型は友奈ちゃんへとその鋭い先端を振り下ろした、確実にその命を奪うために。

 

しかし友奈ちゃんは一歩引かずにその右手を強く握りしめて振りかぶる。左手に握られたスマホからは大量の桜色の花弁が吹き出していた。

 

「見てて東郷さん!!私の、変身っっ!!!」

 

振り下ろされる尻尾、その切っ先と友奈ちゃんの解き放った右手が衝突する。

 

ゴウ、と衝撃波が発生し、樹海の根に亀裂が入っていく。両者の切っ先は完全に拮抗していた。しかし、それも長くは続かなかった。

 

友奈ちゃんの右拳から順当に身体が桜色の光に包まれながら変化していく、いや、変身していく。勇者部結城友奈ではなく、勇者結城友奈へと変身する。

 

「勇者ぁっっっ!!!!」

 

その拳が真っ向から蠍型の尻尾をメリメリと砕いていく。友奈ちゃんの力が真っ正面から相手を打ち砕いていく。折れない心がそれを可能にする。

 

「パぁぁぁぁぁぁンチッッッ!!!!!」

 

衝撃。そして爆音。蠍型の尻尾は根元まで打ち砕かれ、本体は枯れ葉のように吹き飛び、地面へとめり込んだ。

 

友奈ちゃんはすぐに私へ振り返り、いつものように私にその右手を差し出した。いつもそこにあったように、これからもそうであるように。

 

「行こう東郷さん、みんなを守ろう、一緒に!」

 

「うん、友奈ちゃん!」

 

私はその手を取る、いつものように、これからもずっと、同じように手を繋ぐために。

 

 

 

 

 

 

僕=大葉真優は何も出来ないでいるのが嫌だった。みんなが戦っている中で、何も出来ないのはとても認められるものではなかった。

 

だから必死でスマホを弄っていた。

 

確かに父親のセキュリティは家のパソコンに繋げれば解除されるが、基本的にそういった仕様には抜け道が存在する。

 

道具は万全に、十全に、そして迅速に使われなければならない。そう、いつも父親が言っていた。そんな父親が家のパソコンに繋げないと解除出来ないセキュリティなんて物、抜け道を作らないわけがなかった。

 

裏コードに近い何か、そういった物があるに決まっている。

 

「だから、やっぱりだ!」

 

動かない画面で唯一反応していたアイコンを操作するとパスコードの入力画面が現れた。4桁の数字を入力しろ、と表示されていた。多分、此処で間違えるとまたしちめんどくさい事になるのは明白、間違える余裕はなかった。

 

父親は全ての端末にパスコードを付ける徹底ぶりだが、その管理のためにその端末に由来のパスコードを付ける傾向があった。

 

昨日頑張ってこの端末の中身を確認した僕なら解読出来るはずだ。だから、とりあえず、この端末に入力されていた誕生日を入れてみることにした。

 

スケジュールに書かれていた誕生日を、"二夜"と記されていたこの端末に記録されていた10月19日という数字を、入力した。

 

びっくりするくらい普通に開いた。

 

「セキュリティガバガバじゃん!!!」

 

大声挙げながら変身アプリを再起動する。吹き出す紫色の光が僕を包み、再び勇者の姿へと変貌させる。

 

跳躍しようとしたが、眼の端に情報が表示されていることに気付き中止した。

 

『使用者情報反映まで12時間53分、処理優先順位による機能制限により筋力補助10%まで低下、緊急の為"疑似重力式弾体加速装置"機能の制限解除』と書かれていた。

 

何?と思い少し跳躍してみたが、ほとんどジャンプ出来なかった。腰のワイヤーを使えばある程度三次元機動出来そうだったが、それほど早く移動出来ないだろう。

 

「だったら……!」

 

制限解除された弾体加速装置なる物を使うしかないだろう。それしかないんだから。

 

網膜操作で弾体加速装置を選択、右手の小手が一部展開し、爪が銃身のように円筒状に配置された。そして視界にマーカーが現れ、地面を指差す。

 

これを向けるのか?と変形した右手を向けると爪が飛び出し、ガリガリと木の根の塊を削り取った。

 

『弾体確保、圧縮形成開始』

 

塊周辺の空間が歪み、ゴリゴリと音をたてながら圧縮され、ライフル弾のような形へと変化していく。

 

『射出準備、加速用膨張室加圧中、銃身展開』

 

ガキン、と爪が伸び、銃身のようになる。視界に照準が現れ、バーテックスの位置が表示される。

 

「試してみるか…」

 

右手を蟹型の方へと向けると、照準が補正され、腰のワイヤーが地面へと突き刺さった。

 

『反動抑制、照準補正完了、射撃可能』

 

「あ、引き金どこだこれ?」

 

『射出』

 

ゴォン!!!と腹の底まで響く爆音と共に形成された瓦礫の塊が蟹型へと凄まじい速度で飛んでいく。そしてまともに着弾した。

 

反動で思い切り頭を打ち付けたが、また丸い竜みたいな精霊がバリアを張ってくれたおかげで無傷だった。

 

「いったぁ…、え、当たった?」

 

『対象の損傷確認、装填推奨』

 

拡大された映像には蟹型の中心の本体にクレーターのような損傷が確認できた。これでも相手にダメージは通るのがわかった。

 

「だったら、続けて…!!」

 

続けて地面を掘り返して弾を形成する。こちらに気付いた蟹型がこちらへと顔を向ける。それよりも早くこちらの方が撃てる態勢を整えることができた。

 

そして即座に射撃した。しかし、弾体は蟹型の板状の物に弾かれる。適度に角度を変えているおかげで弾体は明後日の方向へと飛んでいく。

 

「チッ!せっこいなぁ…!」

 

『敵の防御機構確認、物理防壁と判断、弾体の重心変更と回転による変則弾道を推奨』

 

躊躇せずに選択、再び弾体が圧縮形成されるが、その形状がさっきまでの物とは違っており左右のバランスが崩れていた。そして、銃身の役割を果たしていた爪の並びが螺旋状へと変化する。

 

『弾体及び回転軸形成、加速用膨張室加圧、回転開始』

 

シュルル、と猛烈な勢いで弾体が回転し始め、視界には螺旋のような弾道がラインで表示されていた。そして加圧が終わる。

 

「喰らえぇっっ!!」

 

先ほどまでとは違う反動と共に弾体が視界に設定されていたライン通りに飛翔する。蟹型が防御に使っていた板をすり抜けて本体へと直撃する。

 

大当たり、そして

 

「もう一っ発ァァァァツ!!!!」

 

既に形成していた弾体を装填し、急速加圧して撃ち出す。再び螺旋軌道で蟹型の本体に抉るように着弾、そして本体は横向きに倒れ込んだ。

 

「よし!」

 

『あ、あれ?繋がった?あ、誰か聞こえますか!?樹です!』

 

直後、樹さんからの通信が入る。慌てた声が脈絡なく飛んでくる。

 

「樹さん、真優です、いまどこに居ますか?」

 

『い、今変なのが当たって倒れちゃったバーテックスの近くです!』

 

「他の人達は?」

 

『お姉ちゃんは刺を飛ばしてくるバーテックスの相手をしてます!友奈さん達はエビみたいなバーテックスの相手をしてるみたいです!』

 

「わかった、すぐそっちに向かうから倒れてるバーテックスの御魂を破壊しててください、出来るならで良いです!」

 

『が、がんばりまひゅ!!』

 

噛んだ。気にせずに、腰のワイヤーを飛ばして移動を開始する。巻き取りと落下による加速を組み合わせて樹海の根を潜り抜けながら、バーテックスへと接近していく。

 

蟹型に近付いた頃には、本体から御魂が飛び出しており、樹さんが追いかけまわしていた。彼女の多角的な攻撃を御魂はヒョイヒョイと回避している、これがこいつの特性なのだろう。

 

「樹さん!!少し退いて!」

 

「真優さん!」

 

「早く!」

 

はい!、と樹さんは後退する。直後、装填していた弾体を飛ばす。御魂はそれに合わせて回避行動を開始するが、それは全くの無駄だった。

 

「散弾なんだよなぁっ!!」

 

回転による遠心力で炸裂する弾体が御魂へと複数着弾、その動きを停滞させた。それをチャンスと樹さんが飛び掛かり、そのワイヤーで御魂を真っ二つにした。

 

「流石だね、樹さん」

 

「ありがとうございます真優さん、あ、でもすぐにお姉ちゃんのとこに行かないと!!」

 

「そうだね、すぐに」

 

行こうか、と言い終わる前に僕達二人の所まで2体のバーテックスがぶっ飛んで来た。危うく巻き込まれそうだったので樹さんを抱えて逃げた。

 

「ちょ、危ないなぁ!」

 

「あ、真優と樹ごめーん!!そいつ一人じゃもて余したから持ってきたー!!」

 

「少しは通信入れてよ!」

 

へへへー、と笑って犬吠埼さんは笑う。しかし、もう一体は何処から来たのだろうか?すると蠍型の上から青色と赤色の勇者服が降り立つ、東郷さんと友奈さんだった。

 

「ごめなさーい!そのエビ持ってきたの私達でーす!」

 

「すいません!お騒がせしました!」

 

変身出来たのか、と安堵する。そんな僕の横に犬吠埼さんが降り立つ。一人で射手型を相手していたせいなのか息が上がっている。

 

それでも彼女は止まらない、止まってられない。

 

「一気に行くわよ!!封印開始!!いいわね!!」

 

「「「はい!!」」」

 

封印機能を展開、2体のバーテックスから御魂が現れる。一つはいきなり増殖を始め、もう一つは円上に高速で回転を始めた。

 

即座に形成した散弾用の弾体を増殖する御魂へと撃ち込む、だが増えるスピードが早すぎて散弾が全てに当たることはなかった。

 

「こいつっ!!」

 

「「だったらまとめてぇ!!!」」

 

犬吠埼さんの大剣が一際大きく変化、そして樹さんが同時に複数のワイヤーを展開。面と死角の無い多角的な切断が増える御魂をまとめて引き裂いた。

 

「もう一個は、すんごい早いから近付いたら私吹っ飛ばされそうだなー」

 

「任せて友奈ちゃん!!さっきはよくもやってくれたな外敵がぁ!!!」

 

ズドム!!と東郷さんが長い銃で即座に御魂を撃ち抜いた。一発であれを当てるのは相当な技術が必要だ。おぉー、と勇者部全員が感嘆の声をもらした。

 

そして御魂が同時に七色の光を天に向けて放ったと同時に樹海が解除を開始する。

 

眼を開けると学校の屋上に全員が帰って来ていた。変身も自動解除されたのか、全員制服に戻っていた、僕も制服になっていた。

 

「今回は大変だったねー、東郷さん」

 

「お疲れ様友奈ちゃん、凄くカッコ良かったよ」

 

「ホント?えへへー、嬉しいなぁ」

 

和気あいあいと二人が喋るのを見て、いつもの勇者部だな、と感慨にふける。横を見ると犬吠埼さんに樹さんが抱きついていた。今回も大手柄だったのは樹さんなので犬吠埼さんはいつも以上に頭を撫でまわしていた。

 

「うう、頭撫で過ぎだよぉお姉ちゃーん」

 

「御魂撃破が通算3つの大エースなのよあんた!わしゃしゃしゃー!!」

 

「うわー!!!」

 

「真優も、わしゃわしゃしてあげようか?」

 

「いや、良いよ」

 

「何よー全く、ていうかあんた一部変身解けてないわよ」

 

「え?」

 

「いや、髪の毛と顔が女の子のまんま……、ってもしかしてあんた変身解いてるの?」

 

アプリを見ても変身状態ではないと表示されていた。しかし、髪の毛は長いままだった、そのまま、変身したまま。

 

写真の女性へと僕は変化しているのだろうか?

 

 

 




網膜投影型多目的戦術統合機構「帽額」
頭の両脇及び鎖骨付近から直接網膜に投影し、戦況等の情報を勇者に認識させる装置。大赦と直接繋がっており、指揮所からの作戦指示及び援護の着弾地点、追加兵装の発注から敵のハイライトまで出来る。操作は網膜操作や思念操作が出来、装着者により変更が出来る。しかしネットワークが切れた場合、スタンドアローンでの性能は著しく低下するため、集団での運用が不可欠である。
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