前回の戦闘から1ヶ月半。その間も僕の顔と髪の毛、そして声も変身したときのままだった。
犬吠埼さんと話し合って、超凄い育毛剤がぶっかかって髪が超長くなって、女装のためにスキンケアさせてたら予想以上に僕が女顔になってきてしまった、声は楽しいから女声を続けてる、と苦しすぎる言い訳をすることとなった。
それは無理だろと思ったが、クラスの担任は『へぇ』の一言で終了し、クラスメイトはじろじろ見てくるばかり、特に男子。
体育の時の着替えの際などとても顕著で、隅でこそこそと着替えてると凄く視線が飛んで来ているのを感じていた。
そして変身して以来、父親には会えていない。簡易的なメールで仕事が忙しいと言ってくるばかりだった。スマホの件を聞きたくても聞けない状況が続いていた。
家に一人で居るのは寂しくないはずだったが、流石に1ヶ月半も父親が居ないとなんだか心細い。
心細いなんて気持ちが僕に有ったとは驚きである。
そして1ヶ月半後にバーテックスが来た。
いつもの樹海が現れて、今回は5人揃って一ヶ所に居た。やはり、前回のバーテックスのうちのどれかが悪さをしてたのだろう。
「今回は全員居るわね!敵はどこかね?真優くん!!」
「犬吠埼さん、また変なことやりだして……、双子型バーテックスは此処から前方700m付近……、あ、物凄く早い」
「早い?」
「時速250㎞、すぐ来るよ!」
え、と全員が反応する前にそれは来た。二脚走行する変な物体である。走り方等無茶苦茶なのだが、余りある脚力がそれを可能としてるのだろう、凄まじいスピードだった。
そして跳躍し、僕に向かって蹴りを放つ。凄まじいスピードで蹴られてしまえばこちらも只ではすまない。回避を優先するが、それをする必要は無くなった。
僕に蹴りが当たる寸前でその足に見たことの無い短刀が突き刺さったからだ。そのまま双子型はバランスを崩し、木の根にめり込んだ。
「何がっ?!?」
「チョロいっっ!!」
大声で降下してくる紅色。紅色の勇者、見たことのない勇者がそこに居た。その子は連続で短刀を双子型へと投げつける。
復帰した双子型は態勢をグルリと回転させ、起き上がる。その過程で直撃する短刀を足で弾き飛ばしていた。
しかし、その過程の間に紅の勇者は双子型の懐まで潜り込んでいた。暴力の竜巻の中へと躊躇なく進み続ける勇気と技量だった。
「対象を……!!!」
短刀二刀流で双子型の本体を突き刺し、離す。そのまま新しい短刀を二刀流で空中から取り出し、両足を切断、動きを封じた。
「殲滅……!!」
切断に使った短刀を頭部らしき部分に突き刺し、早撃ちのように二本の短刀を投げつけ、また突き刺した。
再び短刀を展開し、足元に一本。これで封印が起動し御魂が外に現れる。もう一本の短刀を手に、空中三回転を実行し、その勢いのまま御魂を真っ二つにした。
あっという間の殲滅に、僕を含めて勇者部の全員はびっくりしていた。紅の勇者はフフン、と自信満々で僕達を見下した目線を向けた。
茶髪の髪を二つのお下げににしたツインテールスタイル、少しつり上がった眼、均整の取れたスタイル。それを僕達は不思議そうに見つめていた。
「えーっと、誰?」
「ほんと、揃いも揃ってボーッとしてるわねあんた達、こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって?」
はん!と小馬鹿にした口調で紅の勇者は僕達を見回した。そして、僕をビシッと指差して宣言した。
「私は三好夏凜、大赦から派遣された正真正銘で正式な勇者、そして大赦が知らない勇者であるあんたを監視に来たの」
「へ、あ、それは大変ですね、御足労痛み入ります」
「あ、いえいえ……じゃなくて!!!大葉真優!男のあんたが何で勇者をやってるのか!やれてるのか!それを私が調べに来たの!ついでにバーテックスも完成型勇者の私が一人で殲滅してあげるわ!感謝なさい!」
ほう、と全員で三好さんの相づちを打ったところで樹海が解除されていく。六人目の勇者が居るとは全く聞いてないわね、と犬吠埼さんは首を傾げていた。
それよりも、大赦が僕を監視したいというのはどういうことなのだろう?いや、まあ、話を聞いてれば僕が特異な存在っぽいからなのはすぐにわかるから仕方ないんだろうけど。
ややこしくなりそうである。
次の日、三好さんは友奈さんのクラスに転入してきたそうで、放課後にどや顔で勇者部の部室に来ていた。
「転入生のフリなんてめんどくさい、でも私が大赦から派遣されて此処に来たからにはもう大丈夫!完全勝利よ!」
開口一番で凄いこと言い出した。監視、と先日言っていたこともあって学校に転入してくるのはある程度予測出来ていたが、なんで一人だけなんだろうか、監視なら複数人居てもおかしくはないはずだ。もしかして今横に飛び出してる精霊と一緒に監視、なんてことはないだろうけども。
それを頭の回転が早い東郷さんも気になっているようで、不思議そうに三好さんに質問を始めた。
「なぜ、今頃応援に来られたんですか?」
「私の勇者システムは先遣隊であるあんた達の戦闘データを元に構築されてるわ、その為に時間がかかったのよ、その分完全な勇者システムだから凄く強いけどね!あと!そこの大葉真優が勇者になって戦ってたから大赦が用心して私を送り込むの躊躇したせいよ!」
「へぇ」
「へぇ、じゃないわよ!もし変なことしてみなさい!勇者としての戦闘訓練を受けた私にかかればあんたなんかすぐに倒してあげるんだから!肝に命じておきなさい!」
むきゃきゃー!と憤慨気味に三好さんは僕を指差して宣言した。多分、これは監視ではなくお目付け役の方が正しい気がする。大赦としては目下のところ完全ノーマークだった僕をコントロールするために三好さんを送り込んだ、そういう感じなのだろう。
説明ちゃんとしてくれるし、変なことしたら、とかちゃんと条件設定を話してくれるから三好さんの人の良さが滲み出てる気がする。
やはり、勇者になる人は本質的に優しい気がしてきた。それを友奈さんも感じたのか満々の笑みで三好さんに
「そっか、それじゃよろしくね夏凜ちゃん!」
「いきなり下の名前呼び?まあ、別に構わないけど」
「ようこそ勇者部へ!あ!大葉さんもですね!」
「「え?」」
三好さんと二人で友奈さんの顔を見てしまった。友奈さんはそんな返答が来るとは思ってなかった、といった顔でキョトンとしていた。
「ぶ、部員なるなんて話一言もしてないわよ!」
「僕もしてないけど…」
「え、あれれ?違うの?勇者なのに?」
そりゃ勇者だけど、とは思ったがそれとこれとは別問題な気がする。
「あのねぇ!勇者のお役目ってのはおままごとじゃないのよ?そこんとこわかってんの?!って……んぎゃあ!!」
んぎゃあ?と三好さんが驚いた顔でいたので視線の先を見ると友奈さんの精霊である牛鬼が三好さんの精霊を頭から噛りついていた。
「ちょ!ちょっと何やってんのこのクサレチクショー!!」
\ゲドウメー/
「あ、その精霊喋れるんだ、スゴーい!」
「そんなこと良いから早くコイツを引っ込めなさい!!あー!よだれでべっちゃべちゃに!!」
\ショギョムッジョ/
べちょべちょの三好さんの精霊は心なしか悲しそうな顔で彼女にタオルで拭かれていた。可哀想に。
こんな感じで牛鬼に噛られるからみんなおちおち精霊を外に出せないのだ、先日東郷さんの青坊主が身体の半分以上丸飲みされていたのは笑ってしまったが。
それを考えると僕の精霊は何と言う名前なのだろうか、全然外に出てこないから全く気にして無かったが、流石に知るべきだろう。
スマホをポチポチと操作すると丸っこい竜が現れた。ふわふわと浮かんでいたが、どうにも疲れたのかすぐに地面に落ちて寝息をたてだした。
スマホには犀竜と記されていた。
グルグルと大きい寝息だけが、部室に響いた。全員の目線が犀竜に注がれていた。
「……ずっと寝てる」
「何よこいつ?寝てるのが得意なの?」
「うわー、大葉さんの精霊初めて見た!ムチムチしてる!」
友奈さんが寝てる犀竜の背中をつつく。すると犀竜はのそりと動き出し、いきなり凄いスピードで友奈さんの服の中に潜り込んだ。
「きゃっ!?うわ!あははははは!ちょっとくすぐったいよぉ!」
余りのことに一瞬動けなかったが、意外と大きい犀竜は服の中に入り込めずに下半身だけ外に飛び出していたので、尻尾を掴んで引きずり出した。
「ごめん友奈さん!コイツなんてことを」
「うわー、びっくりしたー!この子狭いとこ入りたがるのかな?」
一瞬ジタバタしていた犀竜はもう逃げられないと判断したのかダランと垂れて寝息をたてだした。いつでもどこでも外にいるときは寝るらしい。
「なんだこいつ?」
「大葉先輩」
「ん、どしたの?東郷さん」
「その子、渡してください」
「……なんで?」
「良いから、早く」
「……どうぞ」
可哀想にも東郷さんの逆鱗に触れてしまった犀竜は部室の端っこで縄で吊るされていた。なかなか特異なアートに見える。それを面白がってつつきまわす他の精霊達、何故か三好さんの精霊である義輝も一緒になっていた、精霊はこの環境に慣れたようだった。
部室の黒板の前で三好さんが腕を組んでいる。色々と話していて彼女との知識の差がだいぶあるとの事が判明したために勉強会が開催されることとなった。
「情報共有よ、とりあえず全員の戦闘方法の確認と、役割分担の決定、そしてシステムの説明ね」
「んじゃ私から、武器は大きさを変えられる大剣よ防御にも使えるわ、その分攻撃が大雑把で出が遅い、そんな感じよ」
「……馬鹿っぽいのにメリットデメリットちゃんと言えるのね、感激したわ」
「なんですってぇ?!」
「何よ!」
プンスカしている二人を他所に東郷さんが続けて説明を開始する。
「私の武器は狙撃銃と散弾銃で、長距離の戦闘が得意です、一応近距離戦闘は出来ますが、足が動きませんので移動速度は遅いです」
「動く時は私が担いでいくよ東郷さん!」
「ふふ、その時はお願いね友奈ちゃん」
「任せんしゃいだよ!あ、私はパンチとキックで戦うよ!あとパワーはあるっぽいよ!以上だよ!」
「あと、友奈ちゃんは物凄く可愛いわ、これは重要事項です」
「えへへー、ありがと東郷さん」
イチャイチャしだした二人。何だか続けて良いものかと思ったが、意外なことに樹さんが続けた。この二人のイチャイチャに慣れているのだろうか。
「私の武器はワイヤーでふ!」
「噛んだ」
「噛んだわね」
「はわわわ、ワイヤーです、ワイヤー!両手で合わせて8本出せます、ワイヤーは縛ったり切ったりできます、その分防いだり避けたりするのは苦手です」
うひー、と樹さんは顔を真っ赤に染める。噛んだ程度でこれとはなかなか可愛い人である。
「次は僕だね、武器は多分爪かな?最初は爪の攻撃と同時に黒いのが一緒に飛び出て凄い勢いでバーテックスを攻撃出来るけど、使い過ぎると腰の装置からシリンダーが飛び出して使えなくなりました、あと踵に爆発する杭が付いてるのと、腰からワイヤーアンカーが出るのと、この前右手からそこら辺の石を使って射撃出来るようになりました」
「……あんた、多くない?精霊一つにつき一つの武器しかないのよ?」
「え、ホント?」
そうよ、そうよ、1人だけズルくない?と勇者部の面子も乗っかってくる。もしかすると僕が使ってる奴だけなのか?
「もしかして、視界に情報出てきたりとかしない?網膜で操作したり出来るんだけど……」
「は?何それ、そんなの勇者システムには搭載されてないわよ」
「え?」
「私、そんなの使ってないわよ、樹は?」
「私も」
「私もでーす」
「私もスマホを改造しましたけど、そんな機能は全然入ってませんでしたよ?」
あれー?と首を傾げる、元々このスマホは父親の部屋にあったものを拝借してきたのだ。犬吠埼さん達や三好さんのように大赦から提供されたものではない、となるとやはりこのスマホに何かしてるのは父親なのは明白だ。
「父親に聞くか……?」
「継人さんに?あ、そういえばそのスマホもらったって言ってたわね」
「"継人"って言ったぁ?!?」
ぐいっと、三好さんが乗り出して僕の顔面すれすれまで近付いて来た。その表情は切迫した物であり、かつ"私もしかして相当やらかしたかも"みたいな感じだった。
というか、スマホをもらった件よりもうちの父親の方が気になるのか。
「あんたの父親って相良継人?!」
「え、大葉継人だよ、違う人じゃない?え、その人って大赦の人なの?うちの父親は町工場勤務の経理担当だよ?」
「でも継人なんて名前あんまり聞いたこと無いわよ、あ、写真、写真あるから見なさい!」
これよこれ!と差し出されたスマホの画面には20人程度の小学生と神官の服に仮面を着けた大人達数名、そして1人だけ黒シャツにカーゴパンツの装いをした"大葉継人"が写った集合写真が出ていた。
三好さんはめちゃくちゃ違って欲しそうな顔をしているが、完全にうちの父親なのは確定していた。しかし、なんでこんな所にうちの父親が写っているのだろうか。
「ちょっとどうなの?!」
「あー、うちの父親だね、これ何年か前の写真だよね、何の集まりの写真なの?」
「はい!2年前の写真です!何かしらの理由で戦えなくなった勇者の端末が余りましたのでその選抜に自分が出た時の写真です!」
「いきなり敬語になってるわよ」
「うるさい!」
「父親は君に、何したの……?」
「はい!私達候補生の訓練教官をしていただきました!その際に私は過分にご教授いただき、そのおかげで勇者に選抜されました!今でも感謝しています!!」
「真優のお父さんが怖いからこうなってのかしら、ねぇねぇ、どうなのよ、夏凜?」
「こ、怖いわよ!何か悪いかしら!?!だって!意味わかんないくらい強いのよ!?訓練場使って候補生全員で襲い掛かっても倒せないし!挙げ句にはこの前勇者に変身しても負けたのよ!!」
「は?冗談でしょ?」
「冗談じゃないわよ!!そりゃ私達の方が身体能力や武器の性能は桁違いに強いんだけど、そんなんじゃないのよ!そこら辺にあるもの全部使って倒しにくるのよ!?ホントに何でも!!」
三好さんの鬼気迫る顔に流石の犬吠埼さんもマジなのか…という顔になっていた。まあ、僕に護身術は教えてくれたりしたけど、そこまで強いというのは全然知らなかった。
それよりも大赦で仕事していたことの方が驚きだった。なんで僕に嘘ついてまで仕事をしてるんだろうか。
それに僕の知らない父親の顔が気になった。僕にはただの優しくてお節介で自信家な父親なのだ、他ではどんな感じなのか聞いてみたくなった。
「三好さん」
「はい!なんでしょうか!あ、自分にさんはつけなくて結構です!」
「え、あ、じゃあ夏凜ちゃん、この後みんなでうどん食べに行きませんか?少し聞きたいこともありますし、あ、敬語は使わなくて良いよ、みんなびっくりしてるし」
「はい!わかりました!よろこんで行かせてもらいます!!」
全然わかってなかった。