うどん屋『かめや』、勇者部がいつも行く場所である。僕にだけ超緊張しまくりの夏凜ちゃんを引き連れて店内に入る。誰もいない店内に1人だけおじさんが座っていた。
「んお、まうやねーか」
普通に僕の父親だった。
普通に父親がうどん頬張ってた。ズルズルとうどんを啜る姿に何故か安心してしまって、一瞬涙が出そうになったが、すぐになんで帰って来ないんだお前、という怒りに変わった。
「お父さん何やってんの、家にも帰らず」
「んー、今日やっと仕事が色々終わったんだよ、んー、しかしなんだ?お前、見ない間に女の子みたいになっちゃってまあ」
「あ…、これはその色々とあって…」
「まあ、スマホからの情報見てるからだいたいは知ってるよ、"勇者"は大変だから気を付けろよ」
あー旨い、とうどんの汁を吸い終わり、父親はカウンター席から立ち上がるとレジでお金を払いそのままテーブル席に座り込んだ。
そこでニコニコしながらテーブルを指差して
「話があるんだろ、だいたいの事は話してやるから全員着席だ、大赦として話せない事がいくつかあるからそこは勘弁してくれよ」
ニッコリ笑いながら父親はサムズアップした。
うどんを頼み、全員が父親に視線を向ける。彼は待ってましたと言わんばかりにバックから大きいタブレットを引っ張り出して、資料を広げた。
資料には僕の勇者服の解説が事細かに記載されていた。
「こいつは真優が使ってる勇者服の資料だ、真優の端末は昔戦ってた他の勇者の物でな、それを俺が受領して試作兵装をゴリゴリに搭載した代物だ、あ、ちゃんと色々と許可取ってるから大丈夫だぜーい!」
イエーイ、と父親は舌をペロリと出しながら年甲斐もなくはしゃいでいた。対して僕らはあまりのことにぐうの音も出ずにただ話を聞いているだけだった。
「あ、続きなー、この爪は犀竜由来の武器でな熱振動破砕でバーテックスを破壊するんだけど、まだ上手いこと機能してないっぽいんだよなー、そのおかげで主要動力の腰の光輪に熱が溜まってすぐに排熱シリンダーが飛んでしまうんだよな」
「お父さん、ちょっと待って」
「お、ん?どうした?質問か?」
「お父さんって町工場の経理担当って僕に嘘ついてたのはわかったけど、大赦で何やってんの?」
ちょっとムカついてしまい、語気が荒くなる。それが少し顔に出ていたのか、少し父親は驚いた顔をしていた、しかしすぐににんまりと笑った。
「あ、そっからか」
そういやそうだ、と懐からカード型の身分証明書を出した。
「大赦、サイバー課の勇者用兵装開発部第8班の班長をやってる、君達の勇者システムの開発に携わってる課だね、俺の班は君達に与えられた神樹様の力を効率的に運用出来るように霊的回路の調整と開発が仕事だよ」
「嘘ついてたのは何で?」
「勇者関係の仕事だからさ、大赦は勇者を秘匿対象として扱っている、だから一般人にも秘密になっててな、家族にも話したらダメなんだよ、だから嘘ついてた」
ごめんな、とガシガシ頭を撫でられた。ちょっと嬉しかったがやっぱりムカついたのでプイッと横を向いた。
「もういい、今日は帰ってくるんでしょ、じゃあ良い」
「お、そうか、なら良かった、ちなみに今日は友人に頼んで此処を貸し切りにしてもらって君達全員を待っててね、ここで俺は大赦の人間だったんだぜー、ってサプライズごめんなさいしようと思ってたんだよ」
ビクリ、と僕の横に座って居ないように僕の影に隠れていた夏凜ちゃんの身体が硬直した。
「それでさ、俺が大赦の人間ってバラしたの誰?」
「カヒュッッ!!!!?!」
「うわぁっ!!夏凜ちゃんが白眼剥いてるよぉっっ!!?!」
「やっぱり三好だったか、よくもバラしてくれたな、お前」
「すすすすすすすすみまじぇん!!!」
テーブルに頭ぶつけそうな勢いで頭を下げる夏凜ちゃん。ぶるぶると身体が震えてるのがわかる。本当に父親は夏凜ちゃんに何をやってくれたのだろうが。
「みんな勇者だから大赦の情報を安易に漏らして良いと思ったか?お人好しで少し抜けたところがあるのは変わらないな、先日の俺との模擬戦で罠にかかりまくったのがその証拠だ」
「は、はひ!すみません!!」
「だからそのままお人好しのままでいてくれ、少し抜けてた方が可愛げがある、学校で、日常で、普通の日々の中で友達を作れ、勇者にはそれが必要だ」
だから、あんまり人に対してツンケンするなよ、と夏凜ちゃんに一枚の名刺を渡した。なんだなんだと覗き込むと名刺には『三好春信』と名前が書かれていた。
「お前の兄貴のメールアドレスと電話番号だ、一回ぐらい連絡取ってやれ、寂しがってたぞ、ほら、今かけてこい」
「え、あ、はい!わかりました!」
すぐに立ち上がって店の外に出る夏凜ちゃんを横目に父親はすぐにタブレットを操作して、新しい画面を出した。
「まあ、多分全員気になってるだろうから、今までのデータを見てる限りでの俺なりの解釈と考察で真優が変身出来た件と身体が変わったままの状態である件を教える」
実際は違うかも知れないがな、と付け足して父親は説明を始めた。
「勇者が女性にしかなれない事は全員知っていると思うが、その選定は勇者適性という物で決まっているのはわかるね?事これに関して大赦は四国全域の女の子の健康診断等で手に入るデータを使用して適性検査を行っている」
膨大な量のファイルが表示され、その中の夏凜ちゃんの物を開く。身長から体重、様々なデータが記載されていた。プライベートな事だから夏凜ちゃんを外に出したな、この父親は。
「あんまり、詳しく見るなよ三好が怒るから、こんな感じで勇者適性は数値化される、ただしこれは勇者になりやすいというだけで、実際は勇者端末を持った人間から神樹が選定しているのが現実だ、この事で1つの疑問点が産まれる、もしこの選定の際に男性が勇者端末を持っていた場合はどういうことになるのか、ということだ」
父親は懐から自分のスマホを出す、それを見せながら友奈さんの方を向く。
「結城ちゃん……でいいかな?もし君が神樹ならスマホを持っている僕を勇者として選ぶかな?」
「え、あ、おじさん勇者も良いと思います!」
「ありがとう、まあ、実際は男だから選ばれないんだけどね、それで結城ちゃんは俺のどこを見ておじさんだって判断したのかな?」
「え、おばさんなんですか!?」
「大丈夫、おじさんだから、まあ十中八九見た目で俺をおじさんとして判断したはずだ、この時点で神樹は何を"判断基準"としているのか?ということになる、あれに眼は無いからね」
ではどこを見ているのか?、と父親は自分の頭を指差した。
「人間の霊的な物の中核は魂と呼ばれる、これを判断基準として神樹は勇者を選定していると思われる、これは勇者システムの発展と共にわかったことだ、そして判断基準となる魂は数多の物で構成されており、その中の遺伝子と記憶が真優の変身に関係していると思っている」
父親は僕の足を指差した。
「おまえ、二年前に激しい喧嘩した時あったよな、その時に足にナイフ刺されて大量に出血しただろ、その時に輸血した血液が関係していると俺は思ってる」
「輸血?そんなことしたの?」
「お前覚えてないのか?あん時、血をダラダラ流しながら風ちゃんと樹ちゃんにかかえられ帰宅したの」
知らなかった、そんなことあったのか。ホントに?という目線を二人に送ると、マジやでという目線が帰ってきた、マジらしい。
「真優の血液型は特殊でな、普通の人の血液では輸血出来なかった、でも前の勇者の中に同じ血液型のやつが居てな、負傷時の輸血用としてそいつの血液をストックしていた物を使用したんだ」
タブレットを操作し、輸血されている僕が写し出される。ホントに輸血されたのか僕。
「輸血量はだいぶ多くてな、そのおかげでストックはゼロだ、そのおかげでお前が助かったから良いとする、しかしこのせいでお前の身体に勇者の血が含まれる事となった、そして血液という臓器移植をおこなった結果、お前の脳にお前が認識していない記憶が転写された可能性が出てきた」
「記憶?別の人の?そんなもの知らないよ」
「当たり前だ、人間は全ての記憶を自分で容易に引き出すことは出来ない、何かしらの要因が重なり思い出す事があるだけだ、しかしその記憶は確かに脳内に存在している、そして記憶とは脳その物であり、ニューロンの再編により掘り起こされる物だ、それが魂に影響し、その結果、神樹が勇者と為り得る"女性"としてお前を認識し、変身させた」
そして別のデータを呼び出す、今度は大昔の物で病弱な勇者の無音声の動画だった。
「そして、変身後の一部身体変化の残留の件だが、昔の勇者の中には勇者に変身した後にその身体の健康の向上が見受けられる事があった、神樹由来の力が身体に残存している、というのが我々の見解だ」
「傷の治りが早いのと一緒ということ?」
「そういうことだ、それが身体的特徴として出たのだと思っている、一過性の物では無いのが現状でわかっている事だ、勇者としての役目が終了すれば元に戻る可能性もある」
「そうなんだ」
だからあまり心配するなよと父親はタブレット操作して、別の画面を見せる。最初の画面だった。
「てなわけで、今からは俺の試作兵装の話な!耳の穴かっぽじって聞けよ!!良いな!」
へへへ!と父親は子供のように笑っていた。こんな時、父親の話がめちゃくちゃ長くなる。それを知っているのは僕だけだったが、何かしらの勘づいたのかみんな微妙に顔がひきつっていた。
私=三好夏凜と兄貴の電話はすぐに終わった。別に嫌いなわけじゃない、ちょっと私が苦手なだけだ。何でも出来て、誰にでも好かれる兄貴が私には少し"嫌"だった。
何が嫌なのかは今でも言葉にするには難しい。両親も周りの親戚も兄貴ばかりを誉めるから嫉妬していたのだろうか。でも私は勇者になった、人類を守れる素晴らしいお役目だ、それだけの立場があれば対等に話せる。嫉妬なんて物を兄貴にぶつけなくてすむ。
でも、対等になっても、勇者になったとしても兄貴とちゃんと話せなかった。
勇者はどうだ?初めての独り暮らしはどうだ?ちゃんと友達出来そうか?とか、当たり障りの無い話題が向こうから一方的に来ただけだった。対等ではなかった。ちゃんと話がしたかった、でも私は話せなかった。
うん、という返事しか出来なかった。私は兄貴とどうなりたいんだろうか?
"また連絡するから、また今度ね"、と私は質問する兄貴の言葉を遮って通話を切った。なんだかモヤモヤした。
「可愛くない妹よね、私」
可愛くない、愛想悪い、つっけんどん。自分自身でわかるくらいに私は人との付き合い方が下手くそだと思う。一人の方が楽だと思う事の方が多いとも思ってる。
でも、相良教官にお人好しのままでいろ、と言われた時は少し嬉しかった。でも"友達"を作れと言われてどうしようかと思ってしまった。
私に出来るのだろうか。
そんな心配をしながらお店の中に入ると、相良教官が熱心に何かを説明していた。それを聞いている勇者部の面々は完全に辟易した顔をしていた。
話が終わったのはうどんが来た時だった。ニコニコしながら相良教官は『何かあったら真優を通して連絡してくれよな!』と言ってそそくさと店を出ていった。私達候補生の前では絶対に見せなかった優しくて陽気な顔だった。
うどんを食べ始めると、不意に結城友奈が喋りだした。
「そういえばだけどさ、夏凜ちゃんと大葉さん、勇者部に入るんだよね?」
その話まだ続いてたのか、と一瞬辟易した。大葉真優の方を見ると同じように"その話続ける"のか、という顔をしていた。
「いや、僕はやめとくから…」
「まあ、勇者になっちゃったし良いんじゃない?勇者部になっちゃいなよ真優」
「いや、でも……」
「あんた、自分が入ると私達に迷惑かかるとか思ってるの?そんなの私の方があんたに散々迷惑かけてんだから、あんたが私に迷惑かけてもチャラってもんよ」
「チャラって……」
「はい、じゃあ決まりね!真優は勇者部!それで夏凜も入るでしょ?」
「入るなんて一言も言ってないわよ!」
「真優を監視するのに勇者部に入らないの?あんた?」
ぐぅ、と返答に困る。痛いところを突かれた、確かに勇者部に入らないと大葉真優の監視は出来ない。いや、遠くから監視すれば良いじゃないか、そうだそうしよう。
「入らなくても監視は出来るわよ!」
「あ、でも夏凜ちゃん、勇者って秘密なんだよね?秘密守る為に私達と一緒に行動してた方が都合が良くない?」
「う……、そ、そうだけど」
何故か結城友奈に論破されてしまった。抜けてるのにそんなに的確に筋を通さなくても良いんじゃないだろうか。
「んじゃ決まりねー、いやー、我が勇者部に部員が二人も増えるとは、けっこうけっこう!!」
「し、仕方なくよ!仕方なく!」
こうして私の勇者部入りが決定してしまった。何でこんなことになってしまったのだろうか。