結城友奈は勇者であり、彼もまたそうだった   作:ビブロス

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みんなー応援についてー

先の映画館での映画チョイスもわりかし上手くいった。夏凜が思いの外、私たちに打ち解けてくれたのは幸いだった。

 

何故か大葉には少し敬語が出る時があるものの、自然体で皆と会話出来ているように見える。

 

私=犬吠埼風にも普通に会話してくれる。とても良い事だ。

 

私怨で戦う私には過分な仲間達。私はみんなに不義理を働いている。その代償はいつか私に来るのだろうか。

 

今はまだわからない。

 

 

 

 

「ねぇ、犬吠埼さん、勇者部の依頼ってさ、部員からって出来るの?」

 

放課後部室で皆と喋ってる時に真優がそんなことを言い出した。基本的に頼みごとがあるのなら何でもするのが勇者部であるので、部員からの依頼でも受けることに変わりない。

 

「別に良いわよ?真優からの頼みごとなんて珍しいわね」

 

「まあ、僕からってわけじゃないけどさ、お父さん経由なんだ」

 

「真優のお父さん?」

 

「そうそう、率直に言うとチアリーディングして欲しいらしい」

 

「はあ?」

 

聞けば、真優のお父さんの知り合いが監督してる中学生の野球クラブチームが公式の大会に出るらしいのだが、少しチームの士気が落ちてるらしく。士気向上の為に私達に応援してもらいたいらしい。チアリーディングで。

 

「一つ聞くけど、なんでチアリーディング?」

 

「犬吠埼さんがやったことあるって言ってなかったっけ?それで告られて大変だったぜーって」

 

「真優に喋ったっけ私?」

 

「言ってたよ、告られた次の日に」

 

「あー、そんな気がしてきたわ、それで応援っていつ?」

 

「二週間後くらい、了承もらったら話を聞きに行きますって言ってるけど、犬吠埼さんも来る?」

 

「そりゃ行くわよ、部長だし」

 

 

 

 

 

 

そして、チアリーディングの話を聞く為にやって来たのは焼肉屋である。なんで焼肉屋?しかも部員全員で。

 

「なんで焼肉屋?」

 

「いや、お父さんが此処に来いって、部員全員連れて」

 

「焼肉だよ!焼肉なんだよ東郷さん!樹ちゃん!」

 

「焼肉ですね!」

 

「そうね、焼肉ね友奈ちゃん、でもなんで焼肉屋なんです?大葉先輩?」

 

「いやぁ、さっぱりわかんない」

 

「事前情報無しぃ?ちゃんとしなさいよ大葉、あ……、もしかして教官居る?」

 

「多分」

 

挨拶行ってきます!と夏凜がさっそく突撃する。ガラガラー!と扉を開けると煙と肉の焼ける匂いが鼻孔に付く。わいわいと声が響く店内、その奥でおじさんが4人、こちらに手を振っている。真優のお父さんだった。

 

「お、来たな、こっちこっち」

 

ヘラヘラとビールを煽る真優のお父さん、同じテーブルで同じようにビールを煽る3人のおじさん。

 

「教官!お疲れ様です!」

 

「お、三好!学校と勇者部はどうだ?仲良く出来てるか?」

 

「概ね出来てます!」

 

「そうか……なら良かった、風ちゃん、三好はちと人との関わりが下手くそだが、とてつもなく良い子だ、色々とお願いな」

 

「良い奴なのはすぐにわかりましたよ、ちょっと恥ずかしがり屋ですけどねぇ」

 

風!と夏凜が食ってかかるのを片手で静止してると、真優のお父さんの向かいに座っている寡黙そうなナイスミドルに横のテーブルに座るように促された。

 

4人の中でブッチギリのイケメンのナイスミドルは私達をテーブルにつかせると黙って水とメニューを差し出した。

 

「今日は私達の驕りだ、好きなのを頼むと良い、それと私は桑折春雄という、今後君達と顔を会わせる事が多くなる者だ、よろしくお願いする」

 

よろしくお願いします、と部員全員で頭を下げる。桑折さんはそれに対して上品に会釈するとほんの少し視線を東郷に向けた、そして黙って自分の席に着いた。

 

なんで東郷を見たのだろうか?

 

「さて、今回のメインの依頼人はこっちの2人でね、ほら、飲んでないで自己紹介しろよ」

 

真優のお父さんが同じテーブルでビールをガブガブ飲んでいる2人を小突くとべろんべろんに酔っ払った叔父さんが立ち上がる。

 

「おっほー、スッゴい美人の子ばっかりだな、勇者部ってのは」

 

「自己紹介」

 

はいはい、と短く借り上げた髪型、おっとりとした目付き、浅黒い肌、南国の料理人みたいなおじさんが、陽気に話し出す。

 

「御柱貞良って名前な、よろしく、ちなみに此処の焼肉屋の店主で野球クラブチームの出資者の一人だ」

 

その横の長めの髪を後ろで縛り、無精髭を生やし、

 

「それで俺が野球クラブチームの監督で、もう一人の出資者の早崎武蔵という者だ、んでそっちの連中がうちのチームメンツだ」

 

ガラガラ!と座敷の扉が開くとわちゃわちゃと丸刈りからスポーツ刈りの同世代の男の子がこちらに顔を見せる。

 

「うひぉー!めっちゃ美人ばっかりじゃないですか監督!!」

 

「足ほっそ!」

 

「顔ちっさ!」

 

「テンション上がるぜー!」

 

「「応援お願いします!!」」

 

うっひょー!とお騒ぎしたまま野球少年達は再び焼肉を食べだした。士気が低いから応援してくれ、と言われたものの十分テンション高そうに見える。

 

なんでだろう?と不思議そうな顔をしていると早崎さんが渋そうな顔で説明を始めた。

 

「先日、うちのムードメーカーの選手が事故にあってな、それで今回の試合に出れなくなった、そのせいだ」

 

事故、その言葉の響きに少し心が苦しくなる。それはもしかすると私達の戦闘による被害なのではないだろうかと、考えてしまう。私がもっと上手く戦えればなかった事なのかもしれないこと。

 

それが頭にこびりつく。

 

「まあ、本人は代打ぐらい出れますよ!ってそこで肉食ってるけどな」

 

目を向けると右足に落書きされたギブスを付けた丸刈りの男の子が、ゲラゲラと笑いながら肉を焼いていた。

 

「……応援の件、受けようと思います、ですけど、私達6人しかいませんけどよろしいんですか?」

 

「オッケーオッケー、機材とか色々こっちで用意するしチア服は俺が何とかする、これでも服飾雑貨店経営してるからね!」

 

「あと、今回の驕りが依頼報酬って奴でね、"成功"報酬はみんなでBBQだから楽しみにしといてくれ、あと、必要な資機材があるならそこの桑折に言ってくれ、何でも用意してくれるぞ」

 

「え、何でもですか!?」

 

「あ、ホントに何でも用意するから気をつけて頼めよ、冗談きかねぇからな、こいつ」

 

せやで、と言わんばかりに桑折さんはこちらにサムズアップを見せてくれる。ホントに何でも揃えて来そうな気がしてきた。

 

「それと、もう一つ頼みたいのがあってな」

 

「もう一つ?」

 

「ちょいと面倒な話だが、よろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

 

僕=大葉真優は焼肉を大いに食べた後、父親と一緒に歩いて帰っていた。アルコール摂取するから車は乗ってきてなかった。

 

みんなが帰っていく背中を振り返る、明日からチアリーディングの準備が忙しくなりそうだ。

 

「真優」

 

「どうしたの?」

 

「その姿で何か困ってる事ないか?」

 

父親は僕と視線を合わせずに恥ずかしそうに聞いてきた。何だかんだ言って父親と外食したのは久々な気がするし、酔った父親を見るのなんて珍しいことだ。

 

二人で歩くのなんていつ頃ぶりだろうか?と、とても遠い昔のように思える。

 

「まあ、私服だと終始女の子と勘違いされるし、声が女の子になってるからいつもの喋り方だと怪訝な顔されたりするよ、あと、髪の毛洗うのが大変」

 

「そうか……、何かあったり、質問があるならすぐに言ってこいよ」

 

「ふーん……、なら、僕に輸血した人ってどういう人?それと、スマホに残ってた写真の人の事を教えて欲しいかな」

 

「……やっぱり聞いてきたか」

 

「この前喋らなかったのって、みんなが居たからでしょ?」

 

聡いなぁ、と父親は頭をポリポリと掻きながらため息をつく。喋るのがとてもしんどい、といった感じに見えた。

 

「率直に言ったほうが良いか?」

 

「良いよ」

 

「昔の俺と一緒に写ってた奴とお前に輸血した人物は同一人物だ、そしてお前の母親だ、名前は相良二夜だ」

 

あー喋っちゃったなぁ、と父親はぼやく。しかし、これで合点がいった。僕のこの顔が写真の彼女に似ているのは、彼女が僕の母親だから。そして母親が勇者だった。

 

生き残る事が出来たのだろうか?だったらこの戦いにも少し希望が見えるはずだ。

 

「でも、どうしてうちにお母さんの写真がないの?」

 

「死んだ時に大赦による機密保持の一貫で破棄されたんだ、その端末に残ってるのが最後の写真だ」

 

「死んだ時……?もしかして戦いで死んだの?」

 

「違う、お前の母さんはとっても強いからな、戦いで死ぬことはなかったよ、別の事で亡くなったのさ」

 

でもそれはまだ言わない、と父親は僕の頭を撫でる。

 

その撫で方がとてもムカつくし、厚かましいし、雑だった。でもとても"嬉しかった"。"彼"に撫でられるといつも複雑な気持ちになる。

 

「もう、やめてよ、"つぐつぐ"」

 

僕の口から飛び出した聞きなれない単語に僕と父親は動きを止める。

 

なぜ、こんな単語が出てきた?なぜそれが父親に対して言うものだと認識した?混ざった母親の記憶が表面に現れたのか?

 

困惑する僕に父親はニコリと笑いかける。ひどく懐かしいものを見たような顔だった。

 

「記憶の顕在化だ、今後力を使うか、その身体に馴染む事で度々起こる可能性がある、既視感的な描写を見ると顕著に現れるはずだ」

 

「既視感的な……?」

 

「母親の記憶と似たような状況を経験する、ということだ、唐突にそういう事が起こるかもしれないが、ほとんど夢や錯覚のような物だ、危険はない」

 

「ということはお母さんに"つぐつぐ"って言われてたの?」

 

「……おう、その顔とその声で言われると一瞬昔に戻った気がしたよ」

 

ありがとうな、と父親は幸せそうな顔で家への道をのんびり歩き出した。その背中がとても懐かしい気がしてきた、照れ臭そうで、カッコつけてて、そしてとても愛おしい気持ちになった。

 

もし、これがお母さんの気持ちなら、彼女はとても父親のことが好きだったのだろう、ということが理解できた。

 

しかし、男の僕が父親のことが好きだなんて、とんでもない気持ちを味会わせられて、非常に厄介である。

 

『「それは私の気持ち、私だけの物」』

 

口から何かが漏れ出た。自分の物ではなかった。だが、それがとても怒っているように思えた。

 

 

 

 

 

 

私=犬吠埼樹が家に帰りついたのは8時を過ぎていた。せかせか、と家の中に入る私とは違ってお姉ちゃんは頭を抱えていた。

 

それは今回の依頼の件で必要となった"歌"のせいである。チアリーディングすることは良かったのだが、応援歌を歌ってくれないか、と頼まれたのだ。

 

別に録音した物でも良いらしいのだが、自分が歌ったのが残るのかぁ、とお姉ちゃんは頭を抱えているのだ。

 

「私のあまりの美声に超モテてしまう可能性が……!!」

 

何言ってんだこの人、である。

 

「録音かぁ……」

 

「うん?樹してみたいの?歌う?」

 

「あ、いや、ちょっとだけ興味がね、でも残るからやめとこうかな」

 

「ダメだったら出さないで良いじゃん、ほらほらぁお姉ちゃんと歌おうよう」

 

がばぁ、と抱き着いてくるお姉ちゃん。その時に香ってくる匂いがだんだんとお母さんに似てきてる。思い出の彼方にあった、薄れた記憶、お父さんとお母さんに手を繋がれ、お姉ちゃんに急かされて公園に遊びに行った記憶。

 

でも、お姉ちゃんは誰が手を繋いでくれるんだろうか。

 

誰が一緒に横を歩いてくれるのだろうか。

 

いつかはお姉ちゃんも結婚するだろう、その時横を歩く人は誰なのだろうか、もしかしたら真優さん?

 

小学校の時、怖い人だとみんなから聞かされ、初めてあったときはとても緊張したけど、会ってみたら普通に良い人だった。血だらけの時は流石にびっくりしたが。

 

でも、真優さんはお姉ちゃんと結婚なんてしなさそうな気がする。何だか良い友達で終わりそうなのだ。

 

「ねぇ、今の真優さんなら女の子声だから、お姉ちゃんとデュエットしたらアイドルっぽくて良いんじゃないかな?」

 

「ぶびゃ!真優と?!」

 

おっと、真優さんからお姉ちゃんへのそれらしい雰囲気はなくてもお姉ちゃんから真優さんへのそれらしい雰囲気はあるようである。

 

びっくりな事実でした。

 

「いや、真優は良いかなぁ、あの子そういうの苦手そうだし」

 

「私もチャレンジするからお姉ちゃんも真優さんとデュエットチャレンジしなよ!」

 

「なぜそこで積極的になるかな、我が妹よ」

 

「妹だからです」

 

フンス、と胸を張る。張る胸はないのだが。しかし、私も歌うことになったので、頑張ってチャレンジです。録音だから大丈夫ですね!!

 

まあ、結果として大丈夫じゃなかったんですけど。

 

 

 

 

 

 

焼肉の日の翌日、土曜日。

 

チアリーディングの衣装を決めるということで、デザインを任された私=東郷美森は友奈ちゃんと一緒に早崎さんの店に来ていた。

 

お店には桑折さんも来ており、私達が到着した時には早崎さんと何かお話をされていた。

 

「仕入れた"プラスチック"はうちの倉庫に置いてる、継人の指示ですぐに使えるように"花火"も一緒だ、動きがあれば11番倉庫に行ってくれ」

 

「プラスチックと花火ねぇ、継人の奴そうとう派手にやる気満々じゃねぇか、おっ、東郷ちゃんに結城ちゃんじゃねーか、よく来たね」

 

「おはようございます!早崎さん!桑折さん!」

 

「おはようございます」

 

「おー、おはよ」

 

にこやかに笑う早崎さん、横の桑折さんは綺麗な会釈を返してもらった。その時、桑折さんの視線は私だけを見ていた。何か、私がしてしまったのだろうか。

 

「チアの服装の件で伺わせてもらいました、こちらでデザインしたので良いと言われたので少し調べて作ってきました」

 

「お、すごいねぇ、1日で出来たのか、さっそく見せてもら」

 

「資料です」\ドサァ!/

 

「百科事典みたいなのが出てきたぞおい」

 

「勇者部の活動と国防における類似点を歴史的観点から導き出し、それを人間における深層心理に深く食い込むかのような挑戦的デザインにしてみました、資料はそのデザインに辺り参考にした文献の抜粋と私なりの解釈を盛り込んだ論文も入ってます」

 

「いや、ちょっと、待って、待ってくれないかな!?」

 

「ふむん、論文の書き方も上手く出来ている、ただし解釈における君の考えが少し先行し過ぎている、もう少し理論立てて書くと良いだろうな、それ以外はとても良い」

 

「国防の素晴らしさがわかるんですね!桑折さん!」

 

「連続してボケたおすのはやめろって!」

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

「で、チアリーディングするのは犬吠埼部長ちゃんに結城ちゃんに三好ちゃん、それと部長の妹ちゃんね」

 

「そうですね、あとは実際踊る友奈ちゃんと細部の方を詰めていただけると幸いです」

 

「了解、了解、で結城ちゃん的にはどうしたい?動き安いとか着やすいとか何か要望あったりするかな?」

 

「七色に光るとかどうでしょうか!」

 

「え、今日の俺は突っ込み頑張らないといけないやつかな?」

 

友奈ちゃんと早崎さんがワイワイとし始めたので一息ついていると、桑折さんが近くの自販機で買ってきたお茶をくれた。

 

ありがとうございます、と御礼を告げて冷たいお茶を飲んだ。桑折さんはコーヒーを飲んでいた。少し洋風にかぶれている方なのだろうか?

 

「東郷君」

 

「はい、どうされました?」

 

「継人経由で聞いたが、2年前に交通事故にあったそうだね?」

 

「え、はいそうです、その時に足とその時から数年分の記憶がなくなってます」

 

「……何か思い出す事はないかね?」

 

「全く……ないですね」

 

そうか、と桑折さんは悲しそうにコーヒーを口に含む。なぜ、他人である桑折さんが悲しそうな顔になるのかわからなかった。

 

「どうしてそんなことを?」

 

「私はね、人間の身体的能力の欠損についての研究をしていてね、その研究の内の一つに記憶の欠如があるんだ、その過程で記憶の欠落を補填しようとする脳の働きがある」

 

「補填?」

 

「失くした記憶を取り戻す、パズルのピースが一部欠けていたとしても周りから判別してそこに何が入るのか少し予測出来るだろう?それを脳が行う」

 

「記憶の再生ですか?」

 

「違う、記憶の創造だ、失われた記憶を脳が作り出す、だからこそ補填なのだ、記憶の件も継人から聞いていた、もしかしたら君の記憶に何かしら動きがあるのでは?と思ったんだ」

 

記憶の創造、脳が予測して作り上げる物、でもそれは"偽物"なのではないだろうか?失くした物は取り戻せない、私の記憶や私の足だって取り戻せるものではない。

 

「でも補填されたものは偽物なのではないですか?」

 

「記憶に偽物も本物も存在しない、存在するのは脳が感じた化学反応が脳という変換器を通して記憶という映像になって現れるだけだ、元より人間の記憶は曖昧で懐疑的な物ということを理解してほしい、故に他人による影響も過分にある可能性も示唆できる」

 

「他人の影響?」

 

「誰かが自分の事を覚えていてくれる、いつものように接してくれる、ただそれだけで良い、記憶が人の人格を形成するのであれば、記憶とは人との関わりが大部分だ、ならば人が人を作り出すということになる」

 

「人が人を作る……」

 

「君の場合は特にだ、脳が記憶を引き出す事が出来ないのではなく、脳が正常にも関わらず記憶自体が存在していない、人が遭遇する初めての症例、人という仕組みが何を為すのか」

 

難しい話だった、と桑折さんは頭を下げた。私が十全に理解出来なかっただけだ、それよりも彼はなぜそんなに私の記憶喪失に意味を見出だしているのだろうか。

 

ただの事故によるものだと言うのに。

 

「すこし……その話には興味があります、よろしかったらもっとお話を聞かせて貰うことは出来ますか?」

 

「君が興味を持ってくれて嬉しい、今後はメールでやり取りをしようか、君が出歩くのは少々キツイだろう」

 

これを使って欲しい、と一枚の名刺を貰った。そこには桑折さんの名前とメールアドレス、そして電話番号が記載されていた。

 

「よかったら、記憶に何かしらの変化があったら私に電話してくれ、相談にのろう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チアリーディングへの準備を開始してから4日目、私=三好夏凜と友奈、風、樹のチアの練習を市の体育館を借りておこなっていた。

 

樹が大丈夫だろうかと思っていたが、思いの外リズムを取るのが上手く、激しい動きでなければ普通についてきていた。

 

「いやー、けっこういい線いってんじゃない?何とかなりそうね!」

 

「たしかにね、このまま練習出来ればちゃんと見せれる物になるわね」

 

「ひゃー、疲れたよー、お姉ちゃーん飲み物あるー?」

 

「あるわよー、真優、買い出しごめんね」

 

「大丈夫だよ、樹さん、お茶とスポーツドリンクどっちがいい?」

 

「お茶でお願いしますー」

 

ドリンクを飲むと同時にべちゃりと横になる樹、少し友奈と風の体力に合わせて練習し過ぎたかもしれない。

 

東郷と大葉は必要資機材の打ち合わせをしている、会場での段取り等は二人が全て取り仕切る事となったのだ。

 

「そういえば、聞いてなかったけど相手のチームってどんな所なの?」

 

「この辺りで一番強いチームらしいよ、応援団も凄いのが居るって」

 

マジかー、と全員でのほほんと構えていた。応援するからには勝ってもらいたいが、負けたとしてもそれで私達がどうかなるわけではないし、野球チーム含めて頑張ったね、で終わらせるつもりだった。

 

しかし、あいつらのおかげでそれはなくなった。

 

体育館にぞろぞろと他の中学校の女の子達が入って来たのである、チアリーディングの格好をした連中が。大量に。

 

ん?と全員が思ってる間にさっさっと準備を終わらせてチアリーディングの練習を始めた。統率された集団行動、前に集中したままでも横の人間に当たらない他人への信頼感。反復練習により一子乱れぬ踊り。

 

明らかに自分達とはレベルが違った。

 

スゲー、と呆けて見てしまうほどに力量に差が出ているのを実感する。すると大葉がこっそりと説明してくれた。

 

「あれが、今度の対戦相手の応援団だね、チアリーディングの大会に出るような凄いチームらしいよ」

 

いやぁすごいねぇ、と大葉はニコニコしながら眺めていた。

 

こちらも練習を、とは思ったが、音楽が被っても悪いので曲が終わるまで待つことにする。

 

少し経ったところで曲が終わったので、こちらも練習を再開する。ある程度練習出来たのでだいぶ動きが全員しっかりと合っているのを確信しながら踊る。

 

そんな私達の後ろから向こうのチームの話し声がチラホラ聞こえてきた。

 

『え、4人で応援の練習してんの?』

 

『ふふ、ちっさい子いるし、小学生もいるの?』

 

『早く終わんないかなぁ?ちょっと邪魔だよねぇ』

 

『車椅子の子いるじゃん、何か変な集団だね』

 

キャハキャハと笑う向こうのチーム。やかましいなぁ、と思いながら練習を続けていると、大葉が視界に居ないことに気付いた。

 

振り返ると思い切り向こう側のチームにツカツカと歩いて向かっていた。

 

ふと先日のことが頭によみがえり、ダッシュで追い掛ける。そんな私の横に風が同じようにダッシュで大葉を追い掛けていた。

 

問題が起こる可能性を察知したのだろう。

 

「すいません、こちらも練習してますので、会話されるなら気にならない声量でお願いします」

 

やっぱり大葉は思い切り文句を言いに行っていた。それに対して人数も多い女子の集団が取る対応等ほとんど決まっていた。

 

「は?なんであんたに文句言われなきゃならないの?とっとと消えてくれる?」

 

「では、上の方に言いますので指導者の方は居られますか?」

 

「来てないし、あんたみたいのに一切教えたくないんだけど、てか何?4人で満足に踊れてもないのに私達に文句つけてくるとか何様のつもり?下手くそがいると困るんですけど」

 

一瞬ヤバい、と思ったが大葉は努めて冷静に

 

「それでは、部長等のこの場で一番上の方をお願いします」

 

「だ、か、ら、あんたに教えたくないのわかる?頭何歳ですかぁ?車椅子の奴居るっぽいし障害者の方なんですかぁ?」

 

一瞬私もトサカに来そうになったが、バキリと大葉の手の骨が鳴る音を聞いて一気に冷静になる。

 

普通ならばいの一番に文句言いそうな風が冷や汗流しながら大葉の背中を見ているところを見ると、向こうも同じなのだろう。

 

「……もう一度聞きます、そちらの上の方はどなたですか?それと障害者の方と言ったことを謝罪してもらいたいのですが?」

 

「あー、もうダメね、こいつ話聞いてないわ、無視して練習始めようか、みんなやるよー」

 

大葉からぞわりとするような殺気が噴き出し、首筋を刺激する。止めようと私が動く前に風が大葉の腕に飛び付いていた。

 

「あー、真優、真優!撤収!撤収しよう!まだ他に準備あったしさ!!ね!?!オッケェー?!」

 

「……犬吠埼さん、……わかりました、確かに準備もありますしね、もう一着チアの服も入り用になりますし」

 

「え、あ、うん良かった撤収ね撤収、え、何でチアの服?」

 

「僕も踊ります」

 

大葉がとんでもない事を言い出した。

 

「え、あんた踊るって、チア服は女用…」

 

「変身を使います、ここまで言われたらムカつきますので絶対にこちらのチームには勝ってもらいます」

 

「勝つってあんた……」

 

「東郷さん!向こうの野球チームのデータを調べられますか?」

 

「調べられますよ、大葉先輩、みんなが頑張っているのを馬鹿にする人達にはお灸を据えねばなりませんからね、ボコボコにしてあげましょう!」

 

「よし!!」

 

よし、じゃねぇわよ、と止めようと思ったが無茶苦茶燃え上がっているこの2人を止められるだけの力は無いのが現状だった。

 

 

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