「あ……ふ……」
フォルテは今日、暇であった。
なにせ団長含め、ほぼ誰もが依頼を受けたり個人的な用事で出かけているからだ。
甲板で空を眺めながら、フォルテは暇をつぶしていた。
「ふぁ……」
鍛錬でもしようかと思ったが、そんな気分にもならない。
誰かが言っていたが、そういうやる気のない日はゴガツビョウ、というらしい。
何度も言うが、フォルテは暇であった。
「ん……?」
暇を持て余していたフォルテは、不意に何かが振るわれているような音が聞こえてきた。
彼女は甲板の先端の方でぼうっとしていたが、その音は甲板のちょうど反対側から聞こえてきていた。
どうせ暇なのだ。
フォルテはそう思って、音の聞こえる場所まで歩いていくのだった。
「はあっ! せいっ! とりゃっ!」
そこには、練習用の槍をぶんぶんと振り回す少女がいた。
確か、コルルと言ったが。
フォルテは少ない記憶から思い起こす。
見れば、荒々しい動きながら、非常に力強い槍の振るい方だ。
中々に筋がいい。
フォルテはそう思い、ゆっくりと近づいていった。
「ちょっとそこの君」
「……ん? わたしでごんすか?」
「そうだ」
フォルテはちょいちょいと手招きをし、コルルを呼び寄せる。
すると、トテトテとコルルが寄ってくる。
か、可愛い……とふんわり頭の中にそんな感想が思い起こされるが、すぐさまかき消すフォルテ。
「ああ、コホン。コルル……だったか」
「そうでごんす」
「かわ……いや、なんでもない」
「?」
ブンブンと頭を振るフォルテに不思議そうな顔をするコルル。
なんでもないと仕切りなおそうとするフォルテだったが、どうにも調子が狂う。
すると、近くの壁にもう1本の練習用の槍が立てかけてあった。
それを見つけたフォルテは名案を思い付いた。
「そうだ、槍の練習相手が必要じゃないか?」
「練習相手……?」
「あ、ありがとうございました! でごんす!」
「いやいや、こちらもいい運動になった」
暫くの間、練習試合を行った2人はふんわりと笑いながら呼吸を整えていた。
実際、いい運動になった。
フォルテは思った以上にしっかりと戦えるコルルに驚きつつも、それ以上に楽しさを覚えていた。
ここには中々の使い手が集まるからな、と思いながらフォルテはコルルの頭を撫でた。
「な、なんでごんすか……?」
「あ、ああ済まない。嫌だったか?」
「そういうわけではないでごんすが……」
何となく不思議な感じがする、とコルルは言った。
嫌な感じではないとも言っていたので、フォルテは更にわしゃわしゃと頭を撫でるのであった。
「ふぁ、あ……」
数日後、フォルテはまた暇であった。
今度は仕事が早く終わってしまい、空き時間ができたためだ。
別にいつも暇なわけではないぞ、と誰もいない甲板で呟くが、ふるふると首を振る。
「あ、フォルテさんでごんす!」
少し経つと、何処からともなく声が聞こえた。
この声はコルルか、と振り返るフォルテ。
すると、トテトテと歩いてくるコルルが甲板の向こう側にいた。
「ああ、コルルか。何か用か?」
「うう、どうして撫でるでごんすか」
寄ってきたコルルの頭をわしゃわしゃと撫でると、若干嫌がりながらも受け入れるコルル。
その様子を見て、更に手をわしゃわしゃと動かすフォルテであった。
「……じゃなくて! また稽古をお願いし申す!」
暫く撫でられていたコルルだが、意を決して話す。
するとフォルテの顔がゆるゆるのそれから、きりっとした表情に変わる。
戦士の顔だ。
「わかった。手加減はしないぞ」
「頼むでごんす!」
2人はこの間と同じように、ぶつかり合うのだった。