ジャスミンは激怒した。
必ずあの大怪我をした団長の傷を治し、叱らねばならぬと決意した。
昨晩依頼をこなして帰って来た団長だったが、様子が変だとビィに言われて色々な団員に診察してもらったのであった。
すると、何でもないと言っておきながらかなり大きな傷を負っていたのである。
それも、魔法などが効かない、特殊な毒が混じった怪我である。
とにかく。
ジャスミンはその毒に効く薬草を取りに森へと入っているのである。
勿論危険であるが、ジャスミンは森のスペシャリスト。
夜の森でもない限りそうそう迷いはしないのであった。
暫く歩くと、何やら声が聞こえてきた。
小さな子供のようだ。
それが数人、泣き声も聞こえてくる。
「どうかしたの?」
「ふぇ?」
彼らは遊んでいる最中に転んで怪我をしたらしい。
しかも全員だ。
膝肘顔をすりむいて、仲良く泣いていたところであった。
ジャスミンはむん、と力こぶを作る。
これはわたしの出番である。
バッグに入っている傷薬から湿布などを駆使して子供たちの怪我を処置していく。
「大丈夫ですよー。ほーら、痛くなーい痛くなーい」
「ありがとーおねーさん!」
「はーい。気を付けるんですよー」
治療を終えたジャスミンは、子供たちを町に送ってからまた森へと足を向けた。
急がなくてはならない。
団長の怪我は外傷はひどくはないが、身体を徐々に蝕む毒のようなもの。
今すぐ死を迎えるようなものではないが、苦しみは続くのだ。
治すなら早い方がいい。
と、考えていると木の根元に目当ての薬草を発見。
辺りはやや暗くなってきている。
夜になれば魔物が出てきてもおかしくはない。
手早く摘み取り、即座にグランサイファーへと走っていく。
「―――――これで大丈夫……です!」
ベシン、と傷口を叩くように湿布を張り、ジャスミンはふん、と鼻を鳴らした。
「いたた……!」
団長は叩かれたところをさすりながら、困ったように笑う。
周囲の団員はそこそこ怒っていた。
というか全員が怒っていた。
「というわけで、お説教は他の方々にお願いしますね」
そう言って、ジャスミンはその場を離れる。
ばたんと扉を閉めた瞬間、部屋の中から怒る声がいくつも聞こえてきた。
そうだ、少しは自分の身体を大切にするべきだ。
しっかり怒られてなさい。
「ターコイズ! 薬は見つかったのか!?」
「……」
そこに駆けつけてきたのはウェルダーである。
しかし、ジャスミンは応えない。
むすっとしたままウェルダーを睨みつけていた。
「? ……ああすまん! タイガーアイだったな!」
「……もうっ!」
ジャスミンはぷりぷりと怒り出すと、ウェルダーはすまんすまんと両手を合わせて謝り倒す。
すると、仕方なさそうにその謝罪を受け入れたジャスミンが、ウェルダーに向かい合う。
すると、ウェルダーの頬に小さな傷があった。
それに気付いたジャスミンは、バッグの中から絆創膏を取り出してぺたり。
小さく笑いながら歩いて行った。
「……なんだったんだ?」
ウェルダーが小さく呟くが、それに答えるものは誰もいなかった。