白銀の腕は刃を纏い   作:赤峰

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プロローグ 英雄覚醒編
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砂塵が舞い、巨大な爆音がその世界に響き渡った。

 

その中で、2つの影が高速で移動していた。

1つは、まだ10歳にも満たないような少女。砂埃がかかりながらも、その美しさを全く損なっていない金髪をツインテールで纏めた、所謂、美少女と呼ばれる類いの少女。普通なら可愛い女の子で終わるのだろうが、彼女は普通ではなかった。

まず、服装。まるで、競泳水着のようなやたらと露出度の高い格好をし、その手には彼女の髪の色と同じ金色の光刃が生えた鎌を持っている。これだけでも十分異常なのだが、彼女の異常性はこれだけではない。

なんと、空を飛んでいるのだ。まるで、物語の中の魔法使いのように。……まあ、箒に跨がってはいないが。

 

その少女、フェイト・テスタロッサは地面スレスレを猛スピードで飛行していた。その顔には強い緊張が見え、時々振り返ってはその紅い瞳で後ろの『異形』の存在を睨み付けている。

 

『異形』。そう、もう1つの存在は『異形』の怪物だった。

紅い、といってもフェイトの紅玉のような紅とは違う、血のような赤黒い色の、巨大な翼を生やしたその怪物。

鳥、ではない。こんなおぞましい生物を、鳥とは言わない。強いて言うなら、飛竜(ワイバーン)。濁った金の双眸がフェイトの姿を捉えて離さない。

 

「■■■■■■■■■■■────ッ!」

『Sir!』

「うん、分かってる!」

 

咆哮と共に、飛竜(ワイバーン)の口内に鈍い光が集まっていく。それに反応して、鎌に付いている黄色の宝玉から電子音のような声が発せられる。

フェイトが飛行に扱っている『魔法』。それを補助するデバイスに搭載されているAI、バルディッシュの声だ。

それに力強く答えると、フェイトは体を反転。飛竜(ワイバーン)に向き直る。

 

それとほぼ同時に────閃光が、フェイトの小さな体躯を包み込んだ。

 

ニヤリと、口の端を歪めて笑い、自らが行っている光の照射を止める。そこには焼け焦げた獲物の姿が───

 

『Blitz Action』

 

どこにもなかった。それを確認すると同時に、背中に軽い衝撃を受けた。振り向くと、そこには仕留めた筈の獲物、フェイトが周囲に雷球を浮かべながら佇んでいた。

 

「────ファイア!」

 

号令と共に、計8個の雷球が飛竜(ワイバーン)の体躯に炸裂し、小さな爆発を幾つも起こした。だが、それだけだ。

 

「……やっぱり、効かないか」

 

爆煙の中から現れた飛竜(ワイバーン)の体には傷ひとつなく、さらに、今の攻撃が癪に障ったのか、先程よりも鋭い眼光をフェイトに向けていた。

ぎゅ、とバルディッシュを握り締め、消していた光刃を再び発生させる。分かっていたことだ。目の前の飛竜(ワイバーン)に自分の攻撃は通じない。奴が体に纏う魔力障壁が、それを許さない。だが、それでもフェイトはこれを続けるしかない。飛竜(ワイバーン)の注意を自分に引き付けるために。

 

(……急いで、アルフ!)

 

ここにはいない自分の仲間が、目的を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中を、1匹の獣が疾走していた。時折、後ろから響く爆音に足を止めそうになっているが、すぐにまた走り出す。分かっているからだ。その獣、アルフがあの場に行っても、速さで遥かに劣るアルフでは、足手まといにしかならないということが。

悔しさに、口から一筋の血が流れる。だが、足は止めない。今のアルフのやるべきことは、ただ走り、『目的』を果たすことなのだから。

 

それから、どれだけ走っただろうか。

「! あ、あった!」

 

森の深奥に辿り着いたアルフの目の前にあったのは、四角い、人1人くらいは余裕で入るだろう物体だった。よく見ると、上面は蓋になっていて、棺桶を連想させた。これが、正確にはこれの中にあるものがアルフの、正確にはアルフとフェイトの目的のモノだった。

 

(帰ったら覚えてろよ鬼ババア……!)

 

今回の騒動。その発端となる人物の顔を思い浮かべながら、アルフは棺桶に近づいていった。

 

 

 

 

 

 

────第89管理外世界『アトランティック』にある、あるものの回収。

それが、フェイトとアルフがフェイトの母、プレシア・テスタロッサに命じられた事だった。

 

『その世界のとある森。その奥にあるものを持ってきてほしいの。やれるわね、フェイト?』

『はい、母さん』

 

玉座に座り、見下すような視線を向けながら問いかけるプレシアに、フェイトは即答した。母のお願いに逆らうという選択は、フェイトにはない。逆らえばきっと『お仕置き』を受けてしまうだろうし、それに、こうやって母の頼みを聞き続ければ、きっとプレシアは笑顔になってくれると信じていたから。

そんなフェイトに複雑な視線を向けたあと、睨み付けるようにアルフはプレシアに視線をやる。

 

『それで、そのあるものっていうのは何なのさ? もしかして、とんでもなくヤバいもんじゃないだろうね……?』

『あ、アルフ!』

 

疑念に溢れているアルフに、諌めるように声をかける。が、プレシアは特に気にする様子もなく、肩をすくめる。そして、遠い何かを見つめるように視線をフェイト達の後方に向け、

 

『……思い出よ。大切な、ね』

 

そんなプレシアの姿に、フェイトとアルフは顔を見合せ、首を傾げた。

 

 

 

 

 

それからすぐに『アトランティック』についたフェイト達だったが、そこであの翼竜に遭遇してしまったのだ。

魔導師として、速度に特化したフェイトと同等の速度に、フェイトとアルフ、その両方を上回る火力。何より驚異となったのは、全身に纏っている魔力障壁だった。その堅牢さの前に、元々火力に秀でているわけではないフェイトの攻撃は通じず、バリアブレイクという、その名の通り魔力障壁の破壊に特化した魔法を持つアルフの攻撃は、その速さの前に掠りもしない。

このままでは負ける。そう判断したフェイトがとった策が、速度で互角のフェイトが囮となり、その間にアルフが目的のモノを手に入れるといったものだった。

当然、反対したアルフだったが、現状、それしか方法はない。渋々了承し、アルフはプレシアから聞いた、目的のモノがある森の奥へと向かったのだ。

 

そして今、アルフの目の前にはソレがあった。

木々が生い茂る中、異彩を放つ銀色の棺桶のような物体。この中に、プレシアの言っていたものがあるはずだ。

ゆっくりと、棺桶に手を触れる。そのときだった。

 

「うわっ!?」

 

突然、棺桶に無数の緑のラインが走り、ゆっくりと上面が開いて行く。ごくりと、緊張に喉を鳴らすアルフ。そして、上面が開ききり、その中にあるものが、その姿を現した。

 

「────は?」

 

思考が、止まった。アルフとフェイトの予想では、それは何か特殊なデバイスか、データを記録した機械辺りだったのだが、目の前に現れたそれは、予想とはかけ離れたものだった。

 

────少し青みがかった、夜のような黒髪。

 

────白い、陶磁器のような肌。

 

────中性的な、端整な顔立ち。

 

「に、人間!?」

 

そこにあった『者』は、1人の青年だった。

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