白銀の腕は刃を纏い   作:赤峰

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迫り来る閃光を巧みにかわし、自慢のスピードを活かして飛竜に接近し、鎌を一閃する。が、それはやはり、飛竜の皮膚の上に張られた魔力障壁によって弾かれる。

 

(やっぱり、ダメか……)

 

頭上から遅い来る爪を回避し、再び飛竜と距離をとる。すかさず放たれる飛竜の光線を回避しながら、念話と呼ばれる通信技術でアルフと連絡をとる。

 

《……アルフ、聞こえる?》

《フェイト! ああ、聞こえてるよ! そっちは大丈夫? 怪我してないかい!?》

《うん、大丈夫》

 

こちらの心配をしてくるアルフに感謝しながらも、そう長々と話せる状況ではない。短く返し、本題に急いだ。

 

《それより、そっちは? 母さんが言ってたものはあった?》

《え、あ、うん……》

 

何やら歯切れが悪い。何かトラブルでもあったのだろうか?

 

《どうしたの?》

《いや、えっと……あったにはあったんだけど、なんというか……》

《? とにかく、あったなら早く戻ってきて。今はまだ持ちこたえられてるけど、っ!》

 

再び放たれた閃光を回避する。反応がやや遅れたため、マントの端にかすってしまったが、問題はない。すぐにバルディッシュが修復し、元通りになる。

 

《フェイト!?》

《大丈夫! けど、私も少しずつ消耗してきてる。だから、速く!》

《わ、分かった! 待っててねフェイト、すぐそっちに行くから!》

 

それを最後に念話は途絶える。と同時に、三度目の閃光。それを難なくかわし……

 

「……?」

 

ふと、マントを見る。よく見ると、マントの端がなくなっている。それだけだ。戦闘には何の支障もない。だが、違和感がある。

 

(……避けるの、遅かったのかな?)

 

さっきまでは、当たるどころかかすりもしなかったというのに。

首を傾げ、だがすぐに戦闘を再開。バルディッシュを大きく振りかぶる。

 

《Arc Saber》

 

振り抜くと同時に、光刃が回転しながら飛竜に迫る。それを翼で弾き、再び口内に光を灯す。

 

────と、ほぼ同時に、閃光がフェイトの目前まで迫っていた。

 

「ッ!?」

 

なんとか回避したが、それはフェイトに強い衝撃を与えていた。

何故あそこまで接近していたのに気づかなかった? 気を抜いていた? 違う、そんな余裕のある状況ではない。なら、消耗の蓄積? 違う。確かに疲れてきてはいるが、戦闘に支障が出る程ではない。であるなら、考えられることは一つ。

 

(速く、なってきてる……!)

 

それしか考えられない。だとすると、あの飛竜はこの短時間で成長してるとでもいうのか? もし、そうだとすれば。あの飛竜に決定打を与えられないフェイトではいつか……

 

(いつか……やられる)

 

頭の中に浮かんできた死のイメージ。それを振り払うようにバルディッシュを振るう。そんなフェイトに、飛竜は再び光を溜め、

 

「ガアアアァァァァァァァァァァァ!!」

 

────更に速度の上がった光線を、フェイトに向けて放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アルフは森の中を再び疾走していた。……その背中に、先程の青年を乗せて。

 

「くっそお! 走りにくい!」

 

いくら何でも、成人男性を乗せて走るのは無理がある。しかも、この青年、結構背が高い。ここまでくる途中で、何度も背から落としそうになっている。

 

「それにしても……」

 

ちらりと、背負う青年を、正確には、その右腕を見る。

────冷たい光沢を放つ、白銀の鉄腕。それが、その青年の右腕だった。

どんな金属で造られているかは分からないが、日の光を浴びて煌めくそれは、言葉に出来ない美しさを持っていた……なのに。

(どうして、こんなに怖く感じるんだろう……?)

 

美しさ以上に、恐ろしかった。

見るたびに、首筋に刃を突き立てられているような感覚がして、アルフは身震いした。そしてその右腕から目をそらし、足を早める。

 

「もう少し、もう少しだから、待ってておくれよ、フェイト!!」

 

咆哮のような声を上げながら大地を駆けるアルフの視界に、草木の1本も生えていない荒野が見えてきた。それは、フェイトとアルフがこの世界に来て最初に降り立った荒野だった。この森は、ある場所を境に草木が消えてなくなっていて、アルフも荒野を走ってたら突然森が見えて驚いたものだった。

つまり、もうすぐフェイトと合流できるということだ。思わずほっと一息つき、

 

次の瞬間には、アルフの体は爆発と共に宙を舞っていた。

 

「な……あっ!?」

 

驚愕と、 全身に走る痛みに目を大きく見開きながらも、素早く飛行魔法を駆使し、同時に自分と同じく吹き飛んだ青年を、朱色の光と共に人の姿になって受け止める。

どうやら怪我はないみたいだ。安堵の溜め息を吐くと、鋭い視線で上空を見上げる。

 

そこにいたのは、血の色をした飛竜。血走った瞳が、アルフを睨み付けている。

まさかフェイトが、と一瞬絶望が頭をよぎるが、使い魔としての主人との魔力パスが、フェイトの健在を示している。……ならば、あれは、

 

「別、個体……」

 

よく見ると、あの飛竜よりも体躯が小さい。それに、あれが放ったのであろう光線の威力も、あの飛竜と比べて弱い。だが、ここまで接近されて気付けなかったのを見るに、あの飛竜よりも速度が上、または、強力な隠蔽能力があるのだろう。

 

「……それがなんだってんだ」

 

だが、それはアルフを怯ませる要因にはなり得ない。青年をそっと地面に下ろすと、拳を握りしめ構える。

そうだ、怯んでなどいる場合ではない。あの飛竜の後ろには、アルフの一番大事な主人(フェイト)が待っているのだ。だから、

 

「そこを、どけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

両手に魔力を宿し、飛竜へと突進する。その先に待つ、フェイトのために。

 

────その後ろで、白銀の右手が動いたことに、気付かずに。

 

 

 

 

 

 

満身創痍。今のフェイトの状態を表すのに、これ以上にふさわしい言葉はない。

 

「ぅ……くっ……」

 

外傷自体は少ないものの、体力は底を尽きかけ、魔力も限界に近い。その証拠に、バルディッシュの魔力刃は魔力不足で消えてしまっている。

 

《Sir!》

「っ!」

 

バルディッシュの焦ったような声に、反射的に横へと飛ぶ。と同時に、フェイトがいたところを閃光が通りすぎる。だが、安心は出来ない。間髪いれず、飛竜が二度三度と連続して閃光を放つ。飛竜の魔力光線は、すでに砲撃魔法クラスの威力を保ちながらも、速射砲の如き連射性能を有するまでに強化されていた。

五発目の閃光。避けられない。そう判断したフェイトは、手を前に出し、

 

「バルディッシュ!」

《Defensor》

 

展開される防御魔法。だが、回避に特化したフェイトの防御魔法の強度は低く、一瞬の拮抗の後、砕け散った。

 

「うあぁっ!!」

 

なんとかクリーンヒットだけは避けることができたが、その熱と衝撃に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。同時に、かろうじて形成されていた魔力刃も消えてなくなる。……魔力切れだ。

立ち上がろうとするが、体はピクリとも動かない。どうやら、本当に限界らしい。フェイトの頬を、涙が伝う。

 

(……母さん)

 

思い出すのは、自分の母のこと。

ある日から笑顔を見せなくなった母。そんな母の笑顔を取り戻したくて、今日まで必死に頑張ってきた。だが、それももう終わりだ。自分は、ここで終わる。何も果たせずに、不様に、惨めに、終わってしまう。

 

なんとか顔をあげると、獲物に止めを刺そうと、突進の構えを取る飛竜の姿が見える。アルフは、結局間に合わなかった。いや、もし来たら自分と同様にやられていたかもしれない。なら、間に合わなくて正解だ。せめて、あの心優しい使い魔だけは、無事でいてほしい。

 

「……さようなら。アルフ……母さん……」

 

向かってくる飛竜を視界に納めながら、フェイトは別れの言葉を口にし、目を閉じた。

 

 

 

 

 

「……?」

 

おかしい。来るはずの痛みが一向にやってこない。あの飛竜の速度なら、こんな状態のフェイトを殺すことなどあっという間な筈なのに。

恐る恐る、目を開ける。

 

────視界を埋め尽くすほどの銀が、そこにはあった。

 

「……壁?」

 

幅5メートルほどの鉄の壁。それが、フェイトの目の前に現れていた。多分、この向こう側にあの飛竜がいるのだろう。けど、何故? 疑問に思うフェイト。

 

 

 

 

 

「────(つるぎ)だ」

 

その頭上から、声が降ってきた。

 

「えっ!?」

 

見上げる。壁の上に鍔と柄がついている。本当に、これは剣らしい。だが、今重要なのはそこではない。更に上を見上げる。そして、見た。

 

風になびく青みがかった黒髪を。

 

はためく赤いコートを。

 

自分を見下ろす、蒼穹の瞳を。

 

────そして、冷たく輝く、白銀の右腕を。

 

見たこともない青年が1人、柄の上に立っていた。

 

「……あ、あの」

 

声をかけてはみたものの、あまりに突然の出来事に、言葉が続かない。そんなフェイトを一瞥すると、青年はくるりと反転し、フェイトに背を向ける。

 

「……君の主人だろう。今のうちに回収しろ」

 

そんな言葉と共に、フェイトの体が誰かに抱き上げられた。突然の出来事に驚き、暴れようとする。

 

「分かってるよ!」

 

だが、聞き覚えのある声に、暴れるのをやめた。顔をあげると、朱色の髪をした女性、アルフが青年に怒鳴り付けていた。だが、視線を感じたのかフェイトの方を向くと、目に涙を浮かべながら微笑んだ。

 

「ああ……! 遅れてごめんよフェイト、大丈夫かい?」

「う、うん。それよりあの人は……」

 

もう一度青年の方を見ると、さっきまであった巨大な剣は影も形もなく、いつの間にかその手に一振りの剣を持った青年が、飛竜と向かい合っている。どうやら、戦うつもりらしい。注意を呼び掛けようとフェイトの頭をゆっくりと撫で、アルフは優しい笑顔を浮かべる。

 

「大丈夫だよフェイト。あいつ……」

 

滅茶苦茶強いから。

そんなアルフの言葉と共に、青年は飛竜に斬りかかっていった。




ちょこっといれたセリフパロ。多分、今後もたまにやっていくので、探してみるのも面白いかもしれません。
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