無印編開始です。
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『レオン……レオン、聞こえる?』
頭の中に響く声。フェイトからの念話だ。目の前の存在に意識を向けながら、それに答える。
『ああ、聞こえてる。どうした?』
『どうしたって……レオン、もう三日も帰ってないよね? アルフが心配してるよ?……あっ、も、勿論私も!』
『ん? ……ああ、そういえばそうだったな。すまない。もう少しで一段落つくから、そしたら帰るよ。心配かけてすまないな』
『ううん、大丈夫』
ホッとしたような声。どうやら、本当に心配させてしまったようだ。申し訳ないことをしたと、飛んでくる羽根を剣で弾きながら、頭をかいた。
基本的に、
『それじゃあ、一旦切るぞ。土産がたくさんあるから、楽しみにしていてくれ』
『? うん、わかった。アルフにもそう伝えておくね……無理、しないで』
『ああ、約束する』
念話を切り、目の前にいる存在────ジュエルシードの思念体である巨鳥を見る。
────さて、切り替えよう。思考を再び、戦闘に適したものへと。
思考が冷えていき、意識が研ぎ澄まされていく感覚。今までの戦闘から分析されたデータが、脳内に並べられていく。
────ジュエルシードの思念体。姿は巨大な鳥の姿。
────攻撃力はそれほどではないが、特筆すべきはその速度。
────ガオスに匹敵し、それでいてガオスよりも小回りが利き、知能もある。
────敵を寄せ付けず、主な攻撃手段である爆発を伴う羽根を放ってくる。
……なるほど、難敵だ。
それほどでもないとは言ったが、それでもAランク魔導師の射撃魔法クラスはある。フェイトの持つ
何より恐るべきは、飛行に特化した鳥型であることによる旋回性能。直線ならばフェイトやガオスの方が上だろうが、こいつはそれに準じた速度で、それを落とさずに旋回することが出来る。
ああ、認めよう。この思念体は強い。油断していては、容易に足元を掬われてしまうだろう。
「─────だが、それだけだ」
そう、それだけだ。ならば油断などしなければいい。油断せず、慈悲なく、正確に。この思念体を切り刻むだけの刃となればいいだけの話だ。
それに、弱点はもう、見切っている。
暫く飛び回った後、突如停止し、視界を埋め尽くすほどの羽根を飛ばしてくる。受けてしまえば、死は確実だろう。
────受けてしまえば、の話だが。
無数の剣を周りに展開し、射出しながら突撃する。
羽根はこちらに届く前に、爆散し、消滅する。そして、レオンハルトの姿が、爆煙に包まれる。そうしている間にも羽根は止まずに降り注ぐ。それを全て、前進しながら撃ち落としていく。そして、羽根が、止んだ。
(そうだ。それでいい)
────それが命取りだとも、知らずに。
背に取り付けた、飛行術式で編んだ剣が、主の意思を感じ取って加速する。
爆煙を纏いながら、現れるレオンハルト。位置は────思念体の真正面。
これこそが、この思念体の弱点。攻撃手段たる羽根を放つ間は、その機動力を発揮できない。ならば後は、爆煙に紛れながら前進し、終わると同時に飛び出せばいい。そうすれば、ほら、
「────俺の、間合いだ」
思念体が動くよりも早く、剣群が大翼を串刺しにし、その機能を奪う。悲鳴をあげながら、思念体が落下する。そうなれば、後はただの的だ。
右翼を、左翼を、右足を、左足を、尾を、嘴を。あらゆる攻撃手段となるものを、切り裂き、潰す。後は、止めを刺すだけだ。
「────巨刃よ」
号令と共に、展開される巨大な、小さなビル程度はあるであろう巨大な剣が展開される。
あの時は、フェイトを守るために盾としてあったそれを────まるで、
「圧殺、せよ!」
そしてその巨刃が、思念体の体を両断した。慈悲なく、正確に。切り刻むだけの、刃として。
地面に降り立ち、一寸遅れて落ちてくるものを手に取る。
「……シリアルⅧ、か」
手の中にあるのは、Ⅷの刻印が刻まれた、青い宝石────ジュエルシード。それを、封印術式で編まれた短剣で叩き、封印し、腰から下げた布袋に突っ込む。
「これで、5個目、だな」
この世界、地球に降り立ってから、早5日。フェイト達と別れて探索してから、もう3日になる。
単独行動ばかりとっていた身としては、今さら誰かと協力するできるとは思えなかったから、別行動をとろうと提案した。フェイトとアルフに。特に、アルフにやたらと心配されていたが、まあ、この結果を見るに正解だったのだろうと思う。
「まあ、心配させてしまったみたいだし、な」
そろそろ帰って、安心させておこう。そう思い、背中に一対の剣を展開する。
────魔力変異資質『刀剣』
管理局に指定された、レオンハルトのレアスキルの名前だ。正確にはレアスキルではないのだが、まあ、大して変わらないだろう。似たようなものだ。
効果としては、体外へと放出した魔力が剣の形をとる。
……それだけだ。本当に、それだけの利点のない、それどころか欠陥能力だ。
なにせ、射撃魔法として放とうが、砲撃魔法として放とうが、防御魔法、飛行魔法、転移魔法。その、体外放出する類いの魔法が全て、ただの剣へと変わってしまうのだ。ある程度は形状の指定や、操作はできるものの、それだけだ。
一々、剣になった後を踏まえて術式を展開しなければならないと言う、酷く面倒な欠陥レアスキル。それが、魔力変異資質『刀剣』だ。
展開している剣。それは、剣自身に飛行能力を持たせるための術式を編んで作ったものだ。本来なら、ただ飛行魔法を展開するだけでいいのに、無駄な手間がかかる。
「……まあ、面倒はいつものことだ」
昔も、今も。
鋼の翼を羽ばたかせ、宙を舞いながらつぶやいた。
「あっ」
「なのは?」
「ジュエルシードの反応、消えちゃった」
「え、また?」
その頃、街のど真ん中でフェレットと話す少女がいたのだが、それはまた別の話。
彼らの邂逅は、まだ、先の話だ。
ジュエルシードの落ちた街、海鳴市から少し離れたところにある街。そこの高層ビルの、とある一室の前に、レオンハルトはいた。
コートのポケットから、『レオン用』と可愛らしい字で書かれたプレートのついた鍵を取り出し、鍵を開ける。
「お邪魔し」
「「おかえり!」」
お邪魔します、と言おうとしたところで、 待ち伏せていたのだろうフェイトとアルフの声が重なる。一瞬、呆気にとられ、少しだけ笑う。
(ああ、そうだったな)
基本的に特定の家を持たないレオンハルトは、依頼人や近くのホテルに泊まることが殆どだった。だから、今までならば「お邪魔します」「やっかいになります」で良かったのだが、今は違う。例え、仮の住居であったとしても、
「……ただいま」
今はここが、レオンハルトの家だった。
「ほら、おみやげだ」
「あ、ありがと」
「何が入ってるんだい?」
「見てからのお楽しみだ」
腰から下げた布袋をフェイトに手渡すと、そのまま台所に向かい、冷蔵庫の中身を見る。自分がいない間、二人がどういう食生活を送っているかが気掛かりだったのだ。
がちゃり、ドアを開ける。そして、
「……………………」
何もない冷蔵庫に、絶句した。本当に何にもない。いや、何もない訳じゃない。水の入ったペットボトルが、数個ほど。
上の冷凍庫に手をかける。玄関でなにやら二人が騒がしいが、そんなことはどうでもいい。取っ手に力を加え、開ける。
「……………………」
青筋が、額に浮かぶ。冷凍庫に入っていたのは、無数の冷凍食品。しかも、栄養バランスが大分よろしくない、アルフの好みだろうなーと思う肉類ばかり。
ドタドタと玄関から慌てたような足音が聞こえる。ああ、ちょうどいい。プレシアが用意した魔力カモフラージュ用装置の裏に隠された鋼の右腕に、力が入る。
「れ、レオン! これ、ジュエルシードだよね!?」
「しかも5個! 凄いじゃない……か……?」
「レオン……?」
レオンハルトの顔を見た瞬間、二人の顔が青ざめ、震える。そんな二人にレオンハルトは、にっこり。見るもの全てを恐怖させるかのような笑顔を浮かべ、ゆっくりと床を指差す。
「──────正座」
さあ、お説教の時間だ。
なのはの本格的登場はもう少し先になります