待っていてくださった方はお待たせしました。では、お楽しみください。
伝わってくる魔力の波動に、腰を下ろしていたレオンハルトは僅かに体を揺らし、空を仰ぎ見る。
「今のは……フェイトの魔力か」
いや、それだけではない。瞳を瞑り、その魔力に意識を束ねる。確かにフェイトの魔力を感じる。だが、それともう一つ。別の魔力も混じっていた。アルフの魔力とも違う。ならば、答えは一つ。
「想定していなかったわけじゃないが、少し面倒なことになったな……」
立ち上がり、自分が腰掛けていたものに目を向ける。そこには、四肢を白銀の剣で貫かれ、地面に縫い付けられている巨大な蜥蜴が一匹。紛れもなく、ジュエルシードの思念体だった。
手足を斬っても瞬く間に再生するという厄介な特性を持つ思念体で、少しだけ苦戦を強いられたが、なんということはない。串刺しにし、地面に縫い付けてしまえばなんの問題もなかった。更に、今刺している剣にはAMFのような魔力を分散する術式を仕込んである。最初こそ暴れていた思念体も、肉体を構成する魔力を奪われれば形無しらしい。今では力無く地面に伏している。
最後に封印の術式で構築した剣を突き刺し、封印完了。大蜥蜴の姿は掻き消え、ジュエルシードが残る。それを拾い上げて袋にしまい、レオンハルトはその場を後にした。
「……た、ただいま」
少し言い淀みながら玄関に入る。言い慣れてないからか、何となく気恥ずかしい。少ししてから奥から足音が近付いてくる。足音からしてフェイトだろうと結論付け、靴を脱ぎ、赤のコートを脱ぐ。
ついさっきまで戦闘を行っていたというのに、コートには傷一つない。それもそのはず。このコートは、魔法変異資質『刀剣』という誰得スキルによってバリアジャケットを展開できないレオンハルトの為に造られた防護服だった。
装着者のリンカーコアを感知し、その魔力を吸収することでバリアジャケットと同じ働きをするという優れものだ。無論、本物のバリアジャケットよりは強度は劣るものの、回避が基本のレオンハルトにとっては然程問題にはならない。あくまで避けきれない攻撃のための緊急用の装備なのだ。
なにより、このコートは……
「おかえり、レオン!」
目の前の扉からフェイトが飛び出してきた。それも満面の笑みで。
なつかれたなぁ、などと思いながらその頭を撫で、廊下を歩く。
「怪我してない?」
「ああ。無事に回収完了したよ。そっちは?」
「うん、やっと一つ目。あ、そのときのことで相談したいことが……」
言い終わる前に、その頭に手を乗せる。軽く撫で、小さく笑う。
「そうか、頑張ったな」
「そ、そうかな? けど、レオンと比べたら……」
「俺は慣れてるだけだ。素直に喜ぶといい」
「う、うん……ありがとう」
可愛らしく頬を染めて綻ぶ姿に、レオンハルトも思わず笑みを濃くした。
何となく、昔のプレシアに似ている気がして、やはり親子だなと思い……
『なにも、何も知らないくせに!! ただ眠って、逃げていただけなのに、偉そうに!』
憎悪に満ちた声と、鬼気迫る表情が頭をよぎった。思わず、フェイトを撫でる手が止まった。
どうかしたのかと言いたげに首を傾げるフェイトに何でもないと答え、ゆっくりと手を下ろす。
あれから、ふとした時にプレシアのあの表情が、あの声が頭の中に浮かぶようになった。正直、今でも信じられないのだ。自分の知っているプレシア・テスタロッサは、あんな顔をした事はなかった。自分のいない間に何かが起きたと言うのは分かる。だが、その何かが一体何なのかが、レオンハルトには理解できない。それも、娘であるフェイトに怯えられるほどの変化など……。
(……娘?)
何かが、頭の中で引っ掛かった。なんだろう、この違和感は。確か、プレシアはあの時、レオンハルトが眠る少し前に、何かを言っていた気が……
『レオン。私ね、今度────』
思い出せない。だが、あの時プレシアは、確かに重要な何かをレオンハルトに告げていた。そして、そして────
「レオン?」
その声に、意識が現実に引き戻された。見るとフェイトが不思議そうな顔で こちらを見上げていた。
(……迂闊、だったな)
我を失うほどに考えに没頭するなど、ここが戦場だったら死んでも文句は言えなかっただろう。そう思いながら、フェイトの頭を少し乱暴に撫でる。
「わわっ。な、なに?」
「いや、相変わらず撫でやすい頭だと思ってな」
「そ、そうかな?」
「ああ。アルフよりも撫でやすい。本職に勝つとは、やるな、フェイト」
「……ん? それって、私のこと犬って言ってるんじゃ」
「さて、会議の時間だ。早く行くぞ」
首を傾げているフェイトの横を通りすぎる。こういうときは、フェイトが割とアホの子で助かったと思うなどと思いながら。
浮かんでいた疑問は、どこかに消えていた────後に、強く後悔することになるとも知らずに。
机の上に並ぶ7つのジュエルシード。それは即ち、1/3のジュエルシードが集まったことを意味している。地球に来て1週間。その期間でこれだけ集められたのは、成果としては十分だった。
だが、3人の表情は暗い。フェイトは不安そうに、アルフは顔をしかめ、レオンハルトは目を閉じて何かを思案している。やがて目を開き、天井を見上げた。
「……他の探索者か。予想はしていたが、当たってほしくはなかったな」
────自分達以外の探索者。フェイトからの報告はそれだった。
今回のジュエルシードの探索中に出会ったらしく、しかも一戦交えたらしい。結果はフェイトの圧勝……というよりも、相手が戸惑っている間に倒してしまったようだ。
「……自分のデバイスの種類も知らなかったから、多分この世界の人だと思う」
「となると、スクライアの奴に協力を頼まれたってところか。なら、資質は高いということか」
管理外世界の住人に魔法を教えることは原則として禁止とされている。それでも教えたということは、相当高い適正を持っていたと言うことだ。となると、今はまだ未熟でも、将来的に驚異となる可能性は高い。
(まあ、負ける気はないがな)
『あの日』から、死に物狂いで魔導師として鍛え続けてきた。それを、つい最近魔導師になったものなどに追い抜かれるなど、あってはならないことだ。
……それに、態々待ってやる道理もない。
「……とりあえず、今後の方針に変化はない。今までどおりジュエルシードの探索を続ける。そして、その魔導師を見つけたら、即俺に連絡してくれ。一応、手を引くよう説得する」
「それはいいけど、もし駄目だったらどうするのさ?」
アルフの疑問は尤もだ。言葉ひとつではいそうですか、と意見を変えるものなら、そもそもこんな危険なことに首を突っ込むわけがない。明確な意思があるからこそ、危険を承知で探索に参加しているのだろう。
だから、説得は本当に一応。もしかしたら考え直してくれるかもしれないというくらいに期待してはいない。
「────その時は」
その、刃のような冷たく、鋭い声色に、アルフは総毛が逆立つような感覚を覚えた。
身体中が見えない刃で切り裂かれたような、あまりにも強い殺意。体が震え、寒気に冷や汗が頬を伝っていく。
フェイトに拾われてから久しく感じていなかった、どうあがいても抗えないほどの、天敵種と出会ったときのような絶対的な恐怖。精神リンクを通してフェイトにも伝わっているらしい。体が震え、顔真っ青に染まっていた。
(……なんて、殺意)
今までのどんな存在よりも強く、濃厚な、それでいて酷く静かな殺意。次元の違いを、一瞬で理解させられる圧倒的な存在感。
────これこそが、英雄。『英雄傭兵』レオンハルト。30年も経つ今、尚次元犯罪者から恐怖の象徴として恐れられている、最強の魔導師。
「────俺が、力ずくで手を引かせるさ」
そんな男に目をつけられた件の魔導師に、アルフは深く同情した。
……なお、アルフから送られるあまりの恐怖にフェイトが卒倒してしまい、二人して慌てたことは余談である。
主人公の簡単なプロフとかいるんですかね? それとも、もうちょっと話進んでからのほうがいいんですかね?