サブタイトル考えるのがめんどいから書いてないんですけど、入れた方がいいんですかね?
瞼の裏に映る水面。波紋ひとつ起きない水面。やがてレオンハルトが瞳を開けると同時に、水面は消失した。
「……発動の気配はなし、か。少し行き詰まってきたな」
今行っていたのは魔力探査。あの水面に波紋が起きれば、それは何処かで魔力が使われたことを表している。が、反応はなし。ジュエルシードも、件の魔導師も、現在は活動をしていないようだ。
あれからジュエルシードの反応はない。ついでに、例の魔導師との接触もない。フェイトたちも同様らしく、毎回申し訳なさそうに報告している。
(さて、どうしたものか……)
風で揺れる髪を押さえながら、心中で呟く。こうなると後は、足を使って地道に探していくしかないのだが、海鳴市はそんなに狭い土地ではない。幾らフェイトとアルフを含めた三人とはいえ、そう容易なことではないし、何より体力の消費が大きい。いざジュエルシードを見つけても疲れすぎてて封印できませんでしたでは話にならない。
いっそ、適当に魔力をばら蒔いて発動を促してしまおうか。いや、そんなことをすれば流石に目立つし、何よりレオンハルトでは剣が無数に降ってくるという大惨事に発展してしまう。クソスキルめ。
『────レオン!』
『フェイトか。どうした?』
右腕をガンガン殴っているとフェイトから念話が来た。なにやら慌てている様子だ。これは、きたか? と思っていると、案の定ジュエルシードの反応を感知したという報告だった。
『まだ正確な場所までは分からないんだけど、ある程度は判明したよ』
『十分だ。よくやったフェイト』
『う、うん! それでね、一度戻って話をしたいんだけど、いいかな?』
『了解した。こっちは収穫なしだからな。すぐ戻る』
念話を切り、廃ビルを後にする。高いところのほうが探査がしやすいから登ったのだが、無駄になってしまった。
「飛べれば楽、なんだがな」
こういうときに限っては、管理外世界は面倒だ。
広々とした湯船。マンションの備え付きの風呂とは違うこの解放感に、体の芯まで暖められるこの感覚。なるほど、これが温泉なのかと、締まりのない笑みを浮かべながらアルフはぼんやりと考える。
「こういうのを、極楽っていうのかね~」
別に、呑気に温泉旅行に来ているわけではないが、それでも抗い難いこの快感。スクライアの奴には悪いが、ジュエルシードが落ちたのがこの地球で、そしてこの日本で良かったと心底思う。まさか、こんな体験が出来るとは夢にも思わなかった。
「これで、フェイトが隣にいれば言うことなしだったんだけどね~」
今フェイトは、この近くにあると思われるジュエルシードを見張っている。心配ではあるが、レオンハルトも一緒ならまず問題ないだろう。
色々と得体の知れない彼だが、その実力は文句なしに一級品だし、人となりも出会ってまだそう経ってないが、信用に足る人物だとアルフは一定以上の信頼を置いている。なにせ、事情もよく分からないのにも関わらず、躊躇うことなくフェイトを助けてくれたのだ。それだけで、アルフには十分信頼するに値する。
(そうだ。確かに信頼はしてる。それは嘘じゃない)
それでも、アルフの胸中には懸念すべきことがある。
1つは、あの時垣間見たレオンハルトの恐怖。プレシアと相対しているときでさえ、あれほどの恐怖心は抱くことはなかった。それだけ、レオンハルトの持つソレは桁違いだった。
彼が英雄と呼ばれているのは知っている。だが、それだけであれほどの殺気を放つ事が出来るのだろうか? 一体、彼の過去にどれ程の事があったのか。アルフには想像もつかなかった。勿論、それでレオンハルトへの信頼が揺らぐことはない。が、
(……あの、右腕)
冷たい、刃のような白銀の右腕。あれを初めて見た時から、アルフの本能が強く警告している。
────あれは駄目だ。あれだけは、何を置いても在ってはならない。
レオンハルトの殺意が霞むほどのおぞましさ。それが、途切れることなくあの右腕から発せられていた。1度だけ直接聞いてみたことがあるが、曖昧に微笑むだけで答えてはくれなかった。
何で、あんなものをレオンハルトは身に付けているのだろう? そもそも、彼はあの腕の事をちゃんと知っているのだろうか? いや、知っているはずだ。知っていて、それでも身に付け続けている。
「……アタシ達、レオンの事全然知らないんだね」
宙に視線をやりながら、ポツリと呟く。今度、1度話し合ってもいいかもしれない。そう思いながら、再び温泉の心地よさに身を委ねていった。
一方、レオンハルトは。
「くそっ……くそっ……こんな右腕、こんな右腕……」
そんな恐ろしい右腕を、一心不乱に木へ打ち付けていた。
「れ、レオン。どうしたの? よくわからないけど落ち着いて。怖いよ」
「あなたには分からないでしょうねぇ……こんなポンコツ持たされた俺の気持ちなんて……」
フェイトの懇願にも耳を貸さず、黙々と右腕を打ち付けている。どんどん抉れていく木とは対照的に、右腕には傷1つなく、月光を浴びて銀の光沢を煌めかせている。それが、レオンハルトの苛立ちを増大させている。
「どうしてこんなものを手に入れてしまったんだ……答えろ! 答えてみろフェイトォ!」
「知らないよ!」
どうしてこうなってしまったんだろう。確か、アルフが温泉に行ってくると言ってから、様子がおかしかった気がする。最初こそ右腕をじっと見つめているだけだったのだが、それから少しずつ右腕に対して恨み節を呟き始め、今ではこの様だ。
いつものクールなレオンハルトはどこへ行ってしまったのだろうか? 心配そうにフェイトが見つめるなか、レオンハルトは……。
(こんな右腕がなければ、俺も温泉に行けたのに……っ!)
そんな下らないことを考えていた。
何を隠そうこの男。ジュエルシードの反応があったのが温泉街だと判明したとき、心の中で狂喜乱舞していたのだ。元々、この世界のことを調べているときに温泉のことも知ったのだ。それから何度も行きたいと思っていたのだが、流石にフェイト達を放っといて自分だけ楽しんでいいわけがない。そう思って涙を飲んで諦めていたときに、この報告だ。
これで合法的に温泉に入れる。そう思っていたのだが、そこである問題が発生した。
────そう、この右腕では温泉になど入れないのだ。
カモフラージュ装置はあるのだが、これが結構大型で、しかも普段はコートの中に隠して使用している。当然、浴場には持ち込めない。幻術はお察し。
というわけで、泣く泣く諦めざるを得なかったのだ。
「ハハハハ……笑えよ。こんな右腕持った惨めな俺を笑えよ……笑えぇぇぇぇぇ!」
「アルフぅぅぅぅ! 早く来てぇぇぇぇぇ!」
フェイトの悲鳴が、夜の温泉街に響き渡った。
「……落ち着いた?」
「……すまない」
正座してすまなそうに俯いているレオンハルトを、背中にフェイトを隠したアルフが見下ろしている。
フェイトから緊急の念話を貰い、慌てて駆けつけたアルフが見たのは、半ばほどまで抉れた木に一心不乱に右腕を振るうレオンハルトと、涙目で必死にそれを止めようとするフェイトの姿だった。 とりあえず思いっきり後ろから殴り付けたが、凄まじい直感と反射によって見事に防がれた。しかも右腕で。痛い。
だが、一瞬でも戦闘に思考が行ったからか、レオンハルトは正気を取り戻し、そして現在に至る。
「あんたほどのやつが、らしくない……そんなに、温泉楽しみにしてたのかい?」
「……ああ、まあ」
「そんなに入りたければ、誰もいないときにこっそり入れば良かったじゃないか」
「……!!」
その手があった。とでも言いたげにレオンハルトが瞠目した。どうやら思い付かなかったらしい。
……前にフェイトを少し抜けてると評したが、それはレオンハルトも同じだったらしい。思わず額に手をやってしまう。そして、そのままフェイトに前に出るように促す。
「ほら、冷静になったならフェイトに謝りな。凄い怖がってたよ」
「べ、別に怖がってないよ!」
「そうか……すまなかったな、フェイト。漏らしてないか?」
「もっ……! 漏らさないよ! レオンの中での私ってどうなってるの!?」
顔を真っ赤にして怒るフェイトだが、レオンハルトが軽く頭を撫でると、すぐにふやけて、締まりのない笑みを浮かべてしまった。……ちょろい。微笑ましげにその光景を見つめて、そんな感想を抱いていたところで、あることを思い出した。
「ああそうだ。さっき、例のチビッ子に会ったよ」
「……なに?」
───カチリ。スイッチの切り替わる音がした。無論、そんな音はしていない。が、一瞬で切り替わったレオンハルトの雰囲気に、そんな幻聴が聞こえてきた。
さっきまでフェイトに向けていた微笑みは消え、代わりに冷たく鋭い、彼の代名詞とも言える剣を彷彿とさせる無表情へと変わる。
びくりと、フェイトが小さく震えた。アルフも少しだけ後ずさっている。レオンハルトの豹変ぶりに、恐怖を抱いているのだ。無理もない。さっきまで笑顔だったのが、なんの前触れもなく無表情へと変わったのだ。
(もうちょっとなんとかならないのかねえ?)
何度か指摘はしているのだが、結果は『無理』の一言だった。殴ろうかと思った。
まあ、いい。思考を切り替える。
「旅館でばったり遭遇してね。まあ、初対面だったからそのままサヨナラだったけどさ」
「それで?」
間髪入れず、促す。分かっている。レオンハルトが聞きたいのはこれじゃない。
「はっきりいって、大したことなかったよ。フェイトの敵じゃないね。レオンなら尚更だよ」
才能はあるのだろう。実際、僅かだが感じられた魔力は中々のものだった。だが、それくらいの魔力はフェイトにもあるし、何より魔導師としての経験が違う。レオンハルトに至っては、二人を上回る魔力に、比べ物にならないほどの経験値がある。足掻くことすら不可能だ。
「そうか、了解した。……思ってたよりも簡単に済みそうだ」
最後に、小さくレオンハルトが呟いた。フェイトが首を傾げるが、何でもないとでもいうかのように首を振り、
「……来たか」
次の瞬間、強大な魔力の波動が迸った。ジュエルシードが発動したのだ。そして、少し遅れて感じたことのない魔力。例の、高町なのはだろう。
役者は揃った。フェイトは一瞬でバリアジャケットを展開し、アルフは獰猛な笑みを浮かべて拳を握り締める。そして、レオンハルトの手には白銀の剣が現れる。
「……さて、行くか────諸君、派手に行こう」
そして、3人は夜の闇を駆けた。
そして、レオンハルトは出会うことになる。
不屈の心をその胸に秘めた、桜色の少女と。
次回、ようやく主人公登場