白銀の腕は刃を纏い   作:赤峰

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 お久しぶりです。本当にお久しぶりです。
 仕事に忙殺されたり色々面倒事が重なったりでモチベーションが上がらなくてすっかりご無沙汰でしたが、ようやく落ち着いてきたので投稿できました。書いたり書かなかったりで文章がおかしくなってるかもしれないので、気になるところがあったらご指摘お願いします。


5

視界を覆い尽くす銀の群れ。

それをなのはは、酷く呆然と見ていた。あまりにも突然で、そしてあまりにも自然過ぎたのだ。彼のその行動は。まるで、何度も何度も繰り返してきたかのように、当たり前のように刃を放ち、当たり前のように、今、なのはを……。

 

「────転移ぃ!」

 

銀を遮るような緑の光。気が付くとなのはの視界から剣群は消え、満点の星空が………。

 

「って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

そう、なのはは空中にいた。そして今まさに、重力に従い落下していた。

 

「な、なんでなんでなんでぇ!あ?」

「僕が転移したんだ! それよりなのは、レイジングハートを!」

「う、うん!」

 

基本的に戦闘は自分が行うとはいえ、ユーノは魔導師としては自分よりも先輩だ。それに、良く良く考えれば戦闘中の結界なんかはいつもユーノが展開してくれている。そのお陰でどれほど被害が軽くなったことか。改めて、魔導師としての自分の師であることを再認識した。

 

「ほう。意外とやるものだな……」

 

そして、彼に対して敬意を覚えたのはなのはだけではなかった。レオンハルトは地面を穿った剣群を見やる。

不規則に刺さっているように見えるなかで、一部だけ剣が一切刺さっていない箇所がある。先程まで、なのはがいたところだ。これで恐怖を覚えて逃げ出してくれればと思っていたのだが、思わぬ伏兵によってその目論見は外れた。

素人に戦闘を任せるくらいだから実力は低いと思っていたが、どうやら彼はサポートに特化しているらしい。

 

「甘く見すぎた、ということか」

 

反省するように頭を振り、剣の翼を展開。舞い上がる。その先には、少しだけ息を切らせたなのはの姿。純白のバリアジャケットに赤い宝石の付いた杖を握っている。どうやらあれがデバイスのようだ。

 

「い、いきなり何するんですか!?」

「言った筈だ、実力行使だと。言って聞かないなら、力で屈服させるしかないだろう?」

「そんなことありません! もしかしたら、お話しすれば力になれるかも……」

「無理だな」

 

ばっさりと、なのはの言葉を否定する。呆気にとられているなのはを尻目に、剣を展開し、手に握る。

 

「俺はあくまで雇われだ。報酬を貰い、依頼を遂行する。それだけだ。ジュエルシードを回収するよう依頼されはしたが、目的は知らん」

「そんな……ジュエルシードは危険なんです! もし悪い人の手に渡ったら……」

「その時は、俺の手で始末をつける。何の問題もない。それでも、というのなら」

 

剣の切っ先を向ける。同時に周囲に展開される剣群。なのはの肩が震えるが、引く気はないらしい。ならば、仕方がない。

 

「俺を下して、その意思を貫け。その魔導は飾りではないだろう?」

 

その言葉が号令であったかのように、壁の如き剣群がなのはへと放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

殺意に満ちた剣群を、半狂乱になりながらも回避する。幸い、速度自体はそれほどでもなかったため、未だ拙いなのはの機動でも回避は可能だった。

が、そんなことはどうでもいいのだ。重要なことではない。問題は、受ければ間違いなく即死の剣を躊躇なく放ってきたことにある。

 

「あ、あの人なに!? 迷いないよ! 迷いも容赦も欠片もないよ!」

「気を付けて、あの剣完全に物質化してるから非殺傷設定なんてされてないから!」

「知りたくなかったよそんな話!」

 

そんな風に言い合っている間にも無数の刀剣がなのはを穿とうと飛んできている。その剣の主とはというと、いつの間にか持っていた剣を引っ込めて腕組みしながらこちらを見ていた。相変わらずの無表情で、こちらの様子を観察しているように。

……なんだろう。凄い、腹立つ。こっちは必死で避けてるのに、あっちはまるで他人事のようにしている。元凶なのに。

 

『俺を下して、その意思を貫け。その魔導は飾りではないだろう?』

 

ないだろう?……ないだろう?……ないだろぅ?……。

 

彼の放った言葉が木霊のよくに頭に響く。今思うと、あれは馬鹿にされたのではないだろうか? ……ああ、そうか。そうなのか。

 

「うん、分かった。よぉく分かりました……」

 

口調こそ柔らかく、しかし確かな怒りを込めて言葉を紡ぐ。肩に乗っているユーノの顔が引き吊っている気がするが、今のなのはには確認するだけの思考を割けない。

なのはは自分では温厚な方だと思っている。だが突然現れて、挑発されて、更に殺しにかかられるとなれば、流石に怒りを抑えることはできない。

 視線は強く、敵意を籠めて青年を睨みつける。が、その表情に変化はない。相変わらず無表情で腕を組んでいるだけだ。なら……

 

「だったら……無理やりにでも、話を聞いてもらいます!」

 

 ――――望み通り、力ずくだ。

 

 ユーノに降りるように告げると、なのははレイジングハートを空へと掲げる。これは宣誓だ。ここからは、こちらもやられっぱなしではないという、戦意の表れだ。

 なのはの戦意に応え、レイジングハートが光を灯す。同時に現れた4つの光球。ディバインシューター。なのはの得意とする魔法の一つ。

 視線を照準に。そして、放つ。

 

「シュートッ!」

 

 高速、には少し及ばないながらも、決して遅くはない光球が、複雑な起動を描きながら飛翔する。

 あの少女に敗れてから何もしてこなかったわけではない。教わった並列思考(マルチタスク)によっての仮想訓練に、ユーノの結界の中で行ってきた鍛錬。一流とは口が裂けても言えないが、あの頃の何もできなかった自分はもう卒業している。

 そんななのはの努力の成果とも言っていい光球に対しても、青年の表情は崩れない。隙間を縫うように回避し、地面に向かって降下する。

 

(逃がさないっ!)

 

 それに合わせて、なのはも光球を操作。青年を追尾する。

 下降していく青年。一瞬だけ後ろに視線を向けると、その速度を下げた。何故? 疑問が浮かぶが、それなら好都合と思考を戻し、操作に集中する。縮まる距離。迫る地面。その二つに挟まれた青年は――――地面にぶつかる直前で、地面と平行に加速した。

 

「ッ!?」

 

 驚愕するなのは。だが、何とか制御に思考を戻す。が、今のなのはでは突発的な軌道変更は難しく、半分が地面に衝突し、小規模の爆発を起こす。残る半分も、青年が展開した剣によって容易く貫かれ、消滅。

 あっという間に全てのディバインシューターを消され、驚きを隠せない……と同時に、ある疑問が浮かび上がる。

 

(どうして……あんな回りくどい事を?)

 

 残ったディバインシューターをあっさりと消したことから考えて、あの青年なら全て破壊するなど容易かったはずだ。なら、何故あんな回りくどい方法を?

 青年に眼を向けるが、相も変わらずの能面のような表情からは何も伺い知れない。さっきまでは怒りで頭に血が上っていたこともあり感じ入るものもなかったが、ある程度冷静になった今では酷く不気味に感じる。

 思わず身を引く。それと同時に、青年の周囲に4本の剣が展開され、なのは目掛けて放たれた。

 

「わ、わわっ!」

 

 放たれた剣群は最初の一撃よりも速度を増していた。3本は避けられたが、驚きにより出来た隙が仇となり、最後の剣は回避が間に合わない。避けられない。直感的に悟ったなのはは防御魔法を展開する。そして、激突。

 

「う、ぐぐ……」

 

 想像していたよりもずっと強い衝撃。なんとか耐えきり、剣は砕け散る……が、防壁が消えた一瞬の隙を突かれた。接近してきた青年の刃が降り下ろされた。

 何とかレイジングハートで受け止めるが、その細身の体にどれだけの力が籠められているのか。拮抗すら出来ず、地面へと叩きつけられた。

 

「な、なのは!」

「うう……だ、大丈夫!」

 

 直ぐさま立ち上がり、再びレイジングハートを構える。が、なのはの体に広がった衝撃は小さくなく、少しだけふらついた。致命的な隙。当然見逃すはずもなく、剣が展開される。背筋を走る悪寒。それがなのはを突き動かし、魔法陣が展開される。

 

「ディバイン……!」

 

 それは、現在のなのはの最大の攻撃手段。未だ未熟ななのはではあるが、この魔法にだけは密かな自信を抱いていた。

 レイジングハートの先端に光が集束される。その魔法の名は───砲撃魔法。

 

「────バスターッ!」

 

 桜色の光が、炸裂する。一目で危険だと判断できるほどの膨大な魔力の塊が青年めがけて飛んでいく。一寸前に放たれた剣は飲み込まれて消滅し、砲撃は減衰することなく放たれ続ける。が、特に動じることもなく回避する。極光が天へと伸び、やがて消える。

 その事実に少しだけ落胆するが、直ぐに思い直してレイジングハートを構え直す。先程までの攻防の中で、青年は自分よりも格上だと分かっている。油断など許されない。再び来るであろう攻撃に身構える。が、

 

「……襲ってこない?」

 

 青年は動かない。腕を組み、沈黙している。

 ユーノの疑問も尤もだ。先程まで苛烈に攻めてきていたのにも関わらず、今は打って変わって静かだ。なにか企んでいるのか? それとも……答えの浮かばない問いが、頭の中を駆け巡る。

 訪れた沈黙。10秒以上にも及ぶそれが続き、

 

 

 

 

 

「───だが、それだけだ」

 

 呟きが、なのはの耳に届いた。

 

 そして、それが絶望の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───『英雄傭兵』レオンハルト。その戦闘の極意は観察にある。

 相手の行動を視認し、100を越えるマルチタスクにより魔法形体、戦術、長所、短所、果てには思考パターンすらも解析する。そうして相手の全てを把握し、それから本格的な行動に移る。つまり、だ。レオンハルトが積極的な攻勢に出るその時とは────相手の敗北が、確定した瞬間に他ならない。

 

 ───中距離戦闘主体の魔導師。強固な防壁と精度の高い誘導射撃を主体とし、砲撃で仕留めるタイプ。

 ───回避能力は並以下。が、決して鈍足というわけではなく、移動砲台としても十分に機能する。

 ───火力は高い。特に砲撃魔法に関しては目を見張るものがあり、食らえば敗北、程ではないが、その後の戦闘に大いに支障をきたすだろう。

 ───全体として、未だ未熟ではあるものの、現時点でも十分な性能を持っており、今後も鍛練を積んでいけばエース級の魔導師として大成していくだろう。

 

「───だが、それだけだ」

 

 そう、それだけだ。未来のエースであろうとも、今は優秀止まり。ならば、自分が負けることはありえない。油断はない。容赦もしない。執拗に、徹底的に攻め立て───その心を、完膚なきまでに粉砕する。

 

 剣を両手に展開し、加速。先程までの様子見の速度とは段違いの速度。1秒にも満たない時間で至近距離まで接近し、剣を振るう。なのはだけならばこれで終わりだろうが、彼女のデバイスはインテリジェンスデバイス。内蔵されたAIが主の危機に反応し、防壁を作り出す───レオンハルトの、予想通りに。

 

 剣を手放し、背後へと回り込む。これが一流どころの魔導師ならば、即座に術式を解除して防御若しくは回避に移行できるのだろうが、先程のディバインシューターの件から、彼女の反応速度と魔法の制御能力が然程高くはない事を把握している。つまり、

 

「きゃあぁ!」

 

 この蹴りは、避けられない。背後から蹴り飛ばされ、なのはの体が吹き飛ぶ。が、手は緩めない。再び接近し、剣を降り下ろす。今度は防壁を張る暇はない。反射的にレイジングハートで受け止める。が、

 

「……弾けろ」

 

 剣を手放し、後退しながら術式を起動。剣が輝き、爆発を起こす。暴煙を纏いながら再び吹き飛ぶ。直ぐに体制を立て直したが、その表情には───

 

「ッ! ディバインシューター!」

 

 沸き上がる何かを振り払うように、魔法が起動する。展開される4つの光球。後は主の号令を待つのみ。そして、レイジングハートが降り下ろされ……同時に、全ての光球が消失した。

 

「……えっ?」

 

 呆然。何が起きたのか分からない。後ろを見ると、そこには消失していく4本の剣。恐らくこれが、ディバインシューターを撃ち落としたのだろう───なのはが一切、反応できない程の速度で。それはつまり、今までは手を抜いていたことに他ならない。もしこの速度を先程までの攻防で使われていたら……。

 

「う、あぁ……」

 

 何かが、広がっていく。それに突き動かされるように、術式を起動。光が集まっていく。それに対してレオンハルトは剣を1本展開。その切っ先がゆっくりとなのはへと向かう。

 

「ディバイン──バスタァー!」

 

 極光と剣が激突する。先程は容易く消し飛ばされた。が、それはなのはの切り札をさらけ出させるために放った囮のようなもの。今回の剣は魔力も、精度も段違い。本気、とは言えないが、敵を殲滅する為に放った一撃は───極光を切り裂き、なのはの目前で大爆発を起こした。

 

「……」

 

 ゆっくりと地面へと降り立ち、なのはの方へと歩いていく。その手には、銀の剣。気絶していたなのはは聞こえてくる足音に痛みで顔をしかめながらも眼を覚まし、

 

「ヒッ!?」

 

 ガタガタと震え出した。その瞳の中にあるのは、『恐怖』。高町なのはは、レオンハルトによって完全に折られていた。

 剣の切っ先を、なのはに向ける。より震えを増すなのはを尻目に、小さく告げる。

 

「ジュエルシードを、出せ」

 

 その言葉に答えたのは、なのはではなくレイジングハートだった。短い電子音声の後、計6つのジュエルシードが排出、つまり、今までなのはが手に入れたジュエルシード総てを明け渡してしまったのだ。

 レイジングハートは理解していた。彼我の戦力差は隔絶していて、尚且つ心理戦にも長けている相手だ。仮に1個出したとしても直ぐに見抜かれる。そうなればマスターであるなのはの命の保証はない。だからこそ、全て差し出した。彼女にとって、最優先すべきはなのはの命なのだから。

 

「……いいデバイスだな、大事にするといい」

 

 排出されたジュエルシードを回収し、背を向けて歩き出す。待って。そう叫びたかったが、声が出ない。総身に走る震えが、言葉を紡ぐのを許してくれない。

 ───怖い。どうしようもなく歩き去っていこうとする青年が怖い。夜風に揺れる黒髪も、月光に照らされる銀腕も、ただ遠ざかっていくだけの背中も、何もかもが怖い。

 そこにある事実は極単純。それは……なのはの心が折れたことに他ならなかった。

 

 そして、その姿が見えなくなると同時に、なのはの意識は闇の中へと落ちていった。




・魔法変異資質『刀剣』

 とある経緯で発現したレオンハルトのレアスキル。正確にはレアスキルではないが、分類上はレアスキルとなっている。
 レオンハルトが外部に放出した魔力が自動的に剣の形をとるという能力で、形状、サイズはある程度設定でき、強度、切れ味は籠めた魔力量に依存する。
 剣は物質として形成されるが、その際に構築した術式によって機能が追加されるというかなり不思議なスキル。
 が、一度形成された剣に対しての魔力による干渉は接触している時以外は行えず、当然操作系の射撃魔法のように剣を思考制御することは不可能。その為、ただ前方に射出するだけならば問題はないが、狙った場所に射出する際には剣の軌道、着弾点等を予め術式に組み込んでから形成しなければいけないため、手間ががかかり、更にレオンハルトはとある理由からデバイスを所持できないため、演算を一人でこなさなければいけない。ぶっちゃけ誰得である。

 今回なのはが色々ひどい目に遭いましたが、アンチやヘイトというわけではありません。
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