#1 もしかして:異世界転生
腹の底に響く振動が断続的に鳴り続けている。真新しい硝煙と血の臭いの中をくぐり抜けながら、カーディアス・ビストは照明の落ちかかった通路を走り抜けていた。
「やはり特殊部隊のようです!」
横を行く側近の男がサブマシンガンを発砲し、おもむろに行手に飛び出してきたカーキ色のノーマルスーツを怯ませた。2体のそれらは鉛玉を受けながらもなお動きを止めず、こちら側に反撃してきた。防弾性に優れるとみれる特殊スーツ、そしてこの襲撃のタイミング。
ロンド・ベルにしてはやり方が性急過ぎる。なるほどガエルの予想は的中しているのだろう。
「コマンドモジュールは既に抑えられたと考えるべきだな」
プログラムの消去は諦めた。いかなビスト財団とはいえ、隠れ蓑のようにしてきたこのメガラニカにそれほどの私兵はおらず、軍隊のそれも特殊部隊と思わしき連中には時間稼ぎすら疑わしい。
通路の揺れが、飛び交う弾丸が、計画に入った亀裂を大きく不可逆なものへと押し広げていくように感じられた。連邦の手に「箱」が渡れば、これまでの計画は全てが水泡に帰するだろう。
宇宙世紀100年という節目に、野望とも夢とも違う己の中に宿った「熱」に賭けた身としては、何としてもこれを阻止せねばならないという想いが身体を前へと前進させていた。
「なんとしても、ユニコーンだけは……!」
*
たゆたう意識が微睡の海からゆっくりと浮上していく。この瞬間が子供の頃から好きだった。ぼんやりとした頭で今日は何して遊ぼうか、なんてこれから始まる1日に想いを馳せながら、重いまぶたを開くのが好きだった。
だったのだ。
いつもとは違う。決定的に何かが違う。自分の中に大きなズレがあるような、無視できない違和感が覚醒した意識を支配していた。
「カラダガウゴカネェ……!」
身体が動かない。すわ金縛りか。金縛りなんていつ振りだ。築数年のそこそこいいマンションに住み始めて半年。そのテの噂は聞かないが。なんてツラツラと現実逃避を始めたオレの背後で、モソモソと何者かが動く気配を感じ取り、オレは振り返った。──振り返ろうとして、ゴロッという嫌な音を立てて、視界が落下した。
「ギャーーーーー!?!?」
首が!首が取れたァーーーーーー!?
ギロチンで首を落とされても数秒は頭だけで生きていた、なんて与太話を聞いた事があるが、あれは本当だったのか……。なんか混乱し過ぎて逆に冷静になってしまったぞ。人間一周回るとこうなるらしい。常に冷静沈着。心がけていきたい。ならいつも回っていればいいって?まわりまわってさぁ!いまぁー!!聞こえるだろう……?ギロチンの鈴の音がさァーーーーー!(頭強化人間)
突然の事に気が動転して、支離滅裂な思考が頭の中を転がり落ちていく。寝起きって偶にすごい発想になるよね。歯ブラシで髭剃ろうとしたりね。大丈夫?ファミ通の攻略本だよ?
「どうしたんだよ、急に叫んじゃってさ」
なんだァ?テメェ……。
さっき感じた気配の持ち主か。身体が動かせないから姿は見えないが、年若い男の声だ。青年、いや少年だな。
一応弁解しておくがオレに弟なんていないし、そういう趣味もない。であるからその声の主は完全に不法侵入な訳でオレの不可思議な現状を作り出した犯人である確率がマジLOVE1000%。もしかして:刑事事件。ルパーン!逮捕だぁーーー!
「ほんとにどうしちゃったんだ?ハロ」
急に視界が持ち上がり、目の前に寝ぼけ眼でボサボサ頭の少年が現れた。飛び抜けている訳ではないが平均点は超えている絶妙な整い方をした平凡と言えなくもないその顔は。(真流星胡蝶剣の解説並の早口)
「バ、バナー……ジ?」
「一回分解するか……」
「ヤメッヤメローーーーー!!」
*
人類が、増え過ぎた人口を宇宙に移民させるようになって、一世紀が過ぎようとしていた。地球の周りの巨大な人工都市は、人類の第二の故郷となり、人々は、そこで子を産み、育て、そして死んでいった。
……宇宙世紀0096、『シャアの反乱』から3年、一年戦争から続く戦乱の世は、表面上には平穏を取り戻しているかのように見えた。工業スペースコロニー〈インダストリアル7〉に住む少年バナージ・リンクスは、ある日、オードリー・バーンと名乗る謎の少女と出会う。
〜略〜
オードリーを探して戦火を走り抜けるバナージは、『ラプラスの箱』の鍵となる純白のモビルスーツ、ユニコーンガンダムとの運命的な出会いを果たす。──緑の玉野郎と共に。
それをバラすなんてとんでもない!
2020/9/23追記
誤字報告ありがとうございました。