ハロに転生したからバナージ導くわUC   作:呼び水の主

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 宇宙空間では音は伝わらない。音とは波動であり、空気を媒質にして我々の耳に届いている。宇宙には空気がない。だから音はきこえない。アースノイドの私でも知っている常識だ。

 しかし当時のことを知る数少ない証人たちは皆、口を揃えてこう言うのだ。

「自分は確かに獣の産声をきいた」のだと。

《月刊宇宙世紀の歴史Vol.100》
※宇宙世紀0123発行。検閲後、抹消。


#11 もしかして:NT-D

『ここからっ!ここからッ!でていけぇーーーーー!!』

 

 ユニコーンの駆動系が力強く唸りを上げ、相対するモビルスーツの腕を異音と共に徐々に圧壊させていく。対峙する緑の巨人に比べると随分小さく見えるその白い体躯のどこにこれだけの膂力があるというのだろう。背部のバーニアから青白い残光を曳いて、幻獣がとぶ。

 

 なんて美しく、幻想的な光景だろうか。鉄と油で動く機械仕掛けの獣にこんな感情を懐くとは、きっと狭い居城で過ごしていた過去の自分には想像できなかったに違いない。

 

 その白き獣は緑の巨人を跳ね飛ばし、ただまっすぐに此方へと駆ける。誰かの息を飲む音だけがやけにハッキリと耳朶をうった。それは自分を拘束していたパイロットの声か、偶然居合わせた少年の声か。

 

 確かなのは自分ではない他の誰かということ。だって、自分は。

 

 ──息をするのも忘れて、その姿に視線を奪われていたのだから。

 

 

※ ※ ※

 

 

 ──時は少し遡る。

 

「「あばばばばばばばばばば!?」」

 

 スレッガーさんかい?速い、速いよ!ユニコーンがバックパックのメインスラスターを瞬かせながら弾丸のようにコロニー内を駆ける。殺人的な加速だ!ちょっとマジ意味わかんない!俺の思考が機体についていけてない!マグネットコーティング前のガンダムの逆バージョンだこれ!

 

「ハロ!減速だ、減速!」

 

「バナージおまっ、ちょっ、まっ!」

 

 バナージがフットペダルを思いっきり踏み込む。お前ェェェェェェェェ!!お前お前!!それ踏むと加速するやつーーーーッ!!ユニコーンは操縦者の意に反した誤操作に忠実に応え、そのスペックがカタログ上だけでは無いことを遺憾無く示した。つまりわかりやすく言うと、俺たちは仲良く白眼を剥くことになったと言うことだ。(俺に白眼はないが、そんな気分だったのである)

 

「「あばばばばばばばばばば!?」」

 

 俺たちは止まらない、加速する。景色が飛ぶように流れていき、コロニーの外に繋がるゲートがみるみる迫ってきた。それでもひたすら前へ、前へ。っ!この暴れ馬がっーーーー!

 

 ぶつかる!俺がそう強く意識した瞬間。ユニコーンの右腕からビームが閃いてゲートに風穴を開けた。コロニーから飛び出したユニコーンが勢いよく静止し、腹の底まで響く唸り声を上げながら、メインエンジンをふるわせた。

 

 オォォォォォォォォォ──。

 

 さながら獣の咆哮か遠吠えのようである。大丈夫?これほんとに俺の身体?俺の意思に従ってる感ないんだけど?

 

 コックピットのモニターにはAI同調率41.3%と表示されていた。つまり半分くらい勝手に動くってコトカナ?それとも残りの58.7%はバナージ担当なの?なに?黒と緑の半分こ怪人かなにか?冷静に考えたら思い通りに動かないとかとんでもねぇ欠陥兵器だよコレ!カーディアス、お前の罪を数えろ!!

 

 クン!ユニコーンのメインカメラがバナージの知覚に敏感に反応し、ある一点を凝視した。首ゴキッってなるから急に動かすのはやめろ。ユニコーンの瞳は随分遠くまで見渡せるようだ。オードリーを攫ったリゼルがクシャトリヤの前で四肢を散らして沈黙している様子がはっきりと見えた。ガエルのリ・ガズィもだ。マリーダさんがエクバ全一だってはっきりわかんだね。

 

 その光景を見てしまったバナージからフツフツと高まる怒りを感じた。ま、まずい。この感じは……!

 

「バナージダメだ!落ち着くんだ!」

 

 思わず突っ込んで行きそうになるユニコーンを必死に静止させる。

 

「けどこのままじゃ2人が!」

 

 猛るバナージに俺が「鎮まれ、俺の右腕ッ!」していると、達磨になったリゼルを抱えたクシャトリヤが、花弁のように広がる羽根からファンネルを解き放った。クラップ級がメガ粒子と機銃をばら撒きながら、クシャトリヤに肉薄したのだ。後には引けないというがむしゃらな、冷静さを欠いた突貫。

 

 ファンネルがクラップ級の装甲が薄いであろう部分を次々と貫いていく。たちまち蜂の巣になったクラップ級が、音もなく轟沈した。

 

 その時である。沈みゆく艦から、聞こえるはずのない呼吸、声、叫び、それらが失われていく生々しい感情が波のように押し寄せて身体に入り込んでくる感覚が、バナージを襲った。

 

「っ……、あっ、あぁぁ……!?たくさんの人が、オレに入り込んできてっ!?」

 

 バナージが苦悶の声を上げ、両手で肩を抱いた。

 

「どうしたんだ!バナージ!おい!しっかりしろ!」

 

 その時俺は訳もわからず、ただバナージに叫ぶことしかできなかった。バナージがユニコーン・ガンダムのフルサイコフレームを介して人の死をダイレクトに感じ過ぎてしまったのだと気付いた時には、もう手遅れだった。

 

『NT-D』

 

 妖しく光るディスプレイに表示された無機質な英文字が、俺たちの意識を支配しようと手を伸ばしていた。

 




連休中に第一章完結予定。※誤字報告ありがとうございます。
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