微かに漏れ出る光を頼りに、薄暗い通気孔の中を転がり進む。ここは戦艦ネェル・アーガマの奥深い何処か。囚われの身となったバナージとタクヤ、オードリーを救出すべく、なんとかここまで身を潜めながら侵入してきた。
前方から聞こえる、バナージと思わしき声。ようやく目的地に辿り着いたらしい。通風口のカバーごしに、室内を見下ろせば、バナージがガタイのいい軍人と水色スーツの太い男(たぶんアルベルト)に囲まれて尋問されている真っ最中だった。どうやら、俺の現在地は尋問部屋の真上らしい。やれやれ、ここからどう連れ出したものかな。
──事の顛末を説明しよう。
マリーダさんのクシャトリヤを撃破してオードリーとタクヤを保護した俺とバナージは、そのまま超警戒体制で状況を見守っていたネェル・アーガマに拿捕されてしまった。崩壊するコロニーから飛び出してきた、ネオ・ジオンのニュータイプ専用機を一方的にボコったIFF応答なしのアンノウン。それに自分たちが運んできた特殊部隊から入る警告や騒ぎまくるアルベルトを見れば、自分たちの任務の内容がおぼろげに見えてくるはずだ。拘束やむなし。むしろ有能まであるね。
クシャトリヤはまだまだやる気だった様子だが突然退いていった。あのままオードリー達を抱えたまま戦闘にならず本当によかった。それからしばらく、俺たちを誘導するリゼルごしに、クシャに木っ端微塵にされた僚艦から要救助者を探す作業が行われていた。あれ?ネェル・アーガマに僚艦なんていたっけか?と疑問に思う。どうやらこの世界は本当に原作とはかけ離れまくっているらしい。
「機動戦士ガンダムUC」と大筋は同じの現実世界。そう、現実だ。賑わう校舎、生徒たちの会話や笑い声、そして崩れていく地面、人々の悲鳴、躍動するモビルスーツ、バナージの苦悩と覚悟。俺にとって、すべてがリアルだ。ここは小説やゲームの世界ではない。俺たちにとっての現実なんだ。
改めて理解する。前世の俺は、おそらく死んだのだ。心のどこかで、俺はただ、醒めない夢を見ているだけかもしれないと思っていた。これは寝ている俺が見ている夢で、普段通り目覚まし時計の音で叩き起こされて、うーんあと5分だけ、なんて言いながら布団で寝返りをうつ。それが今では。……なんだろな。やっぱ実感わかねーわ。だってハロなんだぜ?
まあそうしてなんやかんやあって、最低限目的は果たしたとばかりに尻尾を巻くようにしてネェル・アーガマがインダストリアル7から離脱したのが数時間前の事である。あの場に留まっていたらなんとなくイヤな予感がしたから、正直ほっとした。これでカーディアスとはしばらくお別れだろうな。やはりというか何というか、彼の目的はやはり《箱》の開放だろう。ラプラス事件。初代連邦首相と共に失われた宇宙世紀憲章のオリジナル。
たしか宇宙に適応した新人類(めっちゃ定義が曖昧)も冷遇しないよ!じんるい みんな ナカヨク。みたいな内容だったはず。それが世間に公表されちゃったら連邦困っちゃうらめぇ〜!で宇宙戦争ドーン!コロニーレーザーバーン!隠された《箱》を探して歴史探訪しよう!っていうのが機動戦士ガンダムUCの大筋だったはず。詳しくはアニメ本編か小説を読むんだよォ!
いやしかし……改めて考えるとビスト財団マジ頭おかしーんじゃねーの?資格ある奴に歴史探訪させて《箱》を開けるかはお前が決めるんだヨォ!ってのが目的なんでしょ?考えがぶっ飛びすぎてて理解が及ばん。人類愛拗らせすぎでは?人を信じることは美徳だが、行き過ぎればそれは悪徳になる。もはやロマンチストも超越してテロリストだよ。悪のジオン星人もビックリだわ。
そもそもの話、ジオンが消えて連邦一強になったら人類衰退するって飛躍しすぎでは?俺はのんびりだらりと生きていきたいよ。困難に立ち向かわないと閉塞した未来になるってんなら、俺は立ち向かわない方を選ぶ。毎日ゴロゴロゲームしてたい。頑張りたいやつだけが頑張ればいいのだ。常に世の中を動かしてきたのは一握りの天才たちなのである。俺はその一握りじゃないし、過酷な生存競争なんてくそくらえである。人類の発展とかやがて行き着く先なんて今の俺には関係ないし?……え?そうすると文明が停滞して異聞帯として切除されちゃうって?そんなアプリゲーみたいな設定なんてナイナイ!
話を戻そう。
ネェル・アーガマに着艦した後、バナージとタクヤ、オードリー、あとオードリーを拉致ったリゼルのパイロットが拘束されて艦内に連行されていった。そしてユニコーンからこっそり抜け出した俺は見つからないようにミッションインポッシブル。ハリウッド顔負けの超スタイリッシュスパイアクションを披露しながら今に至るってワケ。
よかったなバナージ!俺たち、ちゃんと生き残れたよ!なお原作より待遇が悪い模様。これは……やばいですね☆
「学生という身分も隠れ蓑だな?カーディアス・ビストとどんな契約を交わした?ユニコーンは《鍵》と言ったな?では、《箱》は?どこに隠した!早く答えないか!さもないと……」
アルベルトさんが色々機密っぽい事を漏らしつつバナージに詰め寄っている。だいぶ熱くなってるな。ユニコーンが《鍵》。これは原作通りだった。La+システムは俺のボディたる“この世界"のユニコーンにも搭載されていたのだ。
マリーダさんと戦った後、システムが示した座標はかつて首相官邸ラプラスと呼ばれたコロニーの残骸が漂う、地球の大気層に近い危険な宙域。宇宙世紀始まりにして呪いの発生源。うわ辛気臭っ!俺としてはまともに歴史見学ツアーに付き合う気はない。このままユニコーンは連邦にポイして俺たちはちょっと機密に触れた哀れな民間人としてサヨナラバイバイ。そういうことにならねーかな。ならねーよなぁ……。今のところ成り行きに任せるしかないってのが辛いところだ。
尋問部屋の様子を監視しつつ一人思案していると、突然大きな揺れが艦全体を襲った。次いで出て行く軍人とアルベルト。俺の記憶が正しければ、この揺れはフロンタルの襲撃に違いない。部屋には戸惑うバナージ一人になった。イスから立ち上がり不安そうにオロオロしている様は見ていて居た堪れない。……さーて、俺もお仕事しますかね。通風口のカバーを蹴破り、バナージの目の前にスーパーヒーロー着地をキメる。突然の登場に目を見開いて驚くバナージに、顔?を上げて事前に考えていた決め台詞を言ってみた。
「待たせたな」
1回言ってみたかったんだコレ。