朝起きて、準備して、学校にいく。当たり前のことが当たり前のようにできるということをありがたがるようになったのはいつ頃からだろうか。
──今だよ!
察しのいい諸兄はもうお分かりだろう。目が覚めたらハロになっていた。いわゆる異世界転生というやつだ。もうこの説明すらテンプレートすぎて、未知の状況なのに既視感を覚えるというね……。おかげで混乱を免れていると思えば、やはり人間既知の物事に対しては果てしなく鈍感になれるものらしい。
なろう作者諸君には感謝してやってもいいよ?(超上から目線)
あれからなんだかんだとバナージと交流を深めて(バラされまいと暴れていたらとりあえずカバンに突っ込まれた)、今は学校に来ている。
ハイスクールっていうより高専って感じ?アナハイム工業専門学校っていうんだって。(wiki調べ)
「学校なら専用の工具もあるし、放課後に工作室貸してもらうか……」
バナージが何か怖いことを呟いていますが無視します。だからカバンから抜け出す必要があったんですね!(メガトンコイン)
見せてあげようか。自分がハロであることを自覚した今、身動きの取れなかった今朝のオレとは違うということを。
一見すると耳に見えるカバー部分が開き、そこからチューブ状のフレキシブル関節で保持されたアームが展開される。5指を備えたアームは人間と同等レベルの細やかな作業を可能とし──このようにジッパーすら開閉可能なのだァーーーーー!!しかも脳波コントロールできる!
「フハハコワカロウ!!グフッ」
速攻で捕まったァーーー!?オレのボディをがっしりと両手で捕まえた少年──タクヤがバナージに近づいて声をかけた。
「よう、さっきはありがとなバナージ」
「いいよ、二人とも無事でよかった」
タクヤの謝罪半分感謝半分の言葉に、バナージは半ば無意識に返事を返した。というのも、今朝から自分を苦しめる悩みの種──玉が今も無駄にアグレッシブに暴れまわっているからだった。
「HA☆NA☆SE!HA☆NA☆SE!」
タクヤの腕の中で全身のカバー部分をこれでもかも開閉させて抵抗を続けるこのハロ(バグった機械)は、自分が子供の頃に買ってもらったペットロボットである。誰が買ってくれたのかは、もう覚えていない。ただ、一緒にいてほんのりと温かい気持ちを抱く程度には愛着があるらしいから、大方母親にでもねだったのだろうとひとり納得していた。──それも今は、愛着を鬱陶しさが上回る程度には厄介者と化しているのだが。
「ちょっと!騒がしいわよタクヤ!」
騒ぎを聞きつけたミコット(黒髪ウェーブのまあまあ美少女。年齢は16歳。ヨシ!)がタクヤに詰め寄る。
「俺じゃないって!ハロがさぁ!」
必死に弁解するタクヤだがミコットには通じないようで、チクチクと小言を刺されているのを横に、バナージはまたぼんやりと窓に視線を移した。窓の外には黒々とした闇が広がっており、時折デブリが横切る以外には何もない、文字通り誰もいない空間が広がっていた。
バナージという少年は、時折日常にズレを感じる少年であった。そんなバナージに、大人はそういう年頃なのだと言う。そんなものか、と自分を納得させようとして、しきれずに、ぼんやりとズレを感じる生活を続けている。
それなりに賢い彼は、納得とか意識の有無で無くせる感覚じゃないんだ……、と自分の中のズレと共生し続けてきた。だからこうして、ふと遠くに視線を投げるのが、彼の日頃のクセのようなものであった。
「……あれ?モビル、スーツ?」
ふと視界を白いモビルスーツらしきものが横切った気がして、バナージは身を乗り出した。それは、不思議と目線を惹きつけるナニかがあったのだ。
「マジ!?どれどれ!」
モビルスーツオタクのタクヤがミコットの小言から抜け出しバナージの横から同じく身を乗り出す。
「ごめん、ただのデブリだったのかも」
「そっかー。まあ、ここら辺は航行禁止宙域だしなー」
タクヤがわかりやすく肩を落とす後ろで、ミコットがジリジリ近づいてくるのが見えた。
「タークーヤー?」
「ヒィ!もう勘弁して」
微笑ましいものを見る目でバナージは二人のやりとりを眺め、ふと先ほどから大人しいハロを探して辺りを見回した。
緑の玉は先のバナージよろしく窓を向いており、ツインアイがチカチカと赤く発光していた。
「……ハロ?」
「ナルほド、ソウいうコとか……」
ゾッとする程生々しい"人間"の声を合成音声の間に響かせながら、ハロがバナージに振り返った。
「いくゾ、バナージ。危機ガ迫ってイル」
目を覚ませ僕らのコロニーが何者かに侵略されてるぞ