「あ、ご、ごめんなさい!驚いてしまっただけなの!」
起きがけに主人公を平手打ちしたヒロインのセリフである。ガンダム史において平手打ちは様々な名シーンを生み出してきた。「この軟弱者!」とか特に有名である。往年のファン達はこのセリフで何かに目覚めた者も少なくないという。きっと綺麗所にぶたれるというのはこう、クるものがあるのだろう。あっけどオレは見る専で結構です。
うーん、オヤジにもぶたれたことないのに!って言おうと思ったけど、父親を覚えてないバナージにこのセリフ劇重ォ!!誰かファミパンおじさん呼んできてー!お前も「家族」だ……!
それにしても必死に謝る姫様はかわいいなぁ(超人事)。咄嗟に手が出るあたり、実にドズルの娘感あるよね。いやぁ親子親子。
当のバナージはといえば、左頬にかわいらしい紅葉を咲かせて、茫然と尻餅をついている。ありゃ痛いなぁ、なんてボヤくタクヤの腕をするりと抜け出して、オレはバナージに転がり寄った。これでもキミのペットでね。傷心の飼い主を労わるのもオレの勤めなのだ。オレがバナージゲンキカ?を連呼していると姫様がバナージに歩み寄って手を差し伸べた。
「大丈夫?えと、バナージ?」
その美しさも相まって、まるで舞台の一幕のようである。これじゃどっちがヒロインかわかりゃしないよ。
「俺の名前……?」
「その子が呼んでたから」
まあね!連呼したもんね!俺の名前……?じゃないよ!いつまでたっても話が進まんでしょが。ほらバナージ、さっさと自己紹介しな!オレの名前はハロ!んでこっちの天パがタクヤ!3人揃ってアナ工の三連星とは、まさにオレたちのことよ!
「モガモガ……!ムッーー!」
HA☆NA☆SE!HA☆NA☆SE!
バナージ、貴様ぁ……!
「俺はバナージ。バナージ・リンクス。君は……?」
「……オードリー。オードリー・バーン」
ミネバはすこし逡巡するように俯いて、意を決したように真っ直ぐバナージ(とタクヤとオレ)を見た。(画面に無理矢理インする2人)へへっ、バナージ一人にいいカッコはさせませんよ!だからかな、つい調子に乗ってしまっていたのかもしれない。他人のセリフにセリフを重ねるなんてことをしちまったのは。
「私をコ「甲子園」ルダーまで連れていって欲しいの!」
メコォ!!(顔面パンチの音)
*
ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!……ふぅ、落ち着いた。さて、話を戻そう。
あれは今から36万・・・いや、1万4000年前だったか。まぁいい。あの後、バナージと焦った様子のミネバのやりとりをまとめると、だ。
ミネバをビスト家まで連れてって!ということである。グーパンはやめてよね……。オレのボディに勝てるわけないだろ。手怪我するからねマジで。(ハロの半分は優しさ)
だがちょっと待って欲しい。現状を整理してみよう。コロニー内で戦闘が始まっているということは、おそらくミネバとカーディアスが面会することにもはや意味はない。箱の奪取を目論んだ連邦と、箱を受け取りに来たガランシェール、それを極秘にしたかったビスト財団の、下手したら三つ巴の乱戦になっている可能性が高いからだ。既に戦争の引き金は引かれてしまったのである。
つまりミネバの目的はこの時点で既に破綻してしまっている。悲しいね、バナージ……。これも全部乾巧ってやつの仕業なんだ!なんだって!?それは本当かい!?
そんな時だった。頭上から一機、MSが急降下してきたのは。
「見ろよ!RGZ-95リゼルだぜみんな!」
MSオタクのタクヤが弾んだ声でそいつを指差した。可変機構を有するその青い機体が、人型に姿を変えてこちらに赤いバイザーを向ける。目の前の開けた場所に着地して、コックピットハッチからパイロットスーツを来た何者かがこちらに歩み寄ってきた。
「連邦軍だ!助かった〜!」
喜んだり安心したり、忙しいやつだ。このタイミング、機体はリゼル。もしかして:リディ少尉。間違いないね!俺の占いは、当たる……。
パイロットは腰に手をやったかと思うと、おもむろに小銃をこちらに向けた。オレたちの顔が強張る。そいつは硬い男の声音でこう告げた。
「ミネバ・ラオ・ザビだな。一緒にきてもらおう」
え、マジで誰……?
*
「どうなっている!コロニー内での戦闘など許可していないぞ!」
インダストリアル7の目前で待機しているネェル・アーガマの艦橋に怒声が響き渡った。声の主はオットー・ミタス。クルーからは密かにタヌキ親父と揶揄される、冴えない中年の風貌をした男である。オットーは艦長席から身を乗り出して、傍らでほくそ笑む男に掴みかからんばかりの威勢で問いただした。
「アルベルトさん!これは一体どういうことか!」
アルベルトと呼ばれた男は笑んだまま、目だけをオットーに向けて口を開いた。
「連邦も一枚岩ではないということです。もちろん、ロンド・ベルとて例外ではない。政治に疎い貴方には少々難しい話でしたかな?」
馬鹿な。僚艦のキャロットを見、オットーは愕然とした。ミノフスキー粒子によってコロニーの内情は知れないが、アルベルトの言を認めるのなら戦闘を始めたのはキャロットのMS隊ということになる。
政治の息苦しさを嫌った自分が流れ着いた先がこのロンド・ベルだった。艦隊司令の色が出ているのだろう。流石に無縁とは言わないが、ここには派閥争いというものはほとんど無かった。──3年ほど前までは。
シャアの反乱以来、戦闘といえばせいぜいが小規模なMS戦程度。"戦争"は終わった。口にはしなくとも、誰もがそう感じていたに違いない。だからだろう。この3年の平穏が、ロンド・ベルというシェルターの内部に、政治という名の怪物の侵入を許してしまったのである。
オットーは折れそうになる心を奮い立たせた。たとえ日陰者と指差されようとも、それでも自分は、誇り高い連邦軍人だ。誰かを守るために、その為に自分は軍人を志したのではなかったのか。
「MS隊に連絡!コロニーで暴れる馬鹿どもを止めろ!」
「艦長……!」
副長のレイアムの感極まったような声が聞こえた。そうだ、俺は、やる時はやる男なんだ。普段腑抜けだと言われようとも、譲れない部分が俺にもある。
「ミノフスキー粒子で、MS隊とは連絡がとれませんが……」
直後のレイアムの指摘に、オットーは現実に引き戻された。艦長席にドッカと腰を下ろし、恥ずかしさを誤魔化す為に最近前線を下げ始めた頭髪を撫でる。そういえば、自分は食いっぱぐれないという理由だけで軍人を志したのだった。
フン、というアルベルトの鼻を鳴らす音が、やけに艦橋に響くのだった。
オットーすこ