崩壊が進むスペースコロニー『インダストリアル7』。その燃え盛る港湾ブロックに横たわる搬送用トレーラーの中で、チロチロと照り返す炎を鈍く反射しながら、白亜の一本角が横たわっている。その機体は、見た者から一瞬呼吸を忘れさせるほどに危うく、そして妖しげな美しさを放っていた。
リゼルのメインカメラを通してそれを見ていた俺は、無いはずの心臓がドクンと跳ねたような錯覚を覚える。
「ユニコーン……、ガンダム」
リゼルのコックピットにいた3人と1匹の視線がユニコーンに集中している一瞬の隙だった。俺の意識がリゼルから強制的に引き剥がされた。
「アババババ!?」
「きゃっ!?」
俺の有線接続を物理的に毟り取り、ミネバを拘束した連邦のパイロット。足元には体を縛っていたはずのコードが落ちており、タクヤは殴られたのだろうか、気絶したように動かなくなっている。縄抜けされるとは、軍人を舐めていた……!
「しまった!」
気付いた時には手遅れだった。リゼルのコックピットハッチが開く。蹴り出され、空を舞う俺とバナージ。吹き付ける熱風と火の粉に全身を包まれながら、俺たちは落下する。閉じていくコックピットハッチから、ミネバの絶望する顔が見えた。リゼルがバーニアを噴かし急速に離脱していく。
「オードリィィィィ!!」
リゼルの生み出した突風にもみくちゃにされながら、バナージが叫ぶ。ちっくしょお、この距離から落ちたら、流石に助からねぇ!俺はマニュピレーターを限界まで伸ばしてバナージを掴んだ。せめてクッションがわりにはなってくれーーー、俺!
──ゴンッ。覚悟を決めた俺の全身に、鈍い衝撃がはしる。思ったより衝撃が軽い。俺たち、生きて、る……?直前に聞こえた駆動音は、モビルスーツ?
俺たちが横たわっていたのは地面じゃなかった。巨大な機械の掌の上。白亜の機体が、トレーラーから身を乗り出して俺たちを支えていた。空想上の一角獣を思わせるその頭部のスリットの奥から、鈍い光が漏れている。
ソレと目があった気がした。今は無いはずの、脊椎の上を電気が走り抜けていくような、はたまた頭を矢で射抜かれたような強烈なイメージが、俺の電気基板の上を駆け抜けていく。足元を支える機体の手が、僅かに震えた気がした。
「お前は、誰だ……?」
遠のいていく意識の中で、問いかける。機械仕掛けの獣がその問いに応えることはなかった。その言葉を最後に、俺の視界は急速に暗転した。
※
視界いっぱいに自分の状態を示すパラメーターやウィンドウが陳列されている。それらは展開された端から処理を終えては閉じられていく。最後に残ったウィンドウが俺に再起動を促していた。グングン伸びていた緑色のゲージが、70%で固まった。なんだか懐かしい、ヒトだったあの頃を思い出した。
──タクヤを、オードリーを、友達を救いたいんだ!
声が聞こえる。この1日で、よく見知った声だ。76%。
──コロニーの中を見たでしょ!みんな、明日の予定だってあったんだ……。それなのにあんな!あんなの、人の死に方じゃありませんよ!
少年の悲痛な叫びが、誰かに向けられている。82%。
──ここまで来たその気持ちが、揺らがぬ自信はあるか?
初めて聞く男の声。違う、俺はこの声を知っている。最後に聞いたのはヒトだった頃?それとも……。91%。
──自信とか確信なんてない。けどオレは。
──ならばコレを持っていけ。その端末が、お前を導くだろう。
100%。
一対のメインカメラが目の前の2人の人物を捉えた。1人はバナージ。そしてもう1人は鋭い眼光で俺を見ている銀髪の男、その名はカーディアス・ビスト。バナージの実の父にしてビスト財団当主。原作通りならユニコーンをバナージに託す時に死別するキャラクターである。まあ、この通りピンピンしているが。そんな人物がなぜ俺を見てるのかな?
「はじめましてってわけじゃ、なさそうだな?」
オレの問いかけに目を見開くカーディアス。
「よもやこれほどとは……。聞くが、君は、自分が何者か認識できているのか?」
何か知っている様子の、というか明らかに仕掛け人だろうカーディアスに俺は詰め寄った。
「俺を知っているのか?俺はなぜハロになっている?いや、そもそも、俺は、ナニモノなんだ……?」
詰め寄る俺のまんまるボディを凝視していたカーディアスが、ゆっくりと瞼を閉じる。明らかにこいつは真実を知っている。
「なんと言ったらよいのか……。あまりにも埒外に過ぎる故、心乱さず聞いて欲しいのだが」
え、なに。なんか思ったより重そう。まさか機械の身体を依代に人間の魂を定着させましたとかトンデモオカルトじゃありませんよね?ここガンダムの世界だよ?……よくよく考えたらガンダムって結構オカルトだった。いやちょっと待っていざ聞くとなると心の準備が──。
「──発展型論理・非論理認識装置。かつてALICEとも呼ばれた、モビルスーツの完全自律稼働を目指した人工知能。その完成形にして、このユニコーンの頭脳体。──それが君なのだ」
─────────は?