騎士王の影武者   作:sabu

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 前回が重い話だったので今回はほのぼのです。
 あれ、でも、おかしいな……プロット段階では主人公こんなにヒロイン適性高くなかった筈なんだけどな……
  


第20話 鴉の両翼

 

 

   

 朝は早い。鳥のさえずりとほとんど同じ頃に起きる。

 元々はもっと遅くまで寝ていたが、10年以上前のある出来事より早めに起きる事にしていた。習慣になってしまえば別に辛くも何ともない。

 それよりも、何かを見逃してしまうのではないかという不安の方が大きかった。

 

 素早く起床し身支度も済ませ、悶々とした感情のまま、例の存在がいるであろう場所に向かう。

 

 

 

「——早く起きすぎなんだよ、テメェ」

 

「うわ……最初の一言がそれとは。性根が捻じ曲がっているのでは?」

 

 

 

 売り言葉に買い言葉で返しながらも、彼女の集中は乱れていない。

 修練場で弓を引いているその姿は、以前に見た姿と一切狂いなく、相も変わらず気持ち悪かった。

 

 

 

「こんな朝早くから、精が出るなぁ本当に。何だ? 自分でも追い込んでるのか?」

 

「別にそんな事はありません。これといってやる事もありませんし、暇な時間があったらその時間を修練に当てるというのは、珍しくもなんともないでしょう」

 

「ハッ、お前にとっての暇な時間とは、どうやら一日中を意味するらしい。

 実質一つの修練場を貸し切りにして、夜明けから日が沈むまでのほぼ全ての時間この場所にいるとか、感心を通り越して恐怖だ。

 後は時々、キャメロット内の食堂に顔出すくらいか?」

 

「申し訳ありませんが、私は別に何かの任務を片手間にして遊び惚けている訳ではなく、本当にやる事がないだけなので。貴方と一緒にしないで貰えますか?」

 

「俺が円卓の任務を片手間に、遊び惚けている様な口振りじゃないか。なんとも見る目のない。俺は至って真面目だ。むしろこのキャメロットで、一番仕事を精力的にこなしている。しかも、他の円卓では何も出来ないだろう仕事をな」

 

「……どうだか……」

 

 

 

 呆れた口調で呟いた少女は、此方の言葉を信用していない様子だった。貼り付けられていた筈の表情は、若干外れている。

 距離が縮んだなどという楽観的な考えはない。あの激情を露にしたから、ただ必要以上に隠す意味がなくなってしまっただけ。彼女はそんな雰囲気だった。

 

 

 

「というか、貸し切り……? どういう事ですか。ただ私以外に人が来ないだけで、別に貸し切りにしている訳ではないのですが」

 

「感心を通りこして、恐怖」

 

「…………はい?」

 

「お前、他の騎士から引かれてるの知らないのか?」

 

「……………………」

 

「その様子だと知らないみたいだな」

 

 

 

 一瞬だけ、少女の動きが硬直する。

 その後、弓を構えるのをやめて此方に振り向いた。どうやら真面目に話を聞こうという事らしい。

 

 

 

「どうやら、協調性が無さそうだという、俺の考えは間違いではなかったという事だ」

 

「そういうのは要らないのでさっさと説明してくれません?」

 

「おっと! 早速、協調性の無さを披露していくとは驚きだなぁ。そんなんだと、いずれ苦労するぜ?」

 

「有り難い言葉です。説得力が凄いので実体験なのでしょうね。ご忠告痛み入ります」

 

 

 

 互いに一歩も譲らず、また後退する事なく言葉で殴り合う。

 一方が皮肉で貶し、もう一方が慇懃無礼でこき下ろす。

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「……はぁ……で、説明は」

 

「はいはい……言えばいいんだろ、言えば」

 

 

 

 言葉が途切れ一瞬だけ睨み合うが、それも長くは続かなかった。

 互いに、このままだと永遠に話が続かないと悟り、一旦無かった事にして話を進める。

 

 

 

「まぁ、基本的にお前は好意的に受け止められていると言っていい。

 基本的にだが……別にそこ自体はあまり気にしなくいいんじゃないか。お前の場合、見た目から来る勝手な先入観と嫉妬は消えんだろうしな」

 

「そうですか。まぁ私としても、普通にそういう人間はいるとは思っていたので驚きではありません。それに、居るといっても一部なのでしょう?

 ならどうでもいいですね」

 

 

 

 少女は極めて淡々と語った。

 

 

 "そういう人間はいるだろう。勝手にそう思っていればいい。自分は別にどうもしないし、どうでもいい"

 

 

 そういった様子を雄弁に表している様だった。

 どちらかといえば、協調性がないのではなく、必要だと思っていない。もしくは他者に対しての関心が極めて薄いのかもしれない。

 敵か、敵じゃないか。後は其処に、自分に対して益になるかどうか。その三つで、全てを判断している様にケイは思えた。

 

 

 

「いるはいるが、本当に気にしなくていい。既にそういう奴は叩きのめされているからな」

 

「は……? いや、何故。もしかして……騎士とは集団いじめの温床だったりします?」

 

「そんな訳あるか。

 まずお前に妬みだとか嫉妬を向けているのは、決闘試合を見ていない人物で、尚且つ思い上がりが激しい人物だ。後はお前の武勇を信じていない人間。

 子供がそんな事出来る訳ない。自分だったらもっと上手に出来る。子供が騎士になるなら、自分はもっと上の役職にしろってな」

 

「はぁ、そうなんですか」

 

 

 

 呆れた口調には一切の温度がなく、先程自分に向けた呆れの言葉と違い、ひたすらに無関心。

 心底興味がないのだと言外に表している。

 

 

 

「そして、その愚かな熱量を他の事に回せば良いのに、実際に抗議する奴が現れた。本当に一部だが、お前を打ち負かして自分の方が強いと証明してやろうなんて奴もいたらしいぞ?」

 

「へぇ…………」

 

「まぁ、そんな事する前に他の騎士に叩き潰された訳なんだが」

 

「……誰なんですか? その騎士は」

 

「俺の親父。お前と一騎討ちしたエクター卿と言った方が分かりやすいか?」

 

 

 

 少しだけ驚いた様子で、少女は問いを返す。

 

 

 

「どうやって……」

 

「どうやっても何も、普通に騎士道に則った一騎討ちで叩き潰したんだよ。

 ""もし私に勝つ事が出来たら、アーサー王に直接お前を推薦してやろう。だが、他人の活躍を信じず妬む事しか出来ない程度の人間が私に勝てるとは思わないがな。片手でも充分勝てるだろう""

 なんて挑発して、本当に動く右手だけで勝った」

 

「う……うぉぉぉ……もし今度エクター卿と会ったら、一応謝罪を……いや、感謝の方が良いのか……」

 

「別に気にしなくていいだろう。

 親父も別に気にしてなかったし、むしろ将来が楽しみだって笑ってたしな。

 ——まぁ、この影響でお前、若干引かれてるんだが。

 お前のやった事が誇張でもなんでもなく事実だって証明された様なもんだし、ついでに、何考えてるか分からない、気味が悪い、修練に対するのめり込みが怖いと来た。

 お前がどんな人物なのかは、きっと誰かが確かめてくれるだろうから、とりあえず自分は距離を置こうってな」

 

 

 

 基本的には、好意を持って受け止められているというのはこの様な意味合いを持っている。

 結局のところ多くの人物が向けているのは畏怖だが、それはそれとして、その期待の新人である少年の実力は気になる。といった所だった。

 

 この見た目と歳で、円卓に比肩出来る人物。

 何かきっかけがあれば、陶酔されるに足る実力を有した存在。

 比較的新参であるモードレッド卿と戦わせて見たら、どうなるのか気になるという騎士も多いらしい。

 

 

 

「はぁそうですか。折角人が感激してる所に、水を差さないで欲しかったですね。

 何故理想的な騎士であるエクター卿から、貴方の様な性格の人物が産まれてしまったのか」

 

「……………………」

 

 

 

 白けきったかの様に、芝居がかった口調で冷笑しながら呟く少女に、一瞬だけ硬直する。

 

 ——抑えろ。

 流れる様に相手を侮辱するのは、アグラヴェインが特にランスロットに向けてやる事だ。

 いや、アグラヴェインのそれと比べればまだ可愛い。アグラヴェインだったら会話が全て終了した後、言い返す間もなく吐き散らす。しかももっと暗喩で罵る。

 此方に言い返す余力と余暇を残しているあたり、まだ会話の範疇。ちょっとしたじゃれ合いでしかない。

 

 

 

「あぁ、流石だな。実力も申し分なく、しかも小賢しいくらいに頭が回って、生意気なガキくらいには口も回る。鴉と称されるだけはあるな。狡賢い鴉から死体漁りの上手い鴉にはなってくれるなよ?」

 

「………………鴉……?」

 

 

 

 どの様な意味か分からないといった様子で、少女は呟いた。

 いや、普通なら意味は分かる。察しが悪いというのも、今までの彼女の調子から考えると上手く噛み合わない。つまりこの少女は、鴉が自分の事を指しているのだと知らない。

 

 

 

「あぁ……めんどくせぇなぁ。お前、本当に他人に対して興味ないのな。なんなんだよ、ホント。熱意を向けているモノと、熱意を向けていないモノの差が激し過ぎるんだよ。良い塩梅は取れねぇのか」

 

「いや、そんな捲し立てられましても。そもそも他人と会話する機会が限られていたので仕方がないじゃないですか」

 

「度が過ぎるつってるんだ。理解しろクソが……」

 

「…………それで、鴉とは」

 

 

 

 面倒になったのか、生返事で説明を急かして来る。

 相手の感情を逆撫でするような態度は、かなり頭に来るのだが、説明せずに会話が途切れて困るの此方である。無視をしたら、目の前の少女は躊躇いなく会話をやめるだろう。

 

 

 

「チッ………お前、鴉羽の騎士って二つ名で呼ばれてるんだよ。キャメロットに幸福を授ける吉兆の象徴とかなんとかってな。詳しい経緯はもう話が広がり過ぎて知らんが、お前は心当たりないのか?」

 

「鴉? 鴉って……あー……あれか。いや、そうだとしてももう二つ名が付いてるとか、おかしくありません?」

 

「知らん、どうでもいい。他の奴に聞け。後、心当たりがあるならさっさと説明しろ」

 

「……………」

 

 

 

 意趣返しで適当に返事をして説明を急かす。少女は、やや不服そうに腕を組み始めた。

 

 

 ……コイツ、露骨に分かりやすくなってきたな。

 

 

 思わずその様子を見て思案する。

 恐らくこれが彼女の素か、もしくは素の一つなのだろう。打ち解けたなどとは到底思えないが、取り敢えず一つの壁はなくなったという事か。逆に壁が一つ外れても、まだ油断出来ない存在だと考えるべきか。

 

 恐らくだが、この少女は隠し通すという事は得意分野ではないのだろう。なんとなく、隠す事よりも騙す事の方が上手な印象がある。

 無論、得意じゃないだけで、人並みに隠す事は出来るのだろうが。

 そんな思案をしていると、少女は沈黙を破って不服そうに口を開いた。

 

 

 

「……心当たりというか、私と鴉を連想つける出来事が一つしか浮かばないと言いますか。

 別に大した事ではありません。キャメロットに来てからの数日間、城下町をウロウロしていた時に、一匹の鴉に懐かれただけです。

 危害を加える様子もなかったので、肩に留まらせたまま放置してました。今はその鴉がどうしてるかは私も知りませんが」

 

「それだけか?」

 

「それだけですよ、本当に。まぁでも……たったこれだけでこんな二つ名が付くとは思ってもいませんでしたけど」

 

「そうだな。鴉なんて不吉の象徴みたいなもんだしなぁ」

 

「……不吉?」

 

 

 

 その言葉に少女は目敏く反応した。

 

 

 

「勘違いが大きく広がっていますが、鴉は不吉の象徴ではなく、本来は吉兆の象徴です。

 まるで鴉が災厄の象徴みたいに言わないで貰えます?」

 

「そんなこと知ってるさ。知った上で鴉は不吉の象徴だと言ってる」

 

「——へぇ、そうですか」

 

 

 

 言葉に怒気を滲ませながら、少女は答える。

 ——かかった。

 

 

 

「そもそも鴉は神の慧眼な使い、もしくは神聖の象徴だと知らないのですか?

 極東では吉兆を授ける鳥。八咫烏として信仰の対象にもなり、ギリシャ神話では、太陽神アポロンに仕える最も賢き鳥は鴉です。

 太陽や神の使いの伝承は世界各地に存在します」

 

「あぁそうだな」

 

「今から800年程前、征服王イスカンダルが…………あぁ、アレキサンダー大王と言った方がいいですか。アレキサンダー大王がエジプトを支配せんと訪れた時、砂漠で遭難したアレキサンダー大王の軍を導いたのも鴉です。

 常に鴉は吉兆の象徴として神話に出ている。鴉は認めた者だけは決して裏切らない」

 

「あぁ、知ってるさそんな事」

 

「……では、なんだと?」

 

 

 

 少女の言葉を遮る様に、自らの言葉を被せる。

 見た目にそぐわない知識から説明された情報は、確かに正しかった。だからこそ彼は鴉が幸福の鳥だと思わない。

 

 

 

「確かに鴉は神聖な神の使いだし、吉兆の象徴だ。そこに違いはない」

 

「……何が言いたいんですか」

 

「そもそもでだ。じゃあなんで鴉が不吉の象徴として誤認される様になったんだ? 火の無い所に煙は立たないって言うだろ?」

 

「……………」

 

「確かにお前の言っている事は正しい。だが正解じゃない」

 

「……それで」

 

 

 

 少女は此方の言葉を催促してくる。

 口調は静かだったが、誤魔化しや虚偽を許す気はないという風に冷やかだった。

 

 

 

「そもそもでだ。誰かが幸福になるって事は、誰かがその分不幸になるって事だ」

 

「———へえ」

 

「鴉は常に大きな二面性を持っている。

 極東では太陽の化身、もしくは導きの神として八咫烏は信仰されているが、同時に八咫烏は、荒神や祟り神としての側面も持っている。

 ギリシャ神話のアポロンだって光明の神であり、優れた治療神でもあるが、流れ矢一本で大量の人間を疫病で虐殺した疫神としての側面も強い。アポロンに仕えた鴉だって最後には醜い鳥にされてるしな」

 

「………………」

 

「それだけじゃない。アレキサンダー大王を助けた鴉だってそうだ。確かに鴉はアレキサンダー大王を救ったかもしれないが、その影響で当時のエジプトは完全に征服王に支配された。

 エジプトでは鴉を太陽の化身として信仰しているのにだぞ?」

 

「…………………」

 

「確かに、鴉が味方したものには幸福が訪れるんだろうさ。だが見放されたらどうなる? 災いが襲うと? 見放されたら不幸が襲う吉兆の象徴なんて、それは不吉の象徴と何が違うって言うんだか」

 

「捻くれてますね」

 

 

 

 吐き捨てる様に呟いた少女の事は、酷く冷ややかだった。

 かと言って、感情らしい感情は乗っていない。最初に彼女と相対した時の様だった。

 

 

 

「あぁ。だから、俺はお前が怖い———キャメロットに幸福を授ける鴉と称されたお前が。もし、お前が何かを見捨てたら、きっとそれには抗いようのない厄災が訪れるのだろう。

 いや…………鴉が見放すに足るだけの相応しい結末が訪れるのかもな、それには」

 

 

 

 心からの本心だった。

 もし、今ここで彼女が本気で殺しにかかってきたら、自分には為す術がない。まともな攻防も出来ずに即死するだろう。そんな相手に対して、自分は綱渡り染みた事を成功させ続けなければならないのだ。

 

 それだけではない。

 知りたくもなかったのに知ってしまった、彼女のおどろおどろしい激情。それは、決して明るくなる事はない暗闇に支配された穴の様に、底が見えなかった。

 未だに、あの感情を正解に測る事は出来ていない。

 

 

 それでも、あの憎悪は——個人には向けられていなかった。

 

 

 だからこそ、測りしれない。

 世界の在り方そのものへ向けられた、晴れることも和らぐ事なく、そして膨れ上がり続ける怒り。報われる事のない憎悪。死んだ方が救われるかもしれない。そして本当に死ぬまで止まらないのだろうと悟れる程の狂気。

 もしも、明確な形を得ていない憎悪が、何かの形に嵌る事があれば、想像する事が出来ない災いを及ぼす事になるだろう。彼女は、自らの実力以外にも、まだ何かを隠している。彼女が本気になれば、恐らく円卓の数名を殺害出来る。

 

 だがきっと——それだけでは済まない。あの日、そう確信出来てしまった。

 

 

 

 

「——————……………」

 

 

 

 

 少女は僅かに俯いたまま、何も喋らない。

 ——もし、彼女の顔が見えたとしていたら、一体今はどんな表情をしていたのだろう。

 

 分からなかった。

 今、彼女を支配している感情がなんなのか。

 あの一瞬だけ見せてしまった、確かな弱味なのか。もしくは、相対したばかりの時の様に、己の感情を凍てつかせた拒絶なのか。

 

 

 

「正直言って、私個人がキャメロットをどうこう出来るだけの影響力ないと思うのですが」

 

 

 

 返答は冷たかった。

 

 

 

「…………そうか」

 

 

 

 最初に相対した時と同じ。

 他者を寄せ付けない拒絶で、それ以上の事は探り出せなかった。

 

 

 

「……そもそも、私は誰の味方にもなっていない。それに、私は誰かの味方になる気もありません。見放す以前に誰も見ていない。

 あぁ、ケイ卿の味方にでもなってみましょうか? あまりの口煩さにすぐ見放してしまいそうですが」

 

「うるせぇ黙ってろクソガキ」

 

「おやおや……会話しません? 会話。相互理解は大事なんでしょう?」

 

「…………てめぇ……」

 

 

 

 ニヒルに笑いながら、してやったりという気分を隠す事なく少女は語る。

 ニヤニヤと笑うその表情は、歳相応の笑みというよりも、悪事が成功した魔女の微笑みの様だった。

 

 

 

「まぁ黙っているなら、別にそれでも構いません。

 弓を射る時の邪魔さえしなければ、好きなだけ、納得がいくまで見ていればいいんじゃないですか」

 

 

 

 苦々しく睨みつける此方の視線に満足したのか、少女は穏やかに弓を構え始める。

 ひとまず、さっさと帰れと言われなくなったことは進展かもしれない。だからと言って、その弓をただ見ているだけではいけない。

 非番なら、その少女が弓を射る姿をぼーっと見ているだけでも一日を過ごせるかもしれないが、今日は非番ではない。

 

 

 

「そうしたいのは山々なんだが、そうもいかない」

 

「はぁそうですか。ならご勝手に。私はずっと無視し続けるので」

 

「………………そっちじゃねえ。お前に仕事の依頼だよ。騎士の任務だよ」

 

 

 

 その言葉で、少女は再び弓の構えを解き、矢を放つのを止めた。静かに、真剣な様子が彼女を覆っていく。

 そのスイッチの切り替えの早さと正確さは、円卓以上かもしれないなと思案しながらも、あえて少女のペースを乱す。

 

 

 

「あぁ、そういえば鴉は俺に味方してくれんだっけか? 是非ともそうして欲しいものだ」

 

「そういう捻くれた会話はいらないので、端的に分かりやすく説明してくれません?」

 

「おおそうか。じゃあ端的に説明してやるよ。

 ———お前、今日から俺の従者だから、よろしくな」

 

 

 

 

 

「——————は…………?」

 

「あぁ……是非とも鴉の守護に肖りたいもんだよ」

 

 

 

 大袈裟な程に芝居がかった口調で笑いかけるが、少女は硬直したまま返答はない。半開きになった口元は、その停止した少女の思考を言葉なく表していた。

 もし顔が見えていたら形容し難い顔をしているのだろう。

 

 

 

「…………………」

 

「あ? どういう反応だそれは。円卓の騎士の従者だぞ? しかも俺は今まで従者なんて取った事がない。つまり大出世だ。もっと喜べ」

 

「……はぁ」

 

 

 

 短くはないフリーズの後、少女から出てきた言葉は心底嫌そうな言葉だった。

 頭を抱えながら、少女は嫌悪感を隠す事なく呟く。

 

 

 

「……正直言って、ケイ卿は遠くから見ている分にはいいけど、実際にその下で働くってなった場合はちょっと……ってなるタイプなんですよ……会話するだけでも凄い疲れるので」

 

「流石の俺にも、我慢の限界というものがあるのを理解しているのかお前」

 

「というか、いきなりケイ卿の従者になるのはどう言う事なんですか。

 まさかとは思いますが、職権濫用でもしました……?」

 

「———あぁいいぜ。生意気なお前でも一切の反論が出来ないくらいに説明してやるよ」

 

 

 

 いよいよ、慇懃無礼で包み隠す事もなくなって来た生意気な少女に対して、流石に堪忍袋の緒が切れる。

 

 

 

「そもそもお前自分の年齢がいくつなのか理解してんのか? あ?」

 

「……九、です」

 

「おおそうだな。九で騎士になる奴なんて世界で何人いるんだろうなぁ。いやそもそもお前以外にいるのか?

 それだけじゃない。既に実戦で通用するとかそういうレベルを超えて、お前はブリテンの中でも上から数えた方が早い位置にいる。

 いや……もっとだ。上位10%……いや5%にはいる。九歳がだぞ? 本当に自分がどう言う立場なのか理解してんのか? いやしてない。絶対にしてる訳がねぇ」

 

「…………………」

 

「色々相反し過ぎな上に規格外なんだよお前は。お前に協調性があるかどうかの話じゃなくて、そもそもそんな化け物を、普通の部隊に入れられる訳がないに決まってんだろうが」

 

「…………あー……」

 

「他にも、実力は伴っているとは言え子供を実戦に上げるのかとか、その影響による周りの諸国の反応だとか、キャメロットは子供すら戦いに出すのかという良くない噂だとか……あぁうん、絶対にテメェは理解してない」

 

「……あー……その」

 

「で? お前はランスロットに対して何て言ったんだっけな? 三日くらい有れば終わるのではないかって?はぁぁ???

 ——お前もう一回自分の歳がいくつか言ってみろ」

 

 

 

 思いっきり捲し立てたその言葉に、少女は言い淀んだ。

 気不味そうに視線を横にずらし、あー、うー、と意味を持たない呻き声を上げている。

 初めて見る狼狽えたその姿だったが、不思議と違和感はない。感情を塞いでいた筈の心の仮面は外れていた。

 

 

 

「……すみませんでした」

 

「よしそれでいい」

 

 

 

 視線を横にずらしたまま、居心地の悪そうに少女は謝罪の言葉を口にした。

 

 

 ——コイツ、意外と押しに弱いな。

 

 

 場の雰囲気を読むのが上手い反動なのか、やや場の雰囲気に呑まれやすい。自分のペースを握っている時はとことん強いが、ペースが完全に相手にある時はじわじわとボロが出て来る。

 さっきの説明だって、それなりの誤魔化しと誇張が入っているが、恐らくそれには気付いていない。無論、あからさまな矛盾があったらカウンターを入れてくるので油断は出来ないが、彼女はまだまだ子供だった。

 

 

 

「……いやちょっと待って下さい。貴方の従者になる事が説明されてないのですが」

 

「なんだよ察しが悪いな。

 お前は一般的な部隊に配属するのは、とてもじゃないが無理だ。かと言ってその実力は惜しい。しかしそうだとしても、その見た目故に周りの目に付くのは出来るだけ避けたい。なら少数精鋭の遊撃部隊なのかというと、一旦は保留にしたい。そこまで国が切迫してる訳じゃないしな。

 つまりは、誰かの下について下積みしろって事だ」

 

「……なんでケイ卿なんですかと聞きたい所ですが、きっと貴方以上の適任がいないとなったんでしょうね」

 

「そういう事だ———これからよろしく頼むぜ? ルーク」

 

「…………よろしくお願いします」

 

 

 

 疲労困憊気味に少女は告げた。

 正直言うなら、自分だってこの少女とは関わりたくはない。全てを見なかった事にしたいが、もちろんそんな事は出来なかった。どちらの立場になって考えても。

 それに、自分の従者というすぐ隣の場所に、この少女を置くという選択肢よりも良い選択肢が浮かばなかったのだからしょうがない。

 

 互いに互いを利用しあう様な関係。表面上の関係なら上手くいくだろうという確信はあった。

 だから多分。これで良い。この関係が一番長続きしやすく、そして監視しやすい。

 

 

 

「という訳で、今から城を出る準備をしろ」

 

「……今からですか? という事はもう任務だと?」

 

「あぁ。どうせやる事ないんだろ? 良かったじゃないか」

 

「はぁ……まぁ私に拒否権はありませんし、そもそも拒否しなければならない理由もないのでいいんですけど、流石にちょっと急過ぎませんか」

 

「今まで暇を嘆いていた癖に、良く言うなお前」

 

「いや、そういう訳では……あぁもういいです。面倒臭い」

 

 

 

 憂鬱そうな雰囲気を隠す事はなく、少女は溜息をもらした。もしかしたら、彼女の素は面倒臭がりなのかもしれない。

 

 

 

「———それで、今から何をするのですか」

 

 

 

 城内を歩きながら、少女に問われる。

 既に此方の準備は出来ていた。彼女の方もいちいち準備する必要がないと言うのならすぐに城を出れる。

 

 先程までは、もうどうにでもなれ、という投げやりな様子を見せていた筈だが、既にその様子はない。

 裏表が激しい。いや、裏と表が完璧に分かれ過ぎているのかもしれない。本当に二重人格を疑ってしまいそうだった。

 

 

 

「アグラヴェインからの依頼だ。

 なんか金の動きに違和感を覚えたから、その諸国を探って来てくれだとよ」

 

「へぇ……正直言って、新参の私が関わる様な話じゃないと思うのですが」

 

「探れとは言われたが、暗躍しろとは言われてない。アグラヴェインだって違和感としか言ってなかったから、恐らくそこまで深刻には見ていない。その諸国にいって町の雰囲気だとか、兵士の所感を教えてくれとさ。

 本格的な調査の為に粛清騎士隊を動かすかどうかは、その後で決めるんだと」

 

「そうなんですか」

 

 

 

 間違いなく彼女はアグラヴェインの事を知っているだろう。

 アグラヴェインとこの少女には、魔女という大きすぎる接点がある筈だが、反応は薄かった。

 既に彼女の情緒は冷たく停止している。先程のやり取りが上手くいっただけで、彼女は決して迂闊でもなければ、簡単な相手ではない。

 彼女と腹の探り合いで上手を取るには、まず鉄と同等近くの強度を持つ氷を適切に溶かさなければならない。

 

 

 

「そういえばお前、馬には乗れるか?」

 

「騎乗の経験がないのでなんとも。

 ……動物に好かれた場合は、何を考えているか分かるくらいには好かれるのですが、嫌われた場合は凄い威嚇されるくらい嫌われるんですよね」

 

「なんだその意味の分からない体質」

 

 

 

 適当な会話をしながらキャメロット城内の正門、エハングウェンと名の付く大広場から城下町へ出ようとする。

 ……そろそろか…………

 

 

 

「———あぁここに居たのか、間に合って良かった。

 ケイ卿。それと……ルーク」

 

「—————————ッ」

 

「……どうしましたか——アーサー王」

 

 

 

 大広間から出ようとする瞬間、後ろから呼び止められた。

 マーリンがかけた幻術はとうに効いてない自分では、透き通った水を思わせる鈴の様な声に聞こえる。ただ、王としての仮面を着けて接している為か、凛烈なる雰囲気をアーサー王——アルトリアは纏っていた。

 その雰囲気に影響されたのか。もしくはそんな雰囲気など関係なしの行動だったのか、少女はアルトリアに対して片膝を突き、跪く。

 

 

 

「いやいい。その様に畏まらなくていい」

 

「ありがとうございます。

 ですが、私は一介の騎士で、貴方はこの国全てを預かる王です。たとえ貴方が許そうとそういう訳にはいきません。ご容赦ください」

 

「………………」

 

 

 

 少女は跪いていて目線が合わない。

 一瞬だけ、少女に対して遠くのモノをみる様な、痛々しいモノを見る様な目を向けた後、少女に気付かれないようにアルトリアはその横にいる人物をジト目で睨んだ。

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

 

 アルトリアが自分に向ける目線は冷たい。

 ずっと表情が見えない相手と腹の探り合いをしていたからか、アルトリアが自分に向ける目線に、どんな感情が含まれているのか簡単に分かってしまう。

 

 

 "……本当にコレで大丈夫なんですか"

 "考えれば考える程大丈夫ではないと思うんですけど"

 "ケイ兄さんはなんとか出来る確信があって本当にやってるんですよね?"

 "本当にケイ兄さんの事信じていいんですよね?"

 "一つ芝居を打てって事、私はまだ納得いってませんから"

 

 

 そんな言葉を、アルトリアの瞳が言葉なく雄弁に表していた。

 

 

 

「あー……お前、とりあえず頭上げろ。お前とアーサーのやり取りだと長くなって話が進まなさそうだ。別に正式な場でもないんだから、少しは気を楽にしろ」

 

「…………度が過ぎる追従でした。申し訳ありません」

 

 

 

 そう言って少女は跪いた姿勢を解き、顔を上げた。

 少女とアルトリアの視線が合うが、本当に合っているかは分からない。一方は王としての仮面を付け、もう一方は本当に仮面を付けていて、その表情が読めない。

 緊迫している訳ではないが、刺す様な居心地の悪さがある。重苦しい訳ではないが、何かが枷となって足を引っ張られる様な不安が付き纏う。

 そんな空気が漂っていた。

 

 

 

「……それでどうしましたか。アーサー王」

 

 

 

 本当はアーサー王とは兄弟の関係である上、アルトリアに対して敬語なんて使わない。しかし今は王とその騎士という関係にいる。公の場である為、敬語でアルトリアに対して話しかけた。

 無論、予め決めて置いただけの、ただの芝居。

 

 

 

「ルーク。貴方は捧げる剣は持たぬ身と、あの日言っていたな。なら、貴方にコレを授ける。きっと貴方に似合うだろうし、大きさも丁度良い」

 

「は———………は……?」

 

 

 

 そう言って、アルトリアは——黒と白の二振りの短剣を少女の方に差し出した。

 ただの短剣ではない。無論、騎士なら誰もが持つ様な普通の剣でもない。見るものが見れば、明らかに特殊な加護そして神秘性を保有していると分かる、宝剣だった。

 それに少女も気付いたのだろう。少女は短剣を受け取った姿勢のまま硬直していた。微妙に口元がひくついている。もちろん、喜びではなく困惑で。

 

 

 

「黒い短剣の名は"セクエンス"。

 騎士道に則った戦い、更にその戦いが死闘であればある程真価を発揮する特殊な加護を持つ。

 そして、白い短剣の名は"カルンウェナン"。

 自らの俊敏性を増強させ、また何かに足を取られる事がなくなる」

 

「…………あの、アーサー王。明らかに何の武勲を立てていない新参の人間に持たせて良い武器ではないと進言します。どう考えても悪い注目が集まります」

 

「いや、そんな事は起きない」

 

 

 

 少女の言葉に被せる様に、アルトリアは否定する。

 

 

 

「貴公に集まっているのは悪い注目ではなく、大きな期待だ。

 仮に貴方の武勇を妬む者が現れたとしても、貴方なら容易く跳ね除けられるだろうし、貴方の道を拒む事など出来もしない。つまりコレは、貴公への先行投資だ。貴方からすれば、並大抵の武器では力不足だろう。乱雑に扱っても壊れる事はない」

 

「……いや……ですが」

 

「別に気にしなくいい。この二振りの短剣はもう使っていない。

 私は昔、この二振りの剣を護身用として扱っていたがこれは非常に役に立つ。どうか受け取って欲しい」

 

「………………」

 

 

 

 少女はアーサー王から手渡された二振りの短剣に目をやり、そのまま動かなくなった。

 明らかに彼女は悩んでいる。もちろん、剣を受け取るか受け取らないか以外にも、頭の中でアーサー王が何を考えているのか、思案しているのだろう。

 

 別に、そこまで深い意味合いはない。

 この二振りの短剣は優れものではあるが、何かの決定打にはなり得ない。この剣を受け取った後の少女の反応と、その動向を確かめたいだけ。

 それに多分だが、この剣を受け取っても、彼女は悪用したりはしない。

 

 

 

「アーサー王が良いって言ってるんだから受け取っちまえ。お前に取っても悪い話じゃないだろ?」

 

「……——感謝しますアーサー王。期待に応えられず、意にそぐわなかったと思わせる事はないと誓います」

 

 

 

 背中を押す様に告げると、少女は深々と頭を下げる。

 その様子を見て、アルトリアは再び少女への視線を苦々しいものへと変えたが、少女はその視線を認識出来ず、またアルトリアも簡単に悟らせる程に露骨ではなかった。

 

 

 

「……期待しているぞ、ルーク。それにケイ卿——後は任せた」

 

 

 

 真剣な様子で告げて来たアルトリアのその言葉に、無言の頷きを持って返す。

 踵を返して城内へ戻って行くアルトリアの後ろ姿を、少女は剣を受け取った姿勢のまま、無言で見送っていた。困惑の感情は既になく、波紋の立たない湖の様に静かな佇まいだった。

 

 

 

「……………………………」

 

「同じ上司なのに、俺とアーサー王とでは対応の差があからさまじゃないかぁ?」

 

「同じ……? どうやら、同じという単語の意味の定義がケイ卿とは違うようですね。今から議論してもいいですよ」

 

 

 

 空気を払拭する様に少女に話しかければ、返って来たのは生意気に溢れた声。

 その様子を見て、何か憎まれ口を叩く訳でもなく、また先程の少女の様子を追及する訳でもなく、ただ少女を急かした。少女とのやりとりで生き急いでも、きっといい事はないだろう。

 

 

 

「フン……まぁその様子なら大丈夫だろ」

 

「…………何が、ですか」

 

「あ? お前がその剣を受け取って、緊張で何か醜態を晒すんじゃないかってな」

 

「……はい?」

 

「いざその剣を振るう時に、期待が重くて上手くいきませんでした。なんて事にならないでくれよ?」

 

「……あぁ、この剣をケイ卿に振るいたくなってきました」

 

「叛逆か? やめておけ。お前は他の円卓の手によって血に染まるぞ」

 

 

 

 互いに軽くジャブを打ち合う様なやり取りの中、その発言に少女は呆れた口調で返す。

 

 

 

「抵抗くらいはしましょうよ……というかそんなに、ケイ卿って弱いんですか? そんな印象ないのですが」

 

「期待外れな上弱くて悪かったな。多分アーサー王の執事役のベディヴィエールと同じくらいじゃないか」

 

「そうですか……ケイ卿と一緒にいると私が不都合を被りそうな予感がします」

 

「驚きだな。俺もお前に対して、全く同じ事を考えてた。お前がいらん事にまで首を突っ込んで俺の方が不都合を被りそうだってな」

 

 

 

 悪い笑みを浮かべて彼女に言い放てば、少女はうんざりした風に溜息を吐いて、不機嫌そうに口を開いた。

 

 

 

「もういいのでさっさと行きません?」

 

「はいはい」

 

 

 

 互いに言い合っていればいつまで終わらないと判断したのか、やや不服そうにしながらも、少女は言葉を飲み込んで此方を急かす。

 此方としても、引き際が見つからず、またついつい言葉に言葉を返してしまうので、少女の提案を受け入れた。

 

 此方を置いていく様に、彼女は城内を出ていく。

 その後ろ姿に、何か奇妙な違和感と納得感を覚えながらも、不思議と彼女に対する悶々とする感情が薄れていっている事に気付いた。

 

 だからこそ——安心も油断も出来ない。

 少なくとも、彼女は温情をかけている訳ではなかった。

 彼女の行いが、結果的に此方の得になる事だとしても、その裏にあるのは騎士道精神などではないのだから。

 

 

 

「何してるんですかケイ卿。とりあえず馬小屋までさっさと行きましょう。私が馬に乗れるか少し心配ですし」

 

「マイペースで行こうぜ、マイペース。別に急を要する要件でもなんでもないんだからな」

 

「最初に急ごうと言ったのは其方でしょうが」

 

「……いや、だってお前ずっと弓を射ってそうだったじゃないか」

 

「普通に任務だと言われていれば普通にやめていました。変に責任転嫁するのはやめてください」

 

 

 

 城下町へ降りながらも、少女と再び口論が始まる。

 彼女の素の部分だと思われる、この捻くれた負けず嫌いな部分は、歳相応に子供っぽいなとどこか思いながらも、しばらくはこんな関係で、こんなやり取りが続くんだろうなと、僅かに思いを馳せた。

 

 

 




 
『宝具解放』


 死闘にて輝く不撓の剣(セクエンス)

 ランク D++++

 種別  対人宝具

 詳細

 アーサー王が選定の剣を十全に扱える様になる前、諸国漫遊時代に護身用として扱っていた短剣の一振り。
 鷹の羽の様な印象を受ける黒い短剣。
 特殊な加護を持つ宝剣であり、死闘の場でアーサー王は必ずこの宝剣を携えて、そしてどれ程の激闘であっても必ず最後は勝利を収めた。

 この剣は騎士道に則った一対一の戦いで、さらにその戦いが死闘である場合に真価を発揮する。
 戦闘が長引けば長引く程、この剣の所有者が傷付けば傷付く程に剣の輝きが増し、剣の切れ味が上がる。
 さらに輝きに比例して所有者のステータスを筋力、俊敏、耐久、魔力、幸運の順に1ランク上昇させる。

 最初はただの丈夫な武器でしかないが、最終的に威力が5倍にまで跳ね上がる。
 その切れ味は聖剣や魔剣の類とほぼ同等。
 最終段階にまで達したこの剣なら、金剛石の鎧で守れた騎士を鎧ごと両断する事も可能とする。

 しかし、"一対一"でないなら効果を発揮しない。
 たとえ味方が自分一人で、敵勢力が複数という状況であっても、何の反応も示す事はなく、ただ丈夫な短剣でしかない。


[解説]

 アーサー王伝説内にて出て来る名称付きの剣。
 エクスカリバーとカリバーンがあまりにも有名過ぎる為、その威光の影に隠れてしまい詳しい記述は少ないが、影に隠れた武器の類の中ではそれなりに有名な剣。
 原典により多少の違いはあるが、アーサー王が使用した剣、死闘に関係する剣と言うのは基本的に変わらない。
 アーサー王が必ず死闘の場にて携えた騎士剣、もしくはいつの間にか死闘の場に現れ、アーサー王を助ける短剣とも言われる。

 この世界線ではアルトリアが選定の剣を十全に扱えるまでに護身用として扱っていた短剣という設定。
 限定的かつ劣化させたアロンダイトの様な性能をしている為、蛮族との戦争が主になり始めてから、アルトリアは対人にのみ特化したセクエンスを使用する機会が減り、エクスカリバーを手に入れてからは使用する事はなくなった。



 白鴉の短剣(カルンウェナン) (■■)

 ランク C

 種別  対人宝具

 詳細【現在一部開放】


 アーサー王が選定の剣を十全に扱える様になる前、諸国漫遊時代に護身用として扱っていた短剣のもう一振り目。
 小さな白い柄手を意味し、鴉の羽の様な印象を受ける白い短剣。

 所有者の俊敏に+を付与(実質的な倍加)する事が出来る。
 また常に所有者の足元を覆う様に微弱な魔力が張られ、特殊な魔術によるトラップなどが張り詰められていない限り、所有者はフィールド上に於いて減速する事なく移動し続ける事ができる。

 その素速さは、所有者が静止状態から加速状態に移行する際に一瞬姿が掻き消えて見える程に速く、この短剣を持つ者はまるで"影に潜んでいる"様だ、と言わしめた。
 別名を【早駆けの短剣】。


[解説]

 アーサー王伝説内にて出て来る名称付きの剣。
 マビノギオンと言う、アーサー王伝説を含むウェールズの神話や様々な伝承を纏めた本でキルッフとオルウェンという章に出て来る短剣。

 詳しい経緯は省くが、アーサー王が洞窟のドアを蹴り破って魔女(モルガンではない)に襲いかかる時。もしくはドアごと魔女を両断した時に使っていた短剣とされ、また所有者を影に潜ませる効果のある短剣とされていた。
 調べが甘い可能性があるが、原典に於いてこの場面以外にカルンウェナンがアーサー王伝説に出て来る場面を確認出来なかった。
 また多少ネットで調べたがさらに詳しい詳細を確認出来なかったので、この作品での効果はかなりオリジナル要素が強い。

 セクエンスと同じく対軍ではなく対人に特化している為、エクスカリバーを手に入れてからアルトリアが使用する事はなくなった。

 

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