騎士王の影武者   作:sabu

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 序盤から中盤へ移る為の繋ぎ。次話と次々話の繋ぎ。
 ……どうでもいい余談だけど、自他共に認める歪んだ主人公、原作設定の少ないモルガン、性格に癖のある捻くれ者のケイ、主人公の影響でstay nightともzeroとも性格が解離しつつあるアルトリア、とかなり癖のあるキャラばっかり描写して来たから今回の話は逆に超大変だった……
 多分、彼女は本作最大の癒しになります。
 


第26話 白い手のボーメイン

 

 

 

 町の人々の謝恩により、思い掛けず二週間の休暇を得たも同然の二人だったが、元より彼らは騎士として任務で訪れた身である。

 観光という表面上の目的はあれど、二週間も必要とはしない。

 最初の一日の調査で、彼らはもう十分過ぎる程に観光はしている。

 

 身体を休め休息を取り、常に身体を精神共々万全にしておく事も騎士の仕事ではあるが、ケイ卿一人ならいざ知らず、少女は最初の二日で音を上げた。

 

 極めて時間が勿体ないと。

 じゃあどうするんだと返したケイ卿に、少女はこう提案する。

 

 

 ——蛮族狩りでも始めませんか

 

 

 現在、蛮族を含む異民族の動きは沈静化し、再侵攻の兆しも未だ見受けられない。しかし、小規模な小競り合いとでも呼べる侵略は少なからずあり、はぐれの蛮族が森に潜んでいるという事も少なくなかった。

 ゴール国周辺でもそうであり、少女とケイ卿の影響により、良くも悪くもゴール国はゴタゴタしている。

 つまりは、規模が小さい事もあってか蛮族を相手にするだけの手が回っていなかったのだ。

 

 

 国の内情については、本来部外者である自分達が関わるのは、あまり良い顔をされない。

 何か協力になれるとも思えないし、二週間後に来る粛正騎士隊がなんとかしてくれるだろう。

 なら、どうせやる事などないのだから、手が回ってない小さな問題でも解決に回ればいい。

 別に蛮族が見つからなくても良い。

 見つからなくとも、蛮族に対する牽制と抑止になり、見つかったら討伐すれば良い。

 生まれ故郷が森の中だったのもあって、森にはまあまあ慣れている。

 

 

 感情を見せず淡々と理路整然に語った少女に対して、複雑な心情を覆い隠しながらケイは渋々と応じた。

 

 

 そして結局、この二週間の時間の殆どを彼らはゴール国周辺の見回りと蛮族狩りに当てる事になる。

 封鎖されていた貿易路を調査し、付近の森に入り、潜んでいた蛮族を討伐。

 ゴール国周辺の集落を回っては、森に踏み入り異民族の痕跡を探し、集落の警護や、村付きの騎士達の調査から外敵を捕捉し殲滅する。

 

 少ないとは言え、屈強なピクト人達の集団はどの国も手を焼いていた。

 しかし既に彼女の敵ではなく、人の出入りを拒み、人ならざる者達が蠢く森の中であっても少女は何にも憚れる事はなかった。

 

 国の不正を正し、小さな集落を一つ救った彼らは、ゴール国から大層感謝された。

 町の子供達、小さな少年少女に羨望の的にされ、純粋な好意に少々たじろいだ彼女と、極めてどうでも良さそうにしているケイ。

 そんな二週間だった。

 

 そして、到着した粛正騎士隊に調査の協力を要請する。

 キャメロットに連行された彼らのリーダー格達は、アグラヴェイン卿の尋問によって少ない時間で洗いざらいの事を喋るだろう。直に不正の行方と規模が明るみに出る。

 そして、寸分の狂いなく処断される。

 

 もう彼らが手を挟める余地は存在しない。

 二人はゴール国を出立し、キャメロットに帰投した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬を走らせて一週間。

 森と森の合間、いくつかの平野を越えて、ようやく白亜の城が見えて来た。

 相変わらず、その強大な威光を示すような城塞は良く目立つ。太陽の光によって照らされた白亜の城は、神々しく輝いていた。

 

 美しい城だと思う。でも、心に焼き付く様な美しさを私は感じられない。

 私がどうしようもなく歪んでいるからなのだろう。ゴール国の城塞と、キャメロットの城塞を見比べて、あの傷だらけの城塞の方が美しいと感じる人はきっと少ない。

 

 それでも、私はあの国の城塞の方が好きだ。

 そして、あの国が好きだ。旧ゴール国はあまり好きにはなれないが、それはそれ。

 

 ——あぁでも、なんというか、凄い疲れた。

 身体が疲労している訳ではないが、ふと気を抜くと吐息の様な溜息を吐いてしまいそうになる。そんな疲労感。

 ……心なんて、あの日に捨てた筈なんだけどな……

 

 

 

「ようやくキャメロットに戻ってこれたな。

 ……はぁ、アグラヴェインの野郎。何が大した事にはならないだろうだ。何かしらの誠意を受け取らないと気が晴れねぇ」

 

 

 

 馬に跨がりながら、隣のケイ卿が溜息交じりに呟く。

 帰り道の間はあまり会話はなかった。別に気不味い空気が流れている訳でもないが、最初にこの道を通った時と比べれば、互いに口数は減っている。

 

 心の距離が遠くなった、とは少し違う気がする。

 かといって近づいたという訳でもない

 

 

 …………やっぱり、少し、疲れた。

 

 

 思考停止した酷い愚か者みたいな発言だが、何も考えず蛮族の相手していたい。

 ケイ卿の従者になった私に休暇というものがあるのか分からないが、休暇があったら付近の森にでも入って蛮族の痕跡でも探していれば気が紛れる気がする。

 いや、仮に休暇があったとしても、まとまった時間がないと難しそうだし、そもそもそう簡単に一人にしてくれなさそうな気がする。

 やはり、まだ早計か。上手くままならないものだ。

 

 

 

「お前もそうは思わないか?」

 

「と言われても……アグラヴェイン卿から誠意を受け取りたいですか。多分、揶揄われるかあやふやに対応されて受け流されるのでは?

 捻くれ者のケイ卿と、人間嫌いのアグラヴェイン卿の会話が一体どんなものになるのか気にはなりますが」

 

 

 

 いつも暇をしているサー・ケイが珍しく役に立てて良かったではないかなんて軽口を言いそうな予感があるが、実際にどうなるのかはよく分からない。

 アグラヴェイン卿とケイ卿が互いにどんな関係なのかについては良く知らないからだ。

 もしかしたら、素直に自らの失態だと謝罪をするかもしれない。

 

 

 

「流れる様に言祝ぎやがった不敬は、もう面倒臭いから見逃してやるが、まぁ……確かにアイツはあやふやにしそうだ」

 

「捻くれ者の自覚があったのですね。驚きです」

 

「…………というか、お前はアグラヴェインについて詳しいのか」

 

 

 

 ケイ卿は軽い言葉の交わし合いにも応じない。

 ただ単に面倒になったのか、それとも別の理由があるのかのどちらかなのだと思うが、とりあえずいつものやり取りはあまり望んでいないようだったので、素直に答える。

 

 

 

「まぁ人並みには。人間嫌いというのも別に知られていない訳ではないでしょう。

 "傷知らずのアグラヴェイン"もしくは"鉄のアグラヴェイン"。

 他の円卓の騎士と違って、華やかな武勇ではなく、冷たさと無機質さを以って畏怖と共に謳われる円卓の異端児。

 こんな所ですか」

 

 

 

 それでも、今の時代ならまだマシな方だろう。

 ギネヴィア王妃とランスロット卿の不倫は多分まだ訪れていないだろうし、アーサー王の性別についてもまだ知らない。

 女嫌いである事は変わらないが、ギネヴィア王妃の不義による拍車はかかってない分、ランスロット卿に対しても殺意や憎悪の類までは抱いてない筈。多分。

 

 

 

「……実の事を言うとな、お前とアグラヴェインを会わせたくないんだ」

 

「本当に正直ですね。理由を聞いても」

 

「怖い。もう、めちゃくちゃ怖い」

 

 

 

 げんなりして吐息を吐き出す様にケイ卿は語った。

 

 

 

「はぁ」

 

「なんつうかな。

 お前とアグラヴェインの相性、0か100かって印象がするんだよ。どっちに転がってもおかしくないし……どっちに転ぶか見当がつかない。

 お前とアグラヴェインが、言葉という武器で互いに殺し合う姿も幻視出来るし、互いに手を組んで、蜘蛛の糸の様に相手を追い詰めて殺戮する姿も幻視出来るんだよ」

 

「はぁ……」

 

 

 

 溜息交じりに返すが、確かに、ケイ卿の言う通りになりそうだなと心の中で頷く。私だってアグラヴェイン卿とだけは絶対に敵対したくない。

 アグラヴェイン卿に知られては絶対いけないものが、私には少なくとも二つはある。

 顔と、育ての親。

 

 

 

「私としては、嫌われるよりかは好かれている方がいいですし、アグラヴェイン卿とは是非とも関係を構築しておきたいですね」

 

 

 

 私の本来の目的の為にも、私が殺されないようにする為にも。

 しかし、私のその発言にケイ卿は思いっきり顔を顰めた。

 

 

 

「マジでお前ら出会わせたくねぇ……あぁでもいずれ出会うんだから、とっとと顔合わせた方が良いのか……?

 あぁクソ……ッ絶対アグラヴェインだけは敵にするなよ。アイツと仲良くなってしまったらそれはそれで最悪だけれどもだ」

 

「勿論そのつもりですよ。それに、アグラヴェイン卿以外も敵に回すつもりもありません」

 

「当たり前だ。ただでさえ、お前は敵を作り易い佇まいをしてんだ。何かあってからじゃ遅いからな」

 

「……ご忠告感謝します」

 

 

 

 言葉は粗暴だが、いつもと違って、純粋に心配する様な言葉だった。

 少しだけ、やり辛い。

 いや、ケイ卿がそういう人物だという事は知っているが、少々過保護な気がしてならなかった。

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

 

 自然と会話が途切れた。

 私の方から会話を交わす気が薄れてしまったからだろう。

 ……でも丁度良かったかもしれない。キャメロットの門はもうすぐだ。いつまでも会話をしている必要はない。

 

 そうして、白亜の門をくぐり抜けて馬を預けた。

 約一ヶ月ぶりに戻ったキャメロットだったが、その威光は変わらずで、街並みも変わらなかった。

 

 

 

 

「———だからお願いします……!

 私を騎士にしてください!!」

 

 

 

 

 城下町を抜け、キャメロット城内に入ろうとすれば、門前で口論となっている二人の人物がいた。

 片方は門前の警護兵の騎士なのか槍を携えており、もう片方の人物に、怪しい者を見つけたかの様に厳しい目を向けている。

 

 

 しかし——問題はそこではない。

 

 

 警護の騎士ではない、もう片方の人物に私は見覚えがある。

 正確には、見た事はないが"知っている"。

 オークニー兄弟の末弟であり、後に円卓の席に座る事になるだろう"史実では男性とされた少女"を、男性にしたらこうなるのだろう、とそう思える姿の"少年"がそこにいた。

 

 

 ……少年の様に見えるが、私が今見えている姿はきっと正しくはない。

 

 

 友人の、貴婦人ライオネスという人物から貰った【変身の指輪】という宝具によって性別を偽っているだけで、本来ならその人物は女性。

 モードレッドや私と違って素顔を隠すのではなく、姿そのものを偽り、周囲を騙す事が出来ているのだろう。

 未だに、彼女——ガレスの姿は少年の様に見える。

 

 

 

「何があったんだ」

 

「あぁ……! コレはケイ卿。良い所に。実は怪しい人物がキャメロットに侵入を試みておりまして」

 

「怪しい人物なんかじゃありません!」

 

 

 

 その異質な光景を見て、ケイ卿は騎士に尋ねるが、騎士の言葉を遮って怒鳴る様にガレスは言葉を被せた。

 

 

 

「怪しくない?

 身一つでいきなりキャメロットを訪れて騎士にして欲しいと懇願しておきながら、自分の名前すら明かさないのにか?」

 

「う……それは、そのぉ」

 

「フン。ほれ見ろ。分かったら即刻立ち去れ。今ならまだ見逃してやる」

 

「せ、せめてキャメロットの中に入れて下さい……!

 絶対に怪しい事はしませんから……ッ」

 

 

 

 騎士からの最終警告とも思わしき言葉を受けても尚、ガレスは引き下がらなかった。しかし、自らの名前は言わない。

 

 名前を言わない理由は、確か自分がガウェイン卿等の親族と深い繋がりがある事が知られると、円卓の騎士達の兄弟という理由で、ありのままの自分を正当に評価してくれなくなるから、だっただろうか。

 ガレスが男性ではなく女性となっているこの世界でも、多少理由が違ったりするかもしれないが、多分根底にあるのはこういう理由なのだろう。

 

 ここで私の様に偽名を使わない、というか思い浮かんでいないだろう辺り、彼女の素直さが滲み出ているというか何というか。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 もしかして……と思わず隣のケイ卿を見れば、黙り込んだままある一点を見つめていた。

 少年の様に見えるガレスの腕——正確には、白く美しい手。

 変身の指輪で自らの姿を偽っていても尚、いやもしくは偽っているからこそ、より際立つ美しく傷一つない、その手。

 

 

 

「名前が言えないなら——じゃあお前"ボーメイン"でいいだろ」

 

「……え」

 

「……ッ!!」

 

 

 

 面倒臭そうな様子を隠す事もせず、呆れた様にケイ卿はそう言い放った。

 その言葉に騎士は硬直し、ガレスは天啓が舞い降りた様に反応する。

 

 

 

「……そうです。そうです……!

ボーメイン! 私、ボーメインと言います!」

 

 

 

 明らかに偽名で、ケイ卿が告げただけの言葉に乗っかっただけのガレスに、騎士は呆れながらも視線を厳しくした。

 流石のケイ卿も、若干呆れている。

 

 

 

「これでいいだろう。そいつを通せ」

 

「しかし……」

 

「俺が責任を取る。お前が気に病む必要はない」

 

 

 

 ケイ卿がそう一方的に告げれば、騎士はやや不承不承としながらも、ガレスがキャメロットに入る事を許した。

 

 

 

「え、あ……あの——ありがとうございますッ!」

 

 

 

 ガレスはその場に大きく響く程に声を張り上げながら、勢いよく頭を下げる。

 あまりにも真っ直ぐで純粋なその様子から、何かを企んでいるようには到底見えない。

 その様子を見た騎士は最後の警戒を解いたのか、ケイ卿に対して任せましたという意味を含んだ目配せをして、ガレスから視線を外した。

 

 

 

「付いて来い、ボーメイン」

 

「はい!」

 

 

 

 彼女は、ケイ卿の事など何一つも疑っていないのだろう。

 嬉しさを全面に出し、花が咲き乱れる様な満面の笑みを浮かべながら、ボーメインと名付けられたガレスがテクテクと付いていく。

 

 ……ガレスは今何歳なんだろう。

 多分15歳くらいだとは思うが、私とは違ってあまりにも純粋無垢だ。遠くない未来で、悪い人に容易く騙されそうな雰囲気がする。いや、今現在進行形で悪い人に騙されているのか。

 

 ——そして残念な事に私も悪い人の側だ。

 自然な形でガレスの後ろに付き、万が一に逃げられないように塞ぐ。多分不要だと思うが。

 

 

 

「わあぁ……これが、キャメロット……」

 

「……………」

 

 

 

 ケイ卿の後ろを付いていくガレスは、キャメロットの城門を潜った後、その城内を見て感嘆するように声を漏らした。

 白亜の門と同じく、キャメロットの威信をそのまま体現する、豪奢に飾られた白亜の城。

 

 周囲を見上げ目を輝かせているガレスに、ケイ卿は観察する様な目線を向けていた。その視線はやや冷たい。怪しい人物に向ける様な、目。

 ただ、ガレスの佇まいとその様子そのものには、怪しい点が一切ないからか、ゴール国で見せた視線よりは幾分か緩かった。

 

 

 

「……あ……そ、そういえばその。貴方はどなたですか……?」

 

 

 

 無言でキャメロット城内を進むケイ卿と、今の自分の状態を理解し始めたのか、ガレスは不安そうにしながらケイ卿に尋ねた。

 分かりやすいにも程がある。

 そして、分かりやすいが故に彼女が何か企んでキャメロットに来たとは、どうやっても思えないだろう。

 これがもし全て演技だったら、もう魔女とかそういう次元じゃない。

 

 

 

「はぁ……ケイ。サー・ケイだ」

 

「サー・ケイって……な、えっ!

 それってもしかして、あ、あの円卓のサー・ケイですか!?」

 

「あぁ、それは知ってたのか。

 実はお前は何も知らないんじゃないかって思ってたぞ」

 

 

 

 呆れた様に返すケイ卿だが、ガレスは硬直したまま反応をしない。

 しかし、暫く凝固していたガレスだったが、何かに気付いたのか、バッと大きく振り返って視線を一つに固定する。

 視線の先にいるのは——私。

 

 

 

「……じゃ、じゃあ後ろのこの子——いやこの方はやっぱり……ッ!」

 

「この方……? 私はケイ卿のしがない従者でしかありませんよ」

 

「そんな、そんな訳がありません!

 こんな小っちゃいのにもう騎士になってるんだから、むしろ円卓の騎士の従者という立場になるのに相応しいです。というかそんな人物、私は一人しか知りません!」

 

「……………………」

 

「あ……す、すみません。決して小っちゃいって言ったのは貴方を揶揄ってる訳ではなくて、その、そんな歳でもう騎士になったのが凄いんだって言いたくて……あ、いや、そんな歳って言うか、その……」

 

 

 

 黙り込んだ私を見て、不機嫌にさせてしまったと勘違いしたのか、ガレスが見当違いの言葉を喋って、そしてまた空回りしている。

 

 

 なんというか……憧れの人と不意に出会ってしまって、盛大に空回っているみたいだ。

 

 

 勿論私が黙り込んだのは、自分の身長について言及されたからではない。

 ただ、彼女の反応が思っていた以上に大きかったのだ。彼女の本当の名前を知っている身として、警戒は皆無に等しいが、流石に困惑が勝る。

 口振りからして、明らかに私を知っている。

 しかも、名前を知っているだけとかそういうレベルではなく、かなりの熱量を私に向けて。

 

 

 

「オイ、ちょっといいか、ボーメイン」

 

「…………あっはい! なんでしょうか!」

 

 

 

 ボーメインという名が、自分を指しているのだと気づけなかったのか、一瞬遅れてガレスはケイ卿に返す。

 

 

 

 

「——お前何しにキャメロットに来た?」

 

「え……」

 

 

 

 しかし、元気一杯といった様子のガレスは、ケイ卿の顔を見て表情をやや青くして硬直する。

 見定める様なケイ卿の冷たい視線と口振りを予想していなかったのだろう。その不機嫌そうな表情の所為で、他者に与える威圧感は凄まじい。

 気の弱い子供なら、即座に泣き出してもおかしくはないと思える程だ。

 

 

 

「オレが哀れに思って、怪しさ満点のお前をキャメロットに入れたと思ったか? 此方には何の得もないのに?」

 

「あ……あの……」

 

「正直に言おう。

 オレはお前が怪しいから、とりあえず詰所まで引っ張って行こうと考えていた。門前払いされて、変な行動されたり行方が分からなくなったら面倒だからな。

 ——だが、今それを止めた」

 

「ぅぁ……………」

 

「お前、オレの従者の事をそれなりに詳しく知っているみたいだな。

 確かにコイツはそれなりに有名だろうが、お前がコイツに向けている熱量は明らかに普通の比じゃない。

 それに有名といっても、キャメロット外ではまだ上手く広がってはいない。キャメロットに探りを入れて調べ尽くしてやろうって考えの奴なら、別かもしれんが」

 

「ぅ、ぅぅ…………」

 

「実は言うとな、お前はオレの従者を狙いに来てキャメロットに来たんじゃないかって思ってる」

 

「ひぃ、ぅぅぅぅ…………」

 

 

 

 威圧も相まって、ケイ卿が捲し立てるその言葉の圧力は凄まじい。その言葉を受ける度に、ガレスは涙目になりながら後退りする。大人気ない大の大人が、震えて怯える仔犬を苛烈にいじめている様な光景だ。

 流石にちょっとかわいそうに思えてくる。

 

 ——まぁ、私はガレスの方ではなくケイ卿の味方をするのだが。

 

 

 

「——ボーメイン」

 

「……——え?」

 

 

 

 ケイ卿から後退りするガレスに対して、逃げ場を完全に無くす様に後ろに付き、ボーメインと偽りの名で呼び止めながら、彼女の肩に手を置く。

 その瞬間、親しい人に裏切られて表情が抜け落ちてしまったかの如き絶望した顔を向けられたが、心を鬼にして口を開く。

 

 

 

「理解して下さいボーメイン。貴方は今ケイ卿に試されています。

 今ここで詭弁で誤魔化しても、貴方の潔白は証明出来ないでしょう。だから、何故自分がキャメロットに訪れたのか、正直に語ってください。そして、その熱意をしっかりと表明してください」

 

「………ぁ」

 

「私は信じていますよ。貴方は悪意を持ってキャメロットに訪れた訳ではないのだと。

 それにいいのですか? あらぬ疑いをかけられて、こんな所で躓いてしまって。貴方の覚悟はそんな物ではない筈だ」

 

「——————」

 

 

 

 私の言葉を受けて合点がいったのか、ガレスの顔付きが変わり、彼女はケイ卿と再び視線を合わせた。

 身体の震えは即座に消え、目には強い意志が宿っている。その顔付きは、いっそケイ卿を睨み付けているのではないかと思える程強い。

 魔王に立ち向かう勇者の様だ。

 

 

 

「……円卓の騎士サー・ケイ。ケイ卿。どうか私の想いを聞いて下さい」

 

「あぁ、言ってみろ」

 

 

 

 ガレスの決心した声を聞き、ケイ卿が素直に返す。

 

 ……まだガレスの言葉を聞いた訳ではないが、もう大丈夫だろう。

 そもそも、あんなに心の内を晒したケイ卿はガレスを大して疑ってない。本当に彼女を疑っているなら、ケイ卿は無言で詰所に放り込む。

 最後の警戒だけが取れないから、ガレスの本心を引き出す為にあえて追い詰めたといったところなのだろう。

 後は、私が少し背中を押すだけで良い。

 

 

 

「私には、兄がいます」

 

「……………」

 

 

 

 少しだけ思案したガレスは、ケイ卿にそう告げた。

 

 

 

「兄上は立派な方です。

 何年も前からアーサー王の騎士として仕え、その武勇は……辺境に住んでいた私にも届いていました。

 えぇ……ですから、私はこう思いました。

 ——私も兄上の様になりたい。騎士の誉れたる兄上の様になって、アーサー王に仕えたいと」

 

「………………」

 

 

 

 決して声を張り上げている訳ではないのに、スッと頭に入ってくる様な声色だった。彼女が、今までの人生の想いの全てを乗せて喋って告げているからなのだろう。

 たとえ彼女が言葉を選びながらでも、その言葉には深い情景が宿っている。

 

 ケイ卿は何かを思案する様な顔をしながらも、彼女の言葉を揶揄して返す事もなく、静かにその言葉を聞いていた。

 

 

 

「……ですが、私はキャメロットに行くのを周りから止められていました。

 まだ経験の足りない、幼い年齢だとか、その……生まれてから周辺の集落にも足を運んだ事がなかったりだとかで。

 そうやって、10年近くをウジウジと過ごしていました」

 

 

 

 彼女は語らなかったが、性別の事も周りから言われたりしたのだろう。

 思い出す様に語るその姿には迷いがあった。

 

 

 

「ですが、キャメロットから遠い私の国にこんな噂が流れて来ました。

 ——史上最年少の騎士がキャメロットにて生まれたと」

 

「……………」

 

 

 

 不意に入ってきた言葉は私を硬直させるに足る言葉だった。

 彼女が言っている人物は——どう考えても自分。

 

 あぁ……もしかしてさっきのアレは……そういう事なのか……

 

 

 

「そんなまさかと、自分も思っていました。

 噂で流れて来た話はどれも信憑性が薄く、周りの人々も半信半疑。いや、信じていない人の方が多かったかもしれません。

 十になるかどうかといった子供が大人の騎士に勝利し、しかもアーサー王から聖剣の名誉を以って騎士に任命された。円卓の方々でも、この歳からここまでの名誉と誉れを頂いた方なんていない筈です」

 

 

 

 ガレスは静かに、しかし熱意を込めて語っていた。

 僅かに視線を上に向けているその姿は、当時の思いや周りの反応を思い出しているのだろうと思える姿だった。

 

 

 

「———でも噂は嘘じゃなかった」

 

 

 

 そう言いながら、ガレスは一瞬だけ此方を見る。

 美しい宝物を見るような、もしくは眩しいものを見るような、そんな目だった。

 

 

 

「そう……嘘じゃなかったんです!

 あぁ本当に良かった……キャメロットから来る騎士や詩人の人から、かの人物の噂を毎日聞いて分かる範囲で……その武勇を調べていました。もしも……もしもその噂が本物なら、なんて凄い事なのかと。

 だって——だって、たった十の子供が騎士になったんですよ!?」

 

 

 

 胸に手を当てながら、ケイ卿に訴えかける様にガレスは言葉を重ねていく。

 ……本当に、この瞬間はバイザーで表情が隠れていて良かった。多分、思いっきり表情を顰めているのを見られなくて済んでいるから。

 

 

 

「それに比べて、私は一体いつまで迷っているのだと、そう思いました。

 自分は他の人よりも恵まれた環境にいながら、十年以上の時間を棒に振っていたんです……なんと私は情け無い事か。

 もう、年齢だとかそんな事はただの言い訳にしかなりません!

 ——その人は、新たな可能性を自らの力で切り開いたんです!!」

 

 

 

 ガレスは次々と賛美する様な言葉を重ねていくが……非常に居心地が悪い。

 自分の力で可能性を切り開いたと彼女は讃えるが、勿論そんな事はない。この力は全てモルガンから貰った、他人の借物だ。

 さらに言えば、聖剣の名誉を授けるに相応しい人物だったから、アーサー王直々に騎士に任命されたという訳でもない。

 ……むしろ、そうなるようにモルガンと画策して仕向けたというか……

 

 もちろん、彼女はそんな事を知る由もなく、再び言葉を語り始める。

 

 

 

「あぁ……噂は嘘じゃなかったんだって、国の皆に教えたい。

 その人は、若輩の身であっても騎士として活躍できると全ての民に知らしめたのです。もちろんそれは私に、いや私達に届きました。

 私達、若者にとっての新たな可能性であり、輝ける星と言ってもいい」

 

「……で? 結局どうしたいんだお前は」

 

「あ……す、すみません。ちょっと着地点を見失ってしまって。

 つまりは、私は兄上の様な騎士になりたくて、そして——新たに騎士となったサー・ルークの活躍に大きく背中を押されたんです!」

 

 

 

 ケイ卿が彼女の熱意に思わず言葉を返し、ガレスはそう結論付けた。

 ケイ卿がガレスに向ける視線に厳しさはもうなかった。

 

 

 

「そうか、まぁ騎士になる為に色々誤魔化している訳ではなさそうだな」

 

「嘘じゃありません! 神にだって誓えます!」

 

「あぁ……めんどくせぇな」

 

 

 

 投げやり気味に呟きながら、ケイ卿は頭を掻きむしり始める。

 数瞬後、何かを思いついたのか、ケイ卿は私に視線を合わせて口を開いた。

 

 

 

「なぁ、コイツの事全部お前に任せていいか?」

 

「は……——は?」

 

「オレは今からアーサー王に今回の一件を報告してくるのとアグラヴェインを捕まえなくてはならん。正直コイツの面倒まで見切れん」

 

「なんですか……? もしかして私に全て丸投げするつもりだと……?」

 

「あぁその通りだ」

 

 

 

 嫌な笑みを浮かべながら、ケイ卿は私にそう告げた。

 真横でえっ……とガレスが呟いていたが、自分の耳にはまともに届いていなかった。

 

 

 

「あぁお前の事だから理解しているだろうが、本当に"全て"任せる。

 円卓のサー・ケイがそう言っていましたって言えば大体の事は通せるだろう」

 

「……貴方自分が何を言っているのか理解しているんですか?」

 

「勿論理解している。吐いた言葉を二度と戻せない事もな。

 それに、コイツの事はオレが決めるよりお前が決めた方が良さそうだろう?」

 

「……………」

 

「任せたぞルーク———信じてるからな」

 

「…………………」

 

 

 そう言ってケイ卿は去っていってしまった。

 ……信じているからな、とはどういう意味なのか……単に私を牽制する為の言葉なだけで大した意味はないのか。

 

 

 

「うぁぁぁ……怖かったぁ……アレが円卓の騎士サー・ケイ、なんて迫力。

 あ、これからよろしくお願いします! それで、私はどうすればいいのでしょうか?」

 

「はぁ……」

 

 

 

 可愛げのある笑みを向けられて思わず毒気が抜かれる。

 まずは彼女をなんとかしなければならない。ならないのだが、さて一体どうすれば良い。

 はっきり言って彼女の処遇を決める立場などではないし、私は不相応だ。

 

 

 

「貴方が騎士になりたいという想いは充分伝わりました。あぁ、まず名前は……」

 

「あ、待って下さい! それ止めて下さい!」

 

「はい……?」

 

「敬語です、敬語!」

 

 

 

 ガレスが私の言葉を遮りながら、懇願の声を告げる。

 鼻息は非常に荒い。

 

 

 

「私は敬語を使われるような立場では到底ありませんから、もっと普通に喋って下さい!」

 

「いや、これが普通の喋り方と言うか……そもそも私と貴方では年齢が……」

 

「まさか! 年齢なんて大したことはありません!

 それに、私と違った人生を十年近く歩んで来たんですから、貴方から学ばなくてはならない事は沢山ありますし、何より私の人生と貴方の人生では厚みが違います。

 貴方が成し遂げた事は本当に凄いんですよ?

 私が住んでいた国でも貴方の活躍に憧れた若者はいっぱいいるんですから。

 もう、皆に運命的な出会いをしたって自慢してやりたいくらいです!」

 

 

 

 ——あぁ、目を輝かせながら語る彼女の視線が非常に痛い。

 彼女の純粋無垢な感情を、酷く弄んでしまっているような後ろめたさと、彼女の熱意に私という異物を混ぜてしまったという罪悪感がする。

 何より、私に向けている熱狂的な視線は尋常ではない。

 

 色々な事をやらかした後のランスロット卿は、ガレスにこんな思いを抱いていたのだろうか。

 ……これはキツイな、しかも押しが強過ぎる。もうこうなったら彼女はテコでも動かないのだろう。

 

 

 

「……分かった……ボーメイン」

 

「——お、おぉぉ! いいですね!

 先輩と後輩と言ったところでしょうか、分かりやすくていいです」

 

「やめてくれ。その……先輩と呼ばれるのはあまり好きじゃない」

 

「あ……す、すみません。ちょっとでしゃばった真似を。

 ルーク卿とお呼びすれば良いですか?」

 

「……流石に、卿呼びは私には不相応だ」

 

「む、むむ。ならルークさんとお呼びしますね!」

 

「……もうそれで良い」

 

 

 

 敬語を外して喋るのはかなり久しぶりだ。

 当たり前だが、この自分の本当の素の口調はモルガンにしか話していないし、口調と共に自分の意識も切り替えていたから、キャメロット内でこの話し方をするのは尋常じゃない程の違和感がする。

 ……めちゃくちゃ疲れるぞ、コレは。

 

 

 

「はい! これからよろしくお願いしますルークさん!」

 

 

 

 小さな夢や願いが叶ったかの様に、彼女は大きく微笑みながら歓喜の視線を向ける。

 その笑みは、可愛げに溢れた弟といった印象を他者に与えるものだった。

 

 ……本当は弟ではなく兄なのだが。更に正確に言えば、兄ではなく姉なのだが。比喩でもなんでもなく。

 しかしそれを知るのは私側だけであり、彼女の言葉に私は力なく、よろしく、と呟く事しか出来なかった。

 

 

 

「……まずこれからはボーメインと名乗っていれば、本当の名前を隠していても問題にはならない」

 

「あ……あーその」

 

「別に追求はしない。

 ケイ卿が見逃した以上、隠している本名は脅威になるとは思えないし、私も思っていない。

 大方、自分の本名を告げてしまったら、其方が語った兄上との繋がりがバレて、自分の力を正しく評価してくれないと判断したから。後は高貴な身分を隠したいから。そんな所か」

 

「え……」

 

「貴方が語った言葉の節々には、高貴な身分だと思われる部分が表れていた。

 それに、明らかに腹の探り合いといった駆け引きには向いていない。勿論、それは他者を惹きつける魅力になるだろうし、本当に信頼出来る人としての素質でしかない。

 後、隠し事なんて誰にもある。私ならこの顔とか。

 だから、変に気に病む必要なんてない」

 

「ありがとう、ございます」

 

「しかし、騎士になりたいか……」

 

 

 

 ケイ卿があぁ言っていた以上、ガレスの処遇はまあまあ自由に決められそうだが、彼女をいきなり騎士に出来るかと言ったらかなり厳しい。

 ケイ卿の従者にして、そこから騎士を目指すという方法もあるかもしれないが、私がもう従者をやっているので無理。

 ケイ卿も従者が二人という状況になったら絶対に文句を言うし、多分取り下げる。

 

 

 ……全てを任せると言いながら、信じているとは、もしかしてこういう意味なのだろうか?

 

 

 

「……ひとまず、私を目標にするのは止めた方が良い。

 御前試合でアーサー王の目に止まれば騎士に推薦してもらえるかもしれないという考えは間違ってはいないが……私は特別だったというより、異常だったというか。

 そもそもそんな機会は限られている」

 

「…………」

 

「ケイ卿を引き合いに出して、ガウェイン卿やランスロット卿の従者にさせて貰うのは、無理だな」

 

「そう、ですね。はい」

 

 

 

 私の言葉にガレスは言い淀む。

 それはそうだ。姿を偽っているとはいえ、ガウェイン卿の従者という非常に近い立場になったらバレる可能性が高い。ランスロット卿の従者という立場も、今の彼女からすると身が重い。

 そもそも、彼女を従者にしてやって下さいと、私からランスロット卿に言える訳がない。絶対勘繰られる。

 

 ……ケイ卿ならなんと言うだろうか。

 

 

 

「……ケイ卿なら騎士になんかなるな、と言いそうだな」

 

「え?」

 

「いや……あの人ならそう言うだろうな。

 しかし素直にそんな事は言わず、闘いなど知らないだろうその白い手でどうやって剣を振るのか、戦からは程遠いその手に相応しい厨房で下働きするのが似合っている。なんて言うような予感がする」

 

「おぉぉ……」

 

「ボーメイン?」

 

 

 

 此方の言葉に反発するでもなく、騎士になれないのかと悲観するでもなく、ガレスは感嘆の声を洩らした。

 溢れんばかり、どころか溢れてきっている彼女の畏敬の視線は、自分にとって少し痛い。

 

 

 

「ルークさんがケイ卿の従者をしている真の理由を、今見る事が出来た気がします。

 ——これが以心伝心ですね!」

 

「まさか……これは以心伝心でもなんでもない。以心伝心とは互いに信頼し合っている関係で発生するものを指す言葉だ。

 私はケイ卿の事を信じているのではなく、ケイ卿ならこうするだろうという己の予測を信じているだけでしかない」

 

「えー……あー……んん?」

 

「それに、私は厄介払い気味にケイ卿の従者になっただけだ。何かを買われた訳じゃない」 

 

「えぇ!?」

 

「……驚きか?」

 

「当たり前じゃないですか!

 私はてっきり実力以外の部分を買われて、貴方がケイ卿の従者に相応しいからと選ばれたのかと思っていましたから。

 いえ、貴方の実力は疑ってませんが!」

 

 

 

 あぁ、やっぱり彼女は純粋無垢だ。

 いずれ最も優れた騎士になるだろうと称されたのは至極当然の事だろう。

 

 彼女は良いとこ探しの天才なのだ。

 純粋無垢であるが故に、誰よりも多く学び、誰よりも大きく成長する。

 冷めた視線を向ける事もなく、物事を疑ってかかる事をしない。それよりも早く、自然な形でそれを尊く受け止めて、自分の中で昇華する。

 卑下は清く正しい形で向上心になり、嫉妬などは抱かず他者への尊敬とする。

 

 

 "いずれ兄弟全員に匹敵する、真の騎士となる"

 

 

 そう言わしめるだろう。

 そう言われない方がおかしい。

 彼女は正しく世界に名を刻む人物で——酷く美しく、眩しい人物だ。

 

 

 

「……それで、ボーメイン。

 貴方が一つの目標としていた人物は、私の様な捻くれ者であっていたか?」

 

「捻くれ者!? まさか!

 私が思っていた人物とは違いましたが、より相応しい人物だと考えを改めました。必ず外してはならない選択は絶対に外さない人だなと」

 

 

 

 ——むず痒い。

 賛美の声に不相応にも思い上がる事が出来たなら、少なくとも心労は抱かなかっただろう。もしくは自分自身が正しく生きて、正しく評価されているのなら気分は良くなったのかもしれない。

 しかし、今の自分にあるのは居心地の悪さだけ。

 

 勿論、思い上がる事など出来る訳がない。たとえ——死んでもしたくない。

 そうすれば最後、自分は最も嫌悪する"人々"と何も変わらない。

 評価されるべきではない人物が評価されるのは、評価されるべき人物が評価されないのと、同じだから。

 

 

 

「えぇ分かりました!

 確かに誰の後ろ盾もなく、また何の信用を得てない自分がいきなり騎士にしてくれと頼むのは不相応だったのかもしれません。

 つまりまずは誰かの下積みをして信用を得た方がいい。そして厨房なら騎士の皆様方も利用するから、とても都合が良い。そういう事ですね!

 精神誠意頑張らせていただきます!」

 

「……良い場所を知っている。紹介しよう」

 

 

 

 自分という存在が此処にいる故に、ガレスは自らの処遇に対してケイ卿に反発する事もなく、またケイ卿が周りの騎士から侮蔑される事はなくなった。

 結局、本来の彼女が収まる位置に収まる事になるのだろうから、そこまで気にする必要などないのかもしれないが、どうしても彼女と自分の事を切り離して考える事は出来そうになかった。

 

 自分の本来の目的が阻害される事はないし、彼女に恩を着せる事にデメリットはない。

 そんな冷めた判断と計算をする自分の歪みに嫌悪を抱きながらも、多少の手間くらいなら可能な限り彼女の力になろう。

 

 そう、深く誓った。

 

 

 




 
 美しい手のガレス B
 詳細

 変装してお城の下働きをしていた際、白く美しい姿をしていた事からケイ卿に『ボーメイン(美しい手)』と称されていた。当時のケイはそれがガレスの変装であるとは気付いてなかった。すなわちガレスは白く美しく、美肌であり、その手は特に美しかった。






 美しい手のガレス A
 詳細

 兄弟の活躍に憧れ、身一つでキャメロットを訪れた際に、彼女が一つの目標としていた、当時ケイ卿の従者をしていた頃のサー・ルークと運命的な出会いをし、ケイ卿から"ボーメイン(美しい手)"と名付けられた。

 またその手を見たサー・ルークは、彼がモルガンの子ガレスの変装であると見抜き、厨房で下働きをしていた時代に温情してもらったという逸話により、その美しいと称された手に関わる、あらゆる事象あらゆる行動に対し、自らの幸運の値とは別にしてAランク相当の幸運を保有している場合と同じだけの強力な補正が働く。
 また、連続した事象に於いては複数回重なって幸運の判定がされる。

 ただし、彼女を象徴する有名な逸話故に、真名が看破されやすい。

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