シルリア王国って何処ら辺にあるどんな国?
という疑問があるかと思いますが、この作品に於いてはブリテン島の西にある貧困した国という事だけ覚えておけば特に問題はないです。
シルリア王国について調べたら、多分裏背景が分かったりするかもしれませんが、ストーリー上に於いては特に重要ではないです。
太陽の光に燦々と照らされている城塞に、冷たい風が吹いていた。
堅牢な城壁を撫でるのは、海から運ばれてきた潮風。
海までは60km程の距離があってか、シルリア城の展望台からでも海辺を見る事は出来ないが、絶えず吹く偏西風によって運ばれた海の香りが、波の音を連想とさせる。
その城塞に備えられた、周囲を監視する為の城壁塔で待機していた男は、不意に一つの光を見た。
太陽の光が鏡に反射した様な、一瞬の煌めきだった。
「…………ん?」
男は、視界に入った光の方へ視線を向ける。
詳しくは何か分からないが、城塞から数百メートル離れた森の方から、一瞬だけ何かがチカッと光ったのだ。
今現在、この城では重要な事柄を進めている。小さな異変すら見逃す事は出来ない。
男は、一瞬だけ何かが光った森を注意深く確かめる為に、城塞塔から身を乗り出そうと身体を起こそうとする。
そして、身体を動かそうとしたその瞬間——
——瞬き程に光ったモノが、自分の額目掛けて飛んで来た"矢の様な形をした剣"の煌めきだという事に気付けず、男は絶命した。
「お前、弓も出来るのか……」
シルリア城から数百メートル程離れた森の中で、モードレッドは隣の少年に向けて、思わず呆然としながら呟く。
もとより少年が並大抵の存在ではない事は理解していたが、少年のそれはあまりにも想像からかけ離れていた。
隣の少年が放っている弓には、以前彼が見せていた戦いにあった、荒々しさや乱雑さといった要素が一切ない。
そのまま周囲に溶け込めるのではないかという程に静かであり、また緩やかであり、もうこれ以上成長の余地など無いだろうと確信出来る程に、限界まで極められている。
彼が見せた荒々しい戦い方とは、まるで性質が違う。
——どれ程の年月を修練に充てれば、ここまで完成出来るのだろう。
隣の少年の年齢とはどう考えても矛盾する事を、思わず考えてしまう程だった。
「モードレッド卿も率先して弓をやらないだけで、人並み以上には出来るでしょう?」
「いや、俺にどういう印象を持ってるんだよ。
……そりゃまぁ、多分人並みには出来るとは思うが……俺弓を持った事がないからなぁ」
「そうなんですか……?」
「というか、仮に俺が弓を得意としていても、お前には劣るわ。
うん、絶対に劣る。意味が分からん」
戦地で、しかも弓を構えて相手を狙っているという人物が何げない会話を返しながら、弓を引いているという事に、モードレッドは軽く畏怖を覚える。
隣の少年は、何げない会話と並行しながら、命を奪い取る為の行為を平然と行っているのだ。
「お前、実は頭の中に二人いて、一人は身体を動かしてもう一方は頭を動かしているとかだったりしないか?」
「なんですかそれ。
二重人格ではなく操作可能な離人症を疑われているとは。
別にただ……口煩い人と会話しながら弓を射っていたら慣れただけですよ」
僅かに呆れながら語る少年だが、構えられた弓には微塵も震えはなく——そして、今放たれた"矢の様な形をした剣"は寸分の狂いもなく飛んで行き、また一人の命を奪い取った。
彼は何処までも平常心だった。
「………………」
先程から、少年はそんな様子だった。
最初こそは、意気揚々と城を奇襲しようとしていたモードレッドだったが、今は少年の事を静かに見守っている。
いざ突撃しようと意気込んでいたモードレッドを、少年はまず弓で雑兵や監視者を減らそうと言って待ったをかけたのだった。
トリスタンじゃあるまいし、こんな距離から届くのかと否定の言葉を被せようとしたモードレッドだったが、彼が"何もないところ"から取り出した黒い洋弓と、周囲の空間にまで伝わる程の尋常じゃない集中を見て、モードレッドは言葉を失った。
少年が最初に弓を構えたその瞬間——少年にはあらゆる情緒が何も浮かんでいなかった。
普段の——正確にはモードレッドが最初に彼に抱いていた佇まいや様子もなく、また一切の隙が消失した冷たい佇まいすらも存在しない。
一種のトランス状態と言っても良いのかもしれない。
そして、その何も無くなった自分という殻に、ナニかを作り出して入れている。そんな不気味な感覚がしたのだ。
そうしてモードレッドが動揺している間に少年は"矢の様な形をした剣"を放ち、最初の一人目の命を奪っていた。
——成る程、これは話しかけず彼に任せた方がいいのかもしれない。
集中を阻害しないようにとモードレッドがそう思っていたら、次の瞬間当たり前の様に彼から話しかけて来たのだ。
はっきり言って、その急変と——彼の剣の印象とはかけ離れた、全く違う別の誰かが弓を射っているような感覚が、酷く気持ち悪かった。
「
「……………」
彼が言祝いだ詠唱と共に、少年の手には剣が握られる。
いや、それを剣と認識するのは難しいかもしれない。剣というよりも、レイピアの様に剣先が尖り、剣の柄の部分は矢の筈の様な形状をしている。
斬り払うのに向いた形状ではない。明らかに、弓で撃ち出すのを目的とされた剣だった。
少年は、その明らかにおかしい剣を弓に番え始める。
剣も異常なら、少年が持つ弓も明らかにおかしい物だった。
少年が構えているのは、先程と同じ詠唱と共に現れたあまりにも巨大な黒い洋弓。モードレッドが今まで見てきたどの弓より、それは大きかった。
少なく見積もっても、2mはくだらないだろう。
どう見ても、小さい体躯の少年とは不釣り合いであり、何より直立した状態からでも弓を真っ直ぐ構えられていなかった。
それでも放たれた剣が一切外れないというのは、限界まで研ぎ覚まされた修練故なのか。
「——フ」
木で作られた弓では響く訳がない、金属同士が軋み合う様な、ギリギリとした音が響いていた。
少年の短い吐息と共に、引き絞られていた巨大な洋弓が、腹に響く音を残して元の形に戻る。
その反動による影響は凄まじく、数百メートル離れた騎士に向かって、一直線で剣が飛んでいく程。良く見れば、放たれた剣は騎士が装着していた兜ごと頭蓋を貫いている。強襲を受けていると声を上げる暇すらなく即死だろう。
さらにおかしいのが、複数人が待機している監視塔に対しては、また種類の違う剣を作りだし、同時に複数本の剣を撃ち飛ばしていた。
それでも足りないのなら、1秒にも満たない時間で次の剣を新たな標的に撃ち飛ばしている。
大半の者は声を上げる暇すらなく即死させられていた。気付きそうになった人物は、次の瞬間には少年が射抜いている。
既に二十以上の騎士を狙撃によって暗殺していながら、未だに少年の攻撃はバレていなかった。
「うわぁぁ…………お前、トリスタンと撃ち合えるんじゃね?」
「流石に無理だと思います。【
私の作った剣が、一撃で城塞を半壊させる程の威力を持っていればまだしも」
「……お前は何を想定しているんだ……?
普通の矢と違って、質量のある剣を飛ばしてるんだから兜ごと貫く威力があるっていうのに、まだ威力が上がるのか……?」
「いや、想定というか、イメージというか。
私では出来ないでしょうし、そもそもトリスタン卿と撃ち合う気は私には微塵もありません」
軽口を交わしながらも、赤い線が浮き上がって刻まれている少年の腕は微塵も震えていない。金属質な黒い洋弓には、確かに凄まじい反動があるに違いないというのにだ。
常人では、弓を引く事はおろか構えることすら難儀するだろう程に巨大な洋弓は、確かに少年の手によって支えられている。
モードレッドが少年の事を見ていた間にも、彼は再び、あまりに巨大な弓にあまりにも巨大な矢を番え始める。
少年には合っている筈が無いというのに、見れば見るほどその姿が相応しく見えて来るという矛盾がモードレッドを襲っていた。しかしそれ以上に——少年の弓は美しいのだ。
「……俺も弓やって見ようかな。
というか、うん。俺も頑張ろう」
ガウェインに言われた、いけすかない軽口を思い出した訳ではないが、隣の少年の様子を見て、素直にモードレッドはそう思った。
もとより、時々とはいえランスロットから剣を教わっているのだ。トリスタンから弓を教わったところで、武練を教わる相手が一人増える事になるだけ。
短い人生故に、騎士王と同じように剣のみを極めるつもりだったが、まぁ騎士王だって時々剣以外の武器も扱っていたりする。
少しくらいなら、弓に浮気をしてみても大丈夫だろう。
「——まさか、モードレッド卿は既に誰よりも頑張っているでしょう。
私のは答えが分かっているだけの、ただの借り物なので。
いや……借りたというよりも、無断で奪い取ったという方が正しいか……」
「——え?」
モードレッドの言葉に何か思うところがあったのか、少年が反応を示した。
彼の唯一見える口元の部分には、何処か自嘲気味な笑みが浮かんでいる。彼の本当の素の顔なのか、もしくは素の顔の一つなのか。
そこには思い悩む一人の子供の姿がいた。
モードレッドが初めて見る顔だった。
「まぁ、あまり私の事は気にしないでください。貴方は周りの目なんて気にせず、貴方らしく在れば良い。
私も思い悩んでいましたが……少し納得出来たので」
「………………」
それもすぐに消え、普段の様子に戻るが、確かに今のは幻惑でもなんでない。
ふと、モードレッドは自分の手の平を見ながら、彼が言っていた言葉を思い返す。
——借り物。
そういえば、自分はどうなのだろう。
確かに、自分は周りの人間とは違って歪んだ出自をしている。それ故に、自分は二十年も生きられればいい方だ。でも、それだけか?
この血は、魔女の歪んだ血を引くが故に、他者よりも優れた力を秘めている。
——自分は、普通の人間よりも長く走れない分、最初から進んだ状態で走れるのだ。
これは自分の力と数えるのは難しいかもしれない。自分が勝ち取ったモノではなく、生まれた瞬間から……不愉快だが魔女から与えられた借り物の力。
もしかしたら、彼も似たようなモノなのかもしれない。
自分から得たモノではなく、偶然——後天的に得たモノ。それを、新たな形に昇華させようとしながらも、元の形を知るが故に苦悩している。
彼の佇まいとその在り方は、何処か完璧超人のような印象が強かった。
だが、彼も表に出していないだけで、色々と悩みながらも、何かを目指しているのかもしれない。
「へ、へへ。もう何だよお前!
ちょっとお前の事、色んな面で人間離れしていて怖いなって思ってたんだけど、急に親近感湧いちまったじゃないか!」
「は……はぁ……いやそんな事思ってたんですか。確かにそう思われる自覚はありますけど……」
「あぁ思ってた。コイツ怖ってな。
でもまぁうん——これからもよろしくな、ルーク!」
「……すみません、身体を叩くのはやめて下さい。流石に弓がブレます」
「おお、悪いな!」
兜の下で、きっと人懐っこい笑みを浮かべているのだろうと判断したのか、少年は何故かやり辛らそうに身じろぎしていた。
僅かにだが、口元が歪に硬直している。
その微妙そうな表情が、モードレッドは新鮮だった。
敵意や警戒に対しては切り替えが上手い癖、何げない会話や好意の類には比較的簡単にボロを出す。
今もそうなのだろう。
構えられた弓は先程と違って何処か重さがない。集中が途切れて、ただ眼前に構えているだけ。そんな印象だった。
彼自身もその不調に気付いたのか、溜息を吐きながらモードレッドに反応を返した。
「はぁ……あぁもう、集中が途切れました。
流石に身体を叩いて揺するのはやめて欲しかったです」
「いや悪かったって。
それに、もう粗方片付け終えただろ?
監視の兵はもういないし、後は城壁の上にいる兵だけだ」
「そうですね。
可能ならここから視認出来る全ての兵を事前に片付けたかったのですが、まぁ後は貴方が何とかしてくれるでしょう」
「お……?
おお、成る程。その面倒臭そうなモノを相手にしているみたいな口調がお前の素だな?」
「はい……?」
「何、出番が無くて退屈していたんだ。ここからはオレの番だ」
口元を開け、呆れた風に此方を見る少年に対して、一歩距離が縮んだなとモードレッドは考える。
いや、縮んだというよりも、此方から詰めたという方が正しいか。
少年が見せた新しい様子は慇懃無礼と称するのが似合っているが、自然とそれは癪には障らない。
ケイやアグラヴェインの慇懃無礼と違って、根底には他者への信頼があるからなのかも知れないと、モードレッドは何となくそう感じた。
「いよし、じゃあそろそろ突撃すっか!」
「重ね重ねすみませんが、少し待って下さい」
「ん? どうした?」
森の木々や林に身を隠していたモードレッドは、手にしていた長剣を肩に担ぎ、一気に飛び出そうとしたが、再び少年がモードレッドの事を止める。
それに対して、不満気な様子を見せる事もなく、モードレッドはその場で少年の次の言葉を待った。
「私には【
私は先に城壁の上に陣取る雑兵を片付け終えるので、モードレッド卿は弩砲を片付けた後、城内の敵を殲滅して下さい。
多分、私の方が普通の人間相手の相性が良いので」
「おう、分かった。
いいぜ、それで行こう」
自分よりも立場が下の人物から命令を受けたという事にも拘わらず、モードレッドは自然とそれを受け入れていた。
既に少年の実力は偽物ではないと肌身で実感しているし、作戦自体にも特に不満はない。どうせ足並みは揃わないのだ。各々が好きな様に、得意とする敵の方に向かって暴れればいい。
モードレッドは、少年の事をかなり信頼していた。
「おっし——じゃあ、行くかぁ!!」
「…………ッ!」
モードレッドと少年が飛び出したのは同時だった。
竜がいきなり生まれ出でた様に膨れ上がった威圧感が瞬間的に周囲を支配していく。同時に、雷が落ちたに等しい程の轟音が二つ響き、城塞にいた騎士達は今更ながらも、数百メートル先の森に潜んでいた、その二つの存在を強制的に認識させられた。
「うっわ、速ぇ……」
同時に飛び出したというのに、モードレッドは少年にかなりの差をつけられていた。
宝剣の加護もあってか、少年とは倍近く速度の差がある。しかも、足元の小さな起伏といったモノに足を阻まれてもいない。
間違いなく、ブリテン島内では最速だ。元々の身体能力がふざけているのも合わさって、あの宝剣を手にしている限り、彼に追い付く所かまともに捕捉するのすら難しいだろう。
モードレッドが城まで後半分というところで、少年は既に城の真下にいた。
少年はその速度を維持したまま、城壁に飛び蹴りを放ち、城壁の一部がクレーター状に真横に沈む。少年は凹んだ城砦を足場にしながら、今しがたの速度を真上に変換するように天高く跳躍した。
「—————な」
城にいる騎士達が、森が爆発したような圧力を感じてから、僅か数秒すら経っていない。
ほとんどの騎士達は未だに、硬直の中から意識を取り戻せてはいなかった。
そして当たり前の様に、動きを起こそうとする意思を身体に命令する時間すら与えられなかった。
——仮に、その時間があったとしても、どうにも出来なかったかもしれない。
既に、少年は命を奪い取る為の行動の全てを終えている。
硬直した騎士が見たのは、ただの跳躍によって城壁よりも高く飛び、太陽の光を背にしながら何かを構えている少年の姿。
次の瞬間、僅かに声を上げるだけの行動が出来た騎士の一人は、額に真っ直ぐ飛び込んで来た剣によって即死する。
いや、それだけではなかった。
周囲の三人の騎士——合計で四人の騎士が同時に額を射抜かれていた。
「——は、何を」
瞬間的に四人の味方を中距離から一方的に瞬殺されたという理解し難い事実に、思わず言葉を発した騎士は——また次の瞬間には頭を射抜かれていた。
同時に、周囲の三人の騎士も頭に向かって飛んで来た剣で貫かれている。
「……ッッ盾だ! 盾で攻撃を防げぇぇッッ!!!」
ようやく事態を理解した一人の騎士が、死の雨をやり過ごす事の出来る起死回生の方法を怒号混じりに叫ぶ。
少年は凄まじい速度で、弓から剣を放ち続けていた。
手に握られているのは、剣先がレイピアのように尖った剣ではなく、騎士剣の柄から鍔の部分を全て消した、刀身の部分だけ。
それを、指と指で挟む様に四本持っていた。
片手で握る事の出来る限界数の四本。
親指すら刀身を挟み込むのに使用していながら、弓によって放たれた剣の弾道には寸分の狂いもない。
一射毎に四人。しかもその少年は、弓を引くという動作の次の瞬間には、手先から走る赤い稲妻と共に、新たな四本の刀身を握っている。
信じ難い事に、矢を取り出して番えるという弓矢の当たり前の隙と硬直が消されていた。
「クソッ! 良くもやってくれ——」
放たれていた剣が、質量をあまり持たない刀身部分のみだった事が幸いして、降り注ぐ剣の雨を盾でやり過ごす事に騎士は成功した。そして、盾越しにこの惨状を作り出した少年を見ようとして———次の瞬間、空中から凄まじい速度で急降下する少年の飛び蹴りを受ける。
たとえその子供の体重が軽くとも、空中で姿勢を戻し、膨大な魔力を一方向に放出して生み出された急降下の速度は音速を超えている。
衝撃を逃す事も出来ず、城塞の地面と少年の一撃に挟まれた騎士は、そのまま即死した。
「……………ッッ!!」
「……………」
たった数秒にも満たない間に、少年の弓による攻撃で数十人近くが殺されている。
なんとか運良く生き残る事が出来た数名の騎士は、その少年に剣を向けるが、先程まで使っていた巨大な洋弓を投げ捨てながら、腰に携えた二つの宝剣を引き抜く少年を前に、一歩も動けなかった。
「———オレの事を忘れんじゃねぇぇぇええッッ!!!」
魔獣の咆哮の如き荒々しい声が響いた。
城塞にたどり着いたモードレッドは、少年と同じく魔力放出で十メートル以上ある城塞を一足で飛び越え、慣性の法則を無視しているとしか思えない速度で急降下する。
その急降下の速度を乗せたまま、着地と共に長剣を地面に振り下ろし、衝撃波と共に残りの数人の雑兵を葬り去った。
「ありがとうございます」
「あぁ別にいい。どうせ要らぬ手間だったろ。
それにしても……んだよ、雑魚しかいねぇな」
「まぁ、叛逆者の多数はキャメロットの本隊を相手にしているでしょうから」
「それもそうか。
……んっと、本隊の方も開戦したらしいな」
シルリアの城塞から広がる平原を見渡せば、キャメロット本隊のモノと思わしき狼煙と、角笛の音が聞こえてくる。
特に不安はない。防衛に回った時の要となる城は、今から自分達が落とす。それに、多数の円卓によって率いられた軍だ。当たり前の様に本隊は勝利するだろう。
「では、モードレッド卿は弩砲と城内の敵を。
私は城外の敵を殲滅した後、其方の方の援護をします」
「おう、そっちは任せた!」
そう言って、少年は再び跳躍した。
既に、手には新たに作りだした弓とそれ専用の剣が握られていた。
少年は、城の壁や城塞塔。地面等を使って立体的な機動をしながら、射線の通った敵兵に向けて剣を放ち続けている。秒速で敵が死んでいくのが見えた。しかも、ほぼ常に上空を取られ続け、尚且つ凄まじい機動速度故に、少年にはまともな攻撃は一つも届かない。
数分もすれば、城外の敵は彼によって殲滅されるだろうとモードレッドは察した。
「……これは、さっさと弩砲をぶっ壊して城内の敵を相手にしないと、手柄のほとんどを取られそうだなぁ。
——そうは思わねぇか?なぁ?」
「……………ッッ!!」
モードレッドは兜の下で獰猛な笑みを浮かべながら、城内から出て来た敵兵を威圧した。
敵兵の構える剣は震えている。
「フン、雑魚ばっかりか。
逃げても構わねぇぞ。相手はこのモードレッドだからな」
「…………何だと貴様ぁ!」
「威勢は充分か……ならいい。
戦意のない雑魚を斬るのは騎士の名折れだ」
怒りを露にした敵兵に対して、モードレッドは右足を引き、剣を下段に構えながら後ろに流した。
防御など眼中になく、必殺の一撃のみを考えた構え。
肉体の血を全て沸騰させるように、膨大な魔力を身体に浸透させる。
「——よぉし! 一匹残らずブッ飛ばす!」
荒狂う竜の如き魔力を一方向に放出し、モードレッドは敵陣に飛び込んで行った。
数秒で数十人を射る事出来るかなぁ……って思ってたけどUBWのアニメ見返して、アーチャーことエミヤがもっと凄い事してたし、主人公でもこれくらいならいけるいけるという安易な考え。