騎士王の影武者   作:sabu

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 円卓側の後日談。
 不穏さや嵐の前の静けさのようなナニが、すぐそこにまで忍び寄って来ているような感覚。
 しかし、それでも詳細を把握出来ない者の中では、当たり前のように時間が過ぎ去っていく日常の一幕。後一話。
 


第42話 焔の令嬢は狂わず 後編

 

 

 

 ランスロットはその日、自らの一室に籠り切りだった。

 

 王から頼まれていた一件がようやく終わりそうだったのだ。

 この数週間、休日紛いの代わりに冒険に出かけたり、キャメロットにて身体を休めるという事を、彼は一度足りともしていない。気の強い一人の令嬢がキャメロットを訪れていたという事も耳には入らない程に、ランスロットはこの数週間、仕事に勤しんでいた。

 

 ランスロットは羊皮紙と格闘しながら、ひたすらに記入を繰り返し、新たに調べ上げた情報を纏め上げていく。

 キャメロットでは自分の仕事ではなかったとはいえ、元々ランスロットは他国の領主の一人だ。上に立つ者として、文官としての仕事は人並みに出来る。

 あの少女の報告を繰り返すのもあって、自国の領土を治めていた時の勘は既に取り戻していた。それもあってか、ランスロットにとっては苦でもなかった。

 

 

 

「これくらいでいいだろうか…………」

 

 

 

 ランスロットはかなりの量となった羊皮紙の束で、圧迫感が感じられるようになった己の一室を見渡しながら、そう呟いた。

 机には椅子に座った自分の背を越すくらいの羊皮紙が積み上げられている。しかし、ただ量を書き上げた訳ではない。

 秘書官のアグラヴェインや、文官や交渉役として非凡な才能を発揮するケイ卿であっても、それなりに満足するではあろう出来にはなっている。

 しかし、それ程の質でこの量なのだ。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 完成した羊皮紙の束から一つを手に取り、ランスロットは改めてそれに目を通していく。

 纏められているのは、ほぼ全て国の事。しかも、特に重要な事から、その国の特色や文化、民族的な自意識などと際限がない。

 

 ブリテン島に存在する数々の諸王国。

 西はコーンウォールからデメティア。

 南はドゥルノヴァリア。

 東は一年以上前、ガウェイン卿とモードレッド卿の遠征でサクソン人達から奪還する事に成功したロイギル。

 北は、ピクト人の侵攻を防ぐ為に作られた数百km二つの防衛壁、その一つハドリアヌス長城の先にあるロージアンまで。

 

 ブリテン島のほぼ全域、しかも主要的な国家の全てを網羅しかねない程だ。

 

 

 

「……国の、解体作業……?」

 

 

 

 この数週間、更に期間を跨げは数ヶ月近く、ランスロットは多くの諸国を回っていた。

 気分転換や教育も兼ねて、ボーメインを連れた事も何度かある。しかし、アーサー王が今になって諸国の情報を纏め上げたり、再調査を依頼する理由がランスロットには思い浮かばない。

 そもそも、アーサー王にとっては不要の筈だ。

 だからこそ、自分の思考を整理する為に思わずそう呟いたが、今一つ納得がいかない。国の解体作業の為に、全て国の情報を一から纏め上げ、改めて作り直す必要があるようにはどうも思えなかった。

 

 まるで、新しく新調しているようだ。

 

 

 

「……いや、今は王の事だ」

 

 

 

 最近のアーサー王は、ほとんど休んでいないのではないかと思える程に政務に励んでいる。執事役のベディヴィエール卿の制止すら振り切ってだ。

 そのせいか、最近王に疲れが目立つようになった。その心労は如何程なのか。王の負担を減らせるなら、ランスロットは幾らでも力になるつもりだった。

 

 ランスロットはかなりの数となった羊皮紙を腕に抱え、自らの一室から退室する。

 目指すのはアーサー王の執政室。

 いくつかの回廊を進み、それ程の時間も経たずにキャメロットの最上階まで着いた。

 

 

 

「む——」

 

「す、すみません……!」

 

 

 

 王の一室が間近に迫り、廊下の曲がり角を曲がろうとした時、ランスロットは一人の女性とぶつかりそうになった。

 日頃から鍛え上げていたおかげで正面衝突をする前にランスロットは身体を逸らして避けられたが、数枚の羊皮紙が地面に落ちる。

 

 

 

「申し訳ありません、大丈夫でしょうか」

 

「わ、私こそすみません……考え事をしていたもので」

 

 

 

 僅かに恐縮し、俯いた女性をランスロットは気遣った。

 その女性は落ちた羊皮紙に気付いたのか、謝罪を告げながら屈み始める。そして——その女性にランスロットは見覚えがあった。

 

 

 

「ギネヴィア王妃……?」

 

 

 

 国の誰が見ても美しいと褒め称えた、ブロンドの髪。

 蒼銀の鎧を身に纏うアーサー王の隣に立つ故か、彼女が身につけるドレスは流水の如き涼やかな青。かすかに憂いを秘めた表情が、彼女はか弱き女性であるという印象を先行させるが、王妃としての貞淑な面影を確かに持った貴い女性であった。

 

 

 

「ギネヴィア王妃が、何故ここに……」

 

「すみません……その、アル……トリウスが最近疲れ気味のようで。いつも気絶するように眠るんです。だから、少しでも力になれないかと……」

 

「そうでしたか」

 

「……でも、私では全然力になれていないのですけれどね」

 

 

 

 目を伏せながら告げたギネヴィア王妃が、王の心労を案じているのだという事が伝わって来た。

 自嘲するような笑みに、陰ながら健気に支えようとして、しかし上手くいかないという憂鬱さと愁傷。

 

 

 

「……私はアーサーの重荷になってしまっているのかもしれませんね」

 

「王妃……?」

 

「いえ、何でもありません。

 か弱き——女性が零した、ただの愚痴です。

 ランスロット卿はどうしたのですか?」

 

 

 

 ギネヴィア王妃が告げた女性という言葉に、何かの含みがあったようにランスロットは感じられたが、ランスロットはその含みが一体何であるかまでは思案が追いつかなかった。

 僅かに意識を飛ばしながらも、ランスロットは思案を即座にやめ、ギネヴィア王妃に対して素直に言葉を返す。

 

 

 

「いえ、私も陛下の心労を案じ、こうして力になろうとしておりました」

 

「……! そうだったのですか」

 

「えぇ。アーサー王は勤勉な方ではありますが、少々自分の事に関して顧みずなところがありますからね」

 

 

 

 ランスロットは小さく茶化すように、しかし安心させるように微笑んだ。

 自分も力になるから、貴方もそこまで思い詰めなくても良いという意味だった。

 

 

 

「……では、ランスロット卿。貴方も力になって下さい。

 貴方ならきっと私の夫を支える事が出来るでしょうから」

 

 

 

 その言葉に安心したのか、ギネヴィア王妃は小さく微笑み、落ちた数枚の羊皮紙をランスロット卿に手渡した。

 ランスロットが了承の返事を返せば、ギネヴィア王妃はその場を去っていく。その後ろ姿をランスロットは一瞬だけ振り返って見送った後、王の一室に歩を進めた。

 

 

 

「サー・ランスロット。入室いたします」

 

 

 

 辿り着いた王の一室を前に、一言断りを入れ、一室からアーサー王の返事を聞き届けてからランスロットは執政室に入室する。

 

 執政室の机に座っていたアーサー王は、何らかの書物とパロミデス卿からの連絡事項である事を示す、獣とその獣を貫く十字槍の紋章が記入された羊皮紙を幾度と見返していた。

 表情は、どこか険しい。

 

 

 

「あぁ貴公か。それは私からの依頼のモノであっているか?」

 

「えぇ。確かに仕上げてまいりました」

 

「ありがとう。その棚に纏めて入れて欲しい。後は私が確認しておく」

 

 

 

 しかし、アーサー王が顔を上げるとその表情はすぐに消えた。

 アーサー王の言葉を受けたランスロットは、示された棚に羊皮紙を仕舞い込もうとして——ランスロットはそれに気付いた。

 

 

 

「(…………この棚、新調されている……?)」

 

 

 

 記憶にある棚と比べると、どこか木目が真新しいような印象がする。日に当たって浮かび上がる、木材特有の渋みが薄くなっていた。

 

 それが一体何を意味するのか。

 ランスロットは一瞬止まった手を動かさぬまま、アーサー王の方へ視線をやった。

 アーサー王が確かめているパロミデス卿からの報告には、北から攻めてくるピクト人を抑え、そして防ぐ為の防御壁——ピクト人の領土に最も近いアントニヌス長城の詳細が事細かに記入されていた。

 

 

 

「どうしたランスロット?」

 

「…………いえ」

 

 

 

 動きが止まっていた事に気付いたアーサー王に返事を返し、ランスロットは動きを開始する。

 何か、小さな違和感。ただ、気紛れに棚を新調しただけなのだろうか。しかし、何故。これは一体何を意味している——

 

 一室の棚に羊皮紙を仕舞い込んだランスロットが、アーサー王に一言告げようとして、しかしそれよりも早くアーサー王が言葉を発した。

 

 

 

「あぁそうだった。

 ランスロット、貴公の従者の話になるが、ボーメインが貴公の従者になる事になった」

 

「従者……ボーメイン……?」

 

「あぁ。ランスロットも名前は知っているだろう。

 いや、確か知り合いでもあった筈だったな。正式にボーメインは騎士となり、貴公の従者となる。確か今、貴公には従者役の者が居なかっただろう?」

 

「……………」

 

 

 

 そう告げられ、ランスロットが思い出すのはガリアと名乗った青年の話だった。

 その青年はランスロット卿の従者であったのだが、一年近く前、急に従者を辞めた。

 

 

 ——私にはやらねばならない事が出来ました。

 

 

 いきなりそう告げられた日の事を、ランスロットは良く覚えている。

 それから彼は、まるで武者修行をするかのように諸国を渡り始めた。その武勇は凄まじく、戦争をしていた国を救い、そしてその国の人々の血で呪われていた筈の、血色をした十字架の盾を浄化してしまったという。

 そして今、血が祓われた十字架の形をした盾——雪花の盾を愛用しているらしい。

 

 ランスロットは彼が息災である事に安堵はしたが、それはそれで突然従者を辞められ、思い悩んでいたのも事実であった。

 

 

 

「ランスロット、これを」

 

「これは?」

 

「ボーメインについてのモノだ。

 大半はケイ卿が書き上げたモノだが……数ヶ月前に"彼女"と一緒にある国を救った事についても書かれている。目を通しておくと良い。それと、彼女の名前だが……まぁそれはボーメイン自身から聞いて欲しい」

 

 

 

 ランスロットも、既にその事は聞き及んでいる。

 最近下火になりつつあった筈の"彼女"の話題を再燃させ、ボーメインという無名だった筈の人物をいきなり英雄にまで持ち上げた逸話だ。

 既に大きく話が広がっている。人々の認識はこうだ。かの最年少が目を付けていた者は、実は目を付けられるだけの実力を秘めていた本物だった、と。

 

 既に、一般の騎士ではボーメインに敵わなくなっているのだ。

 ボーメインには一手すら入れられず攻撃が防がれ続け、しかし此方が一度でも防勢に回ってしまっては、もう二度と攻勢に回る事が出来ず敗北まで導かれてしまう。

 直に、何か大きな逸話を残すだろう。ランスロット卿の再来だと称され始めたその実力は、ランスロット本人も聞き及んでいた。

 

 

 

「確かボーメインは、今騎士の駐屯所にいる筈だ。

 出来るなら早く行った方が良い。恐らく待たせている」

 

 

 

 急かすような言葉を言い、アーサー王は退室を促した。

 その様子に、ランスロットは僅かに息を整えながら一言言葉を返す。

 

 

 

「……アーサー王よ。勤勉なのはよろしい事ではありますが、いささか事務的に過ぎるのではないでしょうか。どうかご自愛ください」

 

「いや、私は……あぁ、まぁ確かにそうだったかもしれない……さっきギネヴィアにも言われてしまった。最近根を詰めすぎですよと」

 

「……………」

 

「パーシヴァルに救援を頼もうか。

 ……いやしかし、パーシヴァルは未だ唸る獣との傷が癒えぬ身だ。戦に出る訳ではないとはいえ、彼に仕事を頼むのはどうだろう……」

 

「……まさか。我ら円卓は王の手足となるべく集まった者。円卓の者はみな、王の誉れとして戦える場所を求めているのです。

 そこに、戦場であるかどうかなどは些事でしかなく」

 

 

 

 そう告げたランスロットの言葉に、アーサー王は右手に持っていた羽ペンを止め、一瞬だけ目を見開いた後、フッと表情を緩めた。

 

 

 

「——そうか、そうだった。

 我が円卓は、決して強さだけで結ばれたモノではないのだったな」

 

「———…………」

 

「私には勿体ない騎士達ばかりだ。では、私は素直になって任せる事にしよう」

 

「お任せを」

 

 

 

 アーサー王の言葉に、ランスロットは微笑みを返し、執政室から出て行った。

 

 執政室を出たランスロットは、己の一室で身体を休めていたパーシヴァルの一室に向かう。

 戦いに赴けないとはいえ、きっと彼は身体を持て余していたのだろう。説明をしたら、すぐさまアーサー王の下に向かっていった。

 

 

 

「これなら、恐らく大丈夫か」

 

 

 

 パーシヴァルの足取りは確かであった。腕を故障したとの事だが、文官としての仕事なら十分に活躍するだろう。

 パーシヴァルの後ろ姿を見てそう確信したランスロットは、そのまま騎士の駐屯所へと歩を進めた。

 

 駐屯所の扉を開いて、一瞬だけ、あの姿を幻視した。

 付近の壁に身を預け、不気味な程静かに佇んでいた仮面の少女の事を。

 

 

 

「あっ! ランスロット卿!」

 

 

 

 目的の人物はすぐに見つかった。

 壁に背を預けながら、腕を握っては閉じを繰り返し、その度にムムムと表情を変えていた。その人物が、最近頭角を現し始めたボーメインである事が、ランスロットにはすぐに分かった。

 

 

 

「すまない、待たせてしまっただろうか」

 

「いえ! 全然待ってないのでお気になさらず!」

 

 

 

 ボーメインは溌溂とした笑みで返した。

 ——凍てついた佇まいも、涼やかな様子もそこにはない。

 

 

 

「……………」

 

「どうしましたか?」

 

「いや何でもない……もしかしたら私の説明はくどいだけのモノかもしれないが、どうか付き合って欲しい」

 

「まさか! ランスロット卿の隣に居られるだけで私は嬉しいですよ!」

 

 

 

 嘘偽りでもなく、また隠している訳でもないのだろう。

 ボーメインの嬉しそうな笑みを見て小さくランスロットは微笑みながら、思考を飛ばした。

 

 何の因果か、次代のブリテンの翼となるだろう若者に説明するのはこれで三度目。

 一度目は表情を凍てつかせて此方からの問い掛けを容易く躱し、二度目は無感情で何を考えているのか分からなかった。そして三度目は、眩しいくらいに活気溢れた人物。

 

 だからこそ、ボーメインと同じくらいの年齢だろう青年と、ボーメインよりも更に若いあの少女の差が際立つ。

 ……あの二人は、あの時一体何を考えていたのだろうか——

 

 

 

「あ、あのランスロット卿!」

 

「……どうした?」

 

「すみません……私は一つ告げなければならない事があります」

 

 

 

 背を向け、歩き出そうとしたランスロットをボーメインは引き留めた。

 

 

 

「その、ガウェイン卿や一部の人には告げたのですが、やはりランスロット卿には説明しなければならないなと。

 ……とても悩んだのですが。出来れば驚かないで下さい」

 

 

 

 そう告げながら、ボーメインは僅かに目を伏せ——右手の薬指に着けた指輪を外した。

 

 

 

「なっ……」

 

「騙していて申し訳ありません。実は私は男性ではありませんし、名前もボーメインという名前ではありません。

 私はオークニー国のガレス。ガウェイン卿やアグラヴェイン卿と同じ血を引く、ロット王のガレスです」

 

 

 

 そこに居たのは少年ではなく、小さな少女だった。

 彼女の語る言葉が嘘だとは到底思えなかった。何故なら、彼女はガウェイン卿を思わせる顔立ちをしていたからだ。

 海や空のような淡い青色の瞳に、外ハネ髪が特徴的な、やや金髪がかった茶色の髪。その姿が、ガウェイン卿と同じ血が流れている事を証明している。

 

 

 

「…………そうか……そうか君は、女性だったか……」

 

「本当に申し訳ありません。私が女性だと知られれば、きっと侮られてしまうだろうと……私がガレスという名前であると告げれば違うのかもしれませんが、そうしては私の事を正しく見てはくれなくなってしまうと思いまして」

 

「……いや良い。私は君が女性だからといって決して侮りはしない。それに、君の正体は誰にも教えない。

 ……私によく教える気になってくれた。本当に有難う」

 

「あー……アハハ」

 

 

 

 ランスロットの言葉を受け、ガレスは苦笑いしながら思いを馳せた。

 

 リオネス姫の熱意は凄まじく、断ってもキャメロットまでついてくるのではないかという勢いだった。一体何が彼女を駆り立てていたのか。冷静になって考え直して下さいと説明しても、彼女の熱意は冷めなかった。

 数時間の押し問答の上、ガレスは悩みに悩んだ結果己の性別を明かす事にした。自分が女性である事を知れば、彼女も諦めるだろうと、いっそ冷たく突き放すつもりで。

 ……性別を明かした時のリオネス嬢の表情は良く覚えている。

 

 どうしようもない事なのだと、騙していた事の罪悪感を感じながら、せめてこれ以上彼女を傷つけないようにと静かに立ち去ろうとしたが、リオネス嬢は柔な女性ではなかった。

 騙していた代償として、一日だけ頂戴とリオネス嬢は告げ、罪悪感もあったが故にガレスはその言葉を了承した。

 

 何をされるのだろうとガレスは相応の覚悟はしていたが——リオネス嬢が選んだのは"ガレス"の事を知る事だった。

 本当の名前。女性でありながら、何故騎士を目指したのか。その生涯はどういったモノなのか。

 

 リオネスは、ボーメインではなくガレスを知ろうとし、ガレスと接する事を選んだ。ガレスが語る事を僅かにも責める事なく、ただ静かにガレスの生涯を聞いて、その生涯に共感する。

 リオネスは聞き上手でもあったのだろう。気付けば一日語り合っている事に気付き、自らの悩みや不安も告げていた事にガレスは気付いた。

 

 

 ——誰か信頼出来る人に、自らの正体を明かした方が良いのではないですか?

 

 

 純粋に心配する想いを秘めた視線をガレスに向けて、リオネスは告げた。

 既に、ガレスが内に秘める不安をリオネスは知っている。それでも尚、彼女は告げた。きっと、間に合わなくなってしまいますよと。

 

 リネット嬢が言った、比べる相手が悪すぎてずっと満足出来ないんじゃないかという言葉が蘇った。

 いずれ、この真名を名乗るに相応しくなったら、その名前を名乗ろう。しかし、それは一体いつになるのか。

 思い悩むガレスに、リオネスはただ真摯に向き合い続けた。

 

 

 

「あの……一つ約束があるのですが良いですか?」

 

「何かな?」

 

「その、他の人に私の正体を明かさないで欲しいのですが……ルークさんにも私の本当の名前を告げないで下さい。彼には、私が望むタイミングで告げたいんです」

 

「………………」

 

 

 

 その選択は、リオネス嬢の後押しもあったとはいえ、ガレスは何日も悩み続けた。決して、少年とランスロット卿を比べて、少年の方が大事だからという訳ではない。

 

 ただ、ランスロット卿が己の到達点であるならば、少年は憧れの人であり、何よりも超えたい人物だったから。本当にそれだけだった。

 もしかしたら少年には一歩も届かないのかもしれない。

 それでも、その時が訪れるその瞬間まで、彼だけには不純になりかねないモノを互いに抱きたくなかった。

 

 

 

「……分かった。己の信念、騎士の誇りとしてその誓いを守ろう」

 

「——ありがとうございます!」

 

「それと私個人としての願いなのだが、あの子とは是非仲良くやって欲しい」

 

「えぇ勿論です!

 サー・ルークと一番仲が良くてライバル関係になるのは私だって思われるくらい仲良くなります!」

 

「そうか……いや、そうだな。頑張ってくれ」

 

 

 

 言葉を返し、小さく歩み始めたランスロット卿について行くガレスに、もはや後を引く憂いはなかった。

 リオネス嬢を傷付けてしまったという罪悪感がガレスを苦しめる事もなかった。

 

 何故なら、キャメロットに帰投しようとした時、騙してしまった事を改めて謝罪しようとしたガレスに向けて、リオネス嬢は妹が浮かべるような勝ち気な笑みを浮かべて、ガレスに一言だけ告げたからだ。

 

 

 

 ——燃えるような良い初恋でした、と。

 

 

 

 




 
 ガレス編イベント終了。
 このタイミングで、一旦主人公による影響を箇条書きにしてみる。こうして纏めて見ると少ない。

 
 アルトリア、ランスロット、トリスタン、ベディヴィエールの思考及び行動原理に影を落とす。
 モルガンの復讐心が薄れ、行動原理が変化する。
 本来なら積極的に関わる事がなかったケイが、自ら行動を起こすようになる。
 ガレス(ボーメイン)が本来よりも約一年早くキャメロットに訪れる。
 モードレットにとっての王の在り方が変化し始める。
 アグラヴェインが、主人公を己の同類と思わしき人物だと見定め始める。
 生前まず外れる事がなかった、王としてアルトリアの鉄面皮にヒビが入る。
 マーリンの感情の振れ幅が大きくなる。
 ギャラハッドの行動原理が、本来の目的に主人公が割り込む型で変化し始める。



 ランスロットとギネヴィアの馴れ初めが、本来よりも■年早くなる。
 
 
 
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