本気で書いた。
その語彙力を破壊する。
目の前の死霊が、その辺をユラユラと彷徨うだけの生優しい霊ではない事は明らかだった。
その威圧感。どう考えても悪霊の類である。
そして、死霊は生きる生者を妬み、それ故に呪うという。
——両手を振り上げるのが見えた。
「—————ッ!」
図体の大きさに比例して、死霊の動きは鈍重なように思える。
しかし、目の前の死霊の行動は早かった。不意を突かれたのとその威圧感もあってか、ギャラハッドはまだ意識を取り戻せていない。
そしてリネット嬢は言わずもがな。トリスタン卿は毒にやられて動けてない。
やばい——間に合わない。
そう考えて、隣のリネット嬢をギャラハッドの後ろに弾き飛ばしながら、前に駆け出した。私の身体能力でもギリギリ。【
既に振り下ろされている死霊の両腕。
実体がない為、こちらからはまともな攻撃が効かない癖に、相手からの攻撃は易々とこの身体を切り裂くだろう。
攻撃を防げなかったら、私は死にそうだなという感覚があった。しかし、私が避ければ後ろの三人が最悪死にかねない。特にギャラハッド以外の二人は間違いなく致命傷になる。
故に私が防ぐしかないが、私が愛用していた二つの短剣をギャラハッドから受け取る時間がなかった以上、死霊の攻撃を受け止めるには今ここで武器を作り出すしかなかった。
投影するのは
それを二振り作り出し、両手に携える。だが所詮は偽物。僅かな時間で込められるだけの魔力を込め、強化の限りを尽くしても本物には遠く及ばない。
「痛———…………ッ」
今までの生涯で、間違いなく一番だと言える衝撃が走った。
まるで大岩が降って来て、自らを押し潰そうとしている様な感覚。そしてそれ程の衝撃に、偽物の聖剣が耐えられる訳がなかった。
可能な限りの魔力を込め、二本で衝撃を分散させたというのに、真上からの一撃を受けて両方がヒビ割れる。
魔力量のゴリ押しで、蛮族相手に思いっきり振り回しても三合は耐えるというのに、たった一撃でこれだ。しかも両方。一手ミスるとそのまま絶命するような気がしてならない。
「チ……ィ…………!」
悪態を吐きながら、剣を払う。
私を抑えつけそのまま押し潰すかの様に構えられていた死霊の両手を弾いた。その衝撃で、今度こそ両手の剣が砕け、魔力の残滓が周囲に砂のようになって散る。
もはやこの戦闘で私の投影は役に立たない。
攻勢には回れず、まともな武器がなければ防戦も綱渡りと来た。連撃を喰らったらそのまま私は致命傷を受けていてもおかしくなかった。
「ガリア! 早く剣を——」
ギャラハッドの方に振り返って、二つの宝剣を返せと急かす。
せめて防戦をする為のまともな武装が欲しい。
死霊の一番の武器とも言える強大な両手は弾き返したのだ。数秒の猶予はある。数秒あれば、剣を手元に戻せるだろうという算段だった。
「先輩、後ろッ!!」
振り返ってみたのは、此方の意図を察して剣を投げ渡してくれるギャラハッドではなく、焦った顔をしながら私の方へ飛び出して来ていたギャラハッドだった。
その表情と、次の瞬間身体に走った悪寒に再び死霊の方に振り向いて——数秒の猶予すら与えてくれなかったのだと悟る。
振り向いた先の死霊には、手が合計で四本あった。人間でいう肩の部分から、新たに生えている両手。
先程まで二つしかなかった筈だというのに、今この場で作り出したのか。ふざけているにも程がある。そしてその姿が、目の前の死霊はただのゴーストではなく、ヒュージゴーストであると察するにはあまりあるモノだった。
「や………ば……………」
増えた両手は、振り下ろす為に上方に構えられてはいなかった。
代わりに、今から抱き着くかのように大きく横に広げられている。その構え——私は知っている。私が悟った未来の出来事を証明するように、死霊が動かした両手に呼応して、風など起きる筈のない宮廷に扇風が起きた。
吹き荒ぶその風は瞬き程の時間で、死霊の両腕に収束していた。
「———■■■■■■■■■■!!」
死霊が放つ、女性の悲鳴のような酷く耳に残る異音。
その音波と共に、死霊はその風を両手を振って投げるように風を弾き飛ばしてきた。
次の瞬間、私を襲ったのは身体が吹き飛ばされる程の圧力。
その衝撃の程は、大の男が盾を構えて体当たりして来たのと比べるのが烏滸がましく感じる程。
あぁきっと、私が吹き飛ばしたエクター卿はこんな感じだったのだろうなと、衝撃で視界が眩みながら、宙を舞っていた自分の状況を見て現実逃避気味に考える。
そして、後方の何かにぶつかった衝撃を最後に、自分の意識が途絶えた。
それは昔の話だ。
拭えぬ因縁にして、逃げ去るように忘れようとしている、悲痛な現実。
祝福されぬ生誕とすら呼ばれた、その過去。
父親はピクト人だった。
それが事実であるかは分からない。同じ人型とは思えないあの蛮族達が、果たして人を愛せるのかと。
ただどちらにせよ、父親はピクト人だと呼ばれ、周囲はそう認識していた。
そして、その男を愛した女がいた。
それが事実であるかは分からない。ピクト人であろうと無かろうと、そう呼ばれるだけの何かを秘めていた男を愛せたのだろうかと。
ただどちらにせよ、母親は子を授かり、そしてその子供を産み落とした。
産み落とされた子は分からない。知る由がもうないからだ。
何故なら産まれた時には、父親と母親はもう死んでいたのだ。
ピクト人であった父親は、それだけで人々の敵である。故に父親は戦死した。
ピクト人の子を産み落とすという禁忌。それが本当にピクト人であった故か、もしくは関係がなかったのかは分からない。どちらにせよ、母親は出産後にそのまま生き絶えた。
故に、その子供は親から名前を与えられなかった。
そしてその子を、死ぬ間際の母親から預かった者はこう名付けた。
祝福されぬ生誕によって生まれた子供。哀しみの子という意味を持つ——トリスタンと。
彼の子供時代は凄惨だった。
忌み子。呪われた子。蛮族の子供。
彼から、人としての当然の権利を消していった。
故にそれは当たり前の如く、多感な子供時代の少年の心を殺す。
だから、彼は瞳を閉じる事にした。ただの逃避と言われればそれまで。しかし、心を閉ざした少年にとっては何よりの抵抗。
瞳を閉じているその間は、その悲痛にして残酷な現実を認識しなくて済むのだから。
トリスタンは愛を知らない。
親から愛を与えてもらう間もなかったからだ。
トリスタンは正義を知らない。
彼は正義などない環境で、滅ぼすべき悪と扱われて来たからだ。
だからこそ、彼は何よりも愛と正義を求め続ける。
閉ざした瞳に光が差したのは、それは逃げ去るように国を渡った時だ。
理想の騎士王。誉れ高き竜の化身。暗雲に包まれた国を救う為に生まれた、少年王。誰もが地に堕ちる状況でありながら、常に理想であり続ける光そのもの。
その少年は、彼にこの世界が残酷にして悲痛なだけの世界ではない事を、その身を以って教えたのだ。
だからこそ、彼は騎士王に理想を求め続ける。
せめて……せめて、自分のような子供を生み出してはいけないと。
この世の悪性のみをその身で受け続けてしまった、悲痛して凄惨な現実に生きる子供を出してはいけないのだと———
——子供が倒れている。
子供が動かなくなっている。
少女が動かなくなっている。
あの子が、先程はあんな軽口を叩いていた筈のあの子が、僅かな反応すら見せず地に倒れ伏している。
その光景が自分のすぐ目の前にあって、それを正しく自分の瞳が目撃しているというのに、トリスタンは空白を覚える程の動揺でその事実を正しく認識する事が出来なかった。
"……気を付けて下さい。もし悪霊の類が出た場合、その妖弦を持つ貴方しかまともに相手出来ないでしょう"
トリスタン卿の瞳の先には、今しがたの衝撃で亀裂の入った白銀の鎧と半壊した獅子の兜があった。そこから覗く風貌は、勿論アーサー王のモノではない。
かつては煌びやかだった黄金の髪は昔年の怨嗟と呪詛で掠れ果て、金の輝きは錆び付いている。そして、砕けた兜の隙間から見える表情は黒いバイザーによって封印され、僅かに見える肌身は、あまりにも人間味が薄い白色。
露になったその肌も、血の気を失って本当に人形のようになってしまった様だった。
その中で、額から流れ出る血だけが、少女は人間であると表していた。
"この場を何とか出来るのは貴方だけです"
少女は手段がないのにも拘わらず前に出た。そうするしか他になかったから。そしてそれがこの代償で、トリスタンにとっての報いであり、残酷な現実そのものだった。
思わず少女の隣に駆け寄ろうとして、トリスタンは何もない所で脚を躓かせる。そのまま地面に倒れて、少女の隣まで辿りつける事なく地を這い蹲った。
当たり前だ。今尚、彼の身体は毒が蝕んでいる。呼吸をするのすら酷く体力を消耗する容態で、まともに身体を動かすという行為は無謀にも程があった。
そしてその当たり前の事実が思い浮かばなくなってしまった程、彼はその光景が受け入れられなかった。
"何を今更。私はもう、とっくの前から貴方の事を信用しています。気付いていなかったんですか?"
フッ、小さく笑って告げた少女の言葉。
その言葉にトリスタンがどれ程動揺したのか、きっと少女は分からないだろう。そして、その言葉は、何であっても勝る事が出来ない毒となって、トリスタンの心を蝕んでいる。
その信用に応えられたかどうかは、傷一つないのにも拘わらず地面に這い蹲ることしか出来ない己が、なによりも雄弁に証明しているのだから。
"過去を振り返って己を確かめる姿は確かに美徳ではありますが、流石に貴方は過去を振り返り過ぎだ。私としてはもっと前を向いて欲しい"
呼吸を詰まらせ、悲鳴と警告を発する己の肉体を無視しながら、トリスタンは無理やり身体を引き摺って少女の隣まで移動する。
今のトリスタンには、美貌の騎士と謳われていた筈の尊厳や貴顕はない。
目を見開いて少女の姿を見据えながら、未だその現実を受け入れる事が出来ない、哀れな男と化していた。
「———■■■■■■■■■■!!」
その隙を死霊に見逃して貰える訳もなかった。
機械的なまでに死霊は冷酷で、この空間で最も生命力に長けた生物を襲い続ける。
傷付き意識を失っていようが、体内の奥底から脈動するように生成され続ける強大な生命力と、その鼓動を死霊は把握していた。
その人物を完璧に葬り去る為、死霊は腕を倒れた騎士目掛けて振るう。
「——舐めるな。そう簡単に事が上手くいくと思ったか」
しかし、その攻撃を雪花の盾が防いだ。
その衝撃を受け止めようと、その盾は一切揺らがない。ギャラハッドすらも、僅かに後退することもなければ、蹈鞴を踏む事もなかった。
堅牢な城の如き防御だった。
「名も無き死霊。
もはやお前は、僕以外に攻撃する事は叶わない」
「———ッッ■■■■■■■■■■!!」
盾の裏から死霊を見据え、ギャラハッドは事実を宣言するように小さく言祝ぐ。
それどころか、ギャラハッドは死霊の両手によって抑えつけられていながら、ジリジリと前に歩を進めていた。
その驚愕に、死霊は標的を変える。まずはこの盾の騎士を排除しなければと。
「トリスタン卿…………頼みました」
そう言って、ギャラハッドは少女から受け取っていた短剣を地面に落として、死霊の方向へ駆けて行った。
動けるのが彼しかいないからだ。
残されたのは、足手まといにしかなっていないと理解する二人だけ。
「ルークッ! ルークッ!」
少女は知り合いとしか語らなかったが、ただ見知り合っただけの関係ではない事は明らかだった。
普段は孤高である筈の少女が、ボーメインと同じように心を開いた、数少ない友人の一人。そう察するにはあまりある程、令嬢は少女に心砕いている。
リネット嬢が、蒼白になった顔立ちで少女を必死になって揺さ振っていた。
「ルークッ!! お願いだから、お願いだから起きてッッ……ルークッ!!」
「———やめろ…………揺らすな。殺す気かお前は」
「ルーク!? 大丈夫なのアンタ!?」
リネット嬢の必死の懇願が届いたのか、少女はなんとか意識を取り戻した。
少女の生命が止まっていないと早く証明して欲しくて揺さぶり続けていたリネットの手を、少女は止める。
その手は、普段の様子とは比べモノにならない程弱々しく、次の瞬間にはリネット嬢の腕を掴み損ねて再び倒れてしまいそうだった。
「……あぁ、クソッ……平衡感覚が戻らない」
リネット嬢の肩を借りながら、少女はなんとか立ち上がる事が出来ていた。
片手で胸を抑えながら、荒い呼吸を繰り返す。その呼吸をするたびに、彼女の口元から血が流れ、生唾を飲み込むように少女は呼吸を乱し、更にそれが大きな呼吸の乱れを産んでいく。
酷い悪循環だった。
「ちょ……ちょっと本当に——」
「最悪だ。内臓を損傷した。身体の同調が崩れる」
リネット嬢の言葉を遮るように少女は続ける。
どこか会話が噛み合っていない。その様子は、少女側に何か思惑があるのではなく、もっと単純に——少女にはその声が届いていないようだった。
「ねえ、貴方……耳が…………」
「…………?……何を喋っているんだ、リネット」
「————…………」
「——あぁ、そういう事か」
何かの合点が行った少女は、砕けた獅子の兜を煩わしそうに外して放り捨てる。
完全に露になった少女の風貌。額から流れる血がバイザーを汚し、耳から流れ落ちる赤色がその損傷を物語っている。
「本当に最悪だ……………耳が死んだ。
何も聞こえない。耳元で何かがガサガサと擦れている音しか聞こえない。
……悪いな、リネット」
明らかな重症だ。五感を損傷する程の傷。
それこそ、その傷を負っているのが少女でなければ死に頻している程の怪我。立ち上がる事など不可能だろう。
しかし、少女は無理矢理立ち上がって、リネットから手を外す。
足は震えていない。しかしその様子が、自分の身体の悲鳴を無視して、強引に身体を制御しているようにしか見えなかった。
「——あ……貴方……」
「いいかリネット、絶対に私より前に出るな。その瞬間に死ぬぞ」
「え………は……?」
「何かをバチバチと弾いているような感覚が身体全体からする。多分私を呪おうとしているんだろう。今は私を標的にしているようだが、私やガリアと違って耐性や抵抗がないお前が狙われたら、もうアウトだ」
自分の容態を正確に把握した少女は、意思疎通が正しく出来ないと悟るや否や、一方的に説明を開始した。
たとえ身体が丈夫な少女であっても、今すぐ安静にしなければならない大怪我でありながら、少女はリネットを後ろに突き離し、守るように前に出る。
少女は振り向かない。振り向く理由がない。
傷付いていようが、その場の三人で戦えるのは自分しかいないと理解してしまっているから。だから、少女は振り向かない。
どうしようも出来ない残酷な事実。
無情なまでに、トリスタンはその場に於いて居ても居なくて変わらない存在にまで成り下がっていた。その事を、トリスタン自身が理解出来てしまっていた。
「ルー……ク……ッ私の……………弓、をッ」
震える身体で、トリスタンは少女に向けて自らの最大の武器と言ってもいい竪琴を渡そうする。
少女に対する警戒や恐れなんてモノは関係ない。己が無能だとその行動で証明してしまっても構わなかった。
少女が持つ弓の腕前はトリスタンも良く知っている。
だからこそ、少女ならこの竪琴すらも扱いきってみせるだろうと確信していた。
「トリスタン卿も下がっていてください。
私が時間を稼ぎます」
「……ぁ、ぁぁ………」
だが、無情にもその言葉は届かない。
リネットの制止も、トリスタンの懇願も何も。
「……はっ……!? 先輩何を——」
「——私に合わせろッッ!!」
「…………ッ!」
兜を外し、金色の髪を赤く染め上げているその姿に、思わずギャラハッドは慌てた。どう考えてもまともに戦える姿ではないのだから。
しかし、少女はそれでも前に出て来て、尚且つ自分に言葉を投げかけて来た。それに対して、ギャラハッドは決して見誤る事なく盾を回した。
己の身体を軸にして、盾を死霊の方から少女の方へと向ける。
少女の意図を、彼は寸分も違わずに察したのだった。
「———ッッ■■■■■■■■■■!!」
地に落ちていた宝剣を拾い取りながら、宝剣の加護で自らの身体能力を強引に整えて少女は突撃する。
少女は瞬間的に飛び出しながら、一切速度を鈍らせる事なく、死霊の真上まで辿り着いた。ギャラハッドの構えた盾を的確に足場にして、一足で飛び込む事に成功したのだった。
「その発狂だけは明確に聞こえるのが不愉快だ。貴様だけは必ず殺す」
死霊が動くよりも早く、少女は両手の剣を死霊の頭目掛けて振り抜いた。
己の魔力を限界まで込め、そして纏わせた宝剣の一撃。今の自分に出来る最大の神秘。周囲を揺るがす程の剣圧が周囲に走った。
しかし、手応えはなく、死霊の頭を霧散させただけに終わる。その重々しい威圧感が消える事はなかった。
「…………ッ」
頭が霧散したまま、死霊は少女に向けて腕を振るった。
その腕が当たれば、今度こそ致命傷は免れないだろう。少女は魔力放出を用いて、空中で姿勢を整えながら、地上に向かって飛び込む。
だが、彼女の普段を知っている者なら、それがかなり乱暴な機動だと分かっただろう。身体が明らかに追いついていない。
事実、少女は地面に着地した時、数歩分蹈鞴を踏んでいた。
「ぁぁぁ……」
その光景が、嫌になる程鮮明に見えてしまう。
今尚毒に蝕まれ、五感が徐々に麻痺していようと、命の綱渡りをせざるを得ない状況にいる少女の姿を、トリスタンの視界は完璧に捉え続けていた。
無理なのだ。
少女ではどうやっても攻勢に回る事が出来ない。その手段がない。にも拘わらず彼女は死霊の前に立ちはだかるしかない。
それは、自分が動けないからだ。唯一の手段を持つ筈の自分が、今地べたを這いつくばっているからだ。
「あぁ、ぁ………ぁぁああアア゛ア゛ア……ッッ!」
「ト、トリスタン卿!?」
立ちあがろうして、足が正しく動かない。
弓を持つ手が震え、何度も手が虚空を空振る。
惨めだった。
少女は意識を取り戻した。リネット嬢の必死の呼び掛けがあったからだ。自らは何もしていない。あの子に対して何も力になれず、あまつさえ、足手まといになっている。
あの子の信頼を裏切り続けている。
ずっとずっとそうだ。
あの日、あの村で、あの子を見た——その瞬間から。
「どうしてッ…………どうして貴方は………ッ」
震えた声でそう呟いて、しかしその声を届かせなければならない少女には届かない。
母親の懇願を封殺し、彼女を見捨てたその日。
王への諫言を仕方がない事だからと抑えた日。
彼女の姿が人成らざる者へと堕ちた日。
彼女がその姿を封印し、キャメロットに訪れた日。
彼女と接して、弓を教えた日。
彼女の呪詛と憎悪の結末を廃城で目撃した日。
その全てをトリスタンは見ていた。
その現実を見ていた筈なのだ。
少女はずっと、この国の凄惨な現実を生きている。そこに一切の救いはなく、また僅かにも光が差す事はない。その光からも見捨てられたから。
少女は一体何を見たのだろう。何を理解したのだろう。何を思っているのだろう。何故少女は剣を振るうのだろう。
自分は何かをしただろうか
いいや、何もしていない。今この瞬間まで、彼女を裏切っているからだ。
「あぁ……ハハハ…………不味いなこれは。
どうする、ガリア。私の頭では此処からどうすれば良いか分からんぞ」
「先輩……その傷では」
「……そうだった。私は今お前の声が聞こえないんだった。
あぁ、本当に不味いな。凄く横になって休みたい。身体を動かす度に頭痛が酷くなる。情け無い事この上無いが、私の方も少し守ってくれないか?」
「——————」
かなり疲労感が含まれていたぼやきだった。
額に流れる血を払うのも億劫そうで、普段は見せない弱音が噴出している。
「………………」
「……感謝する。死霊の攻撃を弾くのが少しキツくなって来たところだった」
声の聞こえない少女の為に、ギャラハッドは無言のまま少女の前に立ち塞がった。
腰に携える剣を抜くべきか……とギャラハッドは思案して、しかしダメだ、無理だと自制した。
僅かに視線を交わすことなく、二人は互いに息を合わせる。守りと攻撃。狂いなく、二つを噛み合わせ、如何なる攻撃にも対応出来るよう集中し始めた。
死霊もそれを悟ったのだろう。腕を振り回して暴れる事をやめ、二人と視線を合わせたまま睨み合っていた。
「どうする……朝日でこの霊が浄化される可能性にかけて、持久戦に持ち込んでみるか……?」
「…………………」
「そうか……厳しいか……【
「…………………」
険しい顔をして、無言で首を振るギャラハッドに少女は応える。
今尚、死霊には一度もダメージが入っていない。このままではジリ貧になってしまう事は、誰から見ても明白だった。
何かきっかけが無ければ。
「———くたばれ、オラァァァァアアッッ!!!」
少女とギャラハッドの後方の扉が弾け飛び、轟音と共に破壊される。
弾け飛んでいる扉とほぼ同じ速度で宮廷に飛び込み、雄叫びと共に剣を振りかぶったのは、白銀にして赤の騎士、モードレッド。
宮廷という空間に不意に現れたのもあってか、死霊はその動きに対応出来ない。
モードレッドは、燃えたぎる魔力を幅広の騎士剣に纏わせ、死霊に向かって頭から両断する。魔力の残滓が赤雷の如き火花となって散る程の一撃だった。
「だぁぁクッソ! なんだよコイツ! 気持ち悪い!」
「勝手に突っ走んじゃねぇよモードレッド!」
「うっせぇ! テメェがノロマなのが悪いんだろうがケイ!」
遅れてやって来たケイの事を憤慨しながら、モードレッドは死霊を睨む。
状況はまだ良く分かっていないが、とりあえず何か不吉なモノが現れた事だけは感じ取っていた。
不意打ち気味に頭から両断してみたが、対象が霧散しただけに終わってしまった。
「う、うぉわぁ!? お前大丈夫かルーク!?」
「……すみません耳をやられました。先程の轟音は聴こえましたが、声については上手く聞き取れません」
「———……モードレッド、今すぐ前に出ろ」
モードレッドと少女の会話にケイ卿が冷たく声を発しながら割り込んだ。
眉を顰めて死霊を睨みつけながらも、普段の様子と違って酷く冷静だった。
「あ……?」
「先程の攻撃の影響なのか、もしくは何か別の理由があるのかは知らないが、死霊の意識がお前の方に行ってる。だから前に出ろモードレッド。
ガリアと一緒になって攻撃を弾け」
「ほう……成る程。いいぜ、承った。
ついて来い盾ヤロウ!」
モードレッドにそう告げられた後、ギャラハッドすら置き去りにして前方に飛び込んでいった。
態度は荒々しくも油断はない。少なくとも、実力者である筈の少年が傷付くくらいの相手ではあるからだ。
「………何か」
「下がれ」
「……それ、もしかして口パクで下がれって言ってますか?」
ケイは少女に向かって、分かりやすいように口を開きながら伝えた。
彼女の事だから、声が聞こえなくとも読唇術で読み取るだろうと確信しての行動だった。
「私は戦うのが厳しい状況だから退けと?」
「違う、アイツを倒す手段がない、だから、トリスタンの下に戻れ」
「………………」
「お前がなんとかしろ、お前なら出来るだろ」
そう言って、ケイは少女の肩を突き飛ばした。
僅かに俯いた少女の様子から、彼女は此方の言葉を把握したのだと確信して、ケイは次の動きを開始する。
「おいそこの一般人! お前はすぐに此方の方に来い!」
「え……え?」
「どうせコイツが何かをやってくれるんだ、巻き込まれるぞ!」
そう言って、ケイはリネットの事を連れて退避した。
彼自身が自分はこの場に於いて役に立てないという事は、今までの人生で嫌になる程理解している。
だからこそケイは、自らの感情に一切流されず、自分以外の人間が最適に役立てる環境を作り上げる事にだけ専念し続ける。
「任せたからな」
「……………」
そう言ってケイは今度こそ離れていく。
守らなければならない対象のリネット嬢はケイ卿と共に避難した。少女の目の前には、死霊を相手にするモードレッドとギャラハッド。
二人とも天才的な戦闘センスを持つ者同士だ。僅かにも攻撃の残滓が周囲を襲う事なく、二人とも冷静に攻撃を受け流している。
「消失させる為には強大な神秘がいる……そして、今この場に在る神秘はトリスタン卿のあの弓だけ……」
呟いて、少女は頭の中でイメージを重ねていく。
重体と言ってもいいトリスタン卿では、弓を構えるのすら難儀するだろう。
つまりは、なんらかの補助が無ければあの妖弦の真の力を解放する事が出来ない。
……補助。真空の弓。風…………幾十にも編む必要のある、風。
「………………」
…………風の鞘——
「……
言葉を呟き、手に作り出したのは星の聖剣。
勿論本物には程遠い、贋作の聖剣だ。しかしこれでいい。今は、自分が愛用している二つの宝剣はいらない。この偽物の聖剣の方がイメージしやすいからだ。
あまりにも有名であるが故に、その造形と輝きを覆い隠す為の風の鞘。魔術の一種にして、空気そのものをも利用する事が出来る、風の結界。
イメージは出来てる。出来ない訳がない。何せ、頭に灼きついているのだから。後はそれを、ぶっつけ本番でどれだけ再現出来るか——
「——トリスタン卿」
「…………」
しかし、少女は一切の動揺も持たず、また自分自身に一切の疑念も向けず行動を開始した。
今尚、毒に蝕まれているトリスタンの息は荒く、僅かに返事をする事すら出来ていない。しかし、視界がぼやけ兼ねない程に五感を奪われていながら、トリスタンは決して目を閉じず、今までの事の流れを見届け続けた。
絶対に見逃してはならないと、今度こそ、これだけは決して目を背けてはならないと己に課したからだ。
「貴方の力が要ります。貴方じゃないと出来ない」
「……………」
「貴方の弓は音を爪弾き、真空の矢を打ち出す竪琴だ。なら、強大な風を利用する事も出来ますよね?」
「…………」
「……風は繊細であるが故に、暴風の如き風では上手く放てない。もしくは、竪琴の加護のない風では意味を成さない。音とは微妙に性質が異なるから出来ない……毒に蝕まれた身体では、弓を引く事が出来ない。
ざっと思い浮かぶ否定の要素はこれほどあります。もしかしたら、風は貴方の補助ではなく邪魔になるかもしれない」
自らの事を慮りながら語りかける少女の姿。
頭から血を流し、身体の傷が血に濡れて目立ち始めている。普段の覇気も、どこか崩れていた。
本当は翡翠の瞳に、輝く金の頭髪だった筈なのに、瞳は隠れ黄金の髪は掠れた錆色になっている。手に持つ偽物の聖剣が、彼女の姿では違和感しかない。
「ですが、お願いします。もう貴方しかいないんです。
貴方の身体で引けるのはどう無理をしても一射だけ。しかし、真の力を解放すれば、間違いなく死霊は標的を変える。きっと私を吹き飛ばした風で迎撃してくるでしょう。
だから、その一射には強大な力を込めないといけない」
「私には——」
「お願いします。どうか首を縦に振って下さい。
その一射で私の風すら制御し、その竪琴で調律して下さい」
トリスタンの言葉を待たずに、少女は話し続けた。
少女には、トリスタンの言葉が聞こえないからだ。
「……………」
「お願いします。一度だけでいい。もう、貴方しか居ないんだ」
あの日とは、逆だった。
倒れ伏して相手の事を見上げているのは自分で、見下ろしているのは少女。
でも——少女は決して目を逸らさなかった。
「————————」
「トリスタン卿……?」
一体、少女にどんな顔を向ければいいのだろう。
分からなかった。彼女に、どんな表情で頷けば良いのか。
何故なら、あの日自分は目を逸らしたのだから。
人々が望む筈の正義、騎士としての信頼。それを全て裏切り、少女のその想いを踏み躙った。
しかし、彼女はどうだろう。
彼女は此方の事をずっと信用しながらも、朽ちたこの身を見捨てる事などをしない。ずっとずっと、彼女は真摯だった。
彼女は、一度でも悲痛な現実から目を逸らした事があっただろうか。
彼女は理想を夢見ない。彼女はひたすらに、凄惨な現実で生き続けている。
誰もが自分を見失う暗闇の中で、少女は生きているのだ。それでも尚、彼女は自らを決して見失わない。そして狂わない。
彼女は、ただこの人間ならやってくれるだろうという自分の認識を信用している訳ではない事は明らかだった。
何故なら、今この瞬間にも、自らの竪琴を受け取って少女自身がこの弓を放つという気さえもが起きていないのだから。
少女自身が自らを偽る気がないのもあって、超人的な聴力を持つトリスタンは、それが理解出来てしまった。
「あぁ……この嘆きだけは、歌に出来そうにありません」
「……感謝します」
ユラユラと身体を起こしながら、トリスタンは小さく呟く。その言葉が少女に届く事はなかった。
しかしきっと、聞こえていたとしても少女は大した反応を見せなかったのだろう。既に、彼女は自分では辿り着く事すら出来ない、遠くの彼方までに行ってしまったから。
「——風よ」
トリスタン卿が起き上がり、覚悟を決めてくれたと悟った少女は小さく、しかし凛然と言祝ぐ。そして、その言葉を前触れとし、一陣の烈風が旋を巻いて吹き荒れた。
しかし、その風に繊細さは無い。
暴風の如き大気が周囲を荒らし、凝縮し圧搾された大量の空気が剣を中心にして渦を巻いている。結界には程遠く、風を束ねている筈の魔力はほつれている。
剣を不可視にする事は出来ていなかった。
偽物の聖剣を覆う、偽物の風の鞘。
しかし、膨大な魔力によって集められた、竜の息吹の如き圧力だけは変わらない。
「それは……ッ」
「…………王の影武者をやっているのです。見様見真似でも、一応は形にしておかないといけないでしょう?」
声が聞こえずとも、トリスタンの驚愕が伝わったのかもしれない。
小さく苦笑いしながら、少女は呟いた。
しかし、微妙な心内を露わにしながらもその風だけは決して霧散しない。
圧縮された風の圧力で偽物の聖剣を歪に軋ませ、繊細さはなくとも、嵐の如き風が収束し続けている。
少女は、その偽物の聖剣の胸元まで上げ、切先を死霊に突き付けながら告げた。
「合わせてください、私がこれを放ちます」
「……………」
トリスタンはそれに、無言で弓を構える事で応えた。
「聖剣、解放——」
「……………」
弓を構える手は、痙攣するように震えている。
ただ身体を起こしているだけなのに、油汗が止まらない。
視界がチカチカと歪んでいる。
しかしそれでもトリスタンは、身体が倒れる事を己に許さなかった。目を閉じ悲痛な現実から目を背ける事をしなかった。
どう贖おうと、きっと罪を洗い流す事は出来ず、また自分自身を許せる日が来る事はないのだろう。
だからこそ、彼はその現実から目を背けない。
その勇姿、その後ろ姿、暗闇の中でしか輝く事を許されなかったその貴光。それを絶対に見逃してならないと、トリスタンは己の全てで理解したのだ。
「——
「———ッッ■■■■■■■■■■!!」
空間を揺るがす程の旋風。
嵐と見間違う程の風の威圧に、死霊も気付いたのだろう。
少女が剣に下した一命を迎撃するように、死霊はモードレッドとギャラハッドを無視し、少女目掛けて強大な風を引き起こしてきた。
しかし、少女が放ったのは超圧縮された気圧の束。
放たれた豪風の破砕槌は偽物の聖剣を砕き、金色の粒子を周囲に巻き散らしながら、竜の咆哮の如く迸る。
その威力、並大抵の鎧なら瞬時に細切れにしていくだろう程。人間では到底作り出す事の出来ない、超高圧にして超威力の風の弾丸。
故にそれは、津波に等しかった死霊の風を、まるで薄氷を砕くように穿ち、風の壁に穴を開けた。
嵐によって作り出した、台風の目の如き真空の穴だった。
「…………ッ」
周囲は死霊の空気で荒れ狂い、少女が生み出した風の穴も、竜の咆哮の如き風の圧力で、不安定に加速されている。
しかも、この状態は長くは続かないだろう。
僅かにも放つ一射を狂わせる事なく、最速で真空の矢を解放しなくればならない。毒に蝕まれた、この身体で。
「トリスタン卿ッッ! 今だ!!」
「……………」
なのに、少女はトリスタンの事を一切疑う事なく、ただ力強く諭す。
後ろを振り向く事なく、その勇姿を以って、少女は示した。
"そうですか、厳しいと感じますか。
なら貴方が後ろを振り返り、尚且つ立ち止まろうものなら、私はその背中を蹴飛ばしますので、そのつもりで"
……一体、少女は何を言っていたのだろうか。蹴飛ばすなんて、少女自身が後ろに居なければ出来ない。だからこそ、トリスタンは前を向けていなかった。ずっと過去を気にして、後ろを向いていた。
なのに、少女はもう、後ろには居ない。
既にもう、その背中しか見届けられない程に少女は前にいた。
次に後ろを向いたら、もう見失なってしまいそうな程に。でも、それも仕方がない事なのかもしれない。いいや……それでいい。
少女は己と違い、凄惨な現実から目を背けなかったのだから。だからこそ、目を背けていた自分が少女に追い抜かれたのは当然の摂理。
しかし、その貴光は確かに今見えている。故にトリスタンは見失わない。少女は、暗闇でしか輝けない星であったのだから。
そして届かせなくてはならないだろう。
後ろを振り向かない少女にも見届けられるよう、後ろの彼方からでも、その一射を——届かせなくてはならない。
「…………———陽のいと聖なる主よ」
誰から言われたのだろう。あれは確か、イスラム圏生まれであるパロミデス卿からだったか。
お前の弓の腕前はまるで、伝説に名高き、かの大英雄"アーラシュ"のようだと。
その日は、彼が酒に酔っていたのもあって、何げない会話と流していた。
大地を二つに割って見せたという、流星の如き一撃。
それを成せる訳がない。
だから、彼の言葉は真に受けなかった。
しかし、今だけはあの言葉に感謝している。遠くの星に届かせる為には、流星の如き一撃こそが相応しい。
「
これが——私の矢です」
その言葉は少女には聴こえなかっただろう。だがそれでもいい。少女が行動で示したように、己も行動で示すだけなのだから。
トリスタンは目を見開き、己のあらゆる悲鳴を無視して、その弦に手をかける。
真空の穴に向かって、真空の矢を貫かせる。荒れ狂う大気を前に、繊細な一撃を昇華して放たなければならないという無理難題。
僅かにでも己を見失い、自分を狂わせてしまっては、死霊を一撃で射抜くなど到底不可能だろう。
しかし、トリスタンは決して自らを見失わなかった。
目の前に、何よりも自分を見失わない星があるからだ。
そして、その星に届かせる為の一射を放つ為、トリスタンは嘆きの弓を握る己の手に渾身の力を込めて、その妖弦を振り上げる。
嘆きを奏でる竪琴にして、無駄なしの弓と称されたその真名。
その誉れ高き名を、せめて少女には一切の揺らぎがないのだと証明して見せる為に、トリスタンは言祝ぐように告げながら妖弦を爪弾いた。
「———
空気が弾けた。
荒れ狂う大気すら利用したその真空の矢は、少女が放った竜の咆哮すら紡ぎ上げ、超加速されて放たれる。
城壁すら一撃で崩せるだろう、最大級の一撃。
それは彗星の如き輝きを放ちながら、しかし僅かにも力を分散させることなく、また目標を違わすことなく——見えざる死霊の霊核を一撃で砕いた。
戦闘続行 —— (条件付きでEX)
詳細
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘続行するだけの時間を作り出す能力。
生還能力、また往生際の悪さとも。
伝承に於いて、彼は身体を毒で蝕まれながらもフェイルノートを抜き放ち、一撃で死霊を射抜き消失させて見せたという。
後に、あの瞬間に放った一撃こそが、生涯で一番の一射だったとトリスタンは語った。
故に彼は、毒に侵されている時のみ、一射だけはあらゆる障害や状態異常を無視し、たとえ幾重に身体を毒で蝕まれようと、己の霊核が砕けようと、その砕ける霊核すら燃料に変換してトリスタンは宝具を解放出来る。
つまりは、戦闘続行スキルを無理矢理応用させた、己の肉体を使用する
その一撃は、流星の一射にすら準じてみせる。
ランク A
種別 対軍宝具
詳細
無駄なしの弓、必中の弓と称された、湖の乙女の加護を受けた宝具。
厳密には弓ではなく竪琴であり、宝具としての力を有するのは竪琴の"糸"
彼が愛用している竪琴の弦は、湖の乙女の加護を受けた糸であり、この糸を弾くことで空気を弾き飛ばし、真空の矢を発射する。
角度調整や矢の速度、そして何より装填速度が尋常ではないため、どれほど速度に長じた英雄であろうと全弾回避はほぼ不可能。
また、糸そのものを使用して相手を縛る、切り裂く等にも使え、トラップとして仕込む事すらも可能。
ランク A+
種別 対霊・対軍宝具
詳細
無駄なしの弓、必中の弓と称された、湖の乙女の加護を受けた宝具。
厳密には弓ではなく竪琴であり、宝具としての力を有するのは竪琴の"糸"
彼が愛用している竪琴の弦は、湖の乙女の加護を受けた糸であり、この糸を弾くことで空気を弾き飛ばし、真空の矢を発射する。
弾き飛ばされる真空の矢は、ただの矢ではなく、伝承に裏付けされた神秘や概念すら含んだ矢であり、大気がどれ程荒れ狂っていようとも、その乱れる空気すら紡ぎ上げて対象を射抜く。
角度調整や矢の速度、そして何より装填速度が尋常ではないため、どれほど速度に長じた英雄であろうと全弾回避はほぼ不可能。
また、糸そのものを使用して相手を縛る、切り裂く等にも使え、トラップとして仕込む事すらも可能。
尚、伝承に於いて実態のない魔性を穿ったという逸話を持つ故に、死霊や悪霊の類いに、不死性すらも無効化する貫通能力と、存在を一撃で消滅させる程の超強力な特効が入る。
『宝具解放』
ランク D−
種別 対人宝具
詳細
アルトリアが使用する風の鞘を彼女が再現したモノ。
ただし彼女の場合、アルトリアと違って経験が大幅に不足しており、屈折率を変える程に繊細に風を操れない。
端的に言えば雑。
ただ保有する魔力量はアルトリアと同じかそれ以上である為、膨大な魔力を起点に、圧縮した風を飛び道具として使用する[