原典要素7割くらい。
原典の感情的なガウェイン卿が好き。
ガウェイン卿カッコイイって言って。
王の力を疑った事はなかった。
心技体において非の打ち所はなく、王としての選択、決断に一片の過ちもない。
あの方こそ、騎士の理想の体現。
思い違いをする民草もいるが、彼の王は騎士でもあり王であるが故に騎士王と呼ばれたのではない。ブリテンの騎士全てが従うに値する理想の王であると敬服されたからこそ騎士達の王と呼ばれたのだ。
円卓に上下関係はないと語られるが、事実円卓の騎士はアーサー王を敬い、手足となるべく集まった者達。故に、我が王なくしては円卓の結束はあり得ない。
叛旗を翻した十一人の王との会戦。北から進軍するピクト人との会戦。南から侵略するサクソン人の会戦。ヴォーティガーンに降った諸国との会戦。
戦力に劣る幾度の会戦を勝利で終わらせたのも騎士王の威光があってこそ。
御身自らも先陣を切る姿、そしてその背中を追いかけるたびに、ブリテン島の善き未来を確信していたのだから。
しかし…………一度だけ。
一度だけ、王の勝利を危ぶみ、王の背中を見送るしか出来なかった戦いがある。
それは——卑王ヴォーティガーンとの会戦。
その卑王は、我ら円卓の騎士ですら想像しえなかった魔王だった。
王の剣が星の光を束ねた物ならば、卑王が放つ竜の息吹はそれを呑み込み、奪い取る物。
あらゆる極光を反転させ、相対するものが聖なるものであればある程、濃さを増していく宵闇。
故にそれは輝ける星すら眩ませた。
太陽の輝きは奪われ、束ねた星の輝きすら微かに灯る篝火にまで堕とす。
誰もが敗北を予感した。王の勝利を疑った。
そしてそれが、我らが円卓の限界であり——我が王にとってはその窮地が日常だった。
人々も、騎士達も、そして我らが円卓でさえも、目が眩む程の光だけを頼りにしていた。
だからこそ、その光が失われた時、僅かな光すらない暗闇の中で祈るのみを考えていたのだから。
"さすがは太陽の騎士、屈強なりガウェイン卿。見よ。貴公の光はヤツの胃に収まりきらなかったと見える。
卑王はガラティーンの光を飲み込んだ事でエクスカリバーの光までは飲み込めなかったらしい"
元より、彼の王への忠誠は揺らがない。
しかし、全幅の信頼を置くべきだと確信したのはきっと、あの魔竜と戦っていた瞬間の事だったのだろう。
周囲の評価などはどうでも良かった。
理想の騎士。王の代理役。太陽の騎士。しかしそれら全てはガウェインにとっては些事でしかない。
国に王は二人も要らず、故に輝ける星は二つも要らず。
だからこそガウェインは疑わない。
一度だけ王の威光を疑った戦い。一度だけ彼の王の背中を見送った戦い。ならば、必ず、二度目は起こさない。
その日まで、ただ己は王の影に徹するのみであると。
太陽が地を燦々と照らし上げる日の事。
そして、既に夏の兆しが訪れて後は過ぎ去るだろう、八月の終わり頃の日の事であった。
「今日この日は我が城キャメロットに集まってくれて感謝する」
騎士王がそう言葉を発して、様々な祝いが催されていたキャメロットの大広間に、僅かな静寂が戻る。
ただの大広間であるといえど、ブリテン島最大の巨城に相応しきキャメロットの大広間。それは、他国に存在する絢爛な宮廷と大差はない。
その広間で賑わいの声を発していた多くの人々は、騎士王の言葉に自然と会話を控えた。
ブリテン全土の王としてキャメロットに君臨する騎士王その人物といえど、ただそれだけの人物でない事は誰もが知っている。
張り詰めた声でなくとも自然と声は場に広がり、神聖なるキャメロットの威光を合わさって、侵すべからず神威にも等しい権威の象徴であった。
その言葉を遮るという意識は、自然と湧いてこない。
「しかし、今日の主役は決して私ではない。
私の右腕であるサー・ガウェインの誕生祭という式典の日に、私が目立っては無礼であるというもの。私の事を気にする必要はない」
そう告げて、騎士王は王座として拵えていた天蓋から降りて来た。
今日この日ばかりは、自らは王としてではなく、一人の騎士としてこの宴を楽しみたいという意味であった。天蓋の下で、側に控えていた本日の主役であるガウェインは、騎士王に対して恭しく跪く。
「後は貴公に任せた、ガウェイン卿」
「ハッ!」
本日の主役である筈のガウェイン卿。
しかし、白銀にして質実剛健な鎧を身に纏ったガウェイン卿からは、宴を楽しもうという気概よりも、騎士王からの言葉を何よりの主命と考え、主君と仰ぐ王の顔に泥を塗ってはいけないという決意が見て取れた。
もしかしたらその事が、ガウェイン卿は非常にお堅い人間であると周囲に映るかもしれない。しかし、ガウェインにとってそんな事はどうでもよかった。
戦場に於いては自らの力を誇示するように颯爽と先陣を駆け、そして自軍なら勝利を約束する栄光の騎士。しかし、王の前ではただ影に徹する滅私の騎士。
そうあるようにと、己を定めているから。
「では改めまして私が。
厳しい冬の時代をまた乗り越え、再び太陽の日が地を覆いました。この清浄なる輝きを前に夜の暗闇は退け、国を覆う虚飾は祓われる事でしょう。
予断を許さぬ我が国ですが、せめて今日という輝きの日は宴を楽しみたく存じます」
自らの一席に座った騎士王の代わりに、ガウェインが幹事役を代わって言葉を告げる。
キャメロットの大広間に集まった人々は多かった。
キャメロット達の騎士達や円卓の騎士達は勿論、周辺の諸国の王や名のある騎士達。そしてその人物達の従者やお付きの女官達もが宴に加わっている。
純粋に宴を楽しみに来た人もいれば、戦乱の日々の気分転換を目的とする者もいる。
もしくは、北と南から襲ってくる二つの民族との対策を練る為に、騎士王と権謀術数を巡らしに来た者もきっといるだろう。
だが様々な思惑が入り乱れる人々達は、ひとまずガウェイン卿の言葉に耳を傾けていた。
「凄いな……ガウェイン卿は」
「えぇ。王の威光を己を以って示す、正に栄光の騎士たる騎士でありましょう」
席に座ってガウェインの演説にも等しい言葉とその佇まいを見ながら、思わず零すように騎士王は言葉を発した。その言葉に、側近として控えていた執事のベディヴィエールが同調する。
騎士王の右腕は、ランスロット卿であるかガウェイン卿であるかは良く議論の的になる事があった。
しかし、その当人であるガウェイン卿は、周囲からの評価は意に介さず、ただ滅私の騎士として在るだけ。
常に曇らず、揺るがず、何処までも爽やかで礼節を欠かさない。故に彼はその晴れやかさを謳われ、太陽の騎士という異名、もしくは称号を授かった。
ランスロット卿とはまた別の、理想の騎士である。
何故、自分のような力なき騎士を円卓に迎えたのかという疑問を持つベディヴィエールにとって、ガウェイン卿は同僚の人物でありながら、雲の上にいるような遠い人物であった。
「む。ベディヴィエール、なぜ貴方がここにいる。
今日は私が主役ではない。私の執事はいいから、ガウェイン卿の下に行ってくれ」
「……実はですね。祝賀の前にガウェイン卿から先に言われていたのです。
きっと我が王の事だから、自分の事はいいから私の下に行けと言うでしょうと。だから、宴が始まったらすぐに自分は部下の一人を従者とするので、アーサー王の方に向かって欲しい。
そう言われています」
「はぁ……全く。でもまぁ、彼らしいと言えば彼らしい。
ではベディヴィエール。今日は貴公に任せる。いつものように給仕をしてくれれば、私はそれでいい」
「お任せを」
騎士王に対して、ベディヴィエールは柔らかな笑みを返した。
最近は、どこか疲れを見せる事が増えたような気がする主君に正しく奉仕出来ることが嬉しかった。
「そういえば……"あの子"はどうしたのでしょう」
視線を見渡してみるが、良くも悪くも目立つあの少女が見当たらない。
彼女本人は微妙に嫌がっているようだが、あの少女は必ずといってもいい程、この様な祝いの席に呼ばれる。
その姿が見当たらない事が、ベディヴィエールには疑問だった。
「————あの、子……?」
「ええ。見当たらないので、少し不思議で」
ベディヴィエールの言葉に、一瞬だけ"
「あぁ……彼の話か。
ただ彼は、この様な場所は自らの居場所ではないと辞退しているだけで、何か不都合があった訳ではない。確か今は、南西に詰めている」
「そうでしたか。いえ、申し訳ありません。ただ気になっただけですので」
素直にベディヴィエールはそう返して、従者としての役割を全うすべく、礼をしてから一旦、騎士王の席から離れた。
残された騎士王は、今さっきのベディヴィエール卿の言葉を頭の中で反芻しながら、ガウェイン卿に視線を戻した振りをして、少しだけボーッとしていた。
「…………あの、子……」
少し身体を脱力して、椅子にかける体重を深くする。
ボーっとした視線の先には、今も続くガウェイン卿の演説。
影武者を代わりに立てるよりも前から、この様な事はやっていて慣れているのだろう。もしくは彼自身の才能か。
ガウェイン卿の立ち振る舞いには一切の違和感もなく、また澱みもない。
「………………本当にガウェイン卿は凄いな」
「アーサー?」
「あぁ、いや…………彼の事を見ていて、ガウェイン卿は威光の示し方を本当に把握しているんだなと」
ガウェイン卿の演説とその佇まいで、人々の意識と視線を我が物にしているその姿に、騎士王は言葉を零していた。
その様子に、隣のギネヴィア王妃が反応を返す。
「…………貴方も出来るではないですか?」
「私もそうだと思いたい……でも私がやると、良くも悪くも場が静まり返る。
それに、私とガウェイン卿のは少し性質が違う。誰かの下に付く者でありながら、しかし自らは卑下をしない。主君の顔に泥を塗るような真似もしない。
彼自身の性格と佇まい、今まで培って来た周囲の信頼がアレを成し遂げている。私は彼のようにはなれない」
騎士王は、太陽の騎士の事をそう表していた。
釣られてギネヴィア王妃もガウェイン卿の方に一目を向ける。
確かに隣のアルトリアがそう称した通りなのかもしれない。
しかし、ガウェイン卿は祝いの場でありながら一切の気を緩めているようには見えなかった。
彼のカリスマがそうさせているのではなく、彼自身が意識してそう己に定めているように思える。
その証拠に、彼は自らが愛用する太陽の聖剣を帯剣していた。
ここが自国であるからまだ良いが、他国の場合だと要らぬ不和を招きかねない。
それが当たり前のように受け入れられているのは、彼のカリスマ性がそうさせているからだと彼女は言う。
しかし実際には、彼を彼足らしめている騎士王の下にいるから、彼は彼のカリスマを誇れるのではないのか。
少なくとも、ギネヴィアはそう思っていた。
「でもやっぱり、アーサーの方があのような事をするのが相応しいと思います」
「————そうか。貴方がその様に言うのなら、きっとそうなのだろう。私もそう思う事にするよ、ギネヴィア」
「えぇ」
此方の言い分を確かに受け入れてくれた騎士王に、ギネヴィアは小さく微笑んで返した。
「……すまないギネヴィア。私の知人だ。少し一人にしてしまう。すぐに戻るから」
「いいえ。気にせずとも大丈夫です」
王の座っていた席の遠くから、騎士王に近付く人影があった。
幾つかの鎧の集団と、その先頭に立つ特徴的な鎧の人型。その鎧は右肩の鎧が簡素に済まされていた。騎兵しながら槍を振るのに適した鎧の形だった。
「よもや貴殿も来てくれるとは、イドレス王。
実は貴方は来てくれないんじゃないかと思っていた」
「まさか。国の進退がかかった時ではあるが、今日この日が重要な節目である事は私も理解している。だから、足を運ばない理由などない」
「ほう……それはガウェイン卿の祝い日を表しているようで、遠回しにこの時世に一体何をしているんだと、私を見定めに来たという事か? イドレス。
まぁそれもしょうがない。貴方の持つ槍と実直且つ堅実な騎兵隊のように、貴殿は曲がった事が大嫌いだからな」
「一体何を。それに生憎、私の国は南西の諸国だ。
南から来る異民族達の侵攻はあれど疎ら。北から進軍する蛮族の足音は遠く、キャメロットのように戦に明け暮れている訳ではない。貴公を見定めるなど出来はしない」
「何を御冗談を。
ロットにウリエンス。アイルランドのアングウィッシュと言った名だたる諸王と共に兵を率いた貴殿にしては、逆に生易しい程の言葉遊びだ。むしろ聞いて呆れる」
「ほう……?」
「あぁ、あの戦は昨日の事の様に思い出せる。
イドレス王率いる五千の騎馬兵。あれには手酷くやられた。貴公が居なければ、後三日は早く戦が終わっていただろう。もっとも、あの騎兵隊の陣形に手酷くやられた経験があったからこそ、失われていた
「……剣の一振りで百余りの騎馬兵を撃退した騎士王がそう言うと……これは笑えない」
「昔の様に、私の宣言を傲岸に笑い飛ばしても良いぞ? 世迷い事と何も変わらないと。それともそうする程の余裕がないか?」
「…………………」
「貴公の国はコーンウォールにあったな。同じくコーンウォールに国を構えるマルク王と、最近関係が良い訳ではないらしいと聞く。
戦に明け暮れていない…………まさか。貴公の国も進退の際に晒されているじゃないか」
「…………変わったな。貴方は」
イドレス王が己の感情を表すように小さく発した言葉が、二人の会話を見ていたギネヴィアには大きく聞こえた。
それはきっと、騎士王への動揺に近い驚愕が含まれていたからだろう。そしてそれを見ていた彼女自身もそうだった。
思ってみれば、騎士王が戦に出る光景は見た事があっても、王が王として君臨する面を見た事がなかったような気がする。
それこそ、下に見られないよう牽制をする場面を、ギネヴィアは見た事がなかった。
「フフ。実は言うとな、知人の一人に貴方は変わらないですねと言われた。
不老の身でありながら貴方も成長するのですね、と言われるのが小さな楽しみだったというのに。まぁ、貴方のそれは私の望んでいたのとは少し違ったが」
「…………はぁ。俺を揶揄っているのか?」
「いいえ?
猪突猛進とも取れる若さが貴方から消えてしまったと、少し感慨に耽っていただけに過ぎない。貴方は歳をとった」
「そう言うアンタは何も消えてないし、歳もとってない。代わりに昔と矛盾しないまま狡猾さを手に入れた。それがひたすらに空恐ろしい……」
「かの騎士王ならそんな事はしない筈だろうと? それとも騎士王の強大さには付け入る隙があると踏んでいたか?
理想の王とは、ただ人々が望む理想その通りに動く人形を指す言葉だと思っていたならしょうがないが、その言葉は素直に褒め言葉として受け取ろう。
あぁ重要な事を言い忘れていた。マルク王と関わりが深いアングウィッシュ王と最近再び顔を合わせてな。もしかしたら貴殿に何か温情が出来るかもしれない」
「成る程……故に、北から進軍する蛮族達との戦いの為に、此方の騎兵も協力して欲しいと……?」
「話が早い。今こそ島の国が一丸になる状況だと私は思っているが、貴方はどうする?」
互いの牽制が消え、そこにあるのは相手の意図を把握し合った二人の王だった。騎士王と権謀術数を巡らしに来た者であったイドレス王は矛を収め、騎士王と今後の対策について会談を進めていく。
「…………凄いですね。アーサーは」
「えぇ」
二人の会話を見ていたギネヴィア王妃が小さく言葉を溢して、それに同調するように、戻って来たベディヴィエールは誇らしげに呟いた。
ふとギネヴィアが大広間の方に目を向ければ、恐らく演説の終わっただろうガウェイン卿が人々と乾杯をしている。
この祝いの場で、ガウェイン卿が人々を纏め上げて、その裏では騎士王が実務を全うしているにも等しい。
「…………本当に、凄いですね」
ギネヴィア王妃のその言葉は、広間の喧騒に吸い込まれていった。
宴が始まってからどれだけの時間が流れただろう。
既に太陽は昇り切っており、徐々に傾き始めている時間になり始めた。時刻に表せば、およそ午後三時半。宴自体も、盛り上がる時間から終わりへと流れ始めている。
故に、この時間からキャメロットの広間に訪れようとする者などいる筈もないだろう——その筈だった。
「ここの館の主人は誰だ」
キャメロットの大広間の扉が開かれ、冷たい風が吹き込む。
楽団の演奏が停止し、酒盛りに興じていた人々の声がスッと消えていく。賑やかな喧騒が響いていた大広間の空気が一瞬にして凍りつき、深い沈黙が空間を支配した。
「答えろ。ここの主人は誰だ」
再三の言葉に、誰かの息を呑む声が聞こえた。
その乱入者の姿が人ならざる化け物であると理解させられたのだ。
体躯はゆうに2mを超えており、丸太のように太く血管が浮き出る程に筋肉質な両腕と両足。
そしてその腕で、巨大で無骨な斧剣を引き摺るように携えていた。
鎧などは何も身につけておらず、身体を覆うのは何の生物のモノかも分からない毛皮で、肉体の大部分はそのままに晒されていた。
そして、最も目を引くのは——緑色。
その人ならざる存在の肉体は全て、鮮烈なる緑をしていた。
普通の人間が纏うような色ではなく、その色は今尚ブリテン島を脅かしている——ピクト人を象徴する色。
「…………ここの主人は私だ。
まさかとは思うが、貴方はここの宴に加わる為に来た訳ではないだろう。故に私は聞かねばならない——貴様はピクト人か?」
「如何にも」
席から立ち上がり、騎士王は緑の化け物へと歩を進めながら問う。瞬間的に、清純なるオーラは苛烈にして冷たいモノへと変わった。
冷え冷えとする佇まい。それは、並大抵のモノなら魂の底から硬直させるモノだっただろう。しかし、緑の化け物はその威圧を前にしても涼しげなまま、騎士王からの問いに是と返した。
「我はピクト人の騎士」
「何が目的だ」
「ピクト人に戦闘以外の快楽があるとでも?」
騎士王の発言に、緑の騎士は嘲笑うような笑みを浮かべて答えた。
ただでさえ人ならざる化け物の哄笑。それは大広間の人々に恐怖を覚えさせるモノだった。
「貴様ら円卓の武勇は我が領域、我が館にまで轟いている。
しかし……まさかかの騎士王が我らピクト人の論理をしらぬ見た目通りの若造であったとは。腑抜けを通り越して拍子抜けにも等しい。
これは騎士でありながらブリテンの王と謳われたその名も案外底が見えるというモノだ」
「煽り文句にしては安いな。よもやその程度で私の剣が鈍るとでも?
やはり蛮族とは人ではない化け物のようだ。人の方がもっとマシな言葉を以って私を誘う」
緑の騎士の侮辱に対して、騎士王は冷たく言葉で切り返すのみだった。
場の流れは完全に二人が支配している。張り詰めた緊張が周囲にも伝播していた。
「鈍るも何も、ピクト人は戦えればそれで良い。それに、怒りに塗れたならそれは貴様が未熟だったと言うだけ。
腑抜けた刃など我が肉体には通らず、全てが悉く弾かれるだろう」
「ここの主人は誰だ、とこの場で最も強大な人物を望んでいながらふざけた言葉だ。それとも、貴様の戯言は一騎討ちの為の肴か?」
「——話が早くて助かるぞ、アーサー王」
騎士王の発言に、緑の騎士は気分を良くしたのか笑みを浮かべ、右腕に持つ斧剣を誇示するように構えた。
「望むのは死闘。それもただ長引くだけのような泥臭い死闘ではない。
閃光の如き刹那に全てが散るような、瞬間的なる死闘。騎士が最も騎士となるその戦い」
「ほう。尋常なる勝負を御所望とは」
「驚きか? しかしピクト人にはピクト人なりの論理がある。決闘には一切の不純があってはならない。貴様が騎士王を名乗るに相応しい人物か、私が見定めてやろう」
意識を剣のように鋭くしていく緑の騎士に応えるように、騎士王も意識を鋭くしていった。
緑の騎士が握る斧剣が軋む音が響く。
「一撃には一撃を。返す刃には再び返す刃を。
故に、互いが振るのは同じ数だけ。どちらかが一撃を放つなら、同じくその一撃を受け止めなくてはならない。
これは騎士の誓いだ。この誓いを破るなら、それは騎士としての権利と名を捨てなければならない」
「——ほう? 私にそう告げるか。ならばその決闘を受けよう。
刹那の戦いであるならば一撃でその勝負を決めれば良いだけだ」
「————ハ」
騎士王の発言に、緑の騎士は更に笑みを深くした。
その笑みと同時に、身体を震わせる。鳥肌が立つように、身を焦す程の歓喜のようだった。
しかし、瞳だけは不変のまま。見定めるような強さで、緑の騎士はアーサー王を睨み続ける。
「——ケイ」
「……………」
騎士王の発言に、事の成り行きを見守っていたケイ卿が騎士王に近付く。
ケイ卿が持つのは、白樺の木で作られた丹精なる長櫃。それは——剣を入れる為の木箱でもあった。
その木箱には、アグラヴェイン卿と関係がある事を示す、十字架とその十字架を縛り付ける様に巻き付けられた、二重の鎖の印が刻まれていた。
「————、——」
跪き、騎士王に捧げるようにケイ卿は木箱を騎士王に向ける。
その木箱に騎士王は一瞬だけ手を翳した後、誰にも聞こえない程に小さく何かを言祝いでから、木箱を開ける。
——中に入っていたのは、黄金の剣。
決して過剰に装飾を飾り付けた訳でもなく、しかし無骨にも落ちる事もない、美しく誉れ高い黄金の宝剣。
その造形を見間違える者はいないだろう。
騎士王が騎士王足る所以でもある、最強の聖剣——星の聖剣エクスカリバーであると。
「それで? そちらから来ないなら私から行くが」
木箱から自らを象徴する聖剣を取り出した騎士王は、周囲の人々にも伝わる程の力を聖剣に込め、荒れ狂う風の如き旋風を剣を起点に撒き散らしながら、冷たく語る。
今でこそ片手で携えているだけの聖剣だが、騎士王が構えをとった瞬間、聖剣は真なる輝きを放つだろう。
それは緑の騎士にも理解出来る。
そして——それを理解している人物がもう一人居た。
それは、いつかの日、王の背中を見送る事しか出来なかった騎士だった。
故にその騎士は、緑の騎士へと一歩を進める騎士王の背中を見て動きを開始する。
決して戸惑わず、また違わず、太陽の輝きを示すその星剣を携えて。
「…………あぁ……良い、良いぞ。それでこそ、未だに敗北なき常勝の王だ。やはりお前こそが相応しい」
緑の騎士は静かな口調で告げながら、鳥肌が立つ程の圧力を放つ騎士王へと歩を進める。
騎士王と緑の騎士が大広間で対峙しようとしている。
その時だった———
「ガウェイン…………?」
「————————-」
片手でアーサー王が歩を進めるのを制するかのように、緑の騎士と騎士王の間にガウェイン卿が割り込む。
それはアーサー王を守るような佇まいでありながら、しかしガウェイン卿の表情にはいつものような爽やかさはない。
普段の様子からは想像も付かない。ゾッとする程にガウェイン卿は目が笑っていなかった。
「我が王よ。どうか、あの不届き者との一騎討ちを私にお譲り下さい。
貴方がかの聖剣を振るい、あまつさえ蛮族の血で黄金の貴剣を汚す必要などはなく」
「……………」
「どうかご再考を」
ガウェインは緑の騎士を睨み付けたまま、騎士王に対し振り返らず告げた。
普段の清澄なる陽のような闘気は、煮え滾る焔のような圧力と変わっている。それは、背中しか見えないガウェイン卿からでも簡単に分かる程だった。
「………分かった。貴公に任せよう」
「差し出まがしく、申し訳ありません」
「いや、良い。しかし油断をしてよい相手ではない。気を付けてくれガウェイン」
「御意。心配は必要ありません——邪悪には炎の鉄槌を以って、その不浄を焼き払いましょう」
自らを堕とす事なく、しかしその激情を露にしながらガウェイン卿は騎士王に代わり、緑の騎士に向かって歩を進める。
ガウェインには許せぬ事がある。
騎士王以外の全て、つまりは自らが相手にされてなかった事は別にどうでも良い。自らの祝い日である今日この日が台無しにされたのも別に良い。
しかし、騎士王への侮辱だけは許せない。
しかもあまつさえ王を煽り、不敬にも騎士としての一騎討ちを望むなど、勝ち負けなど関係なく、緑の騎士の行為そのものが許せなかった。
「緑の騎士。訂正して貰おう。
彼の王は騎士であるが故に王ではなく、島の騎士達全ての王に相応しいからこそ騎士王の名を冠しているのだと。
しかし、貴方が王と相対する事は叶わない。その必要はなく、また騎士王と相対するだけの資格は貴方になし。
ただ貴方は、私によってその威光を知る事が出来るのみです」
滅私の騎士は、滅私であるが故に、王への忠誠と義に熱く燃え滾る。
「……………………」
「貴方が王に対した二つの不敬。それは——我が聖剣を解放するに値する程の失言としれ」
自らの感情に呼応するように、メラメラと燃えるような輝きを放つ太陽の聖剣を携え、ガウェイン卿は緑の騎士と相対した。
カリスマ E
詳細
指揮能力、もしくは天性の才能。
団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
Eランクでは国を統率はできても、兵の士気が極端に下がる。ただし、一軍を率いる将官程度の役職であれば、天賦の才である。
不夜のカリスマ E〜B
詳細
彼固有の指揮能力、もしくは天性の才能。
団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
伝承に於いて、彼は王の威光を示す者として、騎士王の下にいる時に絶大なカリスマを誇ったとされる。それ故に、彼は最大で騎士王の持つカリスマと同じランクのカリスマを保有する。
ただし、彼自身のカリスマは、ガウェインの裏表のない天然とも称される性格と物言いにより、人物や状況によってはカリスマの効果に大きくムラが出来る。
[解説]
信仰補正と伝承補正でスキル向上。
第六特異点の出来事を自らの霊基に焼き付けた訳ではない。