騎士王の影武者   作:sabu

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 √分岐
 


第79話 月に同情は必要なく 前編

 

 

 

 あぁこれは夢だ。一瞬でそう悟る。

 何故なら開いた瞼の先にある物は、もう存在する訳がないから。

 夢なんだから夢と気付かせないで欲しい。まぁ、少し疲れるくらいで済むからもう良いんだけど。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 何をするでもなく、夢の中でぼーっと意識を放り出す。

 私はベッドの上で寝ていた。

 開いた瞼の先にあるのは見慣れない天井。今はもう、廃墟になっているだろう素朴な天井。

 

 そういえば、私の故郷にあった私の家の天井は、こんな感じだった気がする。茶色の天井。辺りの森から切り出して作った木造の家。時々雨漏りが大変だった。そんな記憶がある……ような気がする。もう覚えていない。

 

 

 

「—————————」

 

 

 

 近くで誰かが何かを喋っていた。

 横を向けば、二つ影がある。人の形をした黒い影。

 何を言っているのか分からない。ノイズ音しかしない。

 

 

 

「—————、———、————」

 

 

 

 一つの影が、私のベッドの隣にある椅子に腰掛けている黒い影に何かを話して、家を出て行く。

 何しに行ったんだろう。水を汲みにでも行ったのか。

 まぁ多分、そんなところだろう。ただ優しかった事だけはちゃんと覚えている。

 

 

 

「…………………」

 

「       」

 

 

 

 家に残った黒い影の一人は椅子に腰掛け、多分乱雑な体勢で座りながら、横になっている私を見下ろしていた。

 何か喋らないのか。何か喋ったらどうなんだ。

 いや、もう何を言っているのかなんて分からないけど。

 顔も、声も、分からなくなってしまったけど。

 それでもさ、病気で横になっている妹に何か言う事はないのか?

 

 

 

「…………………………」

 

「          」

 

 

 

 ぼーっとしたまま、私は無言で黒い影に視線を向ける。

 不意に黒い影が此方を向いた。そんな気がした。良く分からないが、そんな身じろぎをしていた。

 

 

 

「…………………………」

 

「          」

 

 

 

 じーっと見つめ合う。

 特に意味はない。不意に偶然目があって、そのまま視線を逸らさず硬直してしまうアレと同じ。

 でも、私はしょうがないのではないか。

 だって私は病人で魘されていて、意識が朦朧としているから。だから、視線を逸らすか、何か反応を返すかをするのは相手ではないのか。

 この気不味さをなんとかするのは、私ではない相手。

 だから言った。

 

 

 

「…………何してんの、兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉にケイは、ドクンと心臓が跳ねた気がした。

 此方を見つめる瞳。まだ夢うつつで意識が覚醒していないのか、瞳は何処か虚ろで焦点は合ってない。本当に力のない瞳。それがケイに向けられている。

 

 ——バイザーの裏では、いつもこんな表情なのか。

 

 彼女の声は、嫌になる程小さかった。

 縋るように弱った声色に聞こえたのは、果たしてただの錯覚か。

 

 ——冷たい無表情に無感動な声色でもしていろ、バカが。

 

 本当に嫌になる。何もかも全てが嫌で仕方がない。その声も、その顔も、その表情も何もかも全て、ケイは吐き気がしてならなかった。

 

 

 

「あ? 寝惚けてんのかお前」

 

「……………………は、……ぁ——」

 

「生憎だが、お前の兄はどこにもいない」

 

「————ッ」

 

 

 

 急速に瞳に光りが宿り、彼女は跳ねるように体を起こした。

 何処か表情を蒼白にさせ、彼女は口元を抑えている。それが、吐き気がするからなんて意味じゃない事はお見通しだったが、ケイは無言のまま、彼女を横目で眺めていた。

 

 

 

「お前のバイザーはそこにあるぞ。

 ったく……ふざけた顔をしやがって」

 

「……………………」

 

 

 

 ケイが顎で指し示した先にあるのは、机に載っている砕けたバイザー。彼女が今まで自らを封印していた筈の黒い仮面。それはもう、真っ二つに壊れている。アレが機能する事はないだろう。幻惑は完全に霧散した。

 ケイの言葉に、次第に彼女の表情は冷たい無表情に変わり始めていった。

 彼女は手を額にまで動かして、バイザーがあった位置を空振る。彼女の素顔が晒されている。

 

 

 

「本当に何なんだよお前。もう傷が完治し始めやがって。あぁ、お前の生命力は本当に竜と同じって事か?」

 

 

 

 彼女は空振った手を見て、その腕に包帯が巻かれている事に気付いた。

 じーっと、自らの状況を確認し整理するように見ている。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 ケイに反応を返さず、彼女は自らの両手をじっと見つめていた。

 指先から肘までが包帯に巻かれている両腕。それに脚も。血が滲んでいるのか僅かに赤い。

 だが、あの重傷から考えればあまりにも怪我の痕は小さかった。彼女なら、もうほとんど普通に動けるだろう。砕けていた筈の左手の拳も、もう普通に開いては閉じてを繰り返している。

 その確認の動作が、殺人道具や愛用する剣を研ぎ直しているように見えるのは、きっと勘違いではない。

 

 

 

「あれから、どれくらい日が経ちましたか。ケイ卿」

 

「———…………、………ようやく喋ったと思ったらそれか。他に言うべき事があるんじゃないか? おい」

 

「治療ありがとうございました。もう私は動けます」

 

「は? そこな訳があるか。

 そもそもオレは治療なんてしてない。それくらい分かるだろうが」

 

「……今眠りから起きたばかりの人間に全てを察せと?

 生憎ですが、私と貴方にそこまでの関係はない。繋がりも情もない。それくらい分かりません?」

 

「…………………」

 

 

 

 一瞬の硬直。

 睨むケイに対し、彼女は視線を全く合わせない。

 舌打ちしてケイは返した。

 

 

 

「チ…………本当に意味分かんねぇ。

 お前がローマから国に帰って来てからも、国中ずっとてんやわんやだ。しかもそこに、アーサー王が次代の王を選定するとか抜かして国はざわついた。次代の王候補はお前だなんてバカげた噂をアーサー王は否定しねぇし、お前が………お前が女だと国に知れて、ブリテンはもう荒れに荒れてる」

 

「………………………」

 

「ついでに、少し見ない間にお前はより意味が分からなくなった。

 見違えたと言うか、変質したの勢いだ。何なんだよ、お前。

 数十万のローマを単騎で、剣の一振りで殲滅した? しかも一騎討ちで剣帝に勝って、広間でアイツに勝利して、お前何を目指してるんだ? 人類最強でも目指してるのか?」

 

「さぁ。まぁ私がどれだけ強かろうと、人類最強とは呼ばれないのでは? 私は人ではありませんから」

 

「………はあ?」

 

「何をいきなり。言葉の綾くらいは分かって欲しいというのに」

 

 

 

 ケイに視線を合わせず、彼女は吐き捨てるように告げる。

 返す言葉には信頼ではなく皮肉ばかり。相手の言葉の足を掬うような、捻くれた言葉。

 

 

 

「で、あれから何日ですか」

 

 

 

 ただ事実を確認するだけの問い。

 故に含む感情はない。本当にただ、それだけの事である。

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 

 互いを支配する静寂。物音一つもしない、硬直。

 彼女の竜のような、澱んだ金色の瞳に何かを浮かべる訳ではなく、鋭利な刃物のように切れ長い眼差しが何かを示す訳ではない。

 中性的で活発な印象を表すのに似合っている……本当に似合っているだろう筈の彼女には、冷淡な雰囲気しかない。非人間じみた彼女の血の気のない素肌と、抑揚のない声色が更にそれを煽る。

 人形。

 今の彼女を表すなら、その二文字しか浮かばない。

 バイザーを着けていた時よりも、それが顕著なのは何なのか。

 

 

 

「私は何日眠っていましたか」

 

 

 

 言葉は無感動無機質。

 何処を向く訳でもなく視線を落としたまま告げる。

 だから、ケイも同じく視線を合わせず告げた。

 

 

 

「………一週間。その間お前はずっと眠っていた。

 別に魘される訳でもなく、まるで死んだようにな。僅かにも身じろぎしない姿からは気味の悪さしか存在しなかったさ、本当に」

 

 

 

 その言葉に、無言で彼女は胸に手を当てた。

 正確には、心臓のある位置。

 そして、再び彼女から話しかけた。

 

 

 

「円卓会議は」

 

「中止のままに決まってるだろ。

 と言うか、お前の為だけにアーサー王が円卓会議を中止し続けてると言うだけで、アイツが何を考えてるか分かる。いっそお前、眠っていた方が良かったんじゃないか?」

 

「ギャラハッドは」

 

 

 

 ケイの言葉に全くの反応を見せず、ただ淡々と彼女は新たに尋ねる。

 

 

 

「…………………」

 

「ギャラハッドは? 何かあったんですか?」

 

「………別に何もない。生憎だがお前と違ってまだ回復してない」

 

「そうですか。まぁ………それはそうでしょうね。私のアレは人を壊す事に特化している」

 

「ハ、本当に震えるよ。少し見ない内に、いつの間にか修羅になりやがって」

 

「別に。ようやく形を伴って来ただけで元から私はこうでした。貴方は知らなかっただけで」

 

「……………あ?」

 

 

 

 彼女の反抗的な言葉には、普段よりも明確で悪意のある棘が交じっていた。

 ひたすらに無表情だった彼女が、ついに浮かべた表情。それに鼻で笑うような冷笑も癪に障って仕方がない。

 

 

 

「………あぁ、そうですか」

 

 

 

 何かを理解したように彼女は言葉を溢す。

 本当に、そう言う悟ったような表情がケイはムカついて堪らなかった。

 

 

 

「一人にしてくれませんか」

 

「何?」

 

「しばらく放って置いて欲しいと、そう言っているんです。私から言う事は特にない。貴方から聞きたい事もない」

 

「は? この期に及んで、お前は何を言っているんだ。いつもお前はそうやって——」

 

「——貴方がそうやって言葉を濁して、私を引き留めようとしてくるから、さっさと私から離れて欲しいと言っているんです」

 

 

 

 こう言わないと分かりませんか? と、彼女はケイの言葉を遮る。

 硬直して、言葉の出ないケイ。その姿を冷たく眺めた後、彼女は告げる。容赦もなく。彼の事を省みず。

 

 

 

「いつの間にかとか、いつもはとか、昔は違ったとか、そう言う風に引き止めるのはやめてくれませんか。疲れます」

 

「………………」

 

「何ですか。私が女性だったと知って、急に今までの事を振り返りたくなったんですか」

 

「違う。違う、オレは」

 

 

 

 一瞬の硬直。思わずケイは言葉を溢していた。

 

 

 

「違う? 最初から、私が女性と知っていたと?」

 

「………………………」

 

「それで、じゃあ私の顔が晒されて…………——あぁそうですか。そうなんですね」

 

「…………なんだよ」

 

「いえ、分かっただけです」

 

 

 

 何かに納得して、彼女は小さく笑う。

 自嘲するような笑みを溢して、彼女は続ける。

 

 

 

「もうやめにしましょうか。私達の関係は。

 きっとここが潮時です」

 

「何だと………」

 

「貴方が私を構う理由はありません。貴方が私に執着する意味もない。貴方が私を気にかける必要もない。私の事などほっとけば良い。それで済む。貴方と私には、何の繋がりもないのだから。だからお引き取りください。貴方が見ていなければならないのは私じゃない」

 

「は——何、言ってんだ……お前……」

 

「じゃあ遠回しに言うなんて真似をせずに、はっきりと言います」

 

 

 

 小さく溜息を吐き、呆れるような憂いを秘めて、彼女は告げた。

 

 

 

「繋がりを見誤っている醜態を私に晒すな。その視線が不愉快だ」

 

「—————————」

 

 

 

 嫌悪感を露にして、彼女は突き放して来た。

 その視線が不愉快だと——瞳に込められた感情が気持ち悪いと、明確に。

 

 

 

「…………………」

 

「私から貴方に聞きたい事はもうない。ブリテン島が今どうなっているかも凡そ予想が付く。私と貴方が言葉を交わす必要は消えた」

 

「何、言ってんだよ………」

 

「それは此方の台詞です、ケイ卿。

 私に向けるその瞳が。私に何かを重ねているその感情が、全て不快だと言っているんです」

 

「何だよ、お前」

 

「何だよも何も元から私はこうです。ずっとずっと最初から。貴方と出会ったその日から。私と貴方は、ただの他人だ」

 

「…………ッ、いきなり何なんだお前……ッ!」

 

 

 

 椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、ケイは怒りを露わにした。

 彼女の言葉が、酷くケイの感情を駆り立てる。

 それが図星だからか。分からない。彼女がそれを言うからか。分からない。ただの他人なんて言葉が胸を貫いたからか。何も分からない。

 

 従者とその主人。

 最初はすぐ隣で、ずっと近くに居た筈なのに、いつの間にか距離が出来て、きっと再び、見逃した。

 今度はその対象が、明確に嫌悪感を表に出して来ている。

 ただケイは、それが不愉快だった。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 立ち上がって青筋を立てているケイを、彼女は横目で冷ややかに見る。

 彼女は視線を合わせない。真っ正面から瞳を合わせない。今までの会話の中で、ずっと彼女はそうだった。彼女はこうまで冷たい人間だっただろうか。

 バイザーが外れた瞬間、彼女との距離が開いている。

 

 

 

「——何を。貴方から私に距離を作っている癖に」

 

 

 

 不意に冷や水を頭から被せられたように、ケイの表情が凍りついた。

 彼女の冷たい眼差しが、より鋭く細まる。

 外れたバイザー。露になった表情。そして、隠されない嫌悪感。それがケイを——真正面から貫く。

 

 

 

「偽りの鏡像越しに見ているのは、本当に私ですか、ケイ卿」

 

「————………………」

 

「生憎ですが、私は別にこの性別について何も思っていない。

 ただ私が女性として生を受けただけ。二分の一を外しただけ。だから私が女性として生きる気はなく、しかし騎士としてはこの性別が枷となる。だからそれを隠した。ただそれだけ。それ以外に意味などない」

 

「—————…………、…………」

 

「だからはっきり言って、貴方のその視線が不愉快です」

 

「————————」

 

 

 

 ザクっと、鋭利な刃物を心に突き刺して来るように。

 嫌悪感丸出しの顰められた眉が、分かりやすく彼女の心情を表していて——妹が絶対にしないその表情が、淡々とケイを抉る。

 

 

 

「そうやって、過去の後悔を私で埋め合わせしないでください」

 

「違う………違うオレは———」

 

「そうですか、違いましたか。

 なら良かった。これで貴方と私を繋ぐモノなどもうありませんからね。

 どうかお引き取りください。貴方は私に構っているよりも、やらなければならない事があるでしょう?」

 

 

 

 呼吸が止まる。口がカラカラに乾いて仕方ない。

 そこから、言葉は何一つ出なかった。

 

 

 

「………………………」

 

 

 

 ケイの反応に確信したのか、彼女は諦めるように吐息を吐く。

 横目でケイを見る事もなく、彼女は窓から外へと視線を向けた。

 

 

 

「放って置いてください。もう後は全て、なるようになるだけです」

 

「じゃあ何だよ………お前は何もかも諦めたって言うのか」

 

「いいえ。ただ今は、私から出来る事など何もないと受け入れているだけです」

 

「受け入れる、だと。ならお前は良いのかよ。お前は——」

 

「はい、別に」

 

 

 

 再び彼女は遮る。

 そんな事は最初から予想通りなのだから。

 この性別がバレたらどうなるかなど、最初から。

 

 

 

「貴方もそうでしょう? ケイ卿。最初から、貴方はずっと」

 

 

 

 女性という事を偽りながら剣を引き抜いた人を知っているのだから。

 それを、言葉しなくともケイは理解した。ケイだから、彼女の意図するものを、何よりも理解出来た。

 

 

 

「そうかよ…………——あぁ、そうかよ。

 じゃあ好きにしろよ。お前の勝手にしてろよ」

 

「はい——さようなら。今までありがとうございました」

 

「……………ッッ!」

 

 

 

 乱雑に扉を開けてケイは去っていく。

 不機嫌な感情を表すように、大きく物音を立てながらケイはキャメロットの回廊を歩く。何処へ行くでもなく、何か目的がある訳でもなく、その場から離れる為。

 彼女は突き放して来た。

 だからケイもそれに倣って、彼女の意図通りに離れてやったのだ。もう良い。知るか。勝手にしろと。

 

 

 

「くそ………くそッ……………!」

 

 

 

 予想していた反応は全て違った。

 

 私が女という事を知っていたんですか。

 いつからそれを知っていたんですか。

 この素顔は。この力は。

 貴方は何処まで知っていたんですか。

 

 そんな言葉。そんな予想。そう言う——弱さ。

 だがそれは全て外れた。返って来たのは全て拒絶。此方の事などどうでも良い。どう思われていようが関係ないとばかりに、アイツは何も聞いて来なかったのだ。

 

 

 

 "——何を。貴方から私に距離を作っている癖に"

 

 

 

 いいや、本当に、そうなのだろうか。

 脳裏で繰り返される彼女の言葉。脳裏に焼き付く彼女の表情。

 溝を作ったのはどちらだろう。相手を見ていなかったのはどちらだろう。話を聞いて来なかったはどちらだろう。これからも、今までも。

 彼女の仮面に、都合の良い鏡像を貼り付けていたのは、果たしてどちらか。

 

 

 

 "——その視線が不愉快です"

 

 

 

 聞きたい事はある。いや、多分、本当は聞きたくない。

 そうなった理由も、そうなっている経緯も、叶うなら蓋をしたい。

 アイツが少女だと言う事は知っていた。でもまさか、バイザーの裏の表情も、彼女の声も、何もかもがあぁなんて——

 

 

 

 "——そうやって、過去の後悔を私で埋め合わせしないでください

 

 

 

「くそ……………———くそッッ!!」

 

 

 

 何か意味がある訳でもなく、彼はその場を離れていった。逃げるように離れた。ただ、あの顔をもう見たくなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乱雑に開け放たれ、壁に当たった反動で軋みながら、ゆっくりと戻る扉の動きを眺める。半開きの状態で扉は止まっていた。

 

 

 

「偽りの鏡像…………重ね合わせ…………ハ、どっちがだ」

 

 

 

 ボサっと倒れるように仰向けになる。腕を広げ、一気に脱力する。

 あぁ……ケイ卿にはとても酷い事をした。でも良い。きっとこれで良かった。私が今まで彼に隠し事をしてきた、そのツケ。彼と彼女の、兄妹の関係に滑り込んで来た、私のツケ。

 もう関わらない方が良い。それに私も、あまり関わりたくなくなった。

 

 

 

「これから、どうする」

 

 

 

 性別がバレた。遂にバレてしまった。更にはこの素顔をも。

 私が隠して来たモノがバレてしまった時の想定は勿論していたが、実際にそうなると何をすれば良いのか。

 私は何をすれば良い。案が浮かんでは消えていく。最善はどれだろう。

 

 いや、もう答えは出ているのだ。諦めろという答えが。

 ここから取れる手段は、悉くがもう最悪の中の最善でしかない。元からこの状況になったらどうすべきかではなく、こうならないように考えていたのだ。

 

 

 

「一週間とか……もう、無理だな…………」

 

 

 

 最重要の初手の対応はもう最悪。

 大体の予想は付く。もう国中に私の秘密は知れ渡っているだろう。極一部とかでは済まない。情報の揉み消しは出来ない。この国の情報伝達力を舐めてはいけない。

 こう言う時力になってくれるアグラヴェイン卿は——

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 思わず顔を覆う。予想する未来は全て最悪ばかりだ。

 アグラヴェイン卿はどう動くのか。どう動いているのか。モードレッド卿も、他の円卓の騎士達も。皆は何を思っているのか。

 円卓の騎士追放。そもそも騎士として官位を剥奪。あぁ次代の王とか何とかもある。というかそんな話をしてる場合じゃなくなってるだろう。もう国が荒れているし情報も錯綜しているに違いないのだ。

 

 私が女性だとバレた時に、言われのない非難を受けないよう心がけていたが、もしも女性というだけで私がダメだと言うのなら、もう国を去るしかない。

 

 唯一の救いは、今現在ブリテン島に明確な脅威が居ないという事か。

 卑王しかり。蛮族や、ローマしかり。

 だから次の脅威は…………私か。私が脅威にされる。それにモルガン。そうだモルガンとの繋がりも当然疑われる。どうする。もう分からない。なるようになれとしか思えないのは、私の限界なのか。

 

 

 

「……………モルガン」

 

 

 

 窓辺から空を見上げ、思わず呟く。

 当然、彼女の鴉は来てくれない。当たり前だ。こんな状況で私が怪しい素振りを見せたら、まずモルガンから疑われる。彼女もきっと自制しているのだろう。

 そうだと信じたい。

 

 モルガン、怒っているのかな。

 バイザーも砕けてしまった。それは悲しい。でも怒ってはいない。

 私はギャラハッドを怒るに怒れないからだ。だから、モルガンがギャラハッドに報復する事を決意したら、私はきっと二人の間で立ち往生する。

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 しばらく横になってぼーっとしたまま、窓から空を眺める。

 そして、唐突に体を起こす。深い意味はない。しいて言うなら、何もしていない事が怖くなった。

 

 毛布を包帯に巻かれた両手で外し、ベッドから立ち上がる。

 一瞬バイザーに視線を向けて、砕けているからもう意味がないと無視して、扉を開いて外に出る。

 

 回廊は静かだった。

 何か音はしない。人がいる気配もしない。アルトリアが気を利かしてくれたのだろうか。真意は分からないが、人に出会うと少し面倒だから助かった。

 

 あぁ、どこへ向かおう。とりあえず外に出たが、特に明確な意思はない。

 だからもしも行くとしたら…………ギャラハッドのところか。

 多分、人はいないと思う。アルトリアの事だから、私がギャラハッドにトドメを刺しに行くかもしれないからと、衛兵を配置するとかはしない筈だ。きっと。ギャラハッドが自室に居ればの話だが………とりあえず行くしかない。

 

 キャメロットを歩く。

 人とはすれ違わない。ギャラハッドの私室の場所は知っている。そして、回廊に差し掛かった時だった。 

 

 

 

「………………………」

 

 

 

 足を止める。

 まぁ…………最初からいずれはこうなるんじゃないかとは思っていた。

 偶然にもそれは今まで起こらず、しかし互いに入れ込み過ぎたせいか、タイミングは最悪になってしまったが。

 

 

 

「…………どうしましたか、アグラヴェイン卿」

 

「……………………」

 

 

 

 振り返らず、観念したように告げる。

 振り返らなくても、彼が何をしているのか分かった。

 私の背後には、ゼロ距離で私に騎士剣を突きつけているアグラヴェイン卿がいた。

 

 

 




 
 
Select
 
「…………何してんの、兄さん」
 妹と同じ声と表情で、そう問われた。
 オレは、どう答えればいい——


  1. はぐらかす。
 →2. 真実を告げる。
  3. 黙り込む。

  ——「生憎だが、お前の兄はどこにもいない」




 ルーナ√開放失敗。好感度換算消滅。
 尚、主人公は元から知識を持っている為、最初からほぼ全ての人間に対し好感度が高い。好感度が高いので、それ以上増えない。故に可変せず、それ以上の関係に進む事はない。その為、まず√を攻略するのではなく開放する必要がある。
 ケイは開放する間もなく失敗。
 以降、今までの好感度に拘わらず、ケイがルーナ√のEDを迎える事は不可能。


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