騎士王の影武者   作:sabu

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 √分岐無し。
 正確には、彼女が主人公に出会った瞬間√が確定する。
 間違えてはいけない選択肢もなし。選んだ方が良い選択肢もなし。
 


第81話 星が別かつ事もなく(レディ・ギネヴィアと■■■■■ 起)

 

 

 

 きっとここに来るのだろうと予想して、ようやく出会えた氷の少女。

 その少女は、少年と姿形を偽って来た人であり、あの人の振りを完璧に出来た少女。それはそうだろう。何の運命か、彼女はあの人の鏡写しだったから。

 

 当の彼女は驚いた表情をしていた。

 十になる前から心が停止していると呼ばれた彼女がそういう表情をしているのは珍しい。

 彼女にとって想定外の事でもあるのだろう。

 だからきっと、彼女は…………周りの騎士とは比較にならない程に色々な秘密を知っている。知っていて黙っている。だから驚愕を隠せてない。

 バイザーが外れているから、極めて感情を表に出さず、また読み取らせない彼女の思考の一端が分かった。そう言う腹の探り合いに疎い、ギネヴィアでも。

 

 

 しかし、次第に少女の様子は元に戻っていく。

 

 

 スッ、と感情が抜け落ちるように。辺りの空気が凍るように。

 ただその場に佇んでいるだけで周囲の雰囲気が変わるのは、少女の凛烈で、しかしどこまでも苛烈な姿勢が成せる技か。

 人の域に収まらない魔性を持つ少女。

 あまりにも白い肌。白い陶器にすら見違えてしまいそうなそれは、魔女の如く。金色の髪は、日々殺し合う凄惨な環境に晒されながら輝きを失わず。

 その気になれば、流し目で心を射抜いて来てもおかしくない程に彼女は端正な顔立ちだった。中性的な美貌は、十五と言う幼さもあって、完璧なバランスで止まっている。

 

 

 だがその美貌を、彼女自身の佇まいが台無しにしている。

 

 

 彼女に目を奪われ、色事に巻き込んで籠絡しようとしても、刃のような眼差しで一刀両断されるだろう。中性的な素顔に一番強く浮かぶのは無表情で、外見の幼さを全て塗り潰す冷たい内面が浮かんでいる。

 あの人とは、生涯の違いだろうか。

 常に現実に即した騎士。夢など見ないし、理想も掲げない。容赦の無さと油断の無さが、刃のように鋭い瞳に表れている。

 (いぶか)しげに細めらた切れ目の眼差し。冷淡な印象。背筋に冷たいモノを走らせる金色の瞳。隠し切れない戦闘の匂いは死の気配か。

 

 

 あの人よりも更に人の域を超えた………もしくは踏み外したその姿。

 

 

 もはや、ある一種のカリスマとなっている。

 端正な姿を魔性の領域にまで落とした美貌とそれを台無しにする冷たい佇まいが、陶酔に近いカリスマを生んでいるのにも、納得出来る勢いだった。

 女性として生きたら、傾国の美女にでもなれたかもしれない人。女性として報われない道を、特に躊躇いもなく選んで、そして突き進んでいる彼女。その彼女は。

 

 

 

「私に、何か」

 

 

 

 ——アルトリアよりも、無感動だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーサー王とギネヴィア王妃。

 正常ではない関係を、互いに仕方がないと呑み込むしかなかった二人。

 その内の一人の、正しさ故に最後の最後で決定的に砕け、裏切りと不貞の悪名を受けたギネヴィア王妃が私の目の前にいる。

 

 

 一瞬の驚愕から、即時に回転する思考で頭が覚める。

 

 

 浮かぶ予想は全てが不穏な物だった。

 ギネヴィア王妃が、アーサー王の秘密を知っている事は理解している。即ち性別。

 そして…………私はアルトリアと同じ素顔と来た。

 何なら十五という年齢すら同じだ。私は双子の妹ですと言っても通用する。唯一の違いは反転しているこの見た目だが、それが何なんだと言う話でもある。

 むしろこう言う違いが、ギネヴィア王妃の中ではどうなっているのか予想がつかない。

 アルトリアの影武者を、アルトリアと全く同じ姿の人間がやっていたと言う事実を、彼女はどう言う風に受け止めるのか。

 

 

 

「……………………」

 

「取り敢えず……場所を変えましょうか」

 

 

 

 ここはギャラハッドの部屋だ。

 間違いなく密談には向かない。

 静かに寝ているギャラハッドを確認した後、無言で頷く彼女を連れて外を出た。

 

 

 

「私達以外に他者は居ない方が良いですよね」

 

「はい……」

 

「そうですか………なら、弓兵の練習場で。あそこなら人がいない」

 

 

 

 トリスタン卿が去った後、彼の部隊は私の下についた。

 だからあそこが使われているかの予定は頭に入ってる。それに、そもそもあの場所は私以外に使う人がほとんどいなくなった。

 

 

 

「それで、私に何か」

 

 

 

 黄昏の斜陽に包まれた弓場。

 私の問いに、彼女は停止したままだ。

 私からギネヴィア王妃と会話したい訳でもなく、何なら私は彼女の事を避けていた為、私も何かを言うでもなく停止する。

 

 ……さてどうするべきか。

 ここに到着するまで、彼女はずっと無言だったのを見ていて、私から何を言っても薮蛇になりそうな感覚がしていた。こんな予感しかしないのは極めて稀である。まだアグラヴェイン卿との会話の方が光明が見えていたかもしれない。

 

 しかし相手は、あのギネヴィア王妃。

 正直関わりたくない思いだったが、私は慎重に言葉を選ぶしかなかった。

 

 

 

「何か決心しなくては、私に聞けないような事ですか」

 

「い、いえっ…………その」

 

 

 

 言葉に困る彼女に、図星だったんだろうなと当たりをつける。

 

 自然と警戒度が上がった。

 相手はあの……言い方はあれだが、アーサー王を裏切ってブリテン崩壊を巻き起こした人間の一人。

 もしやランスロット卿ではなく、ギャラハッドと? なんて警戒は解けたが、逆に今度は、まさか私なのか? とも一瞬思ってしまう。

 

 しかし、それは流石にない筈だ。

 アルトリアと同じ姿の私を相手に選ぶ程、ギネヴィア王妃が倒錯した人間だとは思えない。

 そもそも、私が真っ正面から彼女と向き合うのは初めてだ。精々私が遠くから見ていた程度の関係。

 

 

 が、本当に慎重に成らざるを得ないだろう。

 

 

 繰り返すが、私はアルトリアと瓜二つ。

 絶対にギネヴィア王妃は私と彼女の何かを重ね合わせて来ている。というか重ね合わせなかったら私と会わない。

 私が少年と偽る少女とバレたのは、私が一週間眠っていたから同じく一週間前か。

 

 

 

「私からすみません。もしや、ずっと私を見張っていました?」

 

「あ………はい。

 その………貴方は簡単に人を殺す人ではないと思ったので、もしかしたら盾の少年を身を案じて、来るのではないかと」

 

 

 

 腹の探り合い。思考の読み合い。

 私を………簡単に人を殺すような人じゃないと称するか。

 機嫌取りでも何でもなく、事実を口にするような口振り。僅かな不安と緊張が出ているだけ。十分な許容範囲内の中で、ギネヴィア王妃は平然と会話をしている。

 

 彼女の機嫌を損ねない事を第一に考えている私とは大違いだ。

 

 

 

「しかしまぁ、ずっと長い間私を見張っていたり、ギャラハッドの部屋で待機していたのでしょう? そんな事を良く許してくれましたねアーサー王は」

 

「いえ………別に許された訳ではないんです」

 

 

 

 ギネヴィア王妃の単独行動か、アーサー王が咎めてないだけか。いや、他か。

 一瞬、眉を顰めた。

 それを、私が暗に咎めていると考えたのか、ギネヴィア王妃は慌てる。

 が、すぐに先の言葉の意味を私は悟った。

 

 

 

「あ………っ、そ、そうではなくて」

 

「いえ貴方を咎めている訳ではありません。

 アーサー王は忙しくてギネヴィア王妃との対応を後回しにしている。まぁ言い方は悪いですが、今の貴方はアーサー王からまともに相手をされてないのでしょう?」

 

「………………」

 

 

 

 ギネヴィア王妃は無言で頷いた。

 まぁうん。その原因を作ったのは間違いなく私だ。

 それはそれとして、ギネヴィア王妃もギネヴィア王妃というか。私と出会う為に一週間近く待機していて、通い詰めていたという根性も中々この年頃の女性としては凄い。

 

 元々、ギネヴィア王妃は我慢強い姫だったのだろうか。

 可憐な乙女そのものと言える彼女には、ややイメージが付きづらい。

 

 

 

「あの、貴方はどこまで知っていますか」

 

 

 

 あのギネヴィア王妃が、一体どんな人物なのかを組み立てていると、彼女はそう聞いて来た。

 抽象的。直接。私が全てを理解している事前提の聞き方。探って来ているのか。

 

 

 

「私達の秘密を、どこまで知っていますか」

 

「……………………」

 

「貴方なら、知っているんじゃありませんか。確信は持てなくとも、貴方ならそうやって一手一手詰めるように、把握して来たんじゃありませんか」

 

 

 

 いきなり話を進めて来たなと、ギネヴィア王妃の様子を見る。

 私とは、あまり長い時間をかけたくないように感じるのは錯覚かどうか。

 何かに駆り立たれているような表情に、やや蒼白な顔色から、彼女には余裕がないのだと悟る。

 

 さて…………突如ぶっ込んだ話をして来た以上、それとなく言葉を濁す選択肢もある。つまりどう言う事ですか? なんて言って、彼女の思惑を敢えて無視してやり込めながら意図を探る事も出来るし、()(とぼ)けて無視し、彼女からの追求を躱す事も出来る。

 こう言う腹の探り合いも、ギネヴィア王妃相手なら多分可能だろう。

 

 

 が、まぁ今の彼女を相手にそれをやる必要は………多分ない。

 

 

 と言うか、ギネヴィア王妃を精神的に追い詰めたら怖いというのもある。

 ギネヴィア王妃が私に関わって来たなんて、十中八九厄ネタ。アルトリアを裏切り、ランスロットに身を寄せてしまうまでの、過程の何か。

 

 だが私は知るのは、そう言う結果だけだ。

 ギネヴィア王妃がアルトリアを裏切ってしまうまでの心境は良く分からない。そもそも知らない。それと多分、私はきっと共感は出来ない。

 ギネヴィア王妃が破綻しているからとかではなく、単純に私は恋や愛を良く知らないからだ。

 

 というか、性別を偽っている訳でもない、男の方のアーサー王であってもギネヴィア王妃はアーサー王を裏切っている。

 だから多分、性別が根本的な理由ではない。

 故にこそ、正直私にはこう言う感情を推し量るのは難しい。叶わなかった愛。裏切られた恋。添い遂げる事が出来ず、ただ霧散していく慟哭。

 それら全ては私にとって、イメージすら出来ない空想の領域だった。知識として、こうだからこうなる、という把握のみの、理解の及ばない遠くの世界。

 

 

 

「秘密……秘密ですか」

 

「…………………」

 

 

 

 腕を組んで考え込み、互いの静寂を誤魔化しながら更に考え込む。

 彼女には酷いが、正直に言うなら私に聞いたから何なんだよという感想しかなかった。

 アルトリアと同じ素顔の私に聞いている事を、アルトリアから答えを貰ったとでも思い込みたいと言う逃避の一部の表れだろうか。

 

 めんどくさ。私は十五だぞ。生きて来た年月で考えば、私はアルトリアよりも絶対に人生経験が足りてない。だからこう言う恋だとか愛なんて分からないというのに。

 ランスロット卿に聞けば良いのに………いやダメだな。的確な答えをくれる可能性以上に怖いモノがある。

 

 

 ……はぁ。少し彼女の意図を汲まない回答をするしかない。

 

 

 自分で分からない事を言っても、私に責任は取れないのだから。

 まぁまだ、秘密とは何だと言う質問の段階。私の想定が間違えている可能性だってある。彼女の全容を把握出来た訳でもない。まずは正直に答えよう。

 

 

 

「そうですね。アーサー王とギネヴィア王妃の秘密を知っていると言われたら、私はほぼ全て知っているかと」

 

「…………………」

 

「性別でしょう?

 アーサー王の性別。アーサーという男性名で封印した本当の名前。

 故にアーサー王としての、形だけの婚約。叶う事のない愛。まず私が思い浮かぶのはこれくらいです」

 

「貴方も………そうですよね」

 

「…………と言われてもまぁ、確かに私もアーサー王のように周りを騙して来ました。ですが私とアーサー王は別物ですし、そこに至るまでの過程も違う。私からの発言がアーサー王の発言にはなり得ない」

 

「…………………」

 

 

 

 深刻そうに黙り込む彼女を見て、あぁ私からの発言全てが薮蛇になるか裏目になりそうだなと、思ったのは間違えているだろうか。

 アーサー王とギネヴィア王妃はもっと互いに話し合った方が良い………なんて言葉で解決する程話は甘くないし、もっと根本的な面から改善しないと意味が無さそうな雰囲気を感じる。

 話し合った方が良いのは確実なのだろうが、じゃあ具体的に何を話し合うんだと言われたら私には何も浮かんで来ないから、こう言う曖昧な答えしか出て来ない訳で………あぁ、ギネヴィア王妃とアーサー王の関係、溝が深すぎるなぁ。

 

 話し合いで解決出来るかも知らない。そんな事分かってます、なんて言葉がギネヴィア王妃から出て来たら目も当てられない。

 彼女も彼女なりに悩んで、私と同じだけ、いや、私以上に答えの分からない答えを探しているんだろう。

 私からの発言が彼女の助けになる未来は見えないのに、不慮や不安を加速させる未来は見える。

 

 ………めんどくさいなぁ、ちょっと。

 どうすれば良い。私は何をすれば良い。非常に困る。

 

 

 

「……で、他には何か?」

 

 

 

 ここまで対応が分からないのは初めてだ、と自分自身で思った。

 ギネヴィア王妃を一人でそっとして置いた方が良い気がしないでもない。何せ相対しているのは私だ。

 だが同時に、そうやって彼女を一人にするから、彼女は追い詰められて来たんだろ。だから何か言った方が良い筈だ。とも同じくらい思う。

 

 本当に分からない。悩める女性をどう諌めろと。しかも尋常なく深い悩みで、数言で報われる訳がない女性を。彼女の苦しみを理解出来ていない私が。

 

 あぁ………——ここで全てを投げ捨てて、それでも貴方だけを愛する。貴方に添い遂げ、貴方の苦しみを別ち合う。

 なんて言葉を彼女が身を砕いている人間が言えば、たったその一言で彼女は変わるのか。

 冷め切った部分が、そう納得していた。

 

 

 

「その……………明らかに私には気遣ってますよね」

 

「………はい?」

 

「ですから貴方は、一言一言全て極めて慎重に、言葉を発した後どうなるのかを考えながら喋っている。私を誘導するような感じは、しないですけど」

 

 

 

 それはそうに決まっているだろ。

 なんて返す事はなかったが、流石にそう思うのを止められなかった。成る程ギネヴィア王妃は聡明なタイプの人なのだろう。個人的には面倒くさいタイプの。

 

 女性との対応など分からない。こう言うタイプの人は特に。

 悪意やら敵意なら分かり易く対応出来るし、私を異性的に狙っているような、瞳をギラギラさせている淑女なら適当に躱せば良い。

 だが彼女のようなタイプは苦手だ。

 敵対している訳ではなく、しかし慎重に成らざるを得ない相手。しかも此方の対応の差を見抜ける相手。

 

 

 

「貴方の、貴方の本当の本心を教えてください」

 

 

 

 若干、彼女に対する手詰まりを感じていた時、意を決したようにギネヴィア王妃は続けた。

 

 

 

「本心、とは?」

 

「何でも良いんです。何でも。

 私とアーサー王の関係の事とか、この国の事とか………何でも。貴方の所感を聞きたいんです」

 

「………………………」

 

 

 

 なんだ、だから結局………何が言いたいんだ?

 分からない。本当に彼女のしたい事が分からない。私に何を求めている。何が目的なんだ。こう言う考えをやめて会話しろと言う事か………?

 

 それとも何だろうか。

 彼女自身、自分の感情が分かってなくて、ただ私と相対して何かを確かめようとしているのか。そう言う人には——

 

 

 

「……………そうですね」

 

 

 

 ——……変な気遣いが逆効果なのだろう。

 だから彼女の言う通りにする事にした。

 私が何かを考えてもドツボに嵌る。逆に無闇矢鱈に話していては彼女が怖い。ならば、あまり関係ない私の所感でも話そう。彼女との話が進まない。

 

 

 

「まぁまずは言うなら、今私も中々大変な状況にあって、心を落ち着かせたい心境なので、ギネヴィア王妃がまさか私を一週間も待っていたと聞いて心が落ち着きません。正直困ります。一騎士に王妃が何を。はっきり言うと面倒臭いです」

 

「それは、その………はい。すみません」

 

「えぇはい。まぁ貴方にも退っ引きならない理由があったのでしょうから良いです。割り切ります」

 

 

 

 視線の遠く、弓の的を眺めながら彼女に言う。

 今から弓を射る気は流石にない。

 

 

 

「それで本心ですか。

 本心、と言われても良く分かりません。特に思い至る事もない。貴方とアーサー王の関係も、この国についても。

 部外者が介入出来る話ではないと考えているからなのもありますが、私は基本的に周りの事柄に対しては無関心です。私が当事者になったら対応する。その程度です」

 

 

 

 事実だ。私は問題を知りながら見過ごしてる。

 アーサー王とギネヴィア王妃の関係を直す気もないし、この国を救う気もない。そもそもどうすれば良いのか分からない。根本的な部分を変えなければ何も変わらないというのだけは、何処までも分かるからこそ。

 それに、私にはそんな余裕がなかった。

 精神的、時間的。あらゆる面に於いて。

 

 

 

「……………………」

 

「だからまぁ。強いて貴方に私が一つ言うなら、後悔しないように生きろ。としか」

 

「え——?」

 

「そのままです。最期のその瞬間に後悔しないようにと、まぁ私からの願いです」

 

「………………」

 

「別に、好きに生きれば良い。好き放題、やりたい事をすれば良い。

 貴方の人生だ。その選択を咎める権利は誰にもありはしない」

 

 

 

 彼女がどう言う想いでアーサー王を裏切ったのかは知らない。

 彼女がどう言う想いでランスロット卿を選んだかも知らない。と言うか、彼女は今ランスロット卿と関係は進んでいるのだろうか。それも私は知らない。

 

 ただ、彼女の不貞を防ごうが防がなかろうが、根本的な問題は何も解決しないのは分かる。彼女が報われないのは分かる。

 だから、したいようにすれば良い。彼女自身が選んだ道なら、彼女自身が突き進めば良い。何であろうと、後悔しないように。

 

 自分でも冷たいと思う。

 自ら地獄に進む人が居ても、私は特に止めないし忠告もしない。好きにしろと私は放って置くし、むしろ背中を押すのだから。

 人に道を踏み外させるように、人を狂わせるように、何も咎めず背中を押す。

 

 

 

「貴方がアーサー王にどんな想いを(いだ)いたのかを私は知らない。

 いや、そもそも何の感情を抱いたかなんて、そう簡単にはいかないか………。

 幾つもが入り混じった複雑な感情。それを誰にも吐露出来ずに貴方は今居るのでしょう」

 

「……………………」

 

「まぁここは良いです。ここは。

 私が言うのは、好きに生きたいなら好きに生きれば良いんじゃ? という事です。報われない愛。叶わない恋。女性として救われない人生を歩むよりは、まだマシかなと」

 

「——貴方は、貴方だって、そうじゃありませんか」

 

 

 

 彼女の方を見る。

 ギネヴィア王妃の顔は、言い知れない表情になっていた。悲しさと驚愕を織り交ぜたような表情。

 

 

 

「そういえばそうですね。

 と言われても私はまだ十五ですが」

 

「貴方は、十になる前から騎士として生きている」

 

「まぁ、そうですね。それが私の好きに生きる道だったので」

 

「それは、きっと違う」

 

「いいや、そんな訳がない。

 そもそも私は、女性として報われたいから騎士をやっている訳ではありませんから。特に性別に拘りを持っている訳ではない。女性だからこうだとか、男性だからあぁだとか、そう言う価値観の下に生きていない」

 

 

 

 アルトリアもきっとそうなのだろう。

 いや………私の方はより性別に関して無関心か。私の肉体は女性だったな、なんてくらいの認識だけ。

 

 生憎、愛も恋も知らぬ身だ。

 まだ知らないだけか、心の大半がごそっと抜け落ちていて感じ取れなくなったかのどちらかだ。

 別にどちらでも良い。知りたいと思った事もない。必要だとも思えない。だから私は、ギネヴィア王妃に共感が出来ない。

 人として破綻しているのは私の方だったか。

 だから、人の道を歩めば破綻しているのだから、人の道を歩む事を選ばなかったのだ。

 

 

 

「……………………」

 

「ですからそうですね。

 私は貴方の痛みに共感する事は出来ない。唯一共感出来るとしたら、最期の後悔くらいです」

 

 

 

 私の言葉に対しても、ギネヴィア王妃は黙り込んだままだった。

 

 

 

「まぁ…………そこについては追及をやめましょう。

 ですが個人的には、何もかもが終わった時、雁字搦めになったまま死ぬよりかは、好きに生きて好きに死んだ方がマシだろうと、私は思います」

 

「ですがっ………私は——」

 

「そうですね。難しいでしょうね貴方には。

 貴方には王妃という立場がある。今から如何なる行動をしても、必ず責任が着き纏う。そういう責務を、貴方は一度受け入れたのですから」

 

「………………」

 

 

 

 小さく、彼女は唇を噛んでいた。

 それを横目に見ながら、呟く。

 

 

 

「それでも私としては、貴方のしたいようにすれば良い。貴方が何をしようと私は咎めません」

 

「え…………」

 

「言ったでしょう。貴方が選んだ道なのだから好きにすれば良いと」

 

 

 

 止める権利はない。

 あったとしても…………多分私は止めない。

 でも、ただ——

 

 

 

「ただ——私は剣です。私には私の立場と責任がある。

 既にこの身はアーサー王に捧げた物。今までも、そしてこれからも私は二者択一を戸惑いもなく選ぶ。だから、アーサー王かギネヴィア王妃かと迫られたら、私はアーサー王を選ぶ」

 

「……………」

 

「お気を付けください。

 私は貴方の選択を咎めない。ですが、選択した後の結果は測りに行く。そう言う、役目なので」

 

 

 

 言っている事が酷いな。

 好きにしろと言いながら、その選択が此方に対して不条理な事だったら見限ると言っているようなモノだ。尊重はするが、それはそれとして戸惑いなく矜持を踏み潰す。警告もせず、突如いきなり、行動と選択の対価として。

 

 それにアーサー王を選ぶと言っているが、それすらも半分は嘘だ。

 私はどちらがより強く、長く国が持つかと言う観点で選んでいるのをギネヴィア王妃に伝えていない。

 ………まぁ良いか別に。そこは関係ない。義理もない。

 

 

 

「だから、努努(ゆめゆめ)気をつけるように。

 もしも——もしもその時が来たら、貴方の行動の対価を裁きに行くのはきっと私だ。

 誰かの代わりとして。何かのカウンター(対価)として」

 

 

 

 何か起きるまでは、私は動かないし人を尊重する。

 何かが起きたら、私は即座に動いて人を殺戮する。

 

 

 その時は、出来れば訪れないで欲しいなとは思っている。

 

 

 そう思っているだけだ。

 その時が来るまで、私は誰の意思も踏み躙りたくはない。けど、その時が来たら私はきっと躊躇いもなく踏み躙って行く。

 何があろうと。ギネヴィア王妃にどんな理由があろうと。

 

 私はきっと。

 彼女を殺す。

 

 

 

「…………ですが、仮定の話をしていてもしょうがない。

 それにこの国は戦乱を乗り越えた。この先は文明の時代、人間の時代です。

 だからアーサー王にも余裕が出来るでしょう。貴方が、キャメロットという鳥籠の檻で封じられ続ける事もない」

 

「——違います。違うんです」

 

 

 

 神妙に告げた私を引き戻したのは、彼女の呟くような事だった。

 彼女の方に向き直れば、彼女は悲しそうな表情をしている。思わずどう言う事かと怪訝そうな表情になった。だが私の反応にも、彼女は悲しみを強くするだけだった。

 

 

 

「…………何か」

 

「違います。違うんです。

 でも、ごめんなさい。そうですよね。私が貴方を分からないように、貴方が私を分かる訳がありませんよね」

 

「………………」

 

「貴方は——強いのですね」

 

 

 

 訝しみと困惑。

 眉根を寄せて硬い表情になるのを抑えられない。

 

 

 

「何がですか」

 

「そうやって、自分に無関心なところが。

 そうやって、人として、他人を案じる事が出来るところが」

 

「………貴方はそうじゃないと?」

 

「違います。違うんです」

 

「…………………」

 

「貴方は、本当に人の事を愛せるんですね。だから、誰も愛せないんですね」

 

 

 

 彼女からの言葉に戸惑う。

 ギネヴィア王妃の視点が分からない。ランスロット卿なら理解出来たのだろうか。この不明瞭な彼女の言葉から、何かを共感出来たのか。

 それに私は人が嫌いだ。愛などないから、私は人を殺せる。

 

 

 

「貴方は、人と人の間に自分を入れないのですか。

 絶対的な英雄にまで登り詰めて興味がないのですか。貴方が言う、文明と人間の時代を」

 

 

 

 どうなのだろう。

 興味がないと言われればそうなのかもしれない。

 イメージが出来ないのだ。平穏になった世界はイメージ出来るのに、その世界に私が居るという空想を。

 

 

 

「ごめんなさい。…………貴方を、困らせてしまいました」

 

 

 

 憂いを込めて、彼女は苦笑いをしながら俯いていた。

 気不味い空気が流れる。

 

 

 

「すみません、時間をとって。私は行きます。私の気は済みましたから」

 

 

 

 私から引き止める事は出来ない。

 不自然でも、出来ない。私が引き止めるだけの理由が作れないからだ。

 

 

 

「そうですか。まぁ、それなら良いのですが……これからは、あまり貴方に近付かない方が良いですか?」

 

「…………あまり気にしなくて構いませんよ。貴方の事は苦手ではありませんから」

 

 

 

 嘘だなと確信する。

 それを最後に、私から逃げるようにこの場を去って行くギネヴィア王妃の後ろ姿と、彼女の不恰好な苦笑いを見てそう思う。

 彼女の強がりをどう信じろと言うのだ。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 ただ、引っかかる事があった。

 彼女の後ろ姿を黙って見送った後も、どうしてか脳裏に過ぎる。

 ギネヴィア王妃の苦笑い。私に向けられたそれが、本当に悲しそうに見えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局集中出来なかったなと、弓の構えを解いて溜息を吐く。

 あのまま、私は弓を引いていた。

 いつもなら何も考えずに弓を引いて、そしていつの間にか夜になっている事に気付くというのに、今は空の色が気になって仕方がない。

 差し込む光は、程なく夕焼けが空を赤く染めようかと言う時間。黄昏時。本当に集中出来なかった。

 

 

 別に矢は外れてない。

 

 

 放った矢は全てど真ん中。もはやただの作業と化している。

 それは肉体に同じ命令を下し、同じ行動を受諾しているだけの行為。肉体から心は切り離されている。今の私は、多分、如何なる精神状態であろうが百発百中の精度を誇るだろう。弓道が弓術に変化し始めた………いや元からか。

 

 

 特に何かをするでもなく、片手に弓、もう片手に矢の形をした剣を握ったままぼーっとする。

 

 

 あぁ、どうしよう。

 何か体が動かない。重くないのに手足が動かない。何をしよう。何も浮かばない。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 溜息を吐いて、ゆっくりと深呼吸をして瞳を瞑る。

 肉体に心を戻し、抜け殻の体の重みを軽くするように、ゆっくりと。

 弓と矢を霧散させる。体を動かす気もなくなった。ならばどうしよう。今はまだ眠る気がない。眠くない。

 

 

 

「花は、どうなったかな」

 

 

 

 かれこれ一年近く放ったらかしにしている庭園の花が気になった。

 もし枯れていたら、少し落ち込む。それにあそこには人が来ない。

 気を取り直して、私以外に弓を引く者は居ない訓練場から抜け出して、キャメロットの中心の中庭に向かう。

 

 運が良いのか、キャメロットの回廊では誰ともすれ違わなかった。

 すれ違わない以上、特に問題もなく廊下を抜けて庭園に到着する。アルトリアからの善意で、私がここを好きに扱い始めてから、何も変化していない場所。

 

 

 花の柔らかな香りがする事に安堵しながら、庭園に入る。

 

 

 庭園の中心に聳える大樹。その大樹の下には、まぁ当然と言うべきか、ここを作り上げたもう一人の管理者のマーリンがいた。

 瞳を閉じ、穏やかな顔で眠るマーリン。

 マーリンの肩にキャスパリーグは居ない。私の気配を察しているのか、必ず事前に逃げる。当たり前だ。いずれ理を背負い、いずれ人類に倒される四番目の獣。『比較』の獣。恐らくこの国で最も相性が悪いのは、私だから。

 

 

 

「ん? おやこんな時間に珍しい。目的もなく、ただ頭に浮かんだ場所を彷徨っているのかな」

 

 

 

 私の気配を察したのか、マーリンは少し体を起こす。

 此方に問いかける口調には、何の変化もない。それで少し、気が楽になる自分がいた。

 

 

 

「マーリンは本当に何も変わらないな。マーリンは星みたいだ」

 

「え……な、なんだい急に」

 

「人から星が見えても、星からでは人は見えない。

 それが、マーリンの在り方に似ている。

 根本では人と違って、人の営みに交ざらないで、遠くから眺めていて、でもやっぱりマーリンは人と同じ価値観を共有出来ない。

 でもだからこそ、マーリンは星のように変わらない。だから星みたいだなって、そう思ったんだ」

 

「あ、えっと………え——えぇ? もしかして今ボク、口説かれてる?」

 

 

 

 いやそう言うのは流石にちょっと予想外なんだけど、と言っているマーリンがいた。

 何を照れているのかコイツは。

 女性を花みたいだと例えて色々とちょっかいをかけている事は知っている。私は全然聞かないけど、マーリンの女性関係の揉め事は悪名高い。

 こう言う事など言われ慣れてるだろうに。まさか純情なのか? あのマーリンが?

 

 ………あぁ。マーリンは花と例えられるかもしれないが、星と例えられたのは初めてだと言う事だろうか。

 流石に、星と言ったのは改めて振り返ると、中々恥ずかしい事を言ったかもしれない。

 気を付けよう。

 疲れている時とか眠い時、もしくは弱っている時はこう言う風に言葉がぽろっと出て来る。いずれ大惨事を引き起こすかもしれない。

 

 

 

「なぁマーリン。

 私の素顔は、知っていたのか。最初から」

 

「あー………まぁそりゃあそうだとも。世界を見通す眼を持っているからね」

 

「それは、そうだな」

 

 

 

 今更だなとは分かっていても、マーリンの反応はありがたかった。

 最初から気付いていて、マーリンは私にあぁ接していたのだから、本当にこの上ない。私の素顔がバレても変わらない反応をする存在が、こうまで有り難いとは分からなかった。

 彼女の顔、と言う印象はあっても、それでも私は生まれ付いてからこの体と顔なのだ。拒否されるよりは、受け入れられたかった。

 多分、そう言うモノ。

 マーリンはもしかしたら、受け入れるとかではなく関心がないだけかもしれないが。

 

 

 

「ところでキミ寝てるの? 眼の(クマ)が少し酷いよ」

 

「…………………」

 

 

 

 ………まさか、と思って目頭に手の平を翳す。

 すぐ目の前に翳した手に、一応ピントは合う。でもそうなのか。鏡で見たら、私は酷い顔をしているか。

 マーリンが言うのだからそうなのかもしれない。

 

 

 

「いや、嘘だよ。キミは本当に酷い顔色はしていない」

 

「………は」

 

「でも今、ボクの言葉を疑わなかったよね? 少し図星なんじゃないかい?」

 

「……………………」

 

 

 

 嵌められたと、心の中で唸る。

 知らず知らずに、マーリンへの警戒を解いていたからだろう。普段からの態度と変わらない事に、酷く安堵していたようだった。

 でもまぁ…………別に良いか。

 

 今となっては、マーリンを警戒する必要もない。

 ヒトデナシ、とこの時代から時々言われる彼だが、特に私が彼の行いで困った事はない。悪い感情を彼に何一つ抱いていない以上、彼を無闇に敵視する意味なんて無いのだから当然だ。

 と言うか感謝の方が多い。何なら、先入観を除けば感謝しかない。

 むしろ、ヒトデナシと人ではない存在だから何か気が合うのか、マーリンのそう言う気の抜けた反応が、私は別に嫌いじゃなかった。

 

 

 

「隣どうだい?」

 

 

 

 自分の隣の場所を、ポンポンと叩きながら彼は私に聞く。

 辺りを見渡せば、私が育てて来た花は枯れてなかったし、私の手入れが必要ない程に、瑞々しいままだった。

 マーリンがちゃんとやってくれたのか…………なんだ、花を育てるのだって、ちゃんとやれば出来るじゃないか。

 

 

 うん。だから。素直に彼の言葉に従って、マーリンの隣に座り込んだ。

 

 

 特に会話もなく、大樹に背を預けて空を見上げる。

 木の根の間に、私の体はスポッと収まった。

 赤く落ちる黄昏時。後小一時間もすれば陽は落ち、空は黒く染まり、月が覗く夜空になるだろう。

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 ぼーっしたまま空を眺めて、何げなく隣を見ると、マーリンを私の方を向いてニンマリとした笑みを浮かべていた。

 勝ち誇るような、やってやったぞとでも言いたげな笑み。

 

 

 

「…………なんだよ」

 

「いやぁ? 別にぃ? 隣どうだいって聞いたら、今度はちゃんと隣座ってくれたなぁーってねぇ?」

 

 

 

 マーリンは更に笑みを深くする。

 ニヤニヤと、ニンマリと。

 

 

 

「………あ?」

 

「あぁー、いやぁー、これはボクの勝ちかなぁ?

 だって数年前はもう、ものすっごい警戒されてたのに、ここまで気を許してくれるとは、もうボクの勝利じゃないかなぁ?」

 

「………………」

 

 

 

 ………なんだよコイツ、いきなり気持ち悪い事言いやがって。

 そう思案して、思わず距離を取———………る事はなく、溜息を吐いた。

 

 何か、別にこれで良いかな、と少し思っていた。

 本当ならこう言う反応に対してイラッと来そうなのだが、別に来なかった。そう言うふざけた口調と態度も………まぁマーリンだし良いかと、呆れるだけ済む。何だろう。自然と小さく、納得するような笑みが溢れるだけだ。

 こう言う風に深く関わらず一線を引いて関わってくれると私が理解しているマーリンだから、こういうバカみたいな事も許せるのかもしれない。

 

 

 

「で、キミは眠ってるの?」

 

「眠ってはいる。眠くなったら。でも最近は全然眠くない。後、飢餓感がするせいで時々起きる」

 

「…………そうか。それってもしかして、最近は夢は見ない?」

 

「まぁうん。見ない。今日は見た。夢というか、過去を思い出しているだけだったが」

 

「そっか。じゃあ——今日はどんな夢が見たい?」

 

 

 

 そうマーリンは切り出して来た。

 ニッコリと笑みを浮かべて。

 

 

 

「このまま、今日はここで眠れば良いんじゃないかい? それにここには人は来ない」

 

「まぁ……別に良いけど、マーリンは夢の内容を自由に変えられるのか? 他人の夢に寄生して覗き見るだけではなくて?」

 

「まさか! ボクを誰だと思っているんだい? ボクは花の魔術師マーリンだぞぉ?」

 

 

 

 夢魔という種族は良く分からないが、マーリンがそう言うからにはそうなのだろう。

 特に疑いもなかった。きっとそうやって、夢の中でもアルトリアと出会っていたに違いない。

 でも、何かなぁ…………

 

 

 

「マーリンが見せる夢って何か………嫌だなぁ…………」

 

「えぇっ! 何急に! いきなり酷くない!?」

 

「いや………夢魔の見せる夢って、何か甘ったるくて気持ち悪そう………何か吸い取られてそう……………」

 

「酷いなぁもう。流石にそんな事しないよ!」

 

 

 

 でも、夢魔として他人の夢から感情を栄養として食べる事が出来る以上、そういう事も出来るんだろう? とは流石に聞かなかった。

 マーリンにも尊厳というモノがあるだろう。それくらいの分別はつける。

 

 

 

「まぁうん。適当に。夢の内容なんて何でも良い」

 

「じゃあ青空の下、草原を自由に駆け回るような夢にしようかい?」

 

「…………分かった。それで」

 

 

 

 マーリンにしては普通に良いセンスだなと、かなり酷い事が頭に浮かんで来て、やっぱり先入観はダメだなと、瞳を閉じて体を横にする。

 私からすると、正直マーリンはただ優しいお兄さんでしかない。

 

 ほとんど風も音もしない庭園の中、マーリンの影響もあるのか次第に意識が薄れる。

 アルトリアが言う、私が次代の王に据えるなんて事をマーリンはどう思っているのか。マーリンはこれからどうするつもりなのか。何をするのか。

 再び目覚めた時、きっと面倒な事が起こるんだろうなぁと考えながら、いつの間に眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 




 
 ルーナ√解放者二人目——マーリン。
 これがゲームだったら、マーリンはイベントスチルを解放している。
 尚、主人公を攻略するという事は主人公に攻略されるという事と同義。故に主人公は鏡像。主人公に対し心を開かない人は主人公を攻略出来ない。

 しかし√を解放する秘訣は、恐らく好感度を『下げない』こと。つまり『何もしない』こと。
 そうすれば、少しずつだけど勝手に上がる。
 問題は、選択肢によって好感度が一点落下すること。
 しかもそれを結果が出るまでほとんど表に出さない。何ならフェイントも混ぜる。

 検証不可能なマスクデータ内部の数値で、エンディング内容が急激に変わる特殊な一定特化地雷。しかも2、3数値刻みでエンディングが複数あるタイプ。
 尚、攻略する為には当然、好感度を『上げる』必要があり、彼女に『関わる』必要がある。

 ただし√解放者一人目のモルガンは√解放後、時に引き、時に導き、時に距離を置き、時に背中を押し、その時々の精神状態によって変化する最適解の選択肢を選び続け、好感度を稼ぎまくっているスコアラーとする。
 
 

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