騎士王の影武者   作:sabu

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 主人公がアーサー王の役割を奪ったのなら当然、他のモノも奪うと言う話。
 主人公という代わりのモノが関ったのなら当然、その分だけ流動するモノがあると言う話。
 故にそれは妖精が作り上げた御伽噺ではなく、人が築き上げる歴史の宿業。
 


第85話 ■■■■(■■■■■■■) 後編

 

 

 

 

「………………はぁ」

 

 

 

 彼女はしばらく歩いてベディヴィエール卿から離れた後、深い溜息を吐いた。

 あれで良かった。良かったのだ。ベディヴィエール卿の命など背負える訳もないし、背負いたくはなかった。だから誰が何と言おうと、彼を突き放す選択で良かった。

 ただ彼女はそう思う事にした。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 彼女はベディヴィエールから、半ば奪い取る形で持って来た騎士剣を見る。

 細身のレイピアのような騎士剣。片手でも扱える事を重視した騎士剣。非力の証とも呼べるかもしれない。だが事実、彼はこの剣で円卓の席に座ってみせている。

 非力なら、非力なりに出来る事があると証明したのだ。だからこの剣は、何の変哲もなくとも本物だった。

 

 その剣を眺めて、彼女はキャメロットの廊下で黄昏る。

 不意に彼女は表情を変えた。

 

 

 

「はぁ———」

 

 

 

 再びの溜息。

 しかしそれは、憂鬱を表した溜息ではない。視界の端に一瞬映った人影へ向けた呆れと嫌悪。そして警戒と牽制。

 

 

 

「——久しぶりだな、グリフレット。貴様何をしに来た」

 

「いやぁ、ははは」

 

 

 

 当然のようにキャメロットに入り、当たり前のように横を振り抜け廊下を通り抜けようとした、教会の騎士に冷たく問いかける。

 当の本人は半笑いだった。感情を隠す為の笑いと、意識の端を突いた歩法による気配遮断を当たり前のように見抜いて来た彼女への、半笑い。

 

 

 

「まぁなに、ほら。義兄が——片腕を失ったと聞いたから、少し気になったんだよ」

 

「…………——————」

 

 

 

 三本しかない指の無い手をひらひらとさせながらそう告げた瞬間、急速にルーナの精神が冷え切る。向けられているのは殺意と敵意。どうやら言葉を間違えたらしい。

 次に間違えば本当に命に関わるとグリフレットは確信する。今のは明確な地雷だったのか。流石に勘弁して欲しいモノがある。

 とは言え、剣を抜いていないというのに、抜き身の刃を向けられているかのような鋭すぎる圧力を受け、グリフレットは目を逸らすしかなかった。

 

 

 

「いや、ホント。別に他意はない。敵意とかもないって。ちょっと——ちょっとだけ身体的な障害を負った義兄が気になっただけだから。別にもう執着とかしてないし」

 

「私の横を擦り抜けてベディヴィエール卿に会いに行こうとした貴様をどう信じろと?」

 

「いや、信じる信じないの域になると難しい。そう言う関係じゃないし。互いに互いを利用し合うだけの関係で信じるとか、そりゃあない」

 

「…………………チ」

 

 

 

 嫌悪感丸出しの鋭い舌打ちで、彼女は矛を収めた。争っている時間すら、無駄にしか思えなかった。しかし、もう一つ歩を進めてたら、間違いなくグリフレットを斬り殺すつもりであったのも事実。

 だが、境界線すれすれを渡る彼の事を本当に殺めるまでには、まだ一歩足りない。必ず最後の一線だけは踏み越えない。ならもう、その線を縮小させるべきだ。

 

 

 

「なぁ、アンタ………今かなり殺す気だっただろ」

 

「良く分かったな、お前。どうやらお前は成長する生き物だったらしい。昔のお前なら今日此処で殺していた」

 

「うわぁ」

 

 

 

 そして、グリフレットもそれに気付いていた。

 体の姿勢。視界となる位置。鎧の草摺の裏に隠した黒鍵が、彼女の手に滑り落ちるか否かだった。初手を奪われたら、そこからは死が確定している。

 信じ難いが、隣の十五の騎士は未だ成長途上。湖の騎士すら上回り始めにかかっているこの人物は、いずれ本当に円卓最強になるだろう事は目に見えている。故に、この人物に勝つにはまず初手を奪われたら話にならない。

 グリフレットがルーナに勝つには、初手で全てを決めるしかないのだ。

 

 

 

「にしても………アンタが女だったとは……………自覚すると途端に声とか身体付きとか可愛らしいものにしか見えて来ない」

 

「あ? それが何だ?」

 

「いやぁ別に。ただ単に意思疎通と把握の為に言っただけ。

 そういうのはもう辟易してるだろそっちは。と言うかそもそも俺からすれば、アンタは男とか女とかそういう次元じゃなくて、人か人じゃないかだから。

 どこをどう見れば女として見れるんだよ、人の形をしている竜を。末恐ろしいわ」

 

「………………」

 

「まぁ、一回くらいバイザー裏の素顔を見たくはあるけど」

 

「死ね」

 

 

 

 冷酷且つ淡々と告げても、グリフレットはヘラヘラと笑みを消さない。

 思いっきり眉を顰めている事を分からせる為にバイザーを外してやろうかと考えて、結局ルーナはやめる。交わす必要のない会話が増えるだけだ。

 

 

 

「で? 他には?」

 

「あー、なんだろう。新王としておめでとうとか?」

 

「そうか。それが本題か? 貴様」

 

「ハハハ………話が早い。まぁ俺の本題は義兄だったんだけど………まぁこっちが本題で良いよ、うん。

 いやほら。魔術師狩りはもう簡単に頼めない。立場がある。でそれとは別に、いや、あまり別じゃないけど、国が揺らぐと魔術師が活性化する。揺らいだ国の隙間に入り込むように」

 

「そうか。まぁ、確かにな」

 

 

 

 野良魔術師による被害は聞かない。

 当然だ。大抵は自らの工房に籠るかだし、仮に何かしらの被害を出してもそもそもバレないようにするからだ。被害を出すような魔術師はきっともう、淘汰された。魔術師とすら認識されなく、多くの騎士の英雄譚や物語の敵として。

 だが国が揺らげば話は変わる。時代の転換期をチャンスと捉えて行動を開始する輩もやはり居るのだろう。そういう事に関しては彼の方が詳しい。

 

 

 

「ここは神代を最後に残す島。

 極東のアレは魔術基盤が違い過ぎるし、そもそも根本となる神話体系に差異があり過ぎる。あそこは神代と言うより……独立した異世界だ」

 

「そう。つまりここが神代最後の島。ついでに言えば、アンタは神代最後の王」

 

「……………………」

 

「ブリテンが揺らぐという事は、魔術師も聖堂教会も揺らぐという事で、まぁ当然俺のような奴が動く。

 ——まぁそんな事は、俺個人からすると別にどうでも良い訳で、魔術師狩りが重要な訳で」

 

「訳で?」

 

「——俺を直属の騎士にする気はないか?」

 

 

 

 ニッコリと笑いながら浮かべた表情は底が見えないようで、ひたすらに不気味だった。

 忠誠でも何でもない。ずっと変わらず、互いに互いを利用するという一点のみがこの関係を結んでいる。彼がそう告げたのは、単にそれが一番己の利害に一致するからと言う理由だけだ。

 

 

 

「…………考えてやろう」

 

「おぉ。じゃあ魔術師に対する何か厳しめな裁定を国として打ち出すのはどう?」

 

「適当な事言ってると、貴様の口を縫い合わせるぞ」

 

「いや適当じゃない。結構本気。何ならアンタの口からそれをどうすれば引き出せるか、引き出せたら俺はどう言う風に協力すれば良いかを常に考えている」

 

「……………お前、本当に嫌いだな。吐き気がする」

 

「それは………何だ? 同族嫌悪? いやだとしたら共感するな。俺とアンタは根本が同じだと思ってるから」

 

「死ね」

 

「いや無理。死ねない。命の使いどころはここじゃない。何か最適な理由があるなら良いけど」

 

 

 

 露骨に嫌悪感を露わにして、口元を歪める。

 彼女はグリフレットを無視して歩き出した。さっきベディヴィエール卿と会話してからの、この男との会話は、何というかはっきり言って無理だった。

 

 

 

「で、アンタはどうする? 俺は変に思考や判断に無駄を入れず、またアンタの理解者として使える筈なんだが」

 

「……………チ。あぁ良いだろう。私がお前を最適に役立ててやる。だから私を役立てる為に、今ここで死ね」

 

「魔術師をこの世から一つ残らず消せる、とかなら二つ返事で頷く」

 

 

 

 皮肉に皮肉で返すようなやり取りの中、二人は歩く。

 騎士道を誉れとする世界で、騎士道に何の関心も抱いてない者同士、足先は同じ方向を向いていた。

 そして騎士道を誉れとしないが故に——同じ方向を向いているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走っていた。ひたすらに走っていた。

 場所はもう分からない。正確には分からない。ずっとずっと走り続けて、辺りはもう真夜中になっている。月明かりの下、ただ我武者羅に、モードレッドはある場所を探していた。

 だがこうしていれば、必ず見つかる。もしくは捕捉される。そういう確信だけはあった。直感ではない。ましてや信頼でもない。必ずそうして来るだろうという知識理解。ただの信用。

 心臓の鼓動が煩かった。息が上がる。その焦りは何から来る物だろうか。

 

 

 そして、いつの間にか辿り着いた。

 

 

 光無き城。燻んだ灰色の城塞。白亜の城とは程遠く、光に拒絶された影の城。それは自分が生まれた——正確には造られたその故郷。モルガンの居城。

 本来なら見つかる訳もない。だが見つけられたという事は、母上から城への結界を解き、招き入れたという事。

 

 

 

「……………ッ」

 

 

 

 城を見上げていると、足元が崩れ去って落下していくような浮遊感に襲われる。刹那、次の瞬間には視界に映る光景が切り変わった。

 

 

 

「——何を今更ノコノコと」

 

「………………」

 

 

 

 暗い城の城内。

 短く端的に告げる言葉と、鋭く冷たい眼差しが嫌悪感を露わにしていた。母上(魔女)からの視線は冷たい。親と子の関係など皆無だった。

 しかしそれでも、モードレッドは彼女に問う。問わなければならない。真実を知るのは彼女だけなのだから。

 

 

 

「母上………ひとつ答えろ。あの、あのルーナは、何だ」

 

「…………——————」

 

 

 

 途端にモルガンの視線から——何もかもが消えていく。

 モードレッドへ向けていた嫌悪感も、敵意も、あらゆる関心ごと。

 もはやモルガンは、モードレッドに何も向けていなかった。自らの血を分けた者という対象への関心も、思い通りにならずあまつさえ裏切った子供への怒りも何も。

 

 だからそれが——モードレッドにとって一番許せぬ返答になった。

 モードレッドの複雑な感情を道端の小石程度にしか思っておらず、偶然それが視界の端に映って来たという程度の意識。徹底した無関心という回答を以って、モードレッドの器だけを暴き立てる。

 

 

 

「答えろ——答えろモルガン!! アイツは、お前が完成させたオレの次のホムンクルスか!? それとも本当に魂から素体を作り出したお前の生き写し(クローン)か!?」

 

「………………………」

 

「——答えろモルガンッ!!」

 

 

 

 モルガンの、ただただ無感動無表情の冷たい視線がモードレッドを貫いていた。

 それが何だとか、だから何だとか、それでお前は何なんだとか、モルガンとしてもモードレッドに言いたい事はあったが、それはもう消えた。何もかもがどうでも良くなった。

 

 繋がった血もどうでも良い。

 王の血を引き継ぐ騎士王の嫡子である事も、どうでも良い。

 ただ、最高傑作のホムンクルスだったというだけ。もはや道は違えた。交わる事もない。隣合う事もない。

 故に今のモルガンにとって、モードレッドは他人だった。

 違う人生を歩み、互いに互いの関係を切り捨てた他人。

 

 

 ただ血が繋がっているだけの、他人。

 

 

 故に、血が繋がっている以外に関係のない他人からの問いにモルガンが答える言葉などなく、言葉を返す義理すらなかった。

 

 

 

「あぁ本当に、人を定義するのも、人と人を繋げるのにも、血なんて一切の関係がなかった」

 

「……………は………?」

 

「お前へと向ける関心などそれだけ。ただその事に気付かせてくれたという感謝。ただ、それだけ」

 

 

 

 吐き捨てるように鼻を鳴らし、モルガンは冷酷なまま追い討ちを放つ。

 

 

 

「モードレッド。お前が私の何なのかは、お前自身が決めた。いつまでも騎士ごっこを続けた、血が繋がっているだけの子供。

 ——アーサー王の血。アーサー王の嫡子。王の血を引き継いだだけの、騎士。それを全て台無しにした騎士」

 

「は———」

 

 

 

 モードレッドが硬直した。

 その出生の秘密。彼女は父となる者を今まで知らなかった。父の顔さえ知らなかった。

 しかし如何なる方法をモルガンは取ったのか、自らの父親は騎士王アーサーで、己はその嫡子だと言う。

 

 今の彼女は、それを疑問に思わなかった。

 ただ、母上がモルガンであり、父上がアーサー王だと確信した。

 

 

 

「オレが、王の、息子………?

 じゃあ。じゃあ本当は、本当なら——」

 

 

 

 俯き、わなわなと震える己の両手を見つめるモードレッド。

 しかしそれに何の関心も見出さず、モルガンは踵を返した。

 

 ただモルガンは、本当に血の関係などどうでも良いモノでしかないと確信する。

 優れた人間の血を引き継いだ人間が、必ず優れた人間にはならないのと同じように、魔女の血を引き継いだ者は魔女に味方しなかった。そして、王の血を引き継いだ者が王に据えられる訳でもないのだと、ただただ俯瞰するように認識した。

 

 

 

「オレが、アーサー王から——」

 

 

 

 俯きながらボソボソと告げるモードレッドに、ようやくモルガンは応じる。

 

 

 

「まさか。お前が王座につけなかったのなんて」

 

 

 

 血以外に関係はない。愛もない。情もない。義理もない。

 だから、いきなり視界に入って来て、突然此方の関係に触れて来て、ただただ目障りなモノとしてモルガンはモードレッドに吐き捨てた。

 

 

 

「お前に、王としての器がないからだ」

 

 

 

 その言葉にモードレッドは顔を上げた瞬間、城から弾き出された。

 もう用はないと言うように城から転移させられたのだ。

 モードレッドは仰向けで地面に叩きつけられる。辺りには何もない。あるのは木々と茂みだけ。モルガンの古城はもう見当たらない。きっともう、見つける事は不可能だろう。

 

 

 

「——————」

 

 

 

 何もかもが根こそぎ奪われ、空虚で空っぽになったような感覚を味わいながら、モードレッドは夜空に向かって手を伸ばした。

 "お前に、王としての器がないからだ"

 母上にそう断じられた。その言葉がまるで、アーサー王からそう呼ばれたように感じたのは錯覚か。剣が僅かにも動かなかった記憶が蘇る。

 

 抜けなかった選定の剣。

 ひたすらに無関心な母上。

 あの少女の存在だけを認める騎士王。

 

 誰もがそうだ。母上も、父上も、円卓も、民も——全てが全て。

 ただ王の影で良かったのに。誰もがルーナばかりを見ている。王の剣になれるだけで良かったのに。皆がモードレッドを見ていない。自分は騎士王の息子なのに。同じ魔女の子だと言うのに、何故。

 

 

 

「——なんだよ、それ」

 

 

 

 ぽつりと、モードレッドは呟いた。

 その言葉がモードレッドの空洞に溜まる。

 伸ばした手で握り潰すように、見上げた空の月を手で覆う。

 生まれてこの方とない怨嗟と憎悪に満ちた声が、空っぽになった己の空洞を満たしていく。

 

 おかしい。不条理だ。

 だって、同じ魔女の子なのに。こっちは王の血も引いてるのに。仮に——仮にアイツも王の血を引いていたとしても、本当なら自分が王位を継承する筈だったのに。

 

 

 

「——ふざけるな…………」

 

 

 

 騎士の末席。

 だがルーナは特別とされる末席だ。真の末席は自分だと言える。

 優秀さは隠れ、積極性は認めて貰えず、努力は配慮されない。同じモルガンの子供なのに。

 何より——己は後十年も生きられないというのに、ルーナは普通の人間と同じように生きる。歩める時間が最初から違う。

 いや、違う。もう違う。違った。ルーナだけは騎士王と同じように完璧な王として、神秘を体現する理想の王として、寿命から解き放たれたからだ。

 

 

 

「…………ふざけるな…………ッ———」

 

 

 

 憎い。何もかもが憎い。自分よりも長く走れ、なのに自分よりも先を進み、当然のように父上からも母上からも手を差し伸ばされた彼女が憎い。ありとあらゆる全てが許せない。

 

 

 

「————ッ!!!!」

 

 

 

 モードレッドは絶叫する。

 辺りの木々が震える程に、ただ言葉にならない声を張り叫ぶ。その絶叫と一緒に、今までルーナという少女と築いた筈の友情も、絆も、思い出も、全てが壊れていく感覚がした。

 

 本当なら自分一人が王に相応しい筈だった。

  ——彼女がどう言う生き方をしているか、今まで知っている。

 何もかも全てを、ルーナに奪われた。

  ——それだけの事を、騎士王にも母上にも、その二人の視界に入るだけの生涯を捧げている。

 

 壊れていく。

 バイザーで表情を隠しながら、静かに此方に向かって微笑む彼女の姿にヒビが入っていく。

 

 何故だ。何が違った。

  ——そんな事、本当は知っている。

 どうして自分は、こんなカタチで産み落とされたのか。

  ——そんな事、何の関係もない。

 

 誰が悪いという訳ではない。だから何もかもが憎かった。

 この国の全ても、己を見なかった騎士王も、己を認識しなかった母上も、全てが等しく憎かった。そしてそれ以上に、ルーナが憎かった。

 本当は王位とか王座とか、その位に辿り着いたルーナは関係ないと心の何処かで理解しながら。彼女の事を今でも本当は気に入っていながら——それでもルーナが憎かった。

 

 

 

「———破滅させてやるぞ」

 

 

 

 そうしなければ、モードレッドは壊れていた。

 今の彼女は、復讐心でしか己を保てなくなっていた。

 そんな当然の事で止まれたのなら——モルガンが復讐の魔女と呼ばれなかったように、モードレッドは"妹"を心の底から憎んだ。

 

 故に誰もが見誤った。

 誰もがモルガンを見ておらず、故に誰もがモルガンを見誤ったように——誰もがモードレッドを見ておらず、故に誰もがモードレッドを見誤った。

 

 

 

「必ず破滅させてやる——」

 

 

 

 誰もが己を見なかった。騎士王も魔女も、誰も。

 だからそう、必ず貴様の全てを台無しにしてやる。だから、貴様だけは必ず——オレを見させてやる。オレの名を忌々しいモノだと謳え。最悪の姉だと叫べ。

 この名前と存在を貴様にだけは刻み付けてやる。あの竜の如き金色の瞳を染め上げてやる。ただ一人唯一、誰しもが敵わなかったあの黒き竜の化身に傷をつけてやる。

 故にもはやどうでも良い。父親も母上も、騎士王のように理想の騎士になるなどどうでも良い。選定の剣に挑む機会など必要ない。

 

 だからルーナが憎い。だからルーナが許せない。

 何より、己の存在価値が無になるなど——それだけは決して。

 

 だからルーナ。己の存在価値を奪い取ったお前を、お前だけは、必ず——

 

 

 

「何もかも、何もかもを破滅させてやるぞ———ルーナァァァァアアアアッッッ!!!」 

 

 

 

 月明かりの下、モードレッドは叫ぶ。

 泣きながら、憎悪しながら、激昂しながら、"姉"は親としての愛情も王としての期待も、人としての存在価値さえも、何もかも全て奪っていった"妹"を恨む復讐の妖鬼へと堕ちていった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 第85話 Fate (歴史は繰り返す)

 

 

 

 


 

 

 

 第一演目

 

 王

  ウーサー

 傍観者

  マーリン

 妹

  アルトリア

 姉

  モルガン

 

 

 第二演目

 

 王

  アルトリア

 傍観者

  モルガン

 妹

  ルーナ

 姉

  モードレッド

 

 

 




 
 運命の弄びによって宿命の対決を余儀無くされた兄弟。
 ブリテンに於けるカルナとアルジュナ。
 
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