魔術関連に独自解釈と独自設定あります。
そこまで違和感がある様な、逸脱したものでは無い筈……多分。
後、主人公はもう少し悶々とします。
ちゃんと吹っ切れるので許して。
————
何故、認めない?
「……さすがは太陽の騎士、屈強なりガウェイン卿。見よ。貴公の光はヤツの胃に収まりきらなかったと見える。
卑王はガラティーンの光を飲み込んだ事でエクスカリバーの光までは飲み込めなかったらしい」
何故、まだ死なない?
「アーサー王! 敵はブリテン島全てを肉体とするもの……聖剣と云えど、敵いませぬ! ……今は撤退を!」
「もう少しだけ手を貸すものだぞ、ガウェイン卿。
私と貴公が揃っているのだ。島の癇癪の一つや二つ、聖剣の担い手なら鎮めなくては立つ瀬がない」
何故、まだ諦めない?
「——王! 魔竜の手を封じました!!」
「——ッ、それでこそガウェイン卿! もう片方も塞げば……これで空には逃げられまい!」
何故、私は窮地に追いやられている?
——最果てより光を放て——
何故
——其は空を裂き——
お前は
——地を繋ぐ——
竜でありながら
——嵐の錨——
そこまで
————
——人であろうとする?
サーヴァントとマスターは魔力というパスで繋がっているので、時々夢の代わりに、相手の過去を見る事がある。それを私は異邦の知識故に知っている。
しかし私はサーヴァントでもマスターでもない。だから、生前にこんな経験をするとは露ほども思っていなかった。
今流れてきたのは、きっとヴォーティガーンの記憶の一部なのだろう。
ヴォーティガーンの全ての記憶を覗いた訳じゃないし、見れたのは、アーサー王とヴォーティガーンの決戦の場面だけ。魔竜ヴォーティガーンが朽ちる寸前の記憶。
それは……一人の"人間が"竜に挑み続けた光景。魔竜に挑み続けた、人間の可能性の極み。正しさの極致を体現し続ける一人の騎士。その姿。
アーサー王——アルトリアは諦めなかった。
強大な魔竜と対峙しながらも、何度も窮地に晒されながらも、それでも諦めない。いかに体が震え、恐れを抱いていたとしても、仲間を励まし続け、立ち向かってきた。
彼女は如何なる状況に落ちようと、自分がどれ程傷付こうとも、逆境に遭ってこそ貴くあれるのだと、その身で体現し続けた。理想の光そのもの。
どれだけ光がない状況でも、如何に醜悪な世界でも、人と言うのは輝ける存在なのだと彼女は証明し続けている。
誇りを、栄光を、信義を、"理想"を、彼女は貫き続けている。
人々の……理想で……あり続けている……
あぁ……彼女は強すぎる。
あぁ……彼女は正しすぎる。
あぁ……彼女には間違いがなさすぎる。
彼女に一片の曇りはない。一つの間違いもなく、一切の穢れもなかった。
故に彼女は清廉潔白なる理想の王。尊き心を持った理想の騎士。誇り高き……竜の化身。
彼女は最期まで、その強さを正しさを保持して貫き続けるのだろう。
彼女は最期まで、諦めずその身が朽ちるまで運命に抗い続けるのだろう。
彼女は最期まで、一人でも多くの人々を、救い続けるのだろう。
竜が持つ気高い、飛翔する為の両翼。
彼女はその翼の代わりに、その両腕で運命の波に抗い続け、その両腕で抱え切れる人全てを、救い続ける。
その姿は……余りにも……気高い。気高き過ぎた。
彼女の強さを感じると……私の弱さが晒される。
彼女の正しさを見ると……私の醜さが露見する。
彼女は常に自らの理想を胸に、人々の為に前を向いている。
私は、後ろ向きな理由で、自分勝手なエゴを貫く。
私は、きっと……彼女の前に立つ資格は……ない。
私は彼女に、復讐したい訳じゃない。でも……まったく恨んでいない……訳でもなかった。
私は……私は……
アルトリア……貴方は何故……そこまで——
それでも
……それでも…私は
……それでも…私は……あの日に……
あぁ……つらいなぁ……
「…………………………」
私はそうやって目を覚ました。
体の違和感はない。脳を灼く様な痛みは皆無。気分はもの凄く悪い……それは自分以外の異物が入り込んだ感覚故にではない。
彼女の強さと、正しさを見て……少し——死にたくなったから。
「起きた? 目覚めは……余り良さそうではないわね……大丈夫?」
私の様子を覗きこむ様に、モルガンが私を確かめていた。
彼女の表情は魔女の様な作った物ではない。敵対した相手に向ける様な殺意も、何もなかった。本当に、本当に心配そうに私を見ている。私の状況が気掛かりなのだろう。
彼女の金の瞳に映っているのは——まるで自分の子供に対するそれ。
「……………」
私は彼女の瞳を無視する様に、彼女の心配の意図を考えない様にしながら体を起こした。
体の不調はない。違和感も……ない。強いて言うなら、私の中に燃えたぎる様な、何かを感じる。そして私は自分の手、正確には肌を見る。
——白い
自分の腕がどういう色をしていたかは理解している。この一年間見てきたよりもやや、白くなった。人形の様に白く、人ならざる薄い色素。
この素肌を美しいと取るか、不気味と取るかは人によって分かれるだろう。更に自分の目線の上にチラチラ覗く金の髪。この金の髪も色素が薄くなり、星の光の様な鮮やかな金ではなく、月の光の様な淡い金色。
「意識ははっきりしてる?」
「あぁ……大丈夫だ……私の意識ははっきりしてる。
少し、自分の変化を見ていただけだ」
「そう、なら良かった。貴方、一週間近く眠っていたから。起きたらしばらく自分が誰なのか分からなくなってしまうかもしれないと思ってたの。でも……本当に良かった」
「……そうか」
「はい鏡。今の貴方は凄い素敵よ。竜の様な瞳が特に」
彼女から手渡された鏡に映る自分の顔を見る。やっぱり顔の色は、肌と同じくやや白い。自分の髪の毛は全て、薄い金の色。そして"黄鉛色に澱んだ金色の瞳"。
あの人と同じ顔なのに、鷹の様に細められた切れ目の瞳から、冷たさしか感じられなかった。
……アルトリア、オルタ。更に言うならリリィ。あの人の、可能性の具現化としての、もしくは幻想の過去としてではないリリィ。私は本当に体が小さいからだ。120cm強あるかどうかくらいの幼女。
まぁ……自分でも幼女に見えないくらいに目が据わっている。子供らしさは私の形だけだ。
「体に不調はない? 何か違和感とかあるなら、教えてね?」
「いや、何もない……なんとなく呼吸をするたびに体が軽くなった様な……そんな気がする」
あの日私は生まれ変わったと言ったが、多分、今日が本当に生まれ変わった日なのだろう。自分の胸がほのかに熱い。自分を肉体を駆け巡る、血の一滴一滴が、脈動している様に感じる。
「よし……今改めて調べて見たけど、何一つ異常はないわね。同調率は完璧。貴方の中に宿った竜の機能は貴方を一切拒まず、稼働してる」
モルガンは私の頭に手を置いて、何かの魔術を行使しながら教えてくれる。
魔術師として最高峰の一角にいるモルガンがそう太鼓判を押しているのだ。きっと大丈夫だろう。
「……うん……貴方は今まで泣き事一つ言わず、そしてこの竜の機能を体に付けるという行為にも耐えました——良く頑張りましたね」
「——えっ……?」
そう言って。彼女は私の頭を撫でた。
その手つきは、本当に、本当にひどく優しい。彼女の慈しむ様な目は、柔らかに浮かべた笑みは、決して魔女のそれじゃない。
——とある笑みと重なる。
「何? もしかして、今までちゃんと褒めた事がなかったからって驚いてるの?」
彼女の、少しむすっとした顔。
魔女らしい妖艶さは消え、無垢な婦人の様な、いつまでも見ていたい様なそれになる。
私は驚いている。
もちろん彼女が急に褒めたからではない。
私を褒めてくれたあの顔。むすっとした顔。その笑みを、私は知っている。
——今のはアルトリアの笑みだった。
当たり前だが、モルガンはアルトリアの姉で、彼女の容姿はアルトリアに似ている。
今まではさっぱり意識した事はなかったし、彼女の浮かべてる笑みはさっぱり違う物だったから重なる事なんてなかった。でも、今この瞬間のは違った。
とある世界線の最後。全ての決着が終わった後。
王としてでは無く、一人の少女として、ひとりの少年に告白を告げた瞬間の、小さな微笑み。
自らを軽視したり底抜けの鈍感さを見せる少年と、自分のことをさっぱり曲げない頑固な少女が繰り広げるやり取りの中で時々見せる、少女のむすっとした表情——今のはそれとまったく同じ表情だった。
本当に自分が安心出来るものだけ、心を許しているものだけに向ける笑み。
今までは違った。
時々揶揄う様な笑みもごまかせた。
彼女から溢れる心配の声も聞こえないふりをできた。彼女が私に向ける視線も見てないふりを出来た。
でも……今のは——母親の、顔だった。
……なんだよ、それ。
やめてよ。
あんまりじゃないか、なんで今、もうこんな戻れないところにまで来て……私を戻らせたくするんだ。私の決心が……揺らぐじゃないか……何もかもから…逃げたくなるじゃないか……
あぁ……でも。それでも……今だけ。ほんの少しだけ……私の母親と同じ温もりが——
「……ごめんなさい。なんでもない。
……うん! 貴方の体も強くなったんだし、早速魔術の修練でも取り掛かりましょうか?」
モルガンは私の頭に乗せていた手をすぐさま外した。
私はモルガンが撫でていた頭に、同じ感触を残す様に、私の手を当てる。
少し……私はダメになってしまったかもしれない。蓋をしていた感情が、あそこに置いてきた筈の感情が戻ってきたかもしれない。
もしかしたら——泣きそうになったかもしれない。
それでも——それでも私はあの日に誓った。だから——だから、これは私が得られた最後の温もり。モルガンが見せてくれた、置き去った筈の愛情。
——最後の、幻想。
せっかくモルガンが最後に見せてくれたんだ。
なら私は、モルガンに無理に気を使わせたくない。私は——戦う。私は、あの日に誓ったから。
「……ありがとう、モルガン。私はもう大丈夫だから。
私は——頑張るから」
モルガンに安心させる為に微笑む。
それはぎこちない物ではなく、自然と出るような笑みだった。
今更になって悟る。
……モルガンからしたら、復讐対象の微笑みだ。
それでも姿が変わったから、彼女の中では重なっていない様、祈るしかない。
「ぁ——————」
彼女はしばらく放心していた。
顔は驚愕に溢れて、瞳は、思考の空白を表すかの様に丸くなっている。側から見れば、この女性があの妖妃モルガンだとは誰も思えないだろう。
この表情をずっと見ていたい。少しだけ、そう思った。
「——何だ? もしかして、今まで私がちゃんとした感謝の言葉を言ってこなかったからって驚いているのか?」
さっきモルガンから言われた言葉を意趣返しにして返した。
軽い嘲笑も浮かべて。今の私はオルタとなったのだから、恐ろしく様になっている筈だろう。アルトリアとは絶対に重ならない。
「———はぁっ!? なっ……あ、貴方! …………はーぁぁぁ、もう……」
モルガンの慌て振りに、私はニヤニヤとした笑みで返す。
今の醜態は、多分もう二度と目にする事はないだろう。今までの彼女が見せてきた表情とはどれも一致しない。少しだけ、彼女のその表情を見れた事が嬉しかった。
「……貴方……魔女よ……」
「まさか、魔女モルガンにそう言われるとは。私は魔女の剣だぞ。褒め言葉にしかならないと思うんだが」
「ふふふっ………確かにそうね」
そう言ってから、少しずつ二人で笑い合った。
そこに悲観はない。今の会話で互いを覆っていた諦観は消えていった。
「……えぇ、私も覚悟を決めました。貴方はもう強大な力の源をその身に秘めている。なら、後は私が貴方の背を押して、貴方がその方向性を決めるのみ。
これからは更につらい修練の日々になるでしょう。覚悟はいいですか?」
「まさか——問われるまでもない。私はやるよ」
「結構。貴方の……その生き様、私が——見届けてあげましょう」
彼女は最後に、名残惜しむような、悲しむような、悔いているような、そんな目をしたが、すぐにその感情は消え。強い信念が浮かぶ。
私も、同じようにモルガンと同じで、より深い金色の瞳で返す。
魔女と、その魔女の"竜"は互いにニヒルな笑みを交わす。
もう、互いに戻れる道は消えた。なら、後は突き進むだけ。その道の果てに、救いがないのだとしても。
更に一年は飛ぶ様に過ぎていった。
私とモルガンの関係は変わらない。殺し屋とその道具。
これはあの日から変わってない。強いて言うなら、殺し屋はその道具を慈しみながらも使うと決めて、道具は、扱われる事になった主人を可能な限り尊重する事にした。その程度の事。
早速始めたのは魔術の修練だった。
私は元々なんの力を持たないただの人間だったが、私はモルガンより授かった、魔竜と化したヴォーティガーンの心臓をその身に宿した竜の化身と化した。
ただの呼吸で桁が違う魔力を作り出す、生きている魔力炉心そのもの。既に、普通の魔術師では到底生み出す事が出来ないだろう、魔力をその身に循環させ続けている。
魔術師としてみたら素質はないかもしれないが、桁違いな魔力故に権利はある。そして私が魔術を教わるのはあのモルガン。もちろん私はモルガンの様に魔術を極めるつもりはないし、モルガンも私に全ての術を授けるつもりはない。
単純にそこまでの時間はないし、目的は力をつける事だ。
魔術で火を起こして攻撃するよりも、剣で切り掛かった方が早いし楽。だから私が教わるのはこの体に宿る魔力を使った、"魔力放出"と身体強化の魔術を中心としたものだった。
魔力放出はまだ良いとしても、魔術に関してはまずは、自分自身に魔術回路を作成する必要がある。魔力だけでは指向性がないのだ。魔術師なら、開く。でいいのだが、私は一回この体に作る必要がある。
まぁ作ってしまえば、後はその回路を開くだけで繰り返し使えるから、あまり問題ではない。
そして、魔術回路を作り出すその日、モルガンから助言を受ける。
魔術師にとって最初の覚悟は、死を容認する事。
魔術は常識から離れたもので、殺すときは殺す。並大抵の集中力では魔術は使えない。
私はこれと似たような事を異邦の知識故に知っている。
覚悟はしているし、モルガンからも、今更貴方に覚悟を問う必要はなかったわね、と言われた。本当の"魔術師"だったらもう少し、覚悟や責務などのやり取りがあったのかもしれないが、二人とも正確には魔術師ではない。
ただ魔術を自分勝手に使うだけの、魔女とその竜に本当の"魔術師"としての覚悟はさらさらなかった。
そして私は、モルガンの立ち合いの下、自分の体に魔術回路を作る。
私は広間の一室に腰を下ろし、胡座の状態で深く瞑想する。瞳を閉じ、意識を深く沈める。大きく深呼吸し、魔力を循環させる。
——順序は逆。
自分は魔術師の家系じゃないので、継承されてきた魔術回路は一本たりとも存在しない。体に魔力を作る為の回路を作るのではなく体に宿る魔力を使い、回路を作り出し、開放する。
本来の体には存在しない筈の神経を作りだす。
自分の体の中。
体の内側の内臓。
血肉の全て。
指先の爪。
髪の毛一本。
自分を構成している、あらゆる物資。
それら全てをイメージし操作する。
自分の体を魔術を使う為の道具に作り変えるのだ。その為の集中力などモルガンとの、一年でとっくに身につけている。自らに駆け巡る混沌とした、竜の魔力を、少しずつ回路の形に落とし込んでいく。
自分だけが持つ、この脳に灼きついた異邦の知識も役に立った。
かの人物は、自分の体をイメージし仮想した意識を潜行させるらしい。
魔術回路を作り出した自分をイメージし、それを完璧に、寸分の狂いもなく自分の身体に"トレース"する。
つまり、イメージするのは、常に——最強の自分。
その瞬間、音を聞いた。
熱い鉄に金槌を撃ちつけるような、そんな音だった。
それと共に、体に走る電流の様な刺激。
体の内側が全て脈動するかの様な感覚がした。ただ体を駆け巡るだけの混沌としていた魔力が、魔術として行使できる道筋になる。自分の両腕から、首元にまで配管の様な赤い回路が走る。
こうして、魔術回路は完成した。
自分は深く沈めていた、意識を戻して、目を開いた。
「出来たよ」
「……正直言って……貴方のその集中力、気持ち悪いわ……貴方の頭、どうなってるの……?」
「……褒め言葉として受け取っておく」
そして、私が自らに作り解放した魔術回路により、モルガンは私という存在の特性を教えてくれた。
私の起源は……"変換"と"強奪"。魔術属性は、風。
モルガンはこれを見て一言、異常と称した。
何回も言われてる。とある男性の起源は切断と結合で、それに噛み合った魔術属性の火と土らしいのだが、私は起源も属性も何一つ噛み合ってないし、風なんていう希少属性持ち。でも起源は二つ。
風は、多分私の顔や体がアルトリアと同じだから、
それに変換と強奪は、私がヴォーティガーンの心臓を宿した為にモルガンやヴォーティガーンが持つ、超常の力の一端がその身に宿ったという事……なのかもしれない。
でも、ヴォーティガーンが宿る前からその身に変換するみたいに物事をなぜか覚えられていて、モルガンから不審がられていたのを良く覚えている。
これは元から、私にあった起源がより明確な形になって認識できる様になったという事なのか。
確かに私自身が、"誰かの記憶"をその身に"変換"した存在とも言えるかもしれないし……もしくは、誰かが、"私の肉体"を、"強奪"したとも言えるかもしれない。
結局、答えは出ない。でも、もうどちらでも良い。私は変わらない。
そして更にこの起源が表に出てきたからか、少しだけ自分の体が変化した。見た目が変わった訳ではなく、自分の内側の話。竜の機能が変化した。——呼吸によって、大気に溶け込んだ魔力を自分に変換する様になった。
心臓から生み出される魔力。
更に大気から、その身に変換する魔力。
簡単に言えば、アーサー王と同じ肉体に、外付のバッテリーがあるに近い。
これはアーサー王が持たず、私だけが持つ能力。私は経験と……心の強さは……アルトリアに劣っているだろうが、力の伸び代や素質ではアルトリアを上回っている可能性がでてきた。
アルトリアとは……余り戦いたくはないけれど。
きっと……彼女と敵対したら……罪悪感で死にたくなるから。
私は彼女に復讐したい、訳ではない。でも生きるには力が必要になってくる……それだけ。
こうして、魔術回路を解放し、魔力を滾らせた私はモルガンからの教えを受ける。
でも、モルガンとずっと一対一で教えを受けた訳じゃなかった。変わらず、剣で切った方が早いのだから、私が教わるのは強化と言った極々基本的かつ初歩的な魔術だけ。
教わった後は、それだけをひたすら繰り返し、速度と強度を上げ続ける。
後は——投影魔術。
これを試して見ないか? といったのはモルガンだった。
普通の魔術師が投影魔術を行なっても、剣なら大した刃のないなまくらにしかならない。
自分の中にあるイメージを具現化し世界に鏡像として写しだす魔術なので、イメージに少しでも破綻が起きようものなら霧散する。
そして記憶とは少しずつ薄れていくものなので、造形が少しでも複雑なら似たような形の何かにしかならない。
劣化が激しく、世界の修正力で、数分で消える。魔術で物質化させても、大したものにならないのだから、ちゃんとしたものを用意して代用した方が良い。
儀式の時などで、道具がない時の間に合わせくらいにしか使い道がない。
使いどころがほとんどないと言われるくらいに効率が悪い魔術なのだが、私の起源が“変換"、そしてモルガンが言うにかなり集中力が高いらしいので、もしかしたら、オリジナルに近づけるものを作れるかもしれないという事で投影魔術を教えてもらった。
ついでに、剣を投影してなまくらだった場合でも、今やってる強化の魔術で鈍器として扱えば十分に人は殺せるし、貴方の身体能力を見るなら、かなり相性が良いだろうとも言われた。
正直言って、私の異邦の知識が反応する。反応しない方がおかしい。
どう考えても、未来にて、多分現れるだろうあの少年の魔術と同じ。しかも今やってるのはひたすらに修練してる強化、ここに投影魔術と来た。
もちろん、私がやる強化は、物資よりも身体の強化に重みを置いたものだし、"魔力放出"による補助に身体を強化するくらいだ。
そして私には宝具級の、聖剣や魔剣を投影できる訳がない。
さらに言ってしまえば、あの少年がやるあれは厳密には、投影魔術ではない。
それでも、私はこの魔術で、あのアーサー王に近づくのだ。
でもそれを知るのは私だけ。もちろんモルガンに悪意などある訳がない。自分にあった魔術を教えてくれるのだ、拒める筈ないし、私も拒む気はない。
多少複雑ではあるが、私に適した魔術であるのだからと私はモルガンから投影魔術も教わる事となり、より自分の性能を上げ続ける。
こうして私は、魔力放出、強化、投影の三つのみをひたすら修練し続けた。
そして、私がモルガンに拾われてから二年。竜の力を得てから一年。
城塞都市ロンディニウムが、花のキャメロットに作り変わったとの情報が、島中を駆け巡った。
新たに出来た居城で、アーサー王が凱旋式を行うという情報が、島を沸かせる。
運命の揺り戻しがすぐそこまで迫っていた。
竜と竜が出会うまでもうすぐ。