その体は鉄と炎。
Steel is my body, and fire is my blood.
月の綺麗な夜だった。
降り注ぐ月の光が妖しくキャメロットを照らしている。
白亜の城に作り出された影は、今ばかりは不気味であり、多くの人が不吉なナニかを感じ眠れぬ夜を過ごしていた。
「大丈夫か、お前」
「……………」
「大丈夫じゃないみたいだな」
当てもなくキャメロットの回廊を歩いているトリスタンを一目見て、ケイが小さく嗜めていた。
トリスタンの風貌は酷い。野盗に身を窶した騎士と勘違いされてもおかしくはないだろう。フラフラと歩く姿は幽鬼そのものだ。
しかしそれは、同時にあのトリスタン卿がそうまでに身を堕としてしまう何かがあったと言う事。彼がキャメロットを去ってからの年月の間に。
何があったのか。ブリテンを離れた後の動向は良く知らない。
「何しに戻って来た」
「誓いました。必ず戻って来ると。だから、戻って来ました」
「そうまでしてか?」
ケイは、トリスタンが危うい状態にあるのを見抜いていた。
万全とは程遠い。体の調子がおかしいのが一目で分かる。毒でも盛られたか。もしかは呪いでも受けたか。
トリスタンと交差する視線。彼の瞳は汚れている。
「彼女は、どこに居ますか」
「………彼女——あぁ、そうか。アイツの事か」
「遠い話には聞いています。アーサー王から玉座を譲り受けたと。それに、選定の剣の事も」
「会ってどうする」
彼が危うい状態にあるのは分かっていた。それは——精神面もだ。
元より彼は危うい精神でキャメロットを去っている。それが新たな出会いで落ち着いたか、取り戻したかと思えば、今のトリスタンはそのどちらでもない。
むしろより悪化したと言っても良いかもしれない。今のトリスタン卿を支え、同時に縛っているのは良くも悪くも、アイツのお陰でありアイツのせいだ。
「分かりません——何も、分からないのです。
全てを失いました。新たに得たモノもありました。それで、何も分からなくなりました」
「へぇ……」
「だから、ただ思うのです。
彼女に会いたいと。彼女に会えば、答えなど見つからなくとも——何か分かるのではないかと」
それは何もかもを失い、伽藍堂となり、しかし何かをまだ探し求めている迷い子のようだった。
暗闇の中で果てる事を選ばず、しかし暗闇の空に星はなく、当てもなく彷徨い続けるしか他になくなった者。
彼が言うように、ここでは無いどこかでトリスタンは何かを得たのだろう。それも答えに近い何かを。それを得た上で、彼は全てを失った。
だから彼に残っているのは、答えを探し求める決意を決めた日の、原初の情景だけなのだ。
「………ハ。そうやっていつまでもアイツを脳裏の片隅に入れているから、お前は全てを失ったんじゃないのか?」
「かも、しれませんね」
トリスタンは反論してこなかった。
彼は今、本当に全てを失っている。彼が掲げた正義も、守りたかった愛への信念も。何もかもが揺らいでいる。
だから。
「……………」
だから——もしもなんて答えはなかったのかもしれない。
ケイ卿とトリスタン卿。二人は回廊を歩いていた。
誰が悪いと言う訳でもない。決定的に間が悪かった。在り体に言うならば、運命の巡りが悪かった。
「あれは………———あれは何ですか」
それは月の輝く日の事。
それは宵闇の星が極限まで輝いていた日の事。
「ギネヴィア王妃。ランスロット卿。
二人は、何をしているのですか」
その日。愛と正義に生きて、その果てに愛と正義を決定的に失った騎士は、ギネヴィア王妃がランスロット卿に泣き付いている光景を見た。
壊れて停止した機械が、何の偶然か突如再び機動を開始する事がある。
極めて稀だが、そう言う事象を無視してはならない程度には、確かにある。
彼女が再び動き始めたのも、そう言う事象に等しかった。
いつの間にか、廃城には雨が降っていた。
降り頻る雨。体を伝う水の冷たさで彼女の意識は覚醒し再起動する。気付けば涙は止まっていた。
意味もなく天を見つめていて、右手には黄金の剣が握られたまま。ただずっと空を見上げていた。その刃で自刃すればどれほど楽になるだろう。
だが今の彼女には、そんな事は浮かばなかった。
それをしてはいけないと言う判断ではなく、単純に何も思い浮かんでなかった。在り体に言えば、彼女は思考が停止していた。停止したまま、何の偶然かまだ動いているだけだった。
掲げた信念も、想いも、その全てが通り過ぎたまま戻って来ない。
だから彼女を動かしたのは、剥き出しになった彼女の残り香にも等しい善性だったのかもしれない。
視界の端に映る、ギャラハッドが使っていた盾。壊れたロンの槍。偽物でも贋作でもない、真物の影となった神剣。
持って帰らないと。ギャラハッドの為にも、ちゃんと持って帰らないと。
それだけが彼女の頭の中に浮かんでいて、彼女を動かす中身、即ち機械を駆動させる命令として動く。
ギャラハッドの亡骸を埋葬する気は起きない。
その余裕がなく、また彼の亡骸を埋葬すると言う行為が彼の死を決定付けるようで、ダメだった。
だから彼女は盾に槍、剣を持ち、ギャラハッドの亡骸を抱えて、真っ直ぐキャメロットに帰投した。
何日も眠らず、休まず、食べず、ただ歩き続けてキャメロットに戻った。
凡そ人の所業ではないそれ。
しかし彼女は人ではなかった。彼女は機械であり、機械ならば無理な稼働を壊れるまで継続出来る。だがそれでも彼女は壊れており——もう壊れているが故に、更にそこから壊れる事なく動けるナニカとなっていた。
キャメロットの白亜の門を潜り、王城へと入る。
道すがらの人々の声に彼女は気付かない——人々の異常にすら気付かない。
そう言う精神状態に、彼女はいなかった。まだ戻れていなかった。
だから彼女はそのままキャメロットに入室し、すぐにギャラハッドの部屋に向かう。
彼の亡骸を寝台に降ろした。
見ている限りだと、ギャラハッドは眠っているようにしか見えない。
だがルーナは知っている。彼の亡骸は軽く、そして冷たく、胸は一切上下していない。死んでいるのだ。
「陛下!」
扉を開けて出迎えてくれたのはパーシヴァル卿だった。
声をかけられるまで気付かなかった。今の自分を殺そうとする輩がいるなら、それは容易く済まされるだろう。
そんな事すら、彼女から抜け落ちている。
「———、……これは」
パーシヴァルはその光景を見てすぐに悟った。
口を閉ざしたパーシヴァルに、彼女は答える。
「聖杯探索は失敗した」
すらすらと、思いのほか容易く言葉が紡がれる。
それは例えるなら透き通ったナニか。透き通り過ぎて何もない。しかし瞳は何処まで澱んで、能面のような表情の彼女はパーシヴァルに振り返る。
「その末、ギャラハッドは聖杯の奇跡に触れ、昇天した」
それは彼女に僅かに残った善性が抗った故の言葉かもしれない。
そして何より、彼女が望んだ願望が投影されているのかもしれなかった。
ギャラハッドがどう言う果てに命を落としたのかが、たとえ真実で無かろうとも穢れないようにしたかった。そう言う想いと、昇天したというのなら、また戻って来るかも知れないと言う逃避。
肉体と魂。
消え去ったのは魂だけ。だから肉体があるなら、まだ戻ってくる可能性がある。だからギャラハッドの亡骸を埋葬しない。
そう言う深層意識が、彼女の行動に反映され、それ故に彼女はまだ動いている。
「神秘が消える中、神秘に頼ったのがいけなかった。
その誹りは甘んじて受け入れる。私が不甲斐のない王だと言う事実も受け止める。
だが人が欲しているのは私の懺悔ではなく、今の私が何を出来るかと言う事実だけ。早く事を済ませる必要がある。聖杯がダメだった以上、異なる血を受け入れ島の在り方を少しずつ——」
「……陛下、お話が」
そう言ってパーシヴァル卿の横を抜けて部屋を出ようとした時、言葉を遮られる。
「何だ」
「その………陛下が国を後にしていた間の出来事なのですが………」
言い辛そうに、パーシヴァルは自らの言葉に口を閉ざす。
それだけで重要な事だと分かった。公にし難い上、扱いに困る話だと。人間のこういう反応に対してばかり、理解の速度が速い。
こう言うのを良く見て来たから。人のこう言う反応を知るのに長けて来たから。
その事実、己の魂の底から焼き付いている性質に、己が活性化していく感覚を味わいながら、彼女は言葉を返した。
「何かがあったのか」
「ギネヴィア王妃の……不貞が——」
「露見したのか」
それを言うよりも早く断言して来た彼女に、パーシヴァルは言葉を無くす。
「そうか」
彼女自身に驚きはなかった。
スッと事実として受け入れられた。元よりその事を知りながら手を出しておらず、しかも何処まで話が進んでいるのか知ろうとしてなかったのだから。
だから驚きはない。為すべき心構えだけはしている。
「分かった。対処する。今から私が——」
「——いえ……それだけではなく」
だから——彼女はまだ分かっていなかった。
国を長い間空けた王に何が起こるかなど、最古の英雄王に降りかかった災難がそれを証明しているのに。
彼女はパーシヴァルに振り直った。
そこには鎮痛な面持ちの彼が居る。
「——……サー・ケイが死亡しました」
初めて——運命が彼女に牙を向く。
一刺で深く、心の隙間に辿り着く程に鋭く。
今まで見逃されていた代償を取りに来たように。
良くも悪くもあらゆる運命の中心に居た少女が、その瞬間、初めて運命の中心から弾き出された瞬間だった。
言葉が通り過ぎる。
通り過ぎたまま戻らない。
「トリスタン卿が長い旅から帰郷。
ですが心身を多く疲弊していた様子で。それを、何名かの民が目撃しております」
心を通り過ぎて、ただ事実のみが知識として溜まる。
「その後、ケイ卿とトリスタン卿が、ギネヴィア王妃とランスロット卿の不貞の現場を目撃したらしい……と」
私はそれを、どこか遠くで眺めていた。
冷め切っているのかもしれない。現実逃避しているのかもしれない。
「そこから、トリスタン卿とランスロット卿が口論。
それまではまだ互いに、言葉によるやり取りで済んでいたのですが……途中、ギネヴィア王妃による発言で停止。
その後……互いに武器を抜いたと、お聞きしています」
だから事実だけがあった。事実は何よりも分かった。
パーシヴァル卿が、極めて平静である事を心掛けながら語っている事が分かる。何があったのか分かる。
それだけ。他には何もない。私にあったのは、事実を受け入れる理解だけだった。
「それで——……その仲裁に入ったケイ卿が」
情報の流れ。
それが事態の流れとして、頭の中で再生される。
一体何が起きたのかを、私はイメージする。
あぁきっと、二人の仲裁に入って、それが原因になって死んでしまったのだろう。
流れ弾に当たって。不慮な事故で。良くある話だ。良く分かる。詳しく想像が付く。
例えば——実の兄も似たような事が原因で死んでしまったくらいには。
良く覚えている。だから何よりも分かった。
人など、得てせずとも簡単に死ぬ。それが尚更実の兄とは違い——円卓の騎士同士なんて諍いに普通の人間が飛び込むなど、最初から無謀だったという事にも等しかったのだろう。
己の兄が、あの瞬間はギリギリ死ななかったというだけで。
「……………」
「……ケイ卿の死亡が原因なのか、ランスロット卿がギネヴィア王妃と共にキャメロットから逃亡」
黙り込んでいる私に想う事があったのか、彼は続ける。
きっとまだ情報が錯綜している中、まだ正確性の高い情報のみを出してくれている。しかも自らの予想も立てず、自らの情も混ぜない。
こんな時なのに。彼も心を痛めているのに。
彼が優秀な事が再確認出来た。そう言う事実が溜まっていった。
「その際……トリスタン卿との交戦を聞き付けたガレスとアグラヴェイン卿が重体。命に関わるまでではありません」
それが事実なら、死亡したのはケイ卿だけ。
ガレス。ガヘリス。アグラヴェイン。オークニー兄弟の三人は無事らしい。
ならばきっと、ランスロット卿は狂乱していない。ならば狂乱しているのは——
そう言う想定が出来るくらいには、私の心は澄んでいた。
ただ情報が内積されていった。
「結果、ランスロット卿がギネヴィア王妃を連れ、無傷でキャメロットを離脱。
行方が分かっておらず、現在トリスタン卿がランスロット卿を追っています。それとガウェイン卿も、ランスロット卿を」
やはり彼の言い分からするに、犠牲者はたった一人。負傷者すら二人。
そうか。それで終わりか。
——少なく済んで良かった。
そう言う事を考えている自分がいる。
事実だから、と。本当だったら何人も死んでいたのに、ケイ卿一人で済んだからまだマシだったと、そう言う風に裁定している自分が、確かに——私の中に確かにいる。
ただ私は、情報だけを蓄積している。
事実だけを、私は理解している。
「それで、どうしますか。陛下」
ただ事実だけがあった。
それ以外が通り過ぎていた。
だから。
私は何も感じなかった。
だから。
確信した。
今の私は、天秤だ。
測り手ではない。
己自体が天秤。
私は天秤そのもの。
そう、確信した。
「そうか」
たとえ、王であっても。
たとえ、今は仰ぎ見る陛下であろうとも。
年端も行かぬ少女に、一体何を任せているのだ。
「分かった」
頭を過ったそんな考えが——今、目の前で消える。
表情は変わらず、眉に動きはない。
澄んだ金色の瞳は疾うに汚れ果てた。その瞳はまるで、薄くとも黄金の光ではなく、錆び付いた鉄の様に。
強がりではない。自分を騙している訳でもない。
ごく淡々と彼女は告げている。
「時間がない。ランスロット卿を捕らえ、処断する。
必要であればトリスタン卿も裁く。事態の中心人物に聞かなくて不明瞭な部分も多い。
粛正騎士隊は動かさないで欲しい。私が直接行く」
「それは」
正真正銘、本気。
僅かに賽を振らせず、運を天に任せもせず、幸運や運命の流れなどに一切の介入をさせず、必ず殺す。
獣を追い詰めて狩る様に。
「国の威信に関わる。否、もう関わっている。
故に今から私がやるのは損切り。掃除屋としての帳尻合わせ。
必ず捕える。国外逃亡を許す事なく、私が処断する。私はそう言う役割だ」
サー・ケイが亡くなったと言う事に彼女は一切の反応がない。
身近な人が亡くなった実感がない、なんて訳ではないだろう。ただ取り返しのつかない事実を受け入れたまま、彼女は答えている。
それ以外に道がない故に、それが最善なのだと。
「話の流れは分かった。
だが私は当事者ではない。私が知る事は少ない。だから私にもっと教えてくれ。確認がいる。ランスロット卿が王妃を連れて逃げたのは何日前だ」
「それは、三日前です」
「その時、パーシヴァル卿は当事者ではなかったんだな?
だから卿の説明が口伝と状況証拠からの説明なんだな?」
「はい」
「ガレスとアグラヴェインが重体だと聞いた。
その容態の詳細は何だ? 頭を叩き割られた訳ではないと?」
「いえ………違います。ですが両名共に頭への一撃が決め手です。
ガレスは一刀で盾を。返す刃で頭を。アグラヴェイン卿は一閃で。剣の腹による打撃で、沈黙」
「そうか。ならもう一度繰り返す。
死亡したのがケイ。負傷者はガレスとアグラヴェイン。それで合っているな?」
その言葉に、能面のような表情がパーシヴァルへと向いた。
思わず息を呑み込む。
話し合う必要がある。相互理解の刷り込みが必要だから。そう表していながら、今の彼女は言葉によるモノ全てが届かないような感覚がしていた。
必要の分を必要なだけ。それ以外には何もない。ただ欲しい事実だけの確認。事情も何も関係ない。それ全てを理解した上で尚——自分を貫き通す。
そういう意思を感じ取った訳ではない。ただパーシヴァルは、そう確信した。
「えぇ……はい。他には誰も」
「そうか。少ないな」
彼女は端正な表情のまま。眉一つすら動かさないでそう告げた。
「今——なんと」
「少ない。そう言った。
十人単位で死んでもおかしくなかった。相手はあの湖の騎士だと言うのに」
「………………」
「ランスロット卿は狂乱してない。錯乱はしているかもしれないが、彼はまだ理性を保っているだろう。
だから——私が一番適している」
聞かずとも分かった。それが何を意味しているのか。
円卓最強の騎士。サー・ランスロット。彼を殺せるのに一番適しているのは、トリスタン卿でもなく、ガウェイン卿でもなく、自分だと。彼女はそう言っている。
「最後に聞きたい。
ランスロット卿の逃亡に加勢した騎士は何人いる」
断言の領域。他に裏切り者はいるかと言う問い。
しかし彼女の発言は何も間違えていない。
そう、確かにいた。人格者でもあったランスロット卿の逃亡に対し、それでもと協力した人が約——十数名。
多いか少ないかと言われれば——恐ろしい程に少なかった。
ランスロット派と呼ばれる騎士は数百名いるからだ。
事態が急を要するモノだった故にランスロット卿に協力する者が少なかったとは言え、彼女の影響力はどれほどのモノだったのか。
アーサー王派とランスロット派の二つは今、彼女の勢力に呑まれかかっている。
そして今、ランスロット派がどう動いているのかを把握して掌握しようとしている。
今ばかりは、マーリンの千里眼とアグラヴェインの事態把握能力の両方を行使して来ているような感覚がしてならない。
「約、十名程」
「……分かった。その十数名の中に腕の立つ者は誰がいる」
「………ボールスと、ライオネルが」
「そうか。ならもしも五十人程いれば確実か」
今彼女は、頭の中でどういう考えを組み立てているのだろう。
分からない。彼女は時折、周囲の円卓の騎士全てを置き去りにする事がある。だからパーシヴァルは、怖かった。
年端も行かない少女の横顔が怖かった。
「そうだ。私を人間扱いしなくて良いんだ、パーシヴァル卿。そうすれば私もやりやすくなる」
どう言う意味だったのか。思わずゾッとして彼女に振り返る。
横を通り抜けて、何処かへと行こうとしている少女の横顔とその瞳には、何も浮かんでいなかった。
王としての命令と、同僚として頼みが混じり合っている——否、違うのだろう。両方を使い分けるそれ。息を吸うように、必要な言葉を必要なだけ。
「何処へ、行かれるのですか」
「状況確認。当事者の把握。
それとランスロット派の牽制にランスロット卿への追撃。その人員の選別」
時間すら惜しいと手短に彼女は話す。
「その選別に、私も——」
「ダメだ。卿はここに残れ」
「……………」
「パーシヴァル卿。貴方は生きろ。
長く生きて、そしてこの事を、多くの事を後世に残して欲しい。貴方はそう言う、他の誰にも出来ない戦いが出来る。他の円卓の騎士にはきっと出来ない。
だから任せた」
返事も待たずに、彼女はパーシヴァルの横を抜けて去っていった。
故に、ついぞ彼女から感情と呼べるモノを一切引き出す事が出来なかった。
「では陛下は……——?」
まるで、今を生きる人間に自らを入れていないかのような口ぶり。
振り返った時、回廊を曲がって消えていく彼女の姿が見えた。
僅かに見えた一瞬。視界の端に消えていく最後。彼女の左腕から瞳にかけて、酸化した血のように染まった、黒い回路が起動していた。
壊れて停止した機械が、何の偶然か突如再び機動を開始する事がある。
極めて稀だが、そう言う事象を無視してはならない程度には、確かにある。
そしてそう言う事象の場合——必ずその機械は致命的なバグを起こす。
鴉が見放す事を覚えた。
天秤が平行である事をやめ、片側に振り切ったまま戻らなくなった。
故にカウンターが起動する。
如何なる理由があろうとも、行動の対価を裁く為の天秤が動き出して。
彼女がギネヴィア王妃に語ったように、彼女は心を鉄にして。
何処までも体の良い掃除屋として、役割を果たしに来る。
故に運命は決定した。
もはや判り切った結末を語る必要などない。
その運命の行方を長引かせる必要もない。
故に端的に記す。
ランスロット卿とギネヴィア王妃の死亡が確定した。
"ソレ"を——
→1. 選ぶ。(*好感度一定値以上で自動選択)
2. 選ばない。(*好感度一定値未満で自動選択)
——鉄心√。