大事な信念がそこに残ったままであれば、死ぬに死ねないのが人間。
醜く生きて、最後まであがいて。
そして大切な言葉を口にする。
その醜さが、人間の生きる意味で。
だからきっと、素晴らしい。
今日が何日か、今が何時か、私は今どういう状況なのか曖昧になっていた中、気がつけば、私は風祭市街にいた。
私があまり行くことのない、街の大きな商店街。
何故かそこに、私はいた。
そして。
隣には、これまた何故かコタローがいた。
とりあえず、コタローが私の彼氏に当たることだけ覚えていた私は、さほど躊躇うことなく聞き出せた。
「...これはどういうことだ? コタロー」
「どうもこうも、お出かけして遊びましょうぜい! ってことですよ静流さん」
「むぅ...。よく分からないが、まあいいか」
なんとなく、今はガーディアンだのなんだのがどうでも良く感じいていた。それほどまでに、私の脳内が混乱しているのだろうか。
「因みに本日の出費は全て私持ちとなっております」
「コタローは太っ腹だな」
「そりゃあ静流の為だったら、何だってするさ」
コタローがいつになく嬉しそうに歩き出したので、私もそれに釣られて歩き出した。
しかしなんで、コタローはこんなに嬉しそうなんだろう。
私がそんなことを思っていると、ふとガラスの向こうに気になる服を見つけた。
思わず私は足を止めた。
「...」
私が何も言葉を発さずいると、コタローも足を止めて私に声をかけてきた。
「...よし、中に入るか。静流」
「別に問題は無い。少し気になっただけだ」
私がそう言って否定しようとすると、コタローは遠慮するなとばかりに首を横に振った。
「気になったんだろ? なら、入ろうぜ。今日一日、ずっと静流のやりたいことを叶えるって決めてたからな」
「...いいのか?」
「買う買わないは別だけど、ちゃんと見てみようぜ。それとも、本当に興味が無い感じか?」
「...」
「じゃあ、行こうぜ」
だんまりは否定と言わんばかりに、コタローは少し強引に、けれど優しく私の腕を掴んで店の中へ入っていった。私も入ったことになる。
店内には、さっき外で見たよりも、もっと多くの気になる服が並んでいた。オシャレをすることが少なかった私にとって、そのどれもが憧れるべき物だった。
オシャレをしなかった、といっても、別に買えなかった訳じゃない。
...そんなことに、お金はわないと、私の中でずっと決めてきたのだ。
けれど今はそんなことはどうでも良く、私はいつの間にか店内をぐるぐる徘徊していた。気になったものを手に取っては、「どうだろうか」とコタローに確認を取ってみる。
なのに、コタローは「似合う似合う」としか言わないから、なかなか選べずにいた。
せめて彼女の服くらい、決めて欲しいのに。
流石に不満が積もり始めたので、コタローに問いただしてみた。
「コタローは、私の服なんてどうでもいいのか?」
「違う違う。...そもそも俺、こういうの選ぶの苦手だし。...それに」
「それに?」
「俺はさ、静流がこれがいいっていうものを選んで欲しいんだ。でもそれが自分じゃ決められないって言うなら...まあ、その時は俺が選ぶよ」
「随分と投げやりだな」
「返す言葉もねぇ...」
そうは言いつつも申し訳なさそうにしているコタローに対して私は何も言うことは無かった。
私の...欲しいもの、か。
そう思うと、勝手に1着の服を手に取っていた。
恐らく、直感はこれがいい、と言ってるのだろう。
「コタロー、これ、いいのか?」
「ん? そいつにするんだな。サイズは合ってるか? チェックしておくか?」
「そうする。コタローは待っててくれ」
私はそう言い残して店内奥の試着室の方へと入った。
手に取った服に着替えようとしたが、手は止まる。
代わりに動き始めたのは止まっていた思考回路だった。
なんで急にコタローはこんなことを言い出したのだろう。今日は特別な日か何かなんだろうか。
そんな疑問を抱きながら、私は止まっていた手を動かした。
試着室から出ると、コタローは小さくおぉ...と声を漏らした。
「どうだろう?」
「すげー可愛いよ。特別な言葉言えなくて悪いけど...。可愛いよ、静流」
「そうか、ならよかった」
私は少し照れくさくて頬を赤らめた。
結局コタローの厚意に甘えて、その服は買ってもらうことにした。少し申し訳なくも感じたけど、コタローはやはりどこか嬉しそうだった。
店の外に出ると、コタローはおもむろに私の手を取った。急に手を握られたことに流石に私も戸惑って、声を出す。
「さっきからどうしたんだ? コタロー」
「こうでもしないと、静流が逃げるかもしれないからな」
「逃げる?」
「まだまだやりたいことあるんじゃないかって。でも、遠慮されて逃げられちゃ俺も悲しいし」
「...なるほど」
どうやらコタローが1番初めに口にした言葉はかなり信念の篭ったものらしかった。
そこまで来ると、いよいよ甘えない方が失礼だ。
私はコタローの手を握り直す。恋人繋ぎ、と言うやつだろうか。
「静流?」
「こっちの方が、恋人らしくていい」
「そうだな。じゃ、次はどこに行こうか」
「そうだな...」
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そのあとは色々回った。
少しオシャレなカフェに立ち寄ってみたり、そこで人気のスイーツを食べてみたり。
私が「コタローの行きたいところに連れてって欲しい」なんてわがままを言ったら、コタローは自分の行き慣れた店に連れてってくれた。
別にそれ自体に興味があった訳じゃないけど、コタローの好きな物には興味があったから。
そうして歩き疲れるくらいまで歩き回って、ようやく元の場所まで戻った。
「コタロー、今日はありがとう」
「何言ってるんだ? まだ今日は終わってないぞ?」
「?」
「ま、とりあえず俺ん家ついて来てくれよ。取っておきを残してるんだ」
「むぅ...まあいい」
そのコタローの背中を追いかけて、足を動かす。
コタローの家の玄関前に着いたところで、コタローは手でストップマークを作った。
「おっと、静流は一旦ここでストップだ」
「どうしてだ?」
「準備があるのよ、準備が」
そう言い残して、コタローは玄関へは入らず庭の方へとそそくさと向かった。『待て』と司令を受けた私は真面目にその場待機。
数分経つと、小さい煙がモクモクと上がってきた。私の鼻腔をつくその煙の匂いは、どこかで感じたことのある匂いだった。
私の口から、ポロリと言葉がこぼれる。
「この匂いは...」
「おまたせ、静流」
その声の方をむくと、少し汗をかいていたコタローが立っていた。
「コタロー、これは」
「まあ、行こうぜ。話はそれから」
私に有無を言わさずに、コタローは私の手を引いて庭へと向かう。
そこには、昔ながらの七輪と、並べられた二匹のさんまがあった。
「...どうして」
「好きだって言ってたからな、さんま。それに、いつかこうするって、約束もした」
コタローが私の好きな物を覚えてくれていたことは嬉しかった。
けれど、それだからこそ、何故ここまでしてくれてるのか分からなかった。
気がおかしくなりそうな私はそれをついに言葉にした。
「どうしてコタローは、ここまでしてくれるんだ? 今日は、何か大切な日なのか?」
「大切な日だ。...だってほら、今日はさ」
『静流の誕生日なんだから』
「あっ...」
ふと、コタローの家にかけられた日めくりカレンダーが窓越しに見えた。
6/18。
私の誕生日だと、カレンダーには大きく書いてあった。
「だからさ、こうやって祝いたかったんだ」
そう言って笑うコタローの笑顔がとても眩しくて、私は何故か泣いていた。
最後に、こうやって祝われたのはいつだっただろう?
誕生日と聞いても、私にはお母さんとお父さんといた時の記憶しか残っていなかった。
でも、それしか残っていないからこそ、思い出そうとするだけ辛かった。
けど、今、この瞬間は、太陽の光ほどに眩しい時だった。
好きな人に私が生まれてきたことを祝われて、嬉しくないはずがない。
だから、涙が止まらなかった。
「おいおい、何泣いてるんだよ。ほら、美味しいうちに食べようぜ。焼くの苦労したんだからさ」
コタローは尚も朗らかに笑う。私もいつまでも泣く訳には行かないと目じりを拭った。
「そうだな」
そうして焼き上がったさんまを皿にとって、2人隣合って座っていただくことにした。
「ちょっと焼き方が強いぞ」
「げ、マジで?」
「マジだ。...けど、美味しいな」
「やっぱ素人には難しいなぁ...」
「修行すれば、誰でも上手くなる」
「じゃ、次は上手くやってみせる」
「それは頼もしいな」
コタローと顔を合わせて笑い合う。
この瞬間が終わって欲しくなかった。
けれど過ぎ去る時間を停められないのなら、せめて言わせて欲しい。
『ありがとう』
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身体が温かさを覚えて目を開ける。
どうやら眠ってたみたいだ。
重たい目を擦って辺りを見回すと、1面緑に覆われた世界がそこにあった。
荒れ果てた世界、終わった世界。
無情なまでの静寂に包まれていた。
そして、ようやく再認識する。
さっきのは夢。今私が見ている世界こそ現実。
悲しいくらいに笑えた。
...でも。
幸せな夢だった。
いい、夢だった。
こんな夢を見るということは、多分きっと今日が私の誕生日なのだろう。
日付という感覚さえも失われたこの世界で、それを覚えていることにちょっと驚いた。
今、祝ってくれる人が目の前に居なくても。
私の背中には、私の愛した人がいる。
その温かさに包まれたからこそ、きっとこんな夢を見れたんだろうな。
だから...
『ありがとう、コタロー』
そう言うと一際強く風がざわめいた。まるでそれは、言葉を告げるように。
『誕生日おめでとう、静流』
手をつないで歩くこと
ただそれだけも出来なくて
戻れない時は過ぎて
そのまま終わる気がしてた
二人歩く帰り道
終わらず続いてほしくて
道の傍に咲くような 青い花一つ
消失点の境目に 貴方の姿が映る
私の暗い部屋の窓辺 暖かな光射した
忘れた時の彼方に
すべてが置きさられても
ずっと大好きだから忘れないよ
今はたださようならだけ
今ここで生きていること
あなたが教えてくれたね
例えどんな過酷でも
2人でいれば笑えると
いつかこの世が終わって
2人別れてしまっても
いつかきっとまた会える
あなたはそういった
終わりが来る星の中で
青い光探してる
私の心に重なって
あなたのこどう聞こえた
静かな闇の波動に
いつもの朝が消えても
ここでいつまでだって名前呼ぶよ
胸に1つある傷も
手のひらに落ちる雫
きっと指から流れる
そんな悲しみだって変えてゆける
あなたを想うと
ここに残る詩の中
記憶伝わる気がした
私がずっと伝え続けるのは
ただ1つ想い乗せ
「あいしてる」それだけです
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というわけで静流√アフターから作った静流誕生日SSでした。
正直言ってドン引きしてます...w
そもそもこの案が浮かんだとき、うわぁ...ってなりましたからね。
まあそれでも、いいのが書けたかなとは思ってます。
というわけで、今回はこの辺で。
アルカディア鋭意製作中。よろしくお願いします。