転生したら鎖の巫の弟になっていた件について   作:きのこたけ

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2話 愛ゆえに

 一族の中で最高位たる鎖の巫。

 その役割は初代から現在まで変わらずに代々受け継がれている。片方は『ホノカ』の記憶データと役割を引き継ぎもう片方は次の世代の巫を育てるのだ。

 義理とはいえ物心ついた時から私達にとって目に入れても痛くない程の愛しい弟───

 愛しいもの(大切な存在)ほど誰にも渡したくない気持ちが芽生えるのは当然の摂理である。

 

 

 ▫▫▫

 

 アンジュの教育係としてムネチカが赴任され数ヶ月。彼女は想像以上の堅物で自他ともに厳しい清廉潔白な人物だった。

 

「本日もよろしくお願いいたしますムネチカ様。先日送った焼菓子はいかがだったでしょうか」

「承知。その焼菓子とはアマムとリンタンの?」

「はい。 リンタンの果実で甘さが増したと思うのですが…」

 

 練乳のレシピは知識として覚えていた。練乳を作った後にアマムの粉を乳、卵と混ぜ合わせて生地を作る。リンタンの実を和えて加工した型に注ぎ込んで30分程度焼く。砂糖やバターがあれば良かったのだが我儘は言ってられない。5センチ幅にカットすればリンタンケーキの完成である。

 

「リンタンの酸味と乳と卵の甘みが丁度よく…それは大層美味であった。また食したいぐらいに」

 

 アンジュには秘密にしている事だが、彼女とは試作品を含めて自分の記憶を頼りに作りあげた菓子や料理を食してもらっては感想や意見を(ふみ)で送り会う仲だ。

 

「気を遣わせてしまいましたか」

「むしろ遠慮は無用なくらいだ。希望とあらばいつでもいくらでも喜んで引き受けましょう」

「─! かたじけない。このムネチカ、貴殿に一生着いて行く所存」

「はは。大袈裟だなぁ」

 ムネチカとかたい握手を交わす。

 そしてその光景を半目で睨む皇女殿下。

 

「其方等ばかり盛り上がるでない!余が居ることを忘れているわけではあるまいな!」

「姫殿下」

「ピリカも何とか言わぬか!仕置きにしてはかなり──」

「自業自得。反省しろ」

「この裏切り者ぉおおおおおう!」

 

 誰が裏切り者だ。

 課題をサボった挙句ムネチカの為に用意しておいた菓子を諸々平らげるお前が悪い。

 

「では僕はこれにて」

「行かれるのですか?小生としてはもう少し寛いでもらっても構わないのですが」

「ちょっと用事を思い出しましてね。アンジュ、ちゃんといい子にしてるんだぞ」

「だぁれがお主なんかの…(いっ)痛痛痛痛痛痛(だだだだだだ)!!」

「(流石ムネチカ…姫殿下にも容赦ない)」

 

 

 尻はやめよ尻だけはぁ!

 悲痛な叫び声は廊下中に響き渡った…。

 

▫▫▫

 

「貴方にしては到着が遅かったですね」

「ごめん。ちょっとめんど、トラブルがあって」

 ウォシスは「そうでしたか」と腰掛けていた椅子から立ち上がる。

 

「最近良い茶請けを入手したのですよ。貴方の作ったものは当然ながら美味ではありますが、偶にはこういうのもいいでしょう?」

「まぁ…たしかに」

 

 鎖の巫の彼女らと違ってする事が無い自分は、本人たっての希望で八柱将の纏め役である彼の補佐役を勤めている。作業内容としては各将に緊急の資料を届け回り、会議時は招集をかける際の付添人。忙しいわけじゃないが暇という訳でもないといった感じだ。仕事がない日はこうして茶を飲みに行っていたりする。

 

「それで、何があったんです?」

「え?」

「トラブルと言っていましたが」

「あ〜…それは」

 

 それはつい数十分前の話。

 

「午前の八柱将会議は覚えてますね?」

「ええ。内容は大したものではありませんでしたが…そこでなにか?」

「いや、そこでは何が起きたという訳じゃなくて。その」

「?」

 

 言い淀む自分をみてウォシスは首を傾げる。

 自分はシチーリヤとミルージュ同様小姓としてウォシスの背後に控えている。無論それは会議中の話。

 

 話は逸れてしまうが自分の姉達は数ある能力のひとつとして術法を得意としている。それは自分も同様ホノカ直々の指南であらゆる事柄を学んでいる。それでもヒトなのだから得意不得意があるわけで。

 

『自分も姉様達みたく術法が得意だったら…』

 

 本来巫の役目を与えられる一族ではないせいか、どうしても遅れをとってしまう。ウルゥル達は気にしないでくださいと言ってくれるが当の自分が気にするので意味が無い。それでも自分には唯一得意とする術があった。

 

それは己が他人に成り代わる『変化術』。

 

 完全とはいかなくとも見た目や雰囲気は姉達が(お世辞だろうけど)感心するほどの完璧な出来栄えっぷりなんだとか。そのおかげで帝の言い付けを無視して聖廟を抜け出しても1度も見つかる事がなかったのだ。

 

 

 …話を戻そう。変化術の得意な自分は原作の流れの事もあってあまり公に姿を見せたくなかった。だって変に目立ってひょんな事から主人公側のトラブルに巻き込まれるのはごめんだし。そんな訳で外に遊びに行く時と同様に主の許可を得て会議中も変化をする事にした。義兄ウォシスは「寧ろ大賛成です。貴方本来の愛らしい姿を周りの虫共に見せるのは勿体ない」とか言っていたが気にしない方が良さそうだ…なんか彼の黒い部分がみえみえだったけど。

 

 そんなわけで今日の会議も自分は『デコイの少女』に変化した。耳は自分本来のデコイ耳(種類で言うとペルシャ猫のような耳)から冠童シャスリカのウサギ耳に、性別を女にみせるといった変化術。本来の自分を知らないヒトであれば見破る事は不可能に近い。

 

 

「あの(ブルタ)…失礼。八柱将の御一人デコポンポ様の事でして」

「この場でそう改める必要はないですよ。貴方も遠慮なく豚と呼んでくれて構いません。それ以前に呼ぶ権利がありますから」

「さいですか…」

 

▫▫▫

 

 会議を終え、各々の邸に帰っていく。自分もウォシスと別れ自宅である聖廟の地下の自室に戻ろうとしていた。

 

「そこのお前」

 

 突然背後から声をかけられる。下町で声をかけられるとき(ケース)は少なくないが聖廟の中ではあまりない事だった。理由として、そもそもヒトがあまり多くないせいもある。

 

「? (わたくし)の事でしょうか」

「他に誰がいる!」

 

 うしろを振り向けばデコポンポの重臣ボコイナンテの姿。…嫌な予感しかしない。

 

「まずは拙者についてまいれ。お前には大事なお役目が待っているのだからな」

「いえ、その…申し訳ありませんが私にはまだ雑務がありまして」

「これはデコポンポ様の御命令である。その命に背く事は決して許されない──身の程をわきまえるのであります!」

 

 そう言って私の細腕を強引に掴む。身の程をって…身分的にこっちが上なんだけどね。だがここで正体がバレては意味が無い。しょうがない。大人しく従うしか…

 

「聞こえなかったのか?黙ってないでさっさと───」

「邪魔」

「敵を排除します」

 

 

「ぶぇほぉっっ!?!?」

「へ?」

 

 

▫▫▫

 

 

「…って事があってさ。乱入した姉達がボコイナンテ様を文字通りボコボコにして事なきを…得たの、かな?」

「…」

「ウォシス?急にどうし」

「急用を思い出しました。申し訳ありませんが今日はこれでお開きにしましょう」

 

 主の為にも死ぬなよ。

心の中でピリカはそう願った。

 

「ピリカは優しいんですね。しかし貴方が奴らにかけるべき温情は一欠片もありません。塵1粒すら」

「お、おう…」

 

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