ショップバトル。
それは血を血で洗う狩場であると私は思っていた。
私生活で持て余したバトラー達の『力』と『才』が呼応し、互いの血肉を喰らい合う地獄の底。
そんな恐ろしい場所であると。
今にしてみればとんでもない誤解なのだが、田舎住まいの当時高校生の私にとってはある種の憧れを抱いた空間であったことに違いは無い。
───そう。あくまでも『憧れの空間』であった。
その頃の私はただひたすら己を貫くバトスピをしていた。
煌びやかな衣装に身を包んだアイドル達で、強靭な爪と牙を持つ巨獣や厚い装甲に身を包んだ戦闘兵器、果ては神話の神々さえもマイクと歌で殴り殺す。
そんなバトスピをしていた。
対戦相手も二人程で、メタゲームも頻繁に進行して楽しかった。
まだ笑いながらバトスピをしていた平和な環境だった。
────あのデッキが来るまでは。
私が普段バトスピをする相手の一人に環境デッキを良く握る友達がいた。
νジークや増殖、忍風と言った時代を彩ったデッキ。
圧倒的なパワーを持つそれらのデッキを使いこなし、私ともう一人の脅威となりえた存在がいたのだ。
しかし、バトスピには強力なメタカードやバーストを始めとする妨害手段も豊富であったため、それらのカードの採用こそあれど私ともう一人は自分のなりのバトルスピリッツが出来ていた。
しかし。
あの年の春を少し過ぎた梅雨入り前。私達の創意工夫やプライドが、全くと言っていい程に敵わなかった圧倒的なデッキが私達の環境をぶち壊した。
そのデッキこそが『アイツノヴァ』───
史上最強の中低速デッキ(後1ノヴァも可)である。
ドン引きする程の費用をかけて作成されたそのデッキは、その額に見合うかそれ以上の力を私達の目の前で発揮した。
圧倒的なドロー力、全ハンデス、追加ターン、ライフ回復。
それら全てが一つのデッキに纏まっている。
三年程インフレが進んだような次世代デッキ。
今思い返しても呆れるほどに壊れたデッキ。
当時の私達が勝てる筈もなかった。
初めは従来と同じようにメタを張ろうと考えた。
しかし、ネクサスはフェニキャや馬神弾で焼かれ、手札に抱えたカードは全て捨てられる。
速攻に走ってもアレックスやファラオムで止められたりと手も足も出なかった。
その結果、一日中遊んでも二人して『アイツノヴァ』に一度も勝てない日が何日も続いた。
一ターンに10枚以上ドローして、使ったコアを全て回収し、ジャジメントソードをつけた超新星龍ジークブルムノヴァが互いの手札を全て焼き尽くす様を何度も呆然と眺めていた。
遊んだ日の帰りにはもう一人の友達と『アイツノヴァ』に対する回答を語りあうのもお約束になった頃。
私は初めて詩姫以外のデッキを握る覚悟をした。
その時から既に私は『勝ち』に飢えたバトスピをするようになっていたのかも知れない。